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【完結】最強の女騎士さんは、休みの日の過ごし方を知りたい。  作者: ろうでい
特別章 女騎士さん、北へ 《フェリー旅行》
63/121

四日目 vs???

――



「おいおい、あのオキトの女騎士……ただものじゃねえぞ」

「稲光の騎士だっけか。その名の通りだな」

「ついに第三試合……我がフォッカウィドーが追い詰められるとは……」


 驚き。不安。期待。

 様々な感情の入り混じったどよめきが、道場内のあちこちから聞こえてくる。


 ルーティアはシェーラに軽く手を振りながら、先ほど自分が試合開始をした道場の中心へと戻っていった。


 シェーラも同じく、自分が初めにいた王座の隣へと移動する。

 そこに居たイヴが、腕組みをしながら苦笑いをしてシェーラの帰りを待っていた。


「お疲れ様。どう?違う国の戦士と戦った感想は」


「……。なんか、変な感じがした」


「あら、奇遇ですわね。ワタクシも同じ感想だと思いますわよ、シェーラ」


 イヴもシェーラも、クスッと笑って顔を見合わせた。



「「 …… なんだか、楽しそう 」」



「妙な方々ですわね。ワタクシ達も、あの方達も、国を守る存在なのは変わらない筈なのに。国のために、強くなってきた筈なのに」


「……うん。でもきっと、だからワタシも、イヴも……負けたんだと思う」


「……そうですわね。でも不思議ですわ。……悔しさより、どちらかというと…… なんだか、あの方達みたいに、楽しそうに戦ってみたい。そんな感じです」


 悔しさより、興味。敗北感より、憧れ。

 そんな妙な感情が、氷剣の騎士と召喚術師の心にはあった。



 会話をする二人に、玉座から立ち上がったフォッカウィドー国王が杖をつき、近づいてきた。


「学んだようじゃな、イヴ、シェーラ」


 自国の戦士が敗北をし、叱責をされると思っていた2人は国王のその表情に驚く。

 白い眉毛と髭からは、にっこりと笑う優しそうな笑みが見えていたのだから。


「……申し訳ありません、国王。フォッカウィドーの騎士として、失態を晒してしまいました」


 イヴとシェーラは、その場に跪き頭を下げる。

 国王は、その2人の頭を優しく撫でた。自分の子をあやす父親のような、優しい手つきで。


「この交流試合は、勝敗に拘っているわけではない。国と国の威信を賭けたような戦いではないのじゃよ、イヴ、シェーラ」


「……そう、なのですか?ワタクシはてっきり……」


 頭を上げたイヴとシェーラに、国王は首を横に振る。


「違う国。違う鍛え方。違う剣術に、違う戦法。……なにより、違う心。そういった相手と真剣に戦う事は、戦士として腕を上げるのにこれ以上ない機会じゃ。それを、二人とも感じられたじゃろう?」


「……はい!」


 シェーラが、珍しく活き活きと答えた。その様子を見て、国王も満足そうに頷く。


「勝てば、先に進む道はない。しかし負ければ、先に進む道が開ける。一つの勝利より、百の敗北の方が強くなれるものじゃ。そして今回の敗北は、お主達のこれ以上ない糧となる。……よくやったのう、イヴァーナ、シェーラ」


「「 …… ありがとうございます! 」」


 瞳に涙を浮かばせた二人は、もう一度国王に頭を下げた。



 フォッカウィドー国王は、髭を手で弄びながら、オキト国の戦士たちの方を見る。


「……とはいえ…… ただ敗北するだけというのも、やはり悔しいものじゃなぁ」


 国王は笑う。

 それはまるで、悪戯をする少年のような、無邪気な笑みだった。


「さて。『三人目』の準備もいいようじゃし…… 試合を始めさせてもらおうかのう」


 国王は杖をつきながら、ゆっくりとルーティアの方へと歩み寄っていった。




 自分の方へ歩んできた国王の姿を見て跪こうとするルーティア達を、国王は「よい」と制止した。


「見事じゃ、ルーティア・フォエル。リーシャ・アーレイン。先に我が国が最後の戦士を出す事になるとはのう」


「……有り難うございます。……あの……ですが……」


 ルーティアは、疑問の目を国王に向けた。

 その表情を見て、国王は笑う。


「まだ3人目は来ないのか、という顔じゃのう」


「……はい。遅刻、とお聞きしましたが……ひょっとして観戦をしている兵士の中に……?」


「いいや。そこにはおらぬよ、ルーティア。既に3人目は到着しておる」


「……え?」


 気配もなかったのに、いつの間に?

 自分が見落としたのかと思い、ルーティアは辺りをキョロキョロと見回す。


 そんなルーティアの様子を見て、国王はまた笑った。


「ふぉっふぉっ。すまぬ、ルーティア。少しからかわせてもらったんじゃよ。実はの…… 3人目は、初めからこの試合会場におるのじゃ」


「は……初め、から?」


「そうじゃ。好戦的なヤツでの、どうしても他国の戦士と思いきり戦いたいと言って聞かんのじゃ。許してくれ、ルーティア」


「一体、どういう……?」


「…………」



 パチン。


 国王は、杖をついていない左手で、指を鳴らす。


 その音に反応するかのように、国王の従者が2人、国王の傍へと駆け寄った。


「…… え?」


 その従者は、国王のつけていた大きなマントを取り外した。

 丁寧にマントを運び去ると、国王の身に着けていた軽く小さな真紅の鎧が見える。


 杖をつきながら、国王は肩をグルグルと回す。左肩。そして、杖を持ち替えて、右肩。次いで杖を手放して腰を反対方向へ伸ばし……。


「え、え、え……?」


 驚愕の声を上げるしかないルーティアに向け、国王は両手を合わせ…… 会釈をした。



「フォッカウィドー国、3人目の戦士……。 フォッカウィドー国王、ルベルト・フォン・フォッカウィドー一世。…… よろしく頼むぞ、ルーティア殿」



 年老いた男性はそういって、太い眉毛の奥から、笑顔を見せた。



――



 それは、ルーティア達、オキトの国の戦士にも。そして、フォッカウィドー国の兵士達にも、想像できなかったことであった。


 気付けば、ルーティア・フォエルは道場の中央で木刀を構え。

 そして、フォッカウィドー国王…… ルベルト・フォン・フォッカウィドー一世は、折れ曲がった腰を右手の杖で支えながら、ルーティアと対峙している。


「た……戦える、っていうの?あの、おじいちゃんが?」


 俄かにはリーシャも信じられない。マリルも、その言葉に首を傾げるしかない。


 まさか、三人目の相手が国王だとは。

 その事実はフォッカウィドー国の兵士達にも知らされていなかったようで、道場内には静かな騒めきがあちこちで上がっている。


「マリル。あのおじいちゃ…… 国王って、このフォッカウィドー国を開拓したも同然の人なんでしょ?」


「う……うん。元々、一部の土地は国家として機能していたらしいんだけど、大陸があまりに広大でしょ。だからほとんどの土地は森と山……。まして、冬には極寒のフォッカウィドー国で、それに適応できる魔物や魔獣しか生息できない地域だったの。

人の手で開拓するのはほぼ不可能と言われていた土地を切り開き、魔物を駆逐し、人の住める地域に開発したのは、あの人がいたからだって」


「……あのよぼよぼのおじいちゃんが、そんな……?」


「噂で聞いた程度だけれど……確からしいわ。魔物達との死闘を戦略的に進めていく軍師でありながら、最前線に常に立って魔物を倒していくその姿は、『鬼』のようだったって……」


「…………」


 筋肉は衰え、腰は曲がり、杖をついて歩くのがようやくというようなあの老人がそんな人物だったとはどうしても信じられない。



「本当ですわ、リーシャお姉さま。ルベルト国王は、まさしくこの国の神に等しい人物ですのよ」


「え」


 スッ、といつの間にかイヴがリーシャの隣にいる。両手でリーシャの左腕に抱き着き、離れようとしない。


「ちょ、な、なによ急に!アンタ、あの玉座のところいたでしょ!?」


「世紀の対決ですもの。せっかくですからお姉さまと一緒に観戦しようかと♪」


「わたしの方が年下なんでしょ!そのお姉さまっていうのと抱き着くのやめなさいってば!」


「年齢など関係ありませんわ♪ワタクシ、お姉さまをお慕いしているのですから」


 そう言ってリーシャの腕を抱いたまま擦り寄ってくるイヴの顔は、すっかりふやけたような表情である。



「……ワタシも、こっちで見る」


「あ、あら?シェーラちゃん……だっけ?」


 召喚士の少女、シェーラもいつの間にか観戦をするリーシャとマリルのすぐ後ろに歩み寄ってきていた。

 スッ、とマリルの隣にくると、ジッと瞬きもせずルーティアと国王の様子を観察している。


「うん。よろしく……マリル。オキトの魔法使いなんだよね?そして、オキトで最強の魔法使い……」


「……。あー、あははは!ま、まあ、そういうコトになるかなー!!あはははは!!」


「……あのルーティアより強いんだよね?楽しみ」


「え!?……あ、で、でもっ、ルーちゃんが勝つかもしれないし!そうしたらアタシの出番がなくなっちゃうなー!困ったなー!あははは!」


 汗をだらだら流しながら、マリルは純粋な眼差しの少女から逃げるように遠くを見つめている。


「……仮にも大将なんだから、もうちょっと嘘でも威厳出しなさいよ……」


 呆れるリーシャは、その様子に小声でそう呟いた。



「……でもルーティア……。多分、勝てないよ」



 シェーラが、小さくそう言った。



「……なんでそんな事が言えるのよ」


 イヴに抱き着かれたままのリーシャが、少し怒ったようにシェーラに聞いた。


「ごめん。でも……」


 シェーラが申し訳なさそうに俯くと、今度はリーシャの腕に抱き着くイヴが頷いた。


「簡単な話ですわ。我が国の国王は…… 最強だからです」


「そんな単純な事?だったらウチのルーティアだって……!」


 リーシャが言おうとする言葉を理解しているように、イヴは今度は首を横に振った。


「違うのですわ、お姉さま。ワタクシやシェーラ……そして、お姉さまやマリルさん、そしてルーティアさんと、我が国の国王の強さは……次元が違うのですの」


「次元?」


「ええ。……でも今、お年を召した国王であるからこそ、こうやって道場で試合が出来るのですわ」


「……言っている意味が、よく分からないんだけど……」


 不審がるリーシャに、シェーラが呟いて答えた。


「多分、これから、分かる」




「年寄に攻撃するのは、気が引けるかな?ルーティア・フォエル」


 木剣を手に構えるルーティアの様子を見て国王は言う。

 眉毛の奥から覗くその瞳からは、威圧するような空気が漂う。


「……いえ。こうして構えて初めて分かりました、国王。どうやら……貴方を攻撃する事に躊躇いを見せてはいけないようです」


「ふぉっふぉっ。嬉しいのう。オキトの国の騎士にそのような言葉をかけてもらえるとはのう。長生きするもんじゃわい」


 老人は、上機嫌に左手で髭を撫でる。


 殺気。威圧。そして…… 闘志。この老人から発せられているのは、紛れもない、戦おうとする意志だ。

 そして、相手を倒そうとする気迫だ。


 初めは戸惑ったが、ルーティアには何故国王自らこうして試合に出てくるのかが理解できた。


 それは、イヴァーナより、シェーラより……この道場にいる誰よりも、この国王が強いというのが、対峙するだけで理解出来たから。


 この国王こそ、このフォッカウィドーで最強の戦士なのだ。



「では……始めるぞい、ルーティア」


「よろしくお願い致します、国王」


 国王は、杖をついていない左手を前に出し。


 ルーティアは、木刀を中段に構え直し。



「第三試合…… 試合、開始じゃッ!!」



 フォッカウィドー国王は、自ら高らかにそう告げた。



――


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