(7)
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その後も、ルーティアとマリルは商店街で一日を過ごす。
昼食を食べ歩きで済ませた二人はお茶を飲んだあと、ぶらぶらと商店街を散歩。
目に付いた店、気になった店に入り次々と買い物をしていった。
雑貨屋。薬屋。書店。店を見つけると「これが欲しかったかも」と記憶を抉られたような感覚に陥り、店の中へと誘われる。
目当ての品物を見つけても見つけなくても、店の中の豊富なラインナップは二人の購買意欲を刺激する。
可愛いもの。面白いもの。便利なもの。それは雑貨や小物、書物など様々なものの魅力として存在し、二人の目を惹きつけ、財布の紐を緩ませる。
気付いた時には、もう遅い。
二人の両腕にはパンパンに膨れたビニール袋が二つずつ。計四つのビニール袋を下げる事となっていた。
「さ……さすがに、買いすぎたね、ルーちゃん」
「う……うむ。……正直、かなり反省しているぞ」
重い。
そしてその重さは、財布が軽くなったという証拠でもある。
もはや何を買ったのかすら分からなくなっている二人は、その袋を下げながら商店街の出口へと向かっていった。
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「にゃー」
時刻は、夕暮れ。
買い物を済ませた二人は、朝に来た商店街のアーチへと再び戻っていた。
道端の猫は人懐っこくルーティアに近づいてきて、少し撫でればスリスリと頭を足に摺り寄せてきた。
「うむうむ。ここがいいのだな」
「うにゃー」
ビニール袋を地面に置いたルーティアはしゃがみこみ、この猫のお気に入りポイントであろう、尻尾周辺の毛を優しく撫でる。
気持ちよさそうな猫の顔。目は既に一本の線に変わっている。
マリルはというと、商店街出入り口の近くにある店で栄養剤を買っていた。
何でも取りそろえたこの店は24時間営業しているという、最近城下町で話題の店だ。こんびに、という名だとマリルは言っていた。
店から出てきたマリルの手には市販の栄養剤が二本握られていた。
「さすがに歩いて疲れたから、アタシはこれ飲んどくわ。ルーちゃんの分も買っといたけど、どうする?」
「いただくよ。ありがとう、マリル」
「どーいたしまして。あ、猫だ。かわいいねー。全然人見知りしないじゃん」
「うむ。さっきからずっと撫でているが、一向に離れてくれん」
「あはは、ルーちゃんの撫で方が上手いんだよ。……お?」
マリルが気付くと、若い女性……いや、女子といった二人組が、こちらに近づいてくる。
格好を見るに、おそらく近くの魔法学園に通う女子学生だろう。
何やら赤い顔をした笑顔で、ルーティアの方へと近づいてきて……。
「あ、あの……っ!王国騎士団の、ルーティア様ですよね!?」
ルーティアはしゃがみこみ、猫の背中を撫でながらその学生二人組を見上げた。
「ああ、そうだが」
「きゃーっ!!やっぱりっ!! あ、あの……あたしたち、ルーティア様のファンなんです!良かったら、サインとかいただけませんか……!?」
見ると手には、色紙と黒ペンが握られていた。商店街のどこかの店で買ってきたのだろうか。
「ああ、私ので良ければ構わないぞ」
「あ……ありがとうございますっ!! やったー!!明日学校のみんなに自慢しちゃお!!」
「あ、あのっ!できれば握手も……!」
「ずるいー!あたしも握手、お願いします!」
テンションの上がった女子学生は、次々と要求してくる。
ルーティアは言われるがままサインをし、握手をして、何故か『壁ドン』なる行為を要求され、コンビニの壁で行わされた。
失神しそうに、女学生の顔が紅潮していったのは言うまでもない。
「ありがとうございました!!ルーティア様!!」
「騎士団のお仕事、頑張ってくださいね!応援してます!!」
二人の女学生はきゃーきゃーと騒ぎながら、ルーティアの前から去る。
その様子をポカンと見つめる、ルーティア。うむうむと満足そうに頷く、マリル。
「やはり王国騎士団の花形は、女子にも人気じゃのう」
「変わった子どももいるものだな。年頃の女子は同年代の男の子に夢中なものだと思っていたのだが」
「古い古い。あの子達にチラッと話聞いたんだけど、魔法学園内にルーちゃんのファンクラブとかもあるらしいからね。男子より人気かもよ?」
「マジか。世の中どうなってるんだ」
「あははは、本人がそれ言うか」
ルーティアは不思議そうな顔をしつつ、再びしゃがみこんで猫の頭を撫でるのであった。
「守らなくてはな」
ふと、ルーティアが呟く。
「ん?どったの、ルーちゃん」
「この猫も。さっきの女学生たちも。そして、この商店街も、街も。騎士団が、この賑わいを守り続けなくてはいかんな」
「…………。そうだね」
人がいる。
賑わいがある。
活気となる。
その暖かさは、失ってしまってはきっと、二度とは戻らない。
だからこそ、永遠に。絶える事なく、守り続けなくてはいけないのだ。
この商店街は、そんな守るべき人々の生活がある。
ルーティアは、それを強く感じた。
「今日はありがとうな、マリル。楽しかったぞ」
「うむ、ルーちゃんもまた一つ、休日マスターに近づいてきたね。次回もよろしく」
「次はなるべく、財布に優しい場所で頼む」
「あはは、アタシももう今月ピンチかも」
二人は重たいビニール袋と軽くなった財布、それに暖かな気持ちと満足感を持ち、商店街を後にするのだった。
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―― 次回 『英知の書斎』《マンガ喫茶》




