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商店街の魅力、それすなわち『食べ歩き』とマリルは言っていた。
ショッピングモールとは違い、それぞれの店が青空の下で商売をしている事で、室内では出来ない商店街ならではの魅力を持っているのだ。
それは『匂い』である。
ショッピングモールでも確かに飲食店や惣菜を売っている店は存在するのだが、全体に立ち込めるような匂いは存在しない。
おそらくはそれぞれの店舗が匂いを出しては巨大なあの空間の中で複雑に混ざり合い、密集してしまう懸念がありどの店もそれぞれ匂いはその店の中か、精々入り口周辺だけで留めるようにしていた。
しかし、この商店街では逆の発想。
匂いこそ惣菜の資本であり、アピールポイントという発想をおそらくどの店も言わずとも分かっているのだろう。
肉の焼けるジューシーな匂い。
その肉を焼く、炭火の煙。
せんべい屋が七輪で焼く、醤油せんべいの芳醇な香り。
出汁にたっぷり浸かったおでんの匂い。
鉄板で焼く今川焼の生地とあんこの甘い香り。
パン屋から漂う、焼き立ての食パンの匂い。メロンパンのバターの香り。
商店街とはまさに、匂い・香りの合戦場なのだ。
「ほい、ルーちゃん。ネギマの焼き鳥、お待ちっ!」
次にマリルが持ってきたのは、短剣のように巨大な焼き鳥だった。
大きな鶏肉と、白と緑のコントラストが美しいネギ。それらについたカリカリの焼き目に、茶に煌めく美しいタレのコーティング。
ルーティアの好みはタレ。マリルは塩で、その焼き鳥をいただく。
「んむ……はふはふ。……タレ、美味っ!!」
甘じょっぱいタレと、焼けた鶏肉のハーモニー。続いて、シャキシャキのネギ。そしてまた、ジューシーな鶏。永遠に食べ続けられる、その相乗攻撃。
「ここの焼き鳥も有名だからねー、大きいのと、何より美味しいからね。ほい、ルーちゃん、塩もどうぞ。タレも一口ちょうだい」
ルーティアとマリルはお互いの手をクロスさせ、それぞれの串に刺さった焼き鳥をシェアした。
「塩、美味っ!!」
「タレ、美味っ!!」
お互いにそう言いあって、笑う。
本当に驚くほど大きく、美味しい焼き鳥であった。
まだまだ、二人は食べ歩きを続ける。
メンチカツ、焼き鳥とおかずを一品ずついただくことで、腹は膨れるというよりもむしろ刺激されて減り続ける。
食べ続けない事で満腹にならず、更なる味を求めて次の店を彷徨い歩く。
次なる店は、おでん屋。
おでん屋というと一般的に屋台でおでんをつまみに酒を飲むイメージがあるのだが、この商店街ではしっかりと単体の、惣菜の店として存在している。
ちくわ、大根、牛すじ……食材が出汁の海の中で心地よさそうに泳いでいた。
しかし、それらを全て食べてしまってはすぐに腹が膨れてこの食べ歩きは終わってしまう。
マリルはおでんがあるケースとは別の、小さなケースの方へと移動。
そこに沈んだ団子のような形状の串を二つ注文した。
「……なんだ、コレは?」
受け取ったものの、ルーティアはそれが何だか分からない。マリルが解説をする。
「この辺りじゃ珍しいよね。玉こんにゃく」
「たまこんにゃく?」
少し左右に振ってみれば、確かに串に刺さった丸いモノはプルプルとリズミカルに震える。コンニャクだ。
団子のように三つ貫かれた丸いコンニャクは、醤油タレで茶色く色づいている。
ルーティアは、そのコンニャクを一つ、口の中に入れた。
「あ、っつ……!! ……むぐ……。 ……!!」
プルプルと弾けるこんにゃくの弾力と、醤油の甘じょっぱく濃厚な出汁がマッチする。
齧る食感も良く、味も絶妙という一品。
「うまい……!プルプルしてて、醤油の出汁もすごくいいぞ……!!」
「あはは、初めて食べた?マーグン王国とかタガマヤ国とかではポピュラーな食べ物らしいけどね。アタシ大好きなのよコレ」
「おやつにいいな。食べ応えがあるし、さっぱりした味ですごくいい」
ルーティアはふーふーと玉こんにゃくを息で冷ましながら、あっという間に三個すべて食べる。
マリルも玉こんにゃくを食べながら、にやりと笑った。
「ふふふ……しかもこんにゃくだからヘルシーときたもんだ。罪悪感無しに食べれるものは貴重なのよ……」
「罪悪感?なんで食べるのに罪悪感があるんだ?」
「常に運動してるルーちゃんには分からないでしょうね……。魔法使いにも色々悩みはあるのよ……」
マリルの表情は、にやりと笑いながらもどこか悲しい目をしていた。
「さー、ルーちゃんおまちどおさまの、甘いもののコーナー!」
「わー」
食べ歩きはまだまだ終わらない。
マリルが紹介し、ルーティアが目立たないように小さく拍手をした。
今まで見た店の中では、比較的小さくて新しい店。
店と店の間のスペースを借りたような小さなカウンターと屋根だけの店舗にある商品は、一種類。
木造りのぶら下がった看板には、こう書いてあった。
『メロンパン専門店』
「ふたつくださーい♪」
「はい、ありがとうございます!すぐ食べられますか?」
「はいっ!お願いしまーす」
若い女性の店員に注文し、マリルがまた自分の分とルーティアの分の二つを購入してきて一つずつ分け合う。
まるでコース料理のようにマリルのおすすめの料理が次々と出てくるのが、ルーティアはとても楽しかった。
「暖かいな。作り立てみたいだ」
包み紙を持つと、パンの熱が伝わってくる。
紙を開けば顔を出す、薄い肌色の生地。石のような見た目とは正反対の、もちもちとした弾力。
そして一気にくる、バターの香り。
早速一口、ルーティアとマリルはパンをかじった。
「うーん、生地がサクサクー♪おいしいねー」
マリルはにんまりと笑顔になって、頬に手をやった。
「表面はクッキーみたいなのに、中は普通のパン以上にモチモチとしているな……!シンプルだけど上品な甘さで美味しいぞ……!」
ルーティアも、その味と食感に驚く。
「え、ルーちゃんまさか、メロンパンも初めて?」
「ああ。こんなに美味しいんだな、メロンパン。メロンの味はしないが、メロンに似ているからメロンパンなんだな。メロンパン、いいぞ」
「あははは、心にその名を刻んでるねー」
ルーティアは初めて食べるその味と香りと弾力を深く覚えた。
「持ち帰りもできるのか?」
ペロリとルーティアはメロンパンを食べると、店舗の方を見た。
「あ、うん。有名なお店だから、結構お土産にも喜ばれるみたいよ」
「ちょっと買ってくる」
「お土産にするの?ルーちゃん」
「昨日リーシャが差し入れしてくれただろう?礼をしっかり返さなくてはな」
ルーティアは財布を出し、店舗の方へと歩いて行った。
「うーん、恩義を忘れない、武人の鑑よのう」
マリルはルーティアの行動に深く感心した。しかし……。
「……10個も食べられるかなぁ?リッちゃん」
ルーティアが店主に注文した数に、マリルは疑問を抱かずにはいられなかった。
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