(7)
――
日が落ち始め、辺りは段々とオレンジ色に近い日差しになっていく。
周りの客たちは退園口から次々と帰路についていき、マリル達もその場所へ近づいていった。
リーシャだけは、名残惜しそうにキリンやオカピをずっと眺めていた。
「……なんだかんだ、一日が過ぎるのは早いね。開園と同時くらいに入ったのに、あっというまに夕方だ」
近くのベンチにマリルとルーティアは腰掛けて、飲み物を飲んでいた。
リーシャは柵の前でギリギリの時間まで動物を見ていたいらしく、ずっと動物の一挙一動を観察している。
「新しいことを体験すると、過ぎる時間というのは早いものだ。……今回も、いい休日だったぞ、マリル」
「ルーちゃんも楽しめた?」
「ああ。普段戦ったり食したりする動物の詳しい生態はやはり興味深かったな。可愛げもあったし」
「……人によって捉え方は色々だね」
フッ、とマリルは悲しく笑い、対比をするように柵の前にかじりついているリーシャを見つめた。
ベンチから立ち上がり、リーシャの横について肩に手を置く。
「そろそろ閉園だよ、アタシ達も帰らなきゃ」
「…………うん」
「楽しかったでしょ、リッちゃん。またこようね」
「…………うん」
「さ、かえろ。ね?」
「…………ん」
心の中ではきっと、帰りたくないと願っているであろう少女に、優しく触れる。
マリルに連れられて退園口に行くリーシャの後を、ルーティアもゆっくりとついていった。
――
「それじゃ、この辺で解散かな。アタシは家こっちの方だし……。ルーちゃんとリッちゃんは、城に戻るんだよね?」
夕暮れの城下町は人に溢れ、それぞれ帰路についていく。
大半は仕事を終えたばかりの疲れた顔をした者だが、今し方動物園から戻ったばかりの三人はすがすがしい表情で大通りを歩く。
城へと戻る道の分かれ道。アパート暮らしのマリルとは違い、ルーティアとリーシャは城の住み込み。ここで分かれる事になる。
「そうだな。それじゃあ、また連絡するから。魔術団の方にたまに顔を出そう」
「あはは、アタシが説教くらってない時にしてね。……んで」
マリルはいまだ少し寂しそうに動物園の方向をチラチラ見るリーシャの顔の前に立ちはだかった。
「ひゃ!?」
「お疲れ様、リッちゃん。どうだった?今日のお出かけは。楽しかった?」
「う……」
その質問の返答をしづらいのであろう。彼女のプライドが邪魔をして、モゾモゾと身体を動かすリーシャ。
……しかし、少しして、俯きながら小さく呟く。
「……たのしかった」
その返答に、マリルとルーティアは思わず顔を見合わせて微笑んだ。
「そりゃよかった。国王も騎士団のエース二人に喧嘩されたまんまじゃ大変みたいだからさ。仲良くなれたかな?」
「……でも、決着はつけさせてもらうわよ、ルーティア」
そこは譲れない意志のようで、俯きながらギロリと視線だけルーティアに向けるリーシャ。
「分かった分かった。恨み合い無しの練習試合なら、いつでも付き合うから」
「…………」
ルーティアが承諾をすると、再びリーシャは俯いて恥ずかしそうにする。何かまだ言いたい事があるようで、マリルが顔を覗き込んだ。
「ん?どうしたの?」
「あの……その……」
意を決したように、リーシャは小さく掠れているが、しっかり言葉に出す。
「……また、休みの日……一緒に、どっか連れてってよ……! ……その……楽しみに、してるから……っ!」
そう言って、真っ赤になった顔を上げて城の方へ駆けだすリーシャ。どうやら先に帰るようだ。
脱兎のごとく猛スピードで姿を消すリーシャ。その様子を、ルーティアとマリルは呆然と見送り…… フッ、と笑顔をお互いに見せる。
「すごく楽しかったみたいだね、リッちゃん」
「……私と同じで、休みの過ごし方を知らなかったんだろうな。また教え子ができたな、マリル」
「希少なツンデレ娘だもんね、可愛がって世話させてもらいましょうか」
「つんでれ、というのはよく分からないが騎士団としてもよろしく頼む」
「うむうむ。任されよう」
二人の『お姉さん』はそう言って、しばらく嬉しそうにその場で微笑んでいたのであった。
――
―― 次回 『全能の要塞』《ショッピングモール》
三話完結です。
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それでは、次回をお楽しみに!明日朝から四話が始まります。




