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序章-瀕死の船

初投稿です。よろしくお願いします。

作品はすでにラストまで書き上がっています。手直しを加えつつ連載していくつもりです。

お気に召して頂けるかはともかく、途中で尻切れにはしませんので、その点はご安心ください。

週1~2回は更新できるように努力します。

巨大な船体が、金属の軋みを上げながら、揺さぶられる。

 窓の外は冷たい鉛色の雲が覆い、強風が操舵室の窓を叩く。


1918年8月6日早朝

スコットランド・エディンバラ東方沖約500km 北海洋上 高度2,000m


 ドイツ海軍L57号、全長198mの軍用飛行船は、今、絶望的な状況にあった。

 

 昨夜実施されたロンドン爆撃は失敗した。

 飛行船隊の接近は察知され、戦闘機が待ち伏せていた。6隻の船隊は散り散りになり、最新最速を誇る船隊の旗艦L70号も、戦闘機の機銃弾を受け、一瞬で炎上した。

 L57号を上回る巨体が、炎を振りまき、支えきれなくなった自重で船体を歪ませながら落ちていく。


 混乱する戦場で、L57号は辛うじて迎撃をかわして、北海へと脱出した。

 折からの強風に助けられ、戦闘機は振り切ったものの、かなり北へと流されていた。母国ドイツへ戻るには強風に逆らって再び南下し、イギリスの防空圏を突破しなくてはならない。

 

 操舵室は重苦しい沈黙に包まれていた。


「メル様、船に損傷はありませんが、機関室の報告では、あと6時間以内に燃料が尽きるそうです」

 少し目を伏せた少女が、隣に立つ少女に声をかける。

 敵機を振り切るために行った高高度での全速飛行が、予想以上に燃料を消費していた。

 被弾時の引火に備えて、燃料ガスの搭載量を減らしていたことも裏目に出た。

 脱出を助けてくれた強風は、帰還しようとする彼女らの敵へと変わっていた。


「ありがとう、エリス・・・もう戻るのは難しいわね・・・」

 諦めとも後悔ともつかない表情を浮かべ、メルと呼ばれた少女は答えた。

 

 メルフィリナ・ルイーゼ・フォン・ツェッペリン。それが彼女の名前。


 硬式飛行船の父と呼ばれた、フェルディナンド・フォン・ツェッペリン伯爵の孫娘。

 今年18歳の伯爵令嬢が身を包むのは、華やかなドレスではなく、ネイビーブルーのダブルのジャケットに同色のズボン、防寒用に羽織ったダークグレーのウールコートという軍服だった。

 ドイツ海軍大尉、飛行船L57号船長、それが今の彼女の肩書だった。


「ごめんなさい。みんな・・・」

 ポツリとつぶやく。

 巻き添えにしてしまったクルーに申し訳なくて、目の奥が熱くなった。

 残りの燃料では、もはやドイツに戻ることは不可能だ。

 最寄りの陸地を目指して不時着するか、北海の藻屑と消えるか、どちらにせよ、クルーが犠牲になることは避けられない。


「メル、この船とみんなを助けたい?」

 操舵室の奥、壁際でじっと様子を見ていた少女が、ポツリと言った。

「助かる方法があるの?」

「ある。ただし、もう戻ることはできない」

「それは・・・」

 メルは操舵室を見回した。

 舵輪を握る操舵手、デスクの前の航法士、計器盤のスイッチを操作する機関士、傍に控えるエリス、操舵室だけではない、この船のクルー全員がメルとさほど変わらない年頃の娘たち。

 ここまでメルと一緒に過ごしてきた仲間だった。みんな、不安げな表情でメルを見つめていた。


「わかった。アルム、どうすればいいの?」

「・・・メル、私の世界へ行こう」

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