第二章 009 独白編
「あれ、どうなったんだっけ?」
長い髪を後ろで束ねた三分透枝は身体を起こす。
「あ、椰戸部くん」
三分の頬には先ほどの爆発ですすがつき、赤い頬を黒く汚していた。
「ということは……」
三分は自分が爆破した美術室をキョロキョロと見回す。
「げっ、白咲さんも」
「あら、三分さん。ご機嫌よう」
満面の笑みを向ける白咲に対し、三分透枝の薄い眉がハの字になる。
「なんで粉塵爆発なんて起こしたんだ。危ないだろう」
僕は三分に爆破に至ったことの顛末を聞くことにした。
「ああ、そうだった」
周囲をもう一度よく見渡す三分。
平均的な身長のせいか白咲よりは少し身長が低い。
しかし、同年代と比べると決して幼く見えることはなく、黒い瞳に薄い唇。髪を後ろで束ね、途中まで三つ編みのように織り込んでいる。
「うーん、今回は派手さが足りないかなー」
「今回は?」
僕は目鼻のハッキリした和風美人を思わせる三分が、見た目によらず常習的に部室を爆破しているギャップに僕は素直に驚いてしまった。
「ハイハイ、みんな起きて」
三分の号令に反応し、ウォーキングデッドによろしく、ずらずらと起き上がる爆破騒動の被害者たち、美術部員たち。
「芸術って言うのはほんとうに爆発だからね」
「皮膚が熱に耐性を持ってるってことか」
「アートは戦争なのよ」
「わからない世界だ」
僕は美術部の日々の活動に対し大いに疑問を抱くのだった。
「椰戸部くん達こそケガしてない? 初めてだと結構熱いよね」
「いや、僕たちは運が良くというか、何ともなかったよ」
「わたしたちピカピカのままよ」
「ほんとうだ、キレイなままだ」
三分は白咲の完全な傷一つ、火傷一つ無い姿を見て、なぜか残念そうに呟いた。
「ところで、椰戸部くん達は一体何をしに美術部に来たの? もしかして入部希望とか?」
「かぐやのことを聞きに来た」
「かぐやって、もしかして雛月さんのこと?」
三分は視線を床に落とす。
白咲は背中を丸めた三分に強く押し寄る。
「雛月さんは美術部の部長だったはずよね」
「そうだけど」
「じゃあ、どうして雛月さんが美術部を辞めたか当然知っているはずよね?」
「ええっと」
三分は俯いたまま口を横に固く引いた。
「分からないって言ったら、椰戸部くん達はは困る?」
「違う部員を当たるだけよ」
三分によって恒常的に引き起こされる爆発の後始末を手慣れた様子でこなす美術部員達。
五、六人の多いとも少ないとも言えない女生徒達はせっせと周囲に散らばった破片を箒でかき集め、ゴミ袋へと運ぶ。
「三分が話したくないなら他の部員に聞くよ」
「隠しても無駄ってことか」
「だいたい察しはつくけど、ちゃんと言葉にしなさい」
三分は黙る。
そんな彼女を白咲は険しい眼差しで見下ろしていた。
「三分さん、貴女たちが雛月さんにしたことは最低なことよ。もしあなたが人くんに同じことをしていたら、わたしは絶対に貴女を許していなかった」
「椰戸部くんは関係ないじゃん」
「ええ。だけど貴女にはそういうことをしかねない性根の悪さがある。貴女がやったことは決して許されない」
自分の周囲の人間を虫にも思わず無視する白咲が他者に怒りを向ける。
それはおそらく、よっぽどのことなのだろうと、僕は腹をくくることにした。
真相を聞く覚悟を決めた。
「三分透枝、お願いだ。話を聞かせてくれ。かぐやが自分でリーダーを務めるほどの思い入れがあった美術部を辞めなければいけなかった理由を僕に教えてくれ」
「一言言っておくけれどーー」
三分は顔を上げる。
「アイツはこの部活を愛してなどいなかった」
三分の眼は鋭く尖り、磨り潰された言葉を僕の胸に突き立てる。
「アイツが愛したのは自分だけ。全部アイツが壊して行ったんだ」
瓦礫だらけの美術室の爆心地に立ち、三分透枝は叫ぶ。
「あんな地雷女、潰れてしまえば良いのよ」
息を荒々しく上げ、肩を激しく揺らす三分。
アートは戦争と語った異常者の、粉塵爆破常習犯の、爆弾発言が、いま、始まろうとしてた。
お久しぶりです。実は続いてました。
ぼちぼち。ちょっとずつ投稿できたらな。
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では、また。




