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(2)

――


「―― !!」


 魔石を半回転、捻った瞬間。


 ルーティアとリーシャの両肩に、光が発生する。

 青く光るその光は、輪のように二人の肩を包み、定着した。

 円を描く二つ魔法の光輪は回転を続け、微かにキィンと耳鳴りのような音が光輪から唸りだしていた。


 そして、その両肩の光輪の効果は、すぐに二人に理解できた。



(( ―― 身体が、軽い……ッ!! ))



 それだけではない。

 目に見えるもの。

 王や、クルシュ、マグナ。自分の周りにいる人物の動きが、まるでスローモーションのように遅く動いてみえる。


 それは、周りが遅くなったわけではない。


 自分の視界が。まるでそれは、時間の流れがゆっくりになったように……。


 ―― 自分自身が『速く』なっているのだ。




 ギュイインッ――!!


 その音は、空気を切り裂き、一気にルーティアに近づいてくる。

 突風のように物凄い勢いで迫ってくるその影は…… 


 リーシャであった。


(―― 速い!!)


 周りのものは、スローに見えている。

 しかし目の前に迫るリーシャの動きは、いつもの練習試合で感じるスピードの数倍の速さをもっていることは、分かった。

 普段のルーティアでさえ、どうにも出来ないレベルの、桁違いの加速。


 ……しかし。


「……!!チッ……!!」


 リーシャは、驚く。


 この魔力による加速があれば、一瞬で自分の繰り出した『突き』が胸部にヒットするものと思っていた。


 しかし、ルーティアもまた同様に『加速』しているのだ。


 音速の突きを、既の所で身体を右に捻り、回避する。

 竹刀が服をかすめ、自分を通り過ぎていく。


(……危なかったが、見える……!!単に動きが速くなるだけではなく、視界もそれに適応できるようになっているのか。テストのやりがいがあるな)


(くそ……見えているのね。あの速さの突きに対応できるなんて思わなかったわ。……でも……)


 リーシャ、そしてルーティアはその思考を瞬時に行った。



(―― とにかく、攻撃しまくってやる! どこまでついてこれるかのテストよ!!)


(―― とにかく、避けまくってみる事にするか……!)



 リーシャの攻撃は止まらない。


 突きから、脚を踏み出し竹刀を捻った横の薙ぎ払い。胴体を狙った攻撃を、ルーティアは体勢を低くして避ける。

 薙ぎ払いを避けられた竹刀を上段に振りかぶり、頭部を目掛けた斬り下ろし。ルーティアは低い体勢のまま身体を後ろにそらし、後方転回。

 距離を空けられたリーシャは瞬時にその空間を塞ぐため、突進。突きを繰り出す。バク転をしたがすぐに体勢を整えたルーティアは自分の持つ竹刀でその突きを払いのける。


 斬る。突く。距離を詰める。薙ぎ払う。 相手が最も回避しづらい攻撃を見極め、次々と攻撃を繰り出すリーシャ。

 身体を捻る。跳躍する。かがみこむ。フェイントをかける。 相手の攻撃を予測し、適切な回避方法をとりつつ、次の攻撃に備えて一瞬で体勢を整えるルーティア。


 ヒュン、ヒュンと空気を切り裂く竹刀は、まるで風の刃のようだった。しかしその斬撃はルーティアをかすめはするが、当たらない。


 その攻防は、およそ15秒。

 しかしまるで10分にも及ぶ死闘のようにも、二人は感じられるのだった。




「は……速すぎて、ワシ全然見えないんだけど。何が起きてるの、コレ」


 見学をする国王の目には、まるで二つの青い光輪の影同士がぶつかっているようにしか見えない。

 今までに聞いたことのない風を切る高い音だけが、室内に響いている。


「ぼ、ボクはなんとなく見えるんですけど……二人とも、すごすぎます……!リーシャ様が常に攻撃をしているけど、ルーティアさんは全部それを避けてるんです。ずっと……!!」


 騎士団のマグナには、加速をした二人の動きが幾分か見えているようだった。

 しかし、まるで捉えきれない。かろうじて様子だけは理解できるのだが、その全ての動きをキャッチする事など到底不可能なのだ。


「肉眼で見えているだけ、おねえはすごいのです。常人や、一般の兵士でもまず追えない速度。魔装具の力と、お二人の実力が揃えばこれだけの戦闘力となるのです」


 クルシュは目にゴーグルのようなものを装着して、二人の動きを追っている。動きの速いものを目でとらえる事ができる魔法道具のようだ。



(―― くそ、コイツ……!!ナメた真似してんじゃないわよ、反撃してこないじゃない……!!)


 攻撃が当たらないリーシャの苛立ちは、数秒の時間でもどんどん溜まっていく。


(―― 攻撃が的確だ。どんどん私が回避しづらい位置に竹刀がくるようになってきている。あと数秒もこの方法は持たないだろうな……!!)


 ルーティアも、やや危機感を感じている。リーシャのとにかく攻めまくるスタイルは、滅茶苦茶な斬撃ではない。常に相手が最も回避しづらいパターンを理解して放たれるものだ。


 それを無理矢理避けているのだから、ルーティアの行動はまるで追い込まれるように限定されてくる。まるで、チェスで一手、一手とリーシャの駒が進み、ルーティアのキングが追い詰められていくように。多少無理な回避方法をとれば、次の攻撃への回避はより行いづらいものになり、更に――。


「……ッ!!ぐ……!!」


 竹刀ではなかった。予想もしなかった攻撃が繰り出されたのだ。


 それは、リーシャの竹刀を持つ右腕の……肘。

 肘鉄が、ルーティアの胸部に命中する。その攻撃は致命傷ではないが、一瞬彼女の呼吸を奪い、体勢を崩す。


「よしッ……!!」


 斬撃ではないが、攻撃が当たる。

 リーシャはすぐに次の行動に出る。胸部に当てた肘を始点にして、上腕の竹刀を相手の首目掛けて斜めから振り下ろす――!!


 しかし、ルーティアも体勢を崩されてそのままではない。


 肘鉄を喰らった、その時には既に。


 自身が両手で持つ竹刀が、リーシャの胴目掛けて横から薙ぎ払われているところだった。



「…… えっ!?」


(―― しまった!!攻撃に夢中になって、防御が……!くそ、術中にはめられた……!!)


 リーシャが慌てて回避行動をしようにも、既に間に合わない。

 首元に竹刀を当てるより先に、ルーティアの竹刀は自分の脇腹に当たってしまう事は、目に見えていたのだ。


 おそらく、コンマ数秒の差。


 しかしルーティアの攻撃の方が、速い。


 竹刀が風を斬る。


 がら空きのリーシャの胴体に、ルーティアの斬撃が――。




 シュンッ―― !!


 攻撃が当たろうとした、その時。


 ルーティアとリーシャの身体の軽さが、一気に掻き消えた。同時に二人の肩を覆っていた青の光輪も消える。


 それどころか次にきたのは……重さ。


 まるで数キロの重りを全身の至る所に取り付けられたような、身体の重み。


「ぐへっ?!」


 リーシャは情けなくその場に倒れ込んで、四つん這いになる。


「む……!」


 ルーティアもその重みには耐えられず、普段は滅多につかない片膝を地面についてしまう。




「―― ぴったり、30秒。テスト終了です。 二人とも、お疲れ様でした」


 ゴーグルを外したクルシュ・マシュハートは二人に近づいて、にっこりと微笑んだ。


――


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