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当日③


ギルバートがローブを脱ぎ近付いてくる。きらっきら、いやむしろギラッギラの金髪が目に痛いほど眩しい。ロイは初めて会った時からギルバートのことが苦手だった。自分とあまりに遠いからだ。白い歯をきらめかせながらギルバートは言う。


「久しぶりだな、ロイ。」


男らしい低く甘い声。近くにいる令嬢からうっとりとした目線が注がれる。

その視線に気づいているのかいないのか、ギルバートから感じるのは自信と勝者のオーラ。自分たちの企みはバレていないのだろう。驚いている芝居を続ける。


「ギルバート…!?お前は、療養してたはず…王位継承権も無くなったはずだ!!」

「お蔭さまで完治したよ。継承権も戻った。お前なら、アナスタシアを任せても良いと思った。彼女となら立派な王になれると思った。こんなに愚かだったとは…残念だよ。」

「くっ…!」


ロイはギルバートの予想の斜め上の言葉に、素が出そうになり慌てて顔を伏せる。エミリローズとユーリもその言葉に驚いたらしく、一瞬芝居を忘れきょとんとした顔をした。ロイは、2人にギルバートがどんな人物が説明してあるのだ。


『ギルバート殿下は、他国で療養されているとお聞きしました。お体は大丈夫なのでしょうか?』

『確かに心配です!今はどのような状況なのですか?』

『全くもって大丈夫ですよ。あと、最初私は他国で療養と言いましたが…実は病気ではないんです。』

『…詳しくお聞きしても?』

『かなりお聞き苦しい王家の…いや、血縁の恥です。お2人は不用意に他人へ話したりしないでしょう、信頼してお話します。』

『…その信頼に応えます…!』

『あたしもちゃんと黙ってます!』


そしてロイは語り始める。


『ギルバートは、相手がいる方ばかりに手を出す超恋愛体質なんです。』

『はい?』

『んん?』

『更に言うなら、病的なほど相手に固執します。四六時中付き纏い、実際相手の心が病んでしまったこともあります。』

『…え…ギルバート殿下……え!?』

『…相手…病む……ん?…すみません、まだ理解が追いついてきません…!』

『ギルバートは、幼い頃から女性が大好きだったそうです。常に恋をし恋をしていない自分は自分じゃないと豪語。恋心を抱くのは、決まって人妻や婚約者がいる女性。しかも“僕と共に過ごせないなんて可哀想な方だ!僕の方が家柄も顔も良くて幸せにするのに!”という身勝手な確信を持って近づきます。幸せにする、の言葉通り女性をお姫様のように大事にしますが、父親や兄弟と話すのすら嫉妬します。自分の手の中に入れておきたいのです。そんなギルバートに靡く女性もいたのが、彼をより増長させたのですね…。ヤツが16歳の時、私が引っ張り出される原因となった事件が起きたのです。』

『ひ…ひえ…!』

『うわー!!聞きたくないけどやっぱり聞きたい!!続きをお願いします!!』


ユーリは引きながらも耳は傾けている。エミリローズは一周まわって興味しんしんなようだ。


『ギルバートは、父の側室に手を出そうとしたんです。』

『わーーーーー!!!!』

『ぎゃーーーー!!!!』

『まだ父が渡る前に、そうとは知らず口説いたそうです。父もたくさんの側室や愛人がいますが、血は争えないのか嫉妬深くてですね。それで他国へ療養という名目で、王宮から追いやった訳です。ギルバートの行った先は男しかいない軍事学校でした。そこで反省させようという目論見です。』

『想像以上の話が出て来ました…』

『貴族ってそんなに爛れてるんですかユーリさん!?』

『俺に見解を求めないでください!!』

『まあまあ。でもこれは、私たちにとって良いことでもあるんです。』

『ええ…良い点があったでしょうか?』

『…あ!もしかして!』

『エミリローズさん、そうです。しかもアナスタシア嬢はギルバートの容姿や身分を気にいってます。』

『あ、そういうことですか!』

『ユーリさんも気付かれましたね!』

『不遇な美しき元婚約者で現弟の婚約者。私からは彼女の相談という名の幼い愚痴。恋をしたいのに女性は周囲に誰一人いない。』


ロイがにっこりと笑う。


『全ては私たちに味方しています。』


ここはロイとユーリの仕事だ。ロイはギルバートに「アナスタシアは美しいがワガママ」「私を愛さない」「私には相応しくない」「多少見た目が良かろうとあんなやつと共に過ごせない」といった内容の手紙をこまめに送った。他にも自分の愚かさが滲むようなエピソードも挟む。これでギルバートは、元婚約者アナスタシアが駄目男ロイに全く大事にされてない、可哀想な不遇の美しき令嬢だと思うだろう。

ユーリはそれとなくギルバートの話題を出し、アナスタシアの興味をひく。見た目の良さや国へ戻ってきたら継承権も復活することも。アナスタシアがギルバートの容姿を気に入ってたのは覚えていたし、妃教育は手抜きがちと言えど王妃になりたいのは事実。ユーリの薦めでアナスタシアがユーリの名でギルバートに手紙を出せば、後は勝手に進んで行った。

お互いに見たい所しか見ていない、似た者同士の恋。だが相手を気に入っているのは事実なので、ロイと結婚するより幸せになるだろうしそれなりには上手くいくだろうと踏んでいる。


ギルバートは療養という名目で3年間きっちりと軍事学校で勉強し無事卒業。女っ気が無いため女性関係のトラブルが起きるはずもなく、更には首席だったため、国に戻れることになった。帰国出来る根回しはロイがこっそりしていたのだが。唯一接点のあった女性であるアナスタシアに、ギルバートはぞっこんだ。

今回の婚約破棄はユーリからギルバートに伝え、アナスタシアを救うヒーローとして登場して欲しいと話もつけてある。


「ロイにエミリローズ嬢…君たちには相応の罰を受けてもらわねばならない。」

「何だと!?私は王子だぞ!」

「その考えと態度を改めろ!!だからこんなことになったんだろう…?これ以上、アナスタシアの前で我が家の恥をかかせるな!!既に陛下から、お前たちの罰を与える許可をもらっている。」


この根回しもロイが準備した。ギルダン侯爵に陛下との段取りをつけてもらい、ギルバートに伝える。侯爵を通してギルバートはロイの掌の上なのだ。


「嘘だ嘘だ嘘だ!!父上がそんなことを言うはずない!!!嫌だ!!!」

「私だって弟に罰を与えるのは辛い!だがアナスタシアはそれ以上に辛い思いをした!国のためにもアナスタシアのためにも、これ以上口を開くな!!」


ここまできたら、ロイの仕事はほとんど無い。エミリローズは芝居を続けつつこの場を楽しんでいる。あとはユーリにかかっている。

ギルバートの叱責で会場が静まりきった後、一拍置き、注目が集まる完璧なタイミングでユーリが口を開いた。


「……恐れながらギルバート様、この様な償いはどうでしょう?」


凄絶な程美しい笑みを浮かべて言う。他者からは恐ろしく見えるだろうが、ロイとエミリローズは『自分の一番美しい笑顔をしてください。もう3mm口角を上げましょう。』『ユーリさんなら出来ます!頑張って!!』『ユーリさん、あなた鏡で自分の顔見たことありますか?容姿を使いこなしましょう。睫毛の先まで意識して。』『やれるやれる!自分を信じて!!魂燃やして!!!』という特訓の成果が出てることに静かに感動していた。あの時のユーリは『人生で使ったことない筋肉使ってます!』と半泣きになりながら練習していた。


「先程、お2人は既に罰の提案をされております。それをそのまま与えれば宜しいのでは?」


その言葉に、アナスタシアが満足気に微笑んだ。


「私はそれで充分ですわ。」


ロイとエミリローズは血の気を失った。

…ように見えるようロイが魔法を使った。エミリローズはロイにそっと目配せして感謝を伝える。流石の女優も大願成就を前にして、器用な芝居は無理だったようだ。

顔色を失うこの魔法は、仮病を使いたい学生がよく使う。こんな場でイタズラのような魔法を使うとは誰も思うまい。

思い通りに事が進んだ叫び出したいほどの喜び!!だがここで3人でガッツポーズやハイタッチや互いの努力を労いあったら、努力は水の泡だ。まだ芝居は終わっていないと、改めて気を引きしめる。


「私に相応しい罰だとお2人はおっしゃってましたわ。優しいお2人が私のために考えた罰ですもの、厳しい罰を与えるのは心苦しいので丁度良かったですわ。」

「…君は本当に良いのか?」

「とても笑える喜劇を観せていただきました。愚かで可哀想で…。私傷付いてなんかおりません。私たちの間に真実の愛はなかったですし…ふふふ、愉快な見世物のお礼ですわ。」

「よし。ロイは黒森へ送り、エミリローズは修道院へ!それが罰だ。…連れて行け。」


ギルバートの声に、歓喜で体が震えそうになる。喜んでいるのがバレないように、飛び上がりたいほどの気持ち を押し込める。

そして、ロイはユーリに、エミリローズは騎士に広間から連れ出された。


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