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当日①


ロイとエミリローズは談笑するフリをしながら、こっそりとユーリに目線を送っていた。ユーリは2人を見てそっと頷く。今のところはとても上手くいっている。三年間の努力はこの一夜にかかっているのだ。


エミリローズをエスコートしてロイは会場入りした。アナスタシアはユーリから申し出てエスコートしている。使用人のユーリなぞがと最初はアナスタシアに鼻で笑われ拒否されたが、頼み込み膝まづきエスコート権を得た。一部の令嬢たちが、ユーリに恋心や憧れを持っているのを知ったからである。一夜限りのエスコートなら我慢しましょう、と優雅にかつ高慢に笑った。


ファーストダンスも既に終え、広間は和やかに盛り上がっている。

勿論ロイはエミリローズのみと踊り、後はいちゃつくフリをしている。そんな2人を他の生徒や教員は、時に好奇心に満ちて時に馬鹿にしたように見ている。計画通りだ。

アナスタシアはユーリと踊り、今は取り巻きの貴族令息と話している。ユーリは令嬢達の熱視線に負け順番にダンスをしていた。


「ユーリさんはモテますね。」

「ええ。博識でなんでも出来て容姿淡麗ですからね。女性が放っておかないでしょう。」

「ふふ、あたしはダンが1番ですけど!それにしても、彼女たちだって婚約者がいるでしょうに。」

「アナスタシア嬢に鼻の下伸ばしてる彼らですよ。」

「お似合いでした。」


こそこそと近い距離で話す。傍から見ると甘ったるい愛の言葉を囁きあってるように見えるが、内容としては世間話やこの後の計画の確認である。


「そろそろですね。」

「は〜…緊張します。」

「私たちは出来ます。この3年間は裏切りません。」

「そうですね。よし、待っててねダン!」

「行きましょう。」

「はい!」


エミリローズがロイの腕に絡みつく。それを合図に、ロイが叫ぶ。


「アナスタシア・ハーフィル嬢!私はここにお前との婚約破棄を宣言する!」


連日の稽古通り、少し裏返った震える声で叫ぶ。決して低く通るような声ではいけない。情けないくらいがちょうど良い。第一声の印象は大事だ。この場でのロイという人間を“どう思わせたいか”が始まる。

肌も顔色が悪くなるよう化粧をしてきた。この為に成績も上げないようミスを織り交ぜ、3年間目立たないようにしてきたのだ。周囲は頼りない第二王子が血迷い事を言い出したと思うはず。


「婚約破棄、ですか。」


落ち着いた様子でアナスタシアが返す。ユーリの仕込みも上々だ。ロイが婚約破棄を言い出すことをアナスタシアにきちんと“伝えている”。

アナスタシアのドレスは、青に金糸の刺繍が入った豪華なものだ。ロイの色に合わせているようで、その実ギルバートから送られているドレスだ。ギルバートも想像通り動いてくれているようで、にやつきそうになる頬に力を込める。


「私は真実の愛を見付けたのだ。お前のような女と将来を共に出来ぬ。」

「……ロイ殿下、貴方に王位継承権があるのは私と婚約していたからですわ。そのことは分かっておられるのですよね?」


ロイは以前、ユーリに確認している。


『アナスタシア嬢は、王家の婚約目的や条件が分かっていますか?』

『…私は美しいから、あの弁えない男が恋焦がれても仕方ないですわ、と。』

『しっっっっっかり伝えて覚えさせてくださいね!?』

『善処します。』

『確約できませんか!?』

『最悪俺の腹話術が火を吹きます。』


不安になったのは言うまでもない。


「何を言っている!わ、た、し、が!王位を継ぐのだ!お前など関係ない!」

「国王様の許可はございますか?」

「父上は私の気持ちを尊重してくださるだろう!エミーのことを知ればお前はどちらにしろ婚約破棄だ!」

「ご存知ないのですね?」

「多少順番が入れ替わるだけだ!!!」

「何も後ろ盾の無い彼女が、王家に嫁げるとお思いで?」

「そんなの…!!そうだ!!どこか別の貴族の養子にすれば良いだけだ!!」


ユーリよくぞやった!!と労いたくなる。アナスタシアは美しくマナーもダンスもきっちりしているが、学ぶことが大嫌いで知識のある人間を侍らせれば良いと考えているのだ。ここまで覚えさせたユーリの努力はどれだけのものか。

周囲の人間もこちらを面白そうに見て小声で話している。耳に入るのは『なんて考え無しの方だ。』『アナスタシア様がお可哀想。』『頭が悪いと思ってたがここまでとは』『あの方に継承権があるなんて…!』

……最高だ!どんどん評価よ地へ落ちろ!!


その声を聞いたエミリローズも、大げさに身を震わせながら叫ぶ。


「アナスタシアさん!ロイに愛されなかったからって、何でそんなイジワルを言うの?見苦しいわ、悲しいわ…!…ねえロイ、私をお妃様にしてくれるんでしょ?」

「勿論だエミー。優しく愛らしい君こそが国母にふさわしい。エミーをいじめていたようなあいつが妃になるなんて、この国の為にならないよ!」

「きゃあ!ロイ!大好き!」

「私も君を愛している。そうだ!君と結婚した時には、君の巨大な像を作ろう!きっと国中が喜ぶだろう!」


今回の芝居の演出はロイだ。とにかくロイ自身は間抜けに、エミリローズは馬鹿に見えるよう心がけている。

いざ稽古を始めたら、エミリローズのぶりっ子芝居は神がかっていた。ノリノリで『もっと体くねくねした方が馬鹿っぽくないですか?』『鼻にかかった声でかつみんなに聞こえるように発声します!その方が馬鹿に見えそうなんで!』と非常に積極的な姿勢を見せている。『そっちが素でしたか。』と冗談を言ったユーリが本気でどつかれていた。

ロイがエミリローズの手を包み、エミリローズは頬を染めて身をくねらせる。息のあったコンビネーションだ。お互いしか見えてないように見せつつ、周囲の人間とアナスタシアの視線を意識する。ほおら喜劇ですよー!と全力のアピールだ。


「真実の愛を見つけたとは素晴らしいですわ。……愛には、勝てませんもの。ロイ殿下のお心を満たせなかった私に落ち度があります。婚約破棄、お受けしましょう……。」


アナスタシア側はユーリが芝居指導をしている。婚約破棄をするロイに然るべき報いを受けさせる、という絵図を書いているはずだ。

扇子の使い方と涙の流し方が絶妙だ!顔を隠す動作によって逆に視線を集め、隠された涙に周囲がため息をつく。みなアナスタシアに同情的だ。良い進行である。

ユーリを盗み見るとややドヤ顔をしていた。『どうだ上手く仕込みましたよ!』と言わんばかりだ。


「ようやく自分の行いが分かったか!!……よし、お前はエミーを虐めた罰として、魔族が住むとされる黒森に送ってやろう。そこで反省するが良い。まあ、長い時間を過ごせるほど生きていられるかは分からないがな!」


ロイにとってこの台詞は山場だ。憧れの黒森へ送られるかどうかが、ここの印象で決まる。昔は興味が無い振りだけだが、3人で計画を立てたあの日から加えて黒森を忌み嫌うフリをし続けていた。「本当は大好き!今すぐ向かわせて欲しい!」という言葉を飲み込んで「あんな場所には近づきたくもない。死ぬ方が100倍マシだ。」と血の涙を心で流しながら言ってきた。なんなら「黒森に送ってやろう。」はロイが言われたい言葉18年連続ナンバーワンである。


「素敵!とても良い考えだわ!……でも、さすがにそれはアナスタシアさんが可哀想…。あ、修道院に入っていただくのはどうかしら!神のみもとで慎ましい助け合う生活をすれば、彼女もきっと思いやりの心を持てるわ。」


エミリローズも負けじと言う。いちいち馬鹿に聞こえるので、ロイは内心スタンディングオベーションだ。

この台詞は、「浪費が激しく社交界に生きる貴族令嬢が最も苦痛なこと」を3人で考えて決めた。修道院に入れば、その生涯を清貧で過ごすことになる。神に尽くし、周囲に尽くし、思いやりと慈しみの心を財産とするのだ。アナスタシア嬢の逆ですねと、さすがにロイも疲れたユーリの前では言えなかった。


「ああ!エミー!!君はなんて優しい人なんだ!!」

「そんなことないわロイ!」


アナスタシアの様子を伺いながら、2人で隙を作る。今、アナスタシアから見るとロイとエミリローズは勝利したと思っているように見えるだろう。ここだ!ここで反撃しろ!と内心で祈る。


「……さて、もう良いかしら?」

「…何?」


心の声が届いたかと思った。完璧なタイミングでアナスタシアが返したのだ。ユーリが小さくガッツポーズしているのが目に入って笑いそうになる。


「婚約破棄もお互いの了承があることですし、私も言いたいことを言わせていただきすわ。」


ここからはさらに盛り上がる第二幕だ。



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