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(3)


――



「リーシャ・アーレイン。ただいま戻りました、国王」



 膝をついて深々と頭を下げながら、少女は言う。

 寝間着の国王は少し恥ずかしそうにコホン、と咳払いをしてとりあえずテラス席の椅子から立ち上がり、手を後ろに回した。


「う、うむ……。遠征での研修、ご苦労であったな、リーシャ。共に行ったマグナ・マシュハートはどうした?」


「先に帰らせています。弟の世話をせねば、と」


「ふむ。そういえばマグナの弟は魔術団所属であったな」



「ねえねえ、ルーちゃん」


「ん?どうした、マリル」


 王と話す国王とリーシャに聞こえぬよう、マリルはルーティアに椅子を寄せて耳元で小さな声で話す。


「あの子、確か騎士団所属だよね。リーシャ、って」


「ああ、そうだ。私と部隊は違うのだが、かなり実力のある娘だぞ」


「実力ある、っていうか……。アタシの聞いてる話じゃ、騎士団じゃかなりの腕だって聞いてるよ。それこそルーちゃんの次くらいに」


「うむ。まあまだ太刀筋も若いが、素質は騎士団でもトップクラスのものだろう。いずれ私も追い抜かされるんじゃないかな」


「ひえー。じゃあここに王国騎士団のナンバー1、2が揃ってるわけだー」


「どうなんだろうな」


 そんな噂話をルーティアに確認するマリル。

 一方の国王は、リーシャから今回の遠征研修の話や雑談を交わしている。



「……と、世間話をしている場合ではない。リーシャ、とにかくご苦労であった。今日はもう戻って休むがよい」


「いえ。……国王もいらっしゃるのであれば、丁度いい。少し提案したい事があるのですが、よろしいでしょうか?」


「提案、とな?」


 リーシャはにっこりと国王に向けて笑うと、膝をついた姿勢から立ち上がる。

 その表情のまま、視線は……王の横に座る、ルーティアへと向けられた。


「……ん?」


「ルーティア様。少しお話をしたいのですが、よろしいでしょうか?」


 リーシャは笑顔ではいるが、その顔はどこかぎこちなく、影がさすような笑み。まるでそれは、怒りの表情にも似ていた。

 その感情は露知らず、ルーティアは不思議そうな顔をしてリーシャに返答した。


「国王の前だからと言ってかしこまった言葉にしなくていいぞ。いつもの態度でいいからな、リーシャ」


「左様ですか。では…… 王様、少し、失礼します」


「お、おお……?うむ……」


 国王の方を向き直り、頭を下げるリーシャ。

 訳も分からぬまま承諾する国王。


 そして、次の瞬間。


 リーシャは鞘から剣を抜いて、ルーティアの首元に刀身を近づけ……刃が当たる寸前で、勢いを止める。



「え!?」


「あ!?」


 同時に驚く国王とマリル。

 傷は一つもつけず、だがもう数ミリ動いていれば、ただ事では無かったであろうリーシャの剣。

 だがリーシャはニヤリと不敵に笑い、ルーティアは……表情一つ変えず、微動もせずリーシャの顔を見ている。まるで寸前で剣が止められると知っていたように。


「この前の練習試合の続き。今すぐにしたいのだけれど?」


 ギリ、とリーシャは歯を食いしばり、怒りに耐えている様子だった。


「続きもなにも、あの試合は私が勝ったはずだが」


「終わってないわ。周りに止められて仕方なく終わらせただけ。今度は、最後の最後まで試合をしたいの」


「夜も遅いぞ。お前も疲れているだろうし」


「アンタに勝たないとゆっくり休めそうにないのよ……! ね?いいでしょう?」


 首元で止めた刃は、脅しのつもりなのだろう。斬るつもりはないにしろ、その手は怒りに震えている。

 一方のルーティアはそんな脅しにも全く動じず、ただただ冷静な顔でリーシャの言葉に応える。


 そんな一触即発の状況に、呆然としていた国王も我に帰ってリーシャとルーティアの間に割って入った。



「す、ストーップ!! なになに!?なんなの! とにかくリーシャ、落ち着いてっ!!その剣すぐしまうっ!!」


 先ほどまでの威厳はどこかに消え、ただただ二人の娘を心配する父親の顔になる国王。

 スッ、と剣を鞘に納め、再びリーシャはにっこりと笑った。


「遠征研修に行く前に、ルーティア様と木刀で練習試合をしましたの。その続きがしたいだけですわ」


「だ、駄目駄目!リーシャも研修終わりで疲れてるでしょ!?業務時間外だし、怪我なんてされたら困るの」


「わたしは困りませんわ」


「リーシャが困らなくても騎士団と国王のワシが困るのよ!もー、ルーティアもリーシャも、国の大事な人財なんだよ。本人が良くても国王的に駄目!」


「ぶー」


 ふくれるリーシャ。まるでおねだりを拒否された娘そのものだった。

 しかしすぐに立ち直り、次の提案をする。


「では、明日に試合をするのではいかがでしょうか?」


 国王はその提案も却下した。


「明日はルーティアも休日だし、リーシャだって遠征後の連休じゃないか。認めないよ」


「えー。私闘って事に出来ませんか?わたし、今すぐにでもルーティア様をぶっ飛ばさないとゆっくり休めないんです」


「だから駄目だって!ルーティアもリーシャも大事な人材なの!もー……なんでそんなに仲が悪いのよ二人とも」


 意見を押しまくるリーシャに国王も疲れてくる。二人を大事に思うこその態度なのだが、リーシャは不満そうだ。

 マリルはその隙に、ルーティアにまたこっそりと話を聞く。


「……なんか、あったの?リーシャさんとの間に」


「さあ。私には覚えがないぞ。遠征に行く前に試合をして勝ったくらいで、別にバカにとかしてないし」


「えー、でもなんか気に障ったんじゃないの?めっちゃ闘志燃やしてるように見えるよ、あの子……」


「みたいだな」


「みたいだな、って……」



「兎に角。国王として急な試合も私闘も決闘も認めません。そもそも騎士団の仲間でしょ?なんでそんな感じなのよ、リーシャは」


「色々と恨みがあるんです。試合の日程だけでも組んでもらわないと、わたし帰りません」


「だから……そもそも、そんな恨み妬み混じりの試合なんて駄目なの!騎士団を健全に運営するためにも、許可できない!」


「えー」


「ルーティアもリーシャも、仲良く!ね? しっかり健全な練習試合としてなら騎士団でいくらでもやっていいから!だから穏便に」


 国王がそう言っている間に、リーシャはルーティアの方を向き、ニヤリと笑った。


「なら……夜道に気をつけることね、ルーティア」


 リーシャのその言葉を聞いて、国王の堪忍袋の緒が切れる。


 リーシャを指さし、国王としてハッキリと告げた。



「リーシャ・アーレインッ! ルーティア・フォエルッ! 両人は仲を深めるために明日の休日を共に過ごす事!休日は一日ずつ増やしてあげるから喧嘩せず仲良くお出かけしてきなさいッ!!」


「えっ」


「えっ」


 ここだけは仲良く同時に、ルーティアとリーシャは驚きの声をあげた。


「マリル・クロスフィールドッ! お主は二人の休日をしっかりとサポートする事!三人で良き休日を過ごせるようプランを考えるのじゃ!二人はマリルにしっかりと従うように!!」


「 え 」


 一番驚いたのは、蚊帳の外と思って事の顛末を聞いていた、マリルであった。



――


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