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【完結】最強の女騎士さんは、休みの日の過ごし方を知りたい。  作者: ろうでい
十一話 煌めく宝物《リユースショップ》
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(4)

――


 翌日。

 ルーティアとマリルの目の前には、巨大な四角形の店舗があった。

 正面にはガラス張りの大きな入り口と、その上に巨大な看板がそびえ立つ市街地より少し離れた店。看板には大きく『リサイクルストア』の文字が掲げてあった。


「……お、大きいな……!」


 それは、ルーティアが今まで見てきたどの店より広く大きな印象があった。巨大な白い壁で形成された、巨大な四角の店舗が二人の目の前に巨大に存在する。


「リユースショップ。看板の通り、リサイクルストアという名前を使う場合もあるわ。買うだけではなく、お客さんが『売る』事によって商品を仕入れ販売する事が可能なこの店の中には、この国のあらゆる物品が流通していると言っても過言ではない……ある意味、貿易都市のようなお店ね」


「……流れを忘れてしまったのだが、どうして今回はこの店に来る事になったんだっけ?」


 得意顔で説明をするマリルの隣で、ルーティアは腕組みをしてここに来る事になった経緯を思い出そうとしていた。


「ルーちゃん、色々探しているものがあるんでしょ?新しいジャージとか運動靴とか、本棚とか」


「……ああ、そういえば……」


 使い込んでボロボロになった運動靴の替えや、最近クルシュの影響で集め始めた漫画の置き場など、必要なものが増えてきたルーティア。どこか安く仕入れられる場所がないか、とマリルに質問をしたところ、ここへ来る流れとなった。


「ここに集まってくるのは、全てが誰かがこの店に売ったもの。だから新品のものより品質は落ちるかもしれないけれど、その分新品より売値が安いのがなによりのメリット。加えて、このお店にあるのは全てがお客さんが『売ったもの』なの。だから、仕入れ先が決まっているわけではない『一点物』が集まるお店と言っていいわね」


「一点物か……なるほど」


「お店の中に入れば分かるかもしれないけれど、棚に並んでいる商品に統一性がないのがなによりも楽しいのよねー♪例えば洋服なら、メーカーやブランドが決まっていない白いシャツがずらーっと並んでいたりするのがいいのよ」


「ああ、それは確かに……私向きかもしれないな」


 気に入ったブランドがないルーティアにとっては、服は『どこが作ったか』より『何色か』や『素材は何か』で選ぶ事が多い。普通のアパレルショップとは全く違う展示の仕方をしている、というのは確かに便利かもしれない、と期待が高まってきた。もっとも、彼女の選ぶのはほとんどが運動着になるのだが。


「まあ、入り口で説明していてもキリがないわ。早速お店の中に入ってみよう!」


「うむ、そうだな!行ってみよう!」


 目の先に見えているのは、窓ガラスの奥に見える商品の数々。食器、洋服、玩具……どれもカラフルで、しかも見た事のないくらい大量の品々。それが大きな店舗の中にずらっと並んでいる光景は今から入るのが楽しみになる。


 マリルとルーティアは、そのワクワクした気持ちを胸に抱えて店への一歩を――。


「え」


「あれ?」


「む……?」


「?」



店の入り口に向かうのは、四人の影。


ルーティアと、マリル。そして……。


魔族の男と、小さな耳の尖った女の子だった。


「お前は…… き、昨日の……!?」


「き、貴様は昨日の、女騎士……!?」


それは、昨日の夜に出会った魔族の男―― ランディル・バロウリーと。

そのランディルが手をつないでいる、十歳くらいの一人の魔族の女の子の姿だった。



そして、その魔族の女の子はルーティアとマリルを見て、言う。


「あの…… パパの、お知り合いですか?」


 パパ。

 その言葉に、ルーティアとマリルは、硬直した。


――


「そんな事があったんですね……。道理で昨日、パパの帰りが遅いと思ったらそんな事をしていたのだなんて……」


明るいBGMが流れる、リユースショップの店内。

色とりどりの衣服や雑貨品が立ち並ぶ中を歩きながら話す四人は、今のところ商品を目にしている余裕はない。現状の理解をしようと全員が必死になっているからだ。

『父』と同じく白銀の、ふわりとしたロングヘアの少女。その髪をかき分けるように生えた二本の角と尖った耳は、少女が魔族である事、そして紛れもないランディルの娘だという事を証明していた。

少女は、自分の隣を歩く父親……ランディルの方をキッ、と睨んだ。


「もう、パパッ!酒場の人たちに迷惑をかけただけじゃなくて、騎士団の人にもご迷惑をかけただなんて!ママも私も、全然聞いてないよ!?」


「あ、いや、その……」


娘に怒られたランディルに、昨日の威圧感は全くない。肩をしゅん、と落として目を泳がせ、落ち着かない様子で娘の隣を歩いている。


「……あの……パパは、その……逮捕されたり、するのでしょうか?」


不安そうに見つめる視線に、ルーティアは安心をさせるような笑顔を返して首を横に振る。


「そのつもりなら、とっくにしている。昨日の一件でそこの男…… 君のパパが気絶させていたのは、全て国が指名手配をしていた極悪人ばかりだった。加えて、取り押さえようとしていた騎士団員にも傷は負わせないようにしていたし…… 今回の件は、特例で不問となるだろう。むしろ国王が感謝していたくらいだ、あとで城の方に顔を出してもらえると助かる」


「……良かった……」


少女はホッ、と胸を撫で下ろして、先ほどのルーティアと同じように安堵の笑みをこぼした。


「あの、私……サラ・バロウリーといいます。十歳で、城下町の学校に通っています。今回の件、本当にご迷惑をおかけしました、ルーティアさん」


「いや、そんな……。むしろ現場の状況をきちんと把握していなかった騎士団の落ち度もある。娘である君に頭を下げられる事はない。むしろ父上には感謝している部分もあるんだ」


十歳にしてはあまりにも礼儀正しい少女の振るまいに、ルーティアは困惑している。


その一方で、マリルとランディルはそこから少し離れてひそひそと会話をしていた。


「ランディルさん。昨日の一件、酒場のゴロツキは凶悪犯だと狙って気絶させたんですか?それとも、偶然?」


「……ふん。どうだかな。ただ、あちこちに貼られているポスターに似た顔が多いと思っただけだ」


「なるほどなるほど。騎士団の女の子を吹き飛ばしたそうですけれど、カスリ傷の一つも負っていなかったそうです。あれは防御魔法を施したという解釈でよろしいですか?」


「俺様の魔力をもってすれば造作もない事だ。騎士団とはいえ、怪我をさせたのでは後味が悪いからな」


「……ふふふ。案外お優しいパパなんですね」


「ぐ」


口元を押さえて笑みを浮かべるマリルに、顔を赤くするランディル。

そのランディルの耳を、娘のサラがつかつかと歩み寄ってきて引っ張った。


「いでででででで!!」


「ほら、パパ!誤解も解けたところで、騎士団の方にしっかりと謝って!こちら、王国一の騎士のルーティア様なんだよ!?こんな英雄にご迷惑をかけるなんて……!」


「あ、いや、べつに……」


ランディルの耳を抓って怒る少女の姿に、ただただオロオロするしかないルーティアであった。


「……このたびは、酒に酔っていた事もありつい騒動を起こしてしまい騎士団並びに関係者の方に多大なる迷惑をおかけしました。誠に申し訳ありませんでした」


娘の手前だからだろうか。変に格好をつける事はせず頭を下げるランディル。


「……あ、ああ……こちらこそ。さっきも言ったが国からは特にお咎めはないから、事態の説明に後でオキト城へ来るように……いいだろうか?」


「……分かりました……」


ランディルの態度をジッ、と監視していたサラも満足そうに頷いた。



「しかし驚いたなー。昨日ルーちゃんと戦った人に子ども……しかもこんな美人でしっかりした娘さんがいただなんて」


二人の顔を見比べるマリルの様子を見て、サラは顔を赤くした。


「び、美人だなんて、そんな……。私には勿体ない言葉です」


「うーむ、十歳とは思えぬ淑やかさ。見習って欲しい人も多いなぁ……アタシ含めて」


今までに出会った事のない可憐な少女の仕草を見て感心をする二十代のマリルであった。ルーティアもその意見に同意見のようでうんうん、と頷いている。


「改めてよろしくね、サラちゃん。王国魔術団のマリルよ」


「よろしくお願いします!王国魔術団、私の憧れなんです!」


キラキラと目を輝かせるサラと、にこやかに握手をするマリル。


「大陸でも指折りの魔法の使い手が集まっているオキト魔術団……!私、いつか魔法大学を出て魔術団に入団するのが夢なんです!マリルさんのように凄腕の魔法使いになれるように、私頑張ります!」


「え……。あ、アタシが、凄腕……」


「王国騎士団のエース、ルーティア様と一緒にお出かけをなさっている方だからきっとスゴイ魔法使いさんなんですよね!?いつかマリルさんの魔法を見てみたいですっ!!」


「……。ど、どうかなー……あ、アタシも忙しくて、なかなか、ねぇ……あはははははは」


 また一人、マリルの嘘が浸透してしまった人物が増えてしまったのである。


――


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