(7)
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そうして、気付けば午後の時間も過ぎていき、気付けば夕刻も近くなってきている。
午前中からずっとこの商業要塞に入り浸っている三人の足は、流石に疲労感を感じてきた。
特に普段運動をしていないマリルの足は限界にきており、二階にあるカフェへ避難する事となった。
三人は紅茶と気に入ったケーキを注文し、一服した。
「すっかり買い物袋も増えたね、みんな」
マリルが言う。
三人の座る椅子の両側には、既に両手いっぱいに持つほどの袋。
ルーティアは二人に勧められた衣服やアクセサリー類。ついでとばかりに自分用の運動着をもう一着と、携帯用魔法薬など戦闘に役立つアイテムまでつい買ってしまった。
マリルも、ルーティアと同じく自分が欲しかった衣類。夏も近いことから、涼しいカラーのシャツなど。見ていた魔法道具まで色々と購入している。
リーシャは、気になっていたメンダコのぬいぐるみを結局購入。食べる量は普通、と言っていたリーシャだったが、クッキーやキャンディ、カステラやチョコなど大量のお菓子を袋いっぱいに買っていた。
「……一旦財布の紐が緩むと、あとは雪だるま式にどんどん出費が増えていく。恐ろしいわね、給料日直後の買い物って」
欲しいものを買ったものの、散財を若干後悔するリーシャであった。ルーティアとマリルも同じく、満足と後悔の狭間の気持ちが揺らめく。
「ま、今日はこの辺で帰ろうか。いいかな?ルーちゃん」
「ああ」
今までこれだけの買い物をした事がなかったルーティア。
これ以上この場所に居る事は危険だ、と撤退を判断した。
マリルは紅茶を一口飲み、ルーティアに向かって尋ねてみる。
「楽しかった?」
その言葉に、ルーティアはふっと笑って頷いた。
「必要な物を買うのが買い物だと思っていたが、それだけというわけではないのだな」
「?どういうことよ?」
リーシャがルーティアの顔を覗き込んで聞く。
「今までの私の買い物は、『これが必要だから』買う。そのやり方しか知らなかった。今日知ったのは……『これが必要かもしれないから』買う、という事だった」
「同じじゃないの?」
「全く違う。前提として必要な物を買うか、必要かどうかを後付けで考えて買うか。服や、物品。今まで見たこともない物が私の生活に入ってきたら……と、イメージをして買い物をするという経験が、無かったんだ」
「……なるほどね」
「コレがあったら、楽しくなるかも。コレを着たら、自分のイメージが変わるかも。コレを食べたら、美味しいかも。一歩踏み出す事で、新しい生活のイメージがどんどん膨らんでいく。……良い時間だったぞ」
「案外、買い物中毒になりそうかもね、ルーティア」
「そうかもしれないな」
リーシャとマリル、そしてルーティアは、クスクスと笑いながら会話を続けた。
今日一日でまた一つ新しい扉を開いた様子のルーティア。
城にいるときはあまり見られなかった、ルーティアの笑顔。マリルやリーシャと出会った数日は、彼女をどんどん人間へと変化させていっていた。
―――
「あ、コレ」
朝に来たドアから出て、乗り合いガアで城へと帰ろうとした矢先。
マリルがある物を見つける。
『魔法式電影記録媒体機』という看板の下に、大きな箱のような物体が並んでいる。
箱はカーテンで仕切られており、中に入れるようになっていた。三人は余裕で入れる大きさであろう。
「なんだこれは」
中を覗き込むルーティア。
真っ白な空間の前方には、黒く光る透明な物体が存在した。
続けてマリル、リーシャが箱の中へと入り、マリルが説明をする。
「電影記録媒体。この透明な魔法機で私達に光を当てて、それそっくりの絵を紙に映すのよ。それをお土産で持って帰るの」
「へー。わたしもはじめて見るわ。噂には聞いてたけど……」
興味があったらしいリーシャは、楽しそうにその中身を見渡している。
「ねぇ、記念に三人で撮って帰ろうよ。今日の記念にさ」
マリルの提案に、リーシャは無邪気に応える。
「いいわね、面白そう。一回やってみたかったし。ルーティアもいいわよね?」
リーシャが素直に乗るとは思わず、魔法機械が苦手なルーティアは少し躊躇うが――。
「うむ、そうだな。記念に撮っていくとしようか」
「オッケー。……あ、記録媒体の紙に、好きな言葉を刻めるらしいわよ。ほら、このペンで……なんで書く?ルーちゃん」
マリルはルーティアに、ペンを渡した。魔法物体の前には淡く光る四角い板があり、そこに文字を書き込めるようになっていた。
「私が書いていいのか?」
「今日はルーちゃんの買い物だし。好きな文字書きなよ」
「……うむ……。どんな事を書けばいいのか……。…………」
少し迷ったあげく、ルーティアは板の下部に文字を書いた。
「『ガアで来た。』、っと」
「なによそれ。なんで移動手段をここに書かなきゃいけないのよ」
「何書けばいいかわからなくて、つい」
「もうちょっとなんかない!?その言葉だけだと意味わかんないでしょ!?」
ルーティアを責めるリーシャを、マリルがなだめた。
「まあまあ。……あ、ほら。もうお金入れちゃったから、撮られるよ。ポーズしなきゃ、ポーズ」
「え、ウソ!?早いわよお金入れるの!ま、待って……」
慌てて髪の毛を整えるリーシャ。ルーティアも、意味は分からないがとりあえず慌ててマリルに聞く。
「ポーズって?どうすればいいんだ?」
「数秒したら前にある魔法物体が光るから。光った瞬間の映像が紙に記録されるの。だからなにか、かっこいいポーズとか、かわいいポーズとかしてみて」
「え、え、え」
「ほら、タイマー。もうあと5秒よ。4、3、2……」
「わ、わ、わ」
とりあえず思いついた適当なポーズを、透明な機会に向けて作るルーティア。経験のないマリルやリーシャも、同じようにポーズをとる。
笑顔とも真顔とも言えない、絶妙な表情の三人が写った紙が、取り出し口から排出されるのであった。
――
―― 次回 『悠久の大地』《ピクニック》
四話完結です。
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それでは、次回をお楽しみに!本日夜から五話が始まります。
尚、以降は一日一話、夜の更新になりますのでよろしくお願いします。




