四日目 vs国王(2)
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「ふむ。これがオキトの魔法研究の結晶……『魔装具』か。確かに受け取ったぞ、オキトの戦士達よ」
国王に手渡された物に、ルーティア、リーシャ、そしてマリルは見覚えがあった。
そして、それを国王が手にした事により、3人は戦慄する。
魔装具。
古代の魔法呪物を精錬したクルシュお手製のマジックアイテム。
その効果は絶大で、以前ルーティアとリーシャが実験段階のそれを使用した時には、2人ともひどい目にあった。
人間の力を超えた加速の能力を、30秒だけ身につけるという代物。
たった30秒だが、その効果は絶大。
並の戦士や魔物であれば瞬きをする間に勝負が決まってしまうような加速の魔法を、装着者に付与する力がある。
代償として30秒を過ぎた後は効果が一気に消滅。加えてとんでもない疲労がのしかかるように使用した者に襲いかかるのだが……。
「緑の、魔装具……!?」
マリルは眼鏡をくいっ、と持ち上げて、国王が右腕に取り付けた魔装具を見つめる。
ルーティアとリーシャがテストで使ったのは、『青』の魔石の取り付いた腕輪だった。
しかし今回国王に手渡されたのは…… 『緑』の魔石のついた魔装具。エメラルドのような深く暗い緑が、照明に照らされて、煌めく。
「く、クルシュのヤツ……なんて物、手土産にしてくれたのよ……!!」
リーシャはわなわなと震えた。
「え、どうしたのですか?お姉様。あの腕輪が、そんなに危険なものだと?」
魔装具の存在を知らないイヴとシェーラは、何事かという様子でリーシャとマリルを見つめた。
マリルは視線を国王の方に向けながら、真剣な面持ちで2人に答える。
「あれは、古代に使われていた魔法呪物を精錬した代物なの。昔は使用者の命を削って、身体能力や魔法能力を高めていたまさしく呪いのアイテム……だったわ」
「え……。じ、じゃあ今は……?」
心配そうに顔をのぞき込んでくるシェーラを安心させるように、マリルは首を横に振った。
「大丈夫。そういった使用者への負担は、現代の魔法技術で排除されているわ。負担がかかるのは事実だけれど、命に関わるようなデメリットはないの」
「……よかった」
ホッとため息をつくシェーラ。
「……でも、能力を高めるというのは?どういう事ですの?」
イヴの疑問に、今度はリーシャが答えた。
「わたしとルーティアは、あれと似た物を使った事があるわ。……効果は『加速』。信じられない速度で、およそ30秒行動ができたの」
「あ、あの腕輪を取り付けただけで、ですか?」
「ええ。取り付けられたあの宝石を半回転させると、それがタイマーになって魔石に埋め込まれた魔法が発動されるのだけれど……」
「……けど?」
リーシャもマリルも、真剣な表情で国王を見つめたままだ。
そして、マリルが口を開いた。
「以前ルーちゃんとリッちゃんが使ったのは……『青い宝石』の魔装具。効果は『加速』。 そしてルベルト国王が持っているのは……『緑の宝石』なの」
「え、ええ!?それでは、あの魔装具の効果は一体、何ですの!?」
そのイヴの疑問に、2人は首を横に振るしかなかった。
「なんの説明も……聞かされていないわ」
国王は、杖を持つ右手首に腕輪を装着すると、次いで小袋に入っていた紙を一枚取り出して、熟読している。
「ま…… 魔装具……ですか?」
国王が取り付けた物に驚きを隠せないのは、ルーティアも同じであった。
しかし国王はそんな事はお構いなしを言った様子で、その紙を読み続けている。
視線は紙に移したまま…… 国王はルーティアに話しかけてきた。
「ルーティア殿。お主の『青の魔装具』は持ってきておるのじゃろう?」
「え…… え、ええ」
『どうして、旅にテスト中の魔装具を持っていくんだ?クルシュ』
『万が一、です。……それに、旅の道だけが安全だとは、限りませんので』
にっこりと笑うクルシュの顔を、思い出す。
クルシュは、この事を言っていたのだ。
すなわち、今回の試合で、国王と『魔装具を使った試合をする』事。
あらかじめ国王が殿として試合に出る事も、魔装具を使う事も、あらかじめ全て予定に組み込まれていたのだ。
「すまんのう。ルーティア殿」
「……え?」
いつの間にか紙を侍女に手渡していた国王は、ルーティアの方を向いていた。
「今回ワシは、オキトの国で『魔装具』なる魔法呪物の精錬に成功したという噂を聞きつけてのう。どうしても自身で、この道具の能力を確かめたかったのじゃ」
「……魔装具を?」
「ああ。人を超えた『力』。目にもとまらぬ『速さ』。何人の攻撃も受け付けぬ『頑丈さ』。そういったものを、この魔法道具で身につけられるらしいではないか」
「…………」
「交流試合である事に、変わりはない。ただほんの少し……魔装具の効果の許す限り、その効果を確かめる時間が欲しいだけじゃ。なにも命の奪い合いをしようというわけではない。ワシも、ルーティア殿も、魔装具を使う『チャンス』を試合中に組み込んで欲しいというだけなんじゃよ」
「……チャンス」
「加えて、ワシのこの魔装具の及ぼす効果はかなり些細なものでの。攻撃も、防御も、スピードも、加わったりする事はないそうじゃ」
「先ほど読んでいらっしゃったのは、魔装具の説明書ですか?」
「ああ。オキトのクルシュ殿のな。 注文通りの品がきたようで、助かるわい。これで…… ワシの『夢』が叶う。はっはっは」
その言葉の真意が、掴めない。
国王の、夢。
どうしても確かめたい、能力。
そして…… ほんの些細な、効果。
それが、あの『緑の魔装具』に集約されているというのだろうか。
「ルーティア殿。『青の魔装具』を自身に取り付けてくれ。その後に、試合再開という事にしよう」
「……」
言われるがまま、ルーティアは右腕に、青の魔装具を取り付ける。
これを取り付けるのは、リーシャとの練習試合以来……二度目。その能力を一度確かめただけだ。
国王が魔装具を見るのも、使うのも……これが初めて、という事だ。
「よろしいかな?魔装具を使用した試合……ルーティア殿も、興味があるであろう?」
「…………」
拒否は出来ない雰囲気だ。
だが、それ以上に……ルーティアは、期待を隠しきれない。
まだ知れない、フォッカウィドー国王の底力。そしてそれは、魔装具を使う事で更に進化をする。
現状であの国王に勝てるのかも分からないのに、更に魔装具を使った試合になる。
先の展開が読めない。どういう攻撃が繰り出されるのか、分からない。自分がどうなるか……検討もつかない。
だからこそ、ワクワクする。
「……アイツ、なに嬉しそうにしてんのよ……」
呆れて頭を抱えるリーシャだった。
「試合続行、よろしくお願いします。国王」
ニッ、と口元を緩め、青の魔装具を右腕に填めたルーティアは、木刀を中段に構えて国王と再び対峙する。
「……有り難い。それでは……」
一方、緑の魔装具を右腕に填めた国王は……。
その宝石を、いきなり半回転させた。
「え?!も、もう!?」
マリルが驚く。
青の魔装具の効果は、30秒。試合中に使うのならばそのタイミングが重要となる。
しかし国王は……いきなり自分の魔装具を使用したのだった。
緑の宝石が煌めき、その宝石から魔力の現れ…… 光輪が発生する。
その光は国王を包むように広がり、薄れ…… やがて、消滅した。
(……青の魔装具とは、やはり効果が違う……!?)
「先ほど言ったように、この魔装具の効果は『些細な』ものでのう。その分、効果使用時間はかなり長いものとなっているそうじゃ」
ビキ。
ビキ、ビキ。
何かの音が、道場内に響く。
木が割れるような、枝が折れるようなその音は……繰り返し、何度も、鳴る。
「使用時間は……『5分』。効果は……ワシの力にも、速度にも、何の影響も及ぼさん。 ……ただ 」
ビキ、ビキ、ビキ。
(…… な…… なんだ、これは……)
ルーティアは、その魔装具の効果を、視認した。そして視認した上で、驚いている。
折れ曲がった国王の腰が伸び、地面と垂直になる。
か細い腕や脚はまるで風船に空気を入れたように膨れ、血管を浮き上がらせる。
背丈が伸び、筋肉がつき…… 老人の顔のシワさえ、消滅していく。
照明に照らされた老人の影が見る見るうちに伸びて…… やがて、ルーティアに覆い被さった。
そして、老人は…… いや。
フォッカウィドーの地を自らの力で開拓したといわれる、伝説の武人。
ルベルト・フォン・フォッカウィドー一世は、筋肉で膨れ上がった腕を解すように一回転させ、告げた。
「 5分だけ。 この魔装具はワシを…… 『若返らせて』 くれるそうだ。 オキトの騎士よ 」
低く唸るような、張りのある男の、笑みを浮かべた声が、ルーティアに向けられたのだった。
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