(6)
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「うまい、なんだこれ」
三人は一階に戻り、レストランが集中しているフロアで食事をとる。
入った店は、パスタ専門店。肉や魚介、クリームやスープなど様々な種類のパスタを味わえる店であった。
ルーティアは注文したサーモンとほうれん草のクリームパスタの美味しさに舌鼓を打つ。
濃厚なクリームに、溢れる鮭の旨味。ふんわりと香るバターとチーズが織りなすハーモニーは、まさに美味だった。
マリルは、そんなルーティアの言葉に驚いた。
「……ホントにパスタ、食べた事ないのね。結構メジャーな食べ物だと思っていたけど……」
リーシャは呆れて笑いながら言う。
「マリルと出かけるようになるまで、城の支給する食事か野営の食事しか食べたことないのよコイツ。あとは……祝宴に出てくる宴会料理か。騎士団じゃ栄養価の高いものしか出ないし……パスタ、見たことなくても頷けるわ」
「美味いな、この麺というものは。なにで出来てるんだ?」
「……麺まで初めて食べるの……。ホントアンタ、予想の上を行く無知よね。小麦よ、小麦」
「パンと同じ原料なのにここまで違うのか……」
驚きながら、ルーティアはパスタをずるずると啜った。
「ほら、口の周り。クリームめっちゃついてるわよ。みっともない」
そう言ってルーティアの口の周りを備え付けの紙ナプキンで自然と拭くリーシャ。おそらくリーシャ自身も何気なくしている行動なのだろうが……。
「……どっちが年下なんだか」
マリルはその様子を微笑ましそうに、呆れた。
「マリルとリーシャのパスタも美味しそうだな」
ルーティアは向かいに座るマリルと、隣に座るリーシャのパスタを見た。
マリルは春野菜をふんだんに使ったペペロンチーノ。春キャベツやアスパラガスにベーコンを添えた香ばしいパスタ。
リーシャは定番、ミートソーススパゲティ。黄色く輝くパスタの上に、ひき肉沢山のトマト色のミートソースが輝く。ルーティアとは違い、飛び散らせず器用に食べていた。
「おっ、気になるかいルーちゃん。こういう時は小皿を使って……シェアよ、シェア」
マリルはまだ自分が口をつけていない端の方のパスタを、使用していないフォークを使って丁寧に取り、小皿に乗せた。
「はい、コレ。味見してみなよ」
「いいのか。すまんな……むぐ。うん、ニンニクが効いているが野菜でさっぱり食べられるな。美味しい」
そんな様子を見て、リーシャも自分の皿のパスタを少し、小皿によそってルーティアに分ける。
「アンタからすればなんでも珍しくて美味しいんだろうね……。ある意味羨ましいわ。ほら」
「すまんな、リーシャまで。……んぐ。トマト味か。肉の旨味がたまらないな。美味しい」
「……なんか動物にエサあげてる気分なんだけど」
「あはは……そういうコト言わないの、リッちゃん」
呆れるリーシャを後目に、ルーティアはテーブルの片隅に置いておいたメニュー表を取る。
「美味しかったからちゃんと注文しようかな」
その行動に、マリルは驚いて目を見開いた。
「え……まさか、追加で二皿注文する気?」
「駄目かな」
「ダメじゃないけど……こ、この後一応お店見て、甘いものでもどっか食べにいこうかなー……と思ってるんだけど……。ルーちゃんのお腹が大丈夫なら……」
「そっか。じゃあ今日はやめておくかな。甘いもの食べたいし」
「…………普段どれだけお昼食べてるの、この人……」
戦う者として、体力はつけておかなければという事だろうか。ランチを一緒にした経験のないマリルは、その食欲に驚くばかりだった。
「……一応、わたしはコレでお腹いっぱいだからね。コイツと一緒にしないでよ」
リーシャは周りの客の人目を気にしながら、恥ずかしそうに、なるべく上品に自分のミートソーススパゲティを食した。
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ランチの後も、三人の買い物は続いた。
午後はルーティアの服を見つつも、小物やアクセサリーも探索。首元につける安価のネックレスなどを探し、気に入ったものは購入した。
それ以外にもマリルは魔法道具や素材が欲しいという事で、それ系の店も周る事になった。
「見てみて、コレ便利なのよ。魔法石を中に入れると……ほら、風が出てくるの」
マリルが手に取った魔法銃のような形の物体の先からは、そよそよと風が出ている。
魔力を蓄えた魔法石をポケットに入れれば、それを風魔法に変換し銃口から出てくるという代物だ。
ルーティアはその風を一応浴びてみるが……。
「……何に使うんだ、コレ」
「お風呂入った後に髪乾かすのよ。便利でしょ?」
「自然乾燥させれば良くないか。あとはマリル、一応魔法使いだろ。自分で風魔法使えばいいんじゃないのか」
「…………。あっ、あっちにも新しい魔法アイテムが!試してみよーよ、ルーちゃん!」
「逃げるな逃げるな」
おそらく風魔法を使いこなせなくて話題を変えるマリルであった。
リーシャの買い物は、服以外にも多い。
小さな、鞄につけられるタイプの可愛いぬいぐるみなどを扱うファンシーショップ。
動物のデザインがされている筆記用具など取り扱う文具店。
手軽に食べられるチョコレートやクッキーを揃えた菓子屋、などなど。
ルーティアやマリルが見たこともないような可愛らしい原色の物品を扱う店を、色々と回っていった。
「きゃー、このぬいぐるみカワイイーっ!」
リーシャが目に止めたのは、動物のぬいぐるみだ。
手に持って愛おしそうに撫でているが……その動物の種類を、ルーティアは知らなかった。
「なんだ、その潰れたカエルみたいな生き物」
「失礼ね。メンダコよ、メンダコ。まあそのぺちゃんって潰れてる感じがカワイイんだけどねー。ほら、おめめとかキュートじゃない?」
「……分かるか、マリル。このセンス」
「…………。若い子のセンスにはちょいとついていけないかなぁ」
「まったく。あー、コレ買っちゃおうかなぁ。わたしの部屋の動物ぬいぐるみコレクションがまた……うふふふ」
「……リーシャの部屋って、どうなってるんだろうな、マリル」
「…………。見てみたいような、見てみたくないような」
若い妹の暴走を見るような、姉二人の視線であった。
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