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1ー01

「スイートマン。君は今まで学校に通っていなかったようだが」

「そうですーー! ちょっと事情があって、家庭学習とその他諸々って感じです」



 なんて。

 廊下を歩きながら先生とお話しする。

 体格が大きく、目付きの鋭い男の先生。


 え、待って。やば。学校の先生だよ先生。

 お客さんのあだ名でも、お客さんでもなくてガチの「学校の先生」なんて何年ぶり?

 前世で18歳の頃に自動車教習所に通ってたからそれぐらいじゃない?


 24引く18足す15……

 え、待って。全然わかんない。笑う。



「事情は聞いてる」

「ほんとーー? それならよかったです。ていうかセンセ、身体おっきいですね? なんかスポーツしてました?」

「してない」

「そうなんですか? 生まれつき??」

「そうだ」

「ご両親もおっきい感じですか?」

「違う」

「じゃあ先祖返りだ! ありますよね〜〜〜! 私も弾丸(バレット)だし!」

「スイートマン家には君以外のバレットが生まれたことがない。先祖返りではなく突然変異だろう」

「突然変異ってめっちゃカッコよくないですか?」



 先生はチラリと私を見てから薄く笑った。



「え、何で笑ったの?」

「うるさい」

「わかった。静かにしとくね」



 いやぁ久し振りの学校の先生だからはしゃいじゃったな!

 私は自分の口にチャックをし、ふんふんと鼻歌を歌いながら廊下を見回す。


 古いはずなのに新しく感じる。

 私の心が浮かれてるからかな?

 私は木の匂いを胸いっぱいに嗅いだ。



 この学校は由緒正しき魔術学校。

 その名も「ヘンリー引鉄と弾丸の魔術師学園」。


 その名の通り、「引鉄」と「弾丸」の魔術師のどちらも通う。

 どっちかだけいたって魔法になんないしね。

 率としてはトリガーの方が少ないけど。

 絶対数が少ないから当然か。


 ちなみにこの学校は、この世界で一番古い魔術学園らしい。

 そのため、毎年世界中からかなりの志願者が押し寄せる。

 この学校に通うことは一種のステータスとなってるからだ。


 しかもこの学校の良いところは、誰でもウェルカムなところ。


 ほとんどの学校では、家柄と血筋が重要視される。

 「引鉄」の多い家系か、とか。

 でもこの学校はそういうことしない。

 テストで合格できれば通えるのだ。

 奨学金とかのシステムもしっかりしてるらしい、マジで神様じゃん。


 弾丸魔術師(バレット)にとって、魔法を活かした仕事に就くことはかなり難しい。

 絶対に必要な魔法でありながら、バレットは銃弾である限りいくらでも代わりがきくから。

 絶対数も多いしね。

 けれどこの学校を出ていたら、それだけでもグッと仕事の幅は広がる。



(完全に寮生活だからちょっと寂しいけどねー)



 まぁ前世でも私は15歳から一人暮らししてたし。

 こっちの世界では家族と仲がいいから、離れちゃうのは寂しいけど。


 そう思っていると、先生は立ち止まった。

 見ると古くて大きな石のドアがある。

 先生は茶色の、鋭い目を私に向けた。



「ちなみに……君はわかっているのか?」

「何がですか?」



 あ、多分ここが寮に入るドアだなー!

 この先生は私の担任でもあり、私が住む寮も管理してるらしい。



「この学校の通称を」



 ああ、その心配ね。

 私はにっこり笑う。



「もちろん!」



 この学校の通称は「スイートマン」。

 偉大なる引鉄の魔術師、ヘンリー・スイートマンが作った学校だから。


 そう、つまり!

 私の大昔のおじいちゃんってわけ。



「君はスイートマン家から、実に久し振りの学生だ」

「そうみたいですね。親戚からめちゃくちゃいわれました! もーーー超頑張ります! 先生も応援してね!」

「しない」



 至極冷静に先生はそういって、特別な鍵を使って石のドアを開いた。

 重そうな見かけだけど、重くはないらしい。

 よかったーーーこれ毎日開けれるの? って心配してたーーー!



「ミア・スイートマン?」



 石のドアが開くと、眼鏡をかけた男の子が立っていた。

 ふわっふわの金色の髪に眼鏡。

 にこにこと笑っていて優しそうな人。

 身長は高い。190センチくらいはありそう。

 鼻筋の通ったつり目のイケメン。



「初めまして。アイザック・カーティス・ジュニアです。君のひとつ上。よろしくね」



 にっこり。

 アイザックくんは笑顔で手を差し出す。

 握手をしていると先生はいった。



「それではせいぜい頑張りたまえ。君は我が寮で唯一の弾丸魔術師(バレット)だ」



 薄く微笑み、先生は去っていく。

 えーーーバレットって私だけなのーーー!

 色々と聞きたかったのにーー!


 残念がる私を尻目に、アイザックくんはスタスタと階段を上がっていく。


 石のドアを開けてすぐのところは玄関ホールみたいになっていて、すぐ近くに階段があったのだ。

 そこを登ると、またドアがある。

 今度は木のドア。


 アイザックくんがそのドアを開けてくれる。

 海外だから?

 よくわかんないけど、この国ではレディーファーストがしっかりしてる。

 何処でも絶対に男性がエスコートしてくれるし!

 お客さんとかボーイはドアを開けてくれるけど、日本では中々ないよね。


 部屋の中に入った私は、「うわー」と声をあげた。


 そこは吹き抜けになっていた。

 随分と上に丸い天窓があって、光が差し込んでいる。


 円形の壁を這うように階段がある、螺旋階段ってやつ。

 そしてその階段の途中にいくつものドアがあった。

 ドアにはプレートがかかっている、住んでいる人がいる証らしい。



「ここは寮の生徒なら誰でも使えるリビング。このキッチンも好きに使って大丈夫。コーヒーくらいしか作れないけど。シャワーやトイレは各部屋についてるからそれを使ってね」



 あ、これがドアと部屋の鍵。

 そういって2つの鍵を渡される。

 少し上の方にある部屋らしい。

 エスカレーターがないから階段をのぼるの、大変かも。



「アイザックくん、ここって引っ越しはできるの?」

「アイザックでいいよ。もちろんできるけど、優先順位があるけどね」



 アイザックはそういって笑う。

 優先順位ね、なるほど。

 お店でもそうよね。

 ロッカーとかナンバーが上の子じゃないと使えなかったりするし。わかるわかる。



「ユーリ先生に食堂は案内してもらった?」

「案内してもらった。ユーリ先生のオススメは日替りだって。アイザックのオススメは?」

「そう。それはよかった」



 にっこり。

 アイザックは笑う。


 思ってたけど、この人の笑い方ってなんだろ。

 ちょっと裏がある笑い方よね。



「先にいっとくね。俺と君の間のルールは3つ」



 そう思っている私に、アイザックは笑顔のままで続ける。



「1つ、俺の邪魔はするな。2つ、俺の名を落とすようなことはするな。3つ、俺に迷惑をかけるな。わかった? 弾丸(バレット)ちゃん」



 守ってね、と彼は笑う。

 笑顔なのが逆に怖いけれど……



「あ、こういう子、何処の店にもいた〜〜〜! こっちの世界でもいるんだ〜〜〜!」

「え?」



 なんだか私は懐かしくなってしまい、思わず声に出していた。

 思ってもいなかったらしい私の反応に、アイザックは眼鏡の下で目を丸くする。


 その時、ガチャリとドアが開く。



「あ……」



 小さな声がしたと思うと、開けたばっかりのドアが閉まった。

 アイザックは長い脚を使い、ドアを開けようとした。

 けどさっきの男の子が向こう側で必死にドアを引っ張っているらしく、ドアが開かない。



(酔っ払ってトイレに閉じ籠ってたお客さんいたなー……あの時はボーイとお客さんの引っ張り合いになってたっけ)



 なんて思いながら、私は到着していた荷物からお気に入りのマグカップを出していた。



「バレットちゃん、これはルカ。ルカ・ウスペンスキー。バレットちゃんと同い年」



 ドアの引っ張り合いはアイザックが勝ったらしい。

 アイザックは笑顔のまま、男の子を引きずってくる。


 真っ黒でボサボサの長い髪に真っ白な肌の男の子。

 寝不足なのが、目がギョロギョロとしてる。

 垂れ目でカッコいい顔つきなのに、姿勢が悪いのが勿体無い。

 この世界ではあんまり見かけない黒髪に黒い目なので、それだけで私は親近感が湧いた。



「わーーー! よろしくね! 同い年だからルカって呼んでいい? 私のことはミアって呼んで!」



 マグカップ片手に手を差し出した私を、ルカは黒い目で見返す。

 服も真っ黒なのでルカは上から下まで真っ黒だ。

 ルカはガリガリの手を差し出しーーー


 私のマグカップを叩き落とした。


 ガシャン。

 そんな音がして、私の足元でマグカップが粉々になる。



弾丸(バレット)が僕に話しかけないで」



 私は自分のマグカップを見下ろした。



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