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(4)


――



「はー……。なーんでこんな事になってるんだろうね」


「国王の命令だからな。致し方あるまい」


「休み一日増やしてくれるっていうからいいんだけどさ。よく知りもしない小娘と一緒に過ごせだなんて。わしゃ保護者かっつーの」


「なんか口悪くなってるな、マリル」


「悪くもなるさ。こんな急なコト」


 ルーティアと、マリル。

 二人はカフェのテラス席に座って飲み物を飲んでいる。マリルはコーヒー、ルーティアはガムシロップを大量に入れたアイスティーだ。



 城から少し歩いた、大きな公園。

 公園といってもそれは遊具が置いてある遊び場のようなものではなく、王国が運営する国民公園。

 春のこの時期は桜が満開で、平日のこの日でも見物人が多く散策や花見を楽しんでいる。

 桜に囲まれた遊歩道の他にも、ボートを漕いで遊べる池、遊具広場、売店、博物館など広大な敷地の中には各施設が点在し、町人達の憩いの場となっていた。


 二人はこの場所で、リーシャと待ち合わせをしている。

 時刻は九時。平日で人も疎ら、花見を楽しむ老夫婦や子どもと散歩をする主婦などがのんびりと遊ぶ麗らかな春の日。


 ルーティアは甘ったるくしたアイスティーをごくごくと飲んで、マリルに聞いた。


「で、どこに行くんだマリル」


「ルーちゃんはこの国営公園、来た事ある?」


「いや、初めて来た。特に用事もなかったしな」


「よし、オッケー。やっぱり初めての場所の方がアドバイザーとしても紹介しがいがあるしね。ま、お楽しみってコトにしといて」


「むう。花見でもするのかと思ったが、弁当もレジャーシートも持ってきていないしな」


 マリルの格好を見るに、散策や花見というような用意でもなさそうだった。

 少し大きめの黒の長袖に、サスペンダー付きの白パンツで春らしい装いのマリルの私服。

 一方、私服に全く無頓着なルーティアは白いラインの入った黒のジャージの上下を着てきていた。


「お出かけ用の私服とかなかったのかな?ルーちゃん」


「休みの日はいつもこれだ。というかジャージしか持っていない」


「んー……。今度の休みは洋服でも見にいこうね、ルーちゃん」


 マリルはにっこりと笑ってコーヒーを啜った。


「やはりどこに行くのか気になるな。ヒントだけでもないのか」


「ヒント、ね。じゃあ……昨日のリーシャちゃんのバッグかな。あと剣の鞘についてたキーホルダーとか」


「え、なんだそれは」


 全く気にしていなかった部分を言われ、ルーティアはキョトンとする。

 昨日リーシャが謁見の間に来た時は遠征を終えたばかりだったので鎧を着た状態だったが……そういえば、トラベルバッグが横に置かれていた気がする。

 しかし、剣の鞘にキーホルダー……?そんなもの、つけていたか?とルーティアは考えた。


「あ、ほらほら。きたよ、リーシャちゃん」


「ん、そうか。じゃあ片付けて合流するか」


 公園の坂を上ってくる一人の若い……というか、幼い娘。

 その影を発見して、マリルとルーティアは立ち上がって飲み物を返却口までさげに行った。



――



「はー……。なーんでこんなコトしなくちゃならないのよ」


 合流してすぐにリーシャは溜息混じりに、先ほどのマリルと同じセリフを呟いた。


「今日は昨日と違って大人しいな、リーシャ」


「少しでも噛み付く素振りみせたら謹慎の刑って王様が言うんだもん……。ほら、あそこ。監視ついてるでしょ」


 リーシャの指さした先に、黒服の男性が二人。指を刺されてサッと桜の木の陰に隠れる。


「げ、厳重ですこと……。まあ、騎士団の実力トップ2の二人だもんね。親睦を深めてもらうのは国としてそれだけ重要な課題というワケか。やだなー、こんな大役……」


 二人の親睦会を任されたマリルとしてはたまったものではない。表情が引きつった笑いになる。



「にしても、随分可愛らしい格好できたな、リーシャ。似合うぞ」


「私服で出かけろっていうんだもん。こういうのしか、わたし持ってなし」


 ルーティアが笑うと、リーシャは少し恥ずかしそうに頬を染めた。

 袖にフリルがついた薄くピンク色のトレーナーに、少し長めのベージュのキュロットスカート。白のハイソックスと、いかにも14歳の少女らしい私服である。

 髪もツインテールに結わいており、昨日の殺気立った雰囲気とは正反対の印象を抱く。


「どう見ても可愛らしい女の子なのに、騎士団きっての実力派だっていうんだからねえ。ね、ルーちゃん」


 マリルがルーティアに話をふると、ルーティアも頷いた。


「太刀筋は若いが素質は本物だからな。努力をすればきっと更に――」


 と言った瞬間。リーシャがルーティアに詰め寄った。先ほどまでの照れていた人物とは別のようだ。


「――殺すよ、ルーティア。言っておくけど、素質だけで戦っているわけじゃないの。今のままだって十分アンタに……!」


「リーシャさん、謹慎、謹慎」


「……あっ。 あ、あははははは…… ど、どうもー……」


 マリルに肩をつつかれて、リーシャは慌てて桜の陰にいる黒服に笑顔で手を振って愛想を振りまく。

 その笑顔のまま。


「あんま舐めた態度していると夜道で刺すからね、ルーティア」


「笑顔であんな怖いこと言ってる14歳、初めて見た」


 マリルは何故か感心した。


――


「はあ……。で、どこ行くのよ」


 行く前から既に疲れているリーシャは力なくマリルに聞いた。


「うん。と、その前に……折角遊ぶんだし、アタシは友達っぽい感じで接していいかな?ほら、歳もちょっとアタシの方が上だし」


「ちょっと?大分上じゃん」


「ぐぬぬぬ……」


 立場上、マリルもリーシャに掴みかかれない。


「と、とにかく……リーシャさん、じゃよそよそしいから、『リッちゃん』でいいかな?呼び方」


「はあ!?ふざけないでよ、そんな呼び方誰にもされたことないわよ!?」


「えー、でも楽しく遊ぶんだから友達っぽくしないとさ。ね、ルーちゃん」


「うむ。私は初めからルーちゃんで問題なかったぞ」


「プライドってもんがないのか、アンタは……」


 腕組みをしてうんうん、と頷くルーティアにリーシャは呆れた。

 ルーティアはからかうようにリーシャに言う。


「なんなら私もリッちゃんって呼ぼうか?」


「殺すわよ。絶対ダメ」


「じゃあマリルはいいだろ?私はリーシャといつも通りにするから。初対面からその呼び方なら違和感もなかろう」


「うぐぐぐぐぐ……」


「ほら、謹慎謹慎」


「……。……はあ、もうどうでもいいわよ……」


 ルーティアに言い解かれて、リーシャは降参する。

 そんな様子を見て、マリルはなんとなく納得をするのだった。


(ルーちゃん……結構リッちゃんの扱い、分かってるのか)



「それで、結局どこへ行くんだ?」


 頭を下げて落ち込むリーシャに代わり、今度はルーティアが質問した。


「うん、今日行くところはこの公園の奥にあるの。ここから歩いて少しよ。そろそろ開園している頃だし……早速、行ってみよう」


「?この公園の中?池とか、博物館とかか?」


 チッチッチ、とマリルは指を振って否定をした。



「今日のお出かけスポットは…… ずばり! 『動物園』よ!!」



――


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