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――


「はぁぁぁッ……!! 氷刃弾(アイシクルカッター)!!」


 レイピアの刀身が、俄に青く光ったかと思うとそこから氷の刃が出現する。

 風を切り、すさまじい速度で魔族の男目掛けて飛ぶその刃。右に、左に跳躍をして避ける魔族の男。その攻防が繰り広げられていた。


「ま……魔法剣?あの女の人、一体……」


 マグナの知る限り、オキト国にあんな氷魔法を使う女剣士は存在しない。まして、あそこまでの使い手であれば尚のことである。

 しかし、自分の目の前ではその女剣士が自分たちに加勢をしてくれている。その光景をしばらく眺めるしかないマグナ。


「貴様、何者だ!ここまでの魔法剣使いがオキトにいるなどと、聞いた事はないぞ!」


「ふふん!当然ですわ!ワタクシの魔法剣は……ッ」


 彼女のレイピアが、一層青く輝く。

 凍てつく冷気は周囲の気温までも下げ、彼女の足下の草木は凍り始める。


 優雅な笑みを浮かべながら、彼女はレイピアを薙ぎ払った。

 空を切ったその斬撃から…… 半月型の巨大な氷の刃が、相手に向けて放たれる!


 そして……イヴァーナ・ウォーレックは、叫んだ。



「 北の凍てつく大地により研ぎ澄まされた魔法剣なのですからッ!! 」



「うごおおおッ!!」


 巨大で、速い。


 魔族の男はその氷塊を避けきれないと判断し、魔力を纏った両腕で受け止める。

 そしてそれにより―― 男の動きが、止まった!



「―― 今ですわ!」


「……ッ!! でやあああ―――ッ!!」


 その声に、マグナ・マシュハートは奮い立つ。

 地面を駆け出し、傷を負ったとは思えないスピードで、相手の背後に回った。


「……!しま……ッ!」


 男が、巨大な氷塊を掴み上空に投げ捨てた時には、もう遅い。

 マグナは男の背後に回り込み…… 重く大きな剣の柄を、思い切り首後ろの頸椎に向けてたたき込んだ。


「!!!! あ、へ……」


 脳を揺らす、衝撃。

 鍛え上げられた魔族とはいえ、その男は為す術はなく―― その場にどさり、と倒れ込んだ。




「……まったく、何なのですかこの状況は。折角の長期休暇を使ってお姉様のところにサプライズ訪問をしようと思ったのに……」


 倒れた男には目もくれず、金髪の少女はキョロキョロと辺りを見回しながらマグナの元へ歩み寄ってきた。


「説明してもらいますわよっ、そこのオレンジ剣士!」


「へ……ぼ、ボクですか……?あ、あの……加勢をしていただいて本当にありが……」


「そんな事はどうでもいいですわっ!!この状況と、ワタクシのお姉様が何処にいるのか説明なさいッ!!」


「お、おねえ……??」


 状況が飲み込めず困惑するマグナに、その状況に怒るイヴ。

 横たわって気絶する紅蓮の骸の魔族達に、呆然とそれを見守るしかないその他の騎士と魔法使い達。



 

 そして、一方――。



――



「うわあああッ!!」

「ひ、ひぃぃぃっ!!」


 別の場所では、先ほどまで人間側を圧倒していた魔族数人が…… 逃げ惑っていた。

 その『牙』と『爪』から必死に防御をしようと、頭を押さえながら姿勢を低くして分散して走り続ける。


 ――しかし、その獣から、逃れる事はできない。

 白く美しい体毛を靡かせながら、風のように舞い、跳躍する。

 一人の魔族の逃走ルートに先回りし、前足を低くして飛びかかろうとする獣に対し…… 魔族はヤケになったように両手に魔力を溜め始めた。


「こ、このクソ犬があああーーーッ!!」



 「…… 命は、奪わないで。…… さあ、行って―― フェンリル!!」



 か細くも、力強い少女の声に、白き獣は反応する。

 魔皇拳の右ストレート、左ストレートを針で糸を縫うように回避しながら、フェンリルは突進し……。

 大きく、頑丈なその頭で、相手の顔面目掛けて頭突きをお見舞いした。


「あびゅ!!」


 地面に倒れ込み、気絶をする魔族。


 フェンリルはそのまま素早く、自分の主である少女の元へと駆けて行き、再び周囲を警戒した。

 獣と似た髪色の少女は、薄く微笑んでフェンリルの頭を撫でた。


「……ありがとう、フェンリル。もう少し、頑張ってね」


「ウォン!!」


 その少女…… シェーラ・メルフォードの声に、フェンリルは呼応するように吠えた。




「あれは……召喚術。噂には聞いていましたが……」


 先ほどまで、一人で魔族側と戦闘を繰り広げていたクルシュ。

 魔力を相当使ったのであろう、額の汗を拭い息を整えながら、視界に映る神獣を見つめている。


「フォッカウィドー国から援軍とは……。国王から依頼が?しかし……いつ行われたのですか?」


 クルシュの疑問に、シェーラは首を横に振る。


「ううん。ワタシ達は、お休みに旅行に来ただけなんだけれど…… なんだか、ピンチっぽかったから」


「……それは、なんとも申し訳なかったのです」


「どういたしまして」


 拍子抜けをするような回答に、クルシュは苦笑した。


 巨大な狼の獣を従える少女。

 先ほどまで数人の魔族相手に善戦をしていた魔法使いの少年。


 その二人が談笑をしている様子に、残り数人の魔族は攻めあぐねていた。


「あ、相手はガキ二人だぞ。なにビビってるんだよ……!」

「で、でもよ……あのバカでかい狼は……」

「あの男のほうだって、さっきまでとんでもない魔法を……!」


 自分たちより一回りも二回りも小さな相手。だが、その二人の実力は――。



「……クルシュ・マシュハートと申します。もう少しだけ、召喚術のお力をお借りしてよろしいでしょうか?」


「……ワタシは、シェーラ・メルフォード。いいよ。がんばれるよね?フェンリル」


「ウオオンッ!!」



 そして少年と少女と神の獣は、魔族達の方を見据える。

 杖に魔力の光を、手に魔力のオーラを宿し…… 爪と牙を太陽の光に光らせて。



「「「ひ…… ひいいいいっ!!」」」


 魔族達の絶叫が、青空に響いた。



――



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