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ヘンリー引鉄と弾丸の魔術師学校の授業は3種類。
「こんにちはー! 初めまして。私はミア・スイートマン。ミアって呼んでね」
まずは学年全体的単位での授業。
ここではでっかいホールに50人全員をぶち込み、ふつーーーにこの国の歴史とか文化、体育とかもする。
体育! 体育だって! 何年ぶり!?
パンフレットとかでしか見たことないけど、大学の授業みたいな雰囲気だ。
そんな中で3ヶ月も遅れて入学した私。
学年全体での最初の授業でそう挨拶したところ、見事に誰も反応してくれなかった。
生徒の中にはルカもいたけど完全に無視。
まぁそういうのはどうでもいい。
中々受け入れてもらえないことはわかってたし。
ていうか、もーーーーひっさしぶりに制服とか着たんだよね私!
お店でハロウィンとかのイベントの時は制服を着ることがあったけど、中学生以来の制服。
できるだけ可愛く着たい! と思ってバッチリとアレンジしたこともダメだったのかもしれない。
女子はリボンをつけないといけないのにネクタイアレンジに変えたことがダメだった? スカートの丈変えたこと? 後悔はしてないけど!
だって学生生活は可愛く過ごしたいし!
(それにルカも真っ黒な謎のローブ着てるしね)
よくわかんないけど、あの子は黒色好きだなぁ。
あの子が私のお客さんなら誕生日やクリスマスのプレゼント、選びやすそう。
黒色渡しときゃいいんだもんね。
「えーーー……それでは弾丸という魔法について説明を行います。これは何度もいっておりますが、魔力には人それぞれ限度があります。強いトリガーであってもそう。魔力の限界値は生まれつきのものであり、増えることも減ることもありません」
そして引鉄魔術師と弾丸魔術師に分かれた授業。
これは1年生の間だけ。
前にもいったけどこの世界での魔法っていうのは個性の進化系みたいなもの。
だから個々で全然違うので、それに合わせた授業をするらしい。
ちなみにバレットでは基本的に座学。
これは寮のランクに分かれて授業が行われる。
私はA寮で唯一のバレットなので、B寮のバレットと一緒に学ばせてもらうことになった。
A寮は20人いるけど、B寮は40人らしい。
そのうち、バレットは15人。
ここから下のC寮、D寮、E寮となるにつれてバレットの割合は増えていくらしい。
「弾丸魔術師も引鉄魔術師もお互いがいなければ魔法を使うことができません。ただしバレットが持つ魔力は限られておりますし、トリガーが魔法を発動すればするほどにバレットの魔力は消費されます。そして一定の時間が経たねば魔力は復活しません」
教師はどこか気怠げに説明してる。
ふんふん、なるほどね!
私は羊皮紙に授業内容を書き写していた。
ちなみに私の座席は教団の真ん前。
ずっと通いたかった学校だし、絶対に1秒たりとも無駄にしたくない!!
「戦いの最中に弾丸不足が起こってしまうことが最も恐れること。しかしバレットがいすぎても戦力にはなりません。魔力切れを起こした際に、いかに素早く、トリガーに迷惑をかけないように他のバレットと交代できるかが弾丸魔術師として最高の見せ所です」
ということで体力をつけましょう。
といって授業は早々に終わった。
あとは自主練習で体力をつけろ、ってことらしい。
「うーーんジョギングでもしようかなーー」
前世ではジムに通って毎週走ったり泳いだりしてたんだけどね。
私は次の授業に向かうため渡り廊下を歩きながら、独り言をいった。
しかし本当にこの世界で弾丸魔術師の地位は低い。
引鉄魔術師がいなければお前らなんて生きる価値がない。
そう思ってる魔法使いはいくらでもいるし、バレットの中でもそういう意識は根強い。
渡り廊下からふと運動場を見ると引鉄魔術師達が魔法を発動してる。
2年生になるとバレットだけの授業はなくなって合同授業となる。
学年問わずに寮ごとで、トリガーとバレットが魔法を磨くのだ。
「トリガーがいないとバレットは生きる意味がない、か」
A寮には私以外にバレットがいないが、A寮の人達はこの学校でもエリート中のエリート。
バレットは教師が務めているらしい。
「私はそうは思わないけど」
ふ、と私は笑った。
「今日が初めての共同授業だね」
そして3つ目。共同授業。
その授業が行われる場所では、アイザックが微笑んでいた。
相変わらずこの人の笑い方って裏があるわーー。
「共同魔術師ができたのは初めて。いやぁ余り物だからってまさかウワサのお荷物ちゃんと組まされるとはね」
「えーーーアイザックって、そんなに先輩ぶってるのに余り物だったの〜? 可哀想〜〜〜! ちょっと性格が悪いだけなのに酷いよね〜〜〜」
「アッハハ。内申点あげるために教師と組んでただけだから心配しないでー! 教師の前では良い生徒ぶってるからーー!」
やられたらやり返すをモットーとしてる私。
「お荷物ちゃん」なんて出会い頭にジャブをかまされたんだから、返さないわけにはいかない。
もういかにも同情してます、って体でやり返すと、アイザックは見るからに苛つきながらも笑顔でいった。
私のプライドもまぁまぁだけど、この人もほんとプライド高いわよね。
そういう人嫌いじゃないわ!
「そして同じく余り物のルカも一緒だよ。お荷物ちゃん……あっ間違えた、ミアも嬉しいでしょ? 友達いないもんねーーよかったねーーー」
アイザックは、部屋の隅で三角座りをしているルカを指差した。
ルカは壁に向かって爪を噛みつつ、ひとりでぶつぶつと何かをいっている。
ああいう酔っ払い、よく見かけるわ。
「やだーーーアイザックにはいわれたくな〜〜〜い! 絶対にあなた友達いないもんーーー表面的な付き合いしかしてなさそうだしーーー」
「憶測でものいわないでねーーー」
「事実でしょーーーー」
「証拠出してーーーー」
にこにこと笑いながらする会話ではない。
私達が(見た目だけは)微笑みながら会話をしていると、ガラリとドアが開いて先生がやって来た。
A寮の担当教師で、私を寮まで案内してくれたユーリ先生。
「ユーリ先生。俺が責任を持って集めておきました」
「ご苦労、カーティス」
さっきまでの姿はどこへやら。
びしり、と姿勢を正してアイザックはそう報告する。
先生は鋭い目つきでちらりと部屋の隅にいるルカに視線をやり、諦めたかのように大きく息を吐いた。
「ところで質問よろしいですか、ユーリ先生」
「なんだ、カーティス」
「どうして共同魔術師が3人組なんですか? 通常は2人組のはずですが」
そう、これは共同魔術の授業。
相性の良い引鉄魔術師と弾丸魔術師を組ませて、より実戦的な授業を行う。
トリガーだけの能力を引き上げる授業とは違い、寮や学年や性別なんて全部無視して「相性」というただ一点のみで相手を決める。
そうやって決まった相手を「パートナー」と呼ぶのだ。
そして大体、その相手はひとり。
弾丸が枯渇した時のためにバレットが複数人になることもあるが、私達みたいにトリガーが複数人ってことはほとんどない。
「まぁそれは…………やってみればわかる」
先生は少し口篭った。