(16)
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「……ルーティアに、リーシャ。……加勢しなくていいのかな。あの二人」
シェーラの呟きに、マリルが首を横に振る。
「大丈夫。それに……下手に加勢なんてして邪魔しちゃったら元も子もないしさ」
マリルのその言葉に、マグナに押さえつけられた状態のイヴも力を抜き、大人しく見守ることにした。
「……まあ、今回は仕方ないですわね。お姉様とルーティアさんに、決めていただきましょう」
「……そうですね。ボクも、そう思います」
マグナも同意見となり、イヴを掴んでいた手を離す。
「うむ。あの二人であれば…… いや、あの二人でなければ、この城を、この国を守ることは出来ん。命運は、しっかり託そうではないか」
オキト国王も、どこか安心したような表情で髭を弄りながらルーティアとリーシャの後ろ姿を見守る。
「……大丈夫!なんたって、あの二人が……」
マリルが国王の前に出て、胸を張った。
そして、大きな、大きな声で。人間にも、魔族にも届くような、明るい声で言い放つのだった。
「 最強の、女騎士二人が、初めて一緒に戦うんだからッ!! 」
「どりゃあああああーーーッ!!」
突進をするように距離を詰める、ドラク・ヴァイスレイン。突き出した拳は空を切り、地面を砕く。
ルーティアとリーシャは左右に散開し、その攻撃をかわしながら行動に移った。
「わたしから行くわよ!合わせて動いて!」
「了解!」
アイコンタクトとその短い言葉で通じ合う二人。
ドラクの左側面から、リーシャの剣撃が入る。上段からの素早い振り下ろしを見切り、腕に防御魔法を施し刃の触れた部分をガードするドラク。
しかし、次の瞬間には反対側からルーティアの下段から振り上げが迫る。
「ぬうッ!?」
リーシャをタックルで突き飛ばしつつ、その攻撃をかわすドラク。
しかしルーティアは止まらず、相手に迫るように剣を振り相手への距離を詰めていった。
「こざかしいッ!!」
「!!」
魔皇拳使いのドラクが、初めて放出系の魔法を放つ。右掌から放たれた光弾をルーティアは側転で避ける。
光の魔法は城壁にぶつかり、石造りの壁を壊した。どうやら城ごと壊す、という言葉ははったりではなくドラクの魔法であれば可能なようだ。
「やああッ!!」
「! なにぃッ!?」
ルーティアが回避行動をとり、距離をとったと思ったのも束の間。まるでタイミングを合わせたかのようにリーシャが再びドラクの上空に迫っていた。
タックルで吹き飛んだかと思いきやすぐに体勢を整え、距離を詰めながら跳躍。相手の顎に飛び膝蹴りをお見舞いする!
「ぐ……!!」
予想外の攻撃に、防御魔法が間に合わない!顎にクリーンヒットした膝に、ドラクの身体は後ろに揺らぐ。
しかし、これくらいで倒れる魔族の長ではない。後方に身体を倒しつつも右脚の蹴りを相手の横腹に放った。
「ッ!!」
しかし、リーシャはこれを肘と太股でガード。ダメージを最小限にしつつ、蹴りの衝撃はあえて身体を吹き飛ばされることで逃がす!
空中で何回転かしながらも、着地は両足でしっかりととり、すぐに剣を構える。
「こ……小娘ェェッ!」
「こっちだ、ドラク!!」
「!!」
思うように攻撃の入らないドラクに再びルーティアが迫る!
斬撃だけではなく、蹴りや突進……挙げ句の果てには頭突きまで加えた、無茶苦茶な攻撃をどんどんと相手に向けていく。
しかしそのどの攻撃も、相手が回避をしづらい位置を計算して入れるもの。ドラクは魔皇拳の魔力を溜めることができず、動きの小さい打撃技や防御行動しか行うことができない。
ルーティア・フォエル、リーシャ・アーレイン。二人の身体能力や騎士としての戦いの才能だけではない、そのコンビネーションはドラクだけではなく周りの人間と魔族を驚かせていた。
一心同体となり、息つく暇も相手に与えさせない連続攻撃。仲間と相手の心理を読み、攻撃パターンを数手先まで読んだ行動を、二人の騎士は完璧に行っていた。
しかしそれ以上にドラクを困惑させることがあった。
「ぐ、べぇッ!!」
下から突き上げられる、ルーティアの頭突きはドラクの顎に直撃し、思わず舌を噛んでしまう。
「ぐぼぉぉ!?」
首後ろに入る、リーシャの蹴り。延髄斬りとも呼ばれる技であったが、こんな技を今までドラクは見たことはなかった。
――そう。
騎士であるはずの二人が行う、剣に頼らず、見栄もプライドもない意外性を持つ攻撃の数々。そのパターンが、あまりにもドラクには、読めなすぎた。
「何故だ……!?お、お前達は…… 騎士ではないのか!?どうしてこんな戦い方ができる!?リーシャ、貴様も……先ほどとは戦い方がまるで……!!」
戦いながらの、ドラクの必死の叫びにリーシャはぷっ、と吹き出した。
先ほどまでの重荷を背負っていた自分自身が、なんだか可笑しくなってしまったからであろう。
「確かに、アンタには分からないでしょうね!格好つけて、戦いに誇りやら執念やら持ち出してるようなヤツにはッ!!」
「何故だぁぁッ!!何故お前達は、騎士としての誇りを持って戦わない!?二対一など、卑怯だと思わぬのか!?」
その言葉に、今度はルーティアが思わず笑ってしまう。
「ああ、卑怯だ!剣を捨て、二対一でこんな技を繰り出す私達に……もはや騎士としての誇りは、皆無だろうな!」
そういってルーティアが繰り出したのは、相手の鳩尾を狙い澄ました肘鉄。呼吸を奪われたドラクはその場に停止する。
剣はすでに地面に置きっぱなしになっており、二人の息の合った格闘術が次々とドラクに繰り出されている。
「ぐ、が……ぁ……!」
「何故ならば…この戦いに意味なんてないからよ。わたしもようやく気付いた……。紅蓮の骸だの、魔族としての戦いだの、執念だの…… そんなもん背負って身体重くしてる必要がないの!」
「な、ぜ、だ……。戦う理由なくして、強者には……ッ」
リーシャが腕組みをしてふんぞり返って言い放つ言葉が、ドラクには信じられなかった。
そして二人は相手と距離をとり、腕に取り付けた魔装石に手をかける。
「!!」
ドラクは、そのアイテムを理解していた。
この状況……ただでさえ相手の攻撃が読めなくて押されているこの戦いに、あんな反則アイテムを出されては……!!
それを止めるように右腕を前に出すドラクに、ルーティアは冷たく言う。
「ドラク。戦う理由など、この戦いに私達は持ち出していない。二対一で戦おうが、剣を捨てて戦おうが、なんだっていい。ルールを勝手に持ち出して戦うのは自由だが…… そんなことをしている暇は、私達にはないのだ」
「暇……だと……?どういう……どういうことだぁぁ……!!」
「私も、リーシャも…… お前達に構っている余裕などないということだ。こんな戦いはさっさと終わらせたいのだ」
「その通り。アンタ達が勝手に挑んできた戦いに付き合っている余裕なんて……わたし達には無い!わたし達は、ただ……」
そして、二人の女騎士は強く、明るい声で言った。
「「 早く休日を迎えたいだけだ!! 」」
「や……やめろおおおおお!!」
ドラクの言葉も虚しく、二人は腕輪の宝石を捻る。
一瞬でドラクの視界から消えるルーティアとリーシャ。
三十秒の効果時間も、必要ない。勝負は一瞬で決した。
もはや相手の攻撃方法を読むことが不可能となっている相手に、小細工は必要ない。
「あ……」
ルーティアは、首後ろへのハイキック。
リーシャは、跪いて腹部への肘鉄。
ほぼ同時に、相手の急所に放たれた二つの攻撃。
加速のついた強烈な二撃は完全に勢いを相殺し、衝撃を相手の体内へと送り……。
「ぐ……」
そしてドラク・ヴァイスレインは、膝から崩れ落ち、巨体を前のめりに地面に寝そべらせた。
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