第二章 005 見合編
雛月かぐやの相談はあまりにセンシティブなものだった。
「部活ってクビになれるのか」
僕は驚愕のあまり下顎を大きく開いてしまった。
「不祥事でも起こしたのか?」
かぐやはぶるぶると首を横に振る。
そりゃそうだ。
僕には目の前の小さな女の子がそんな大層なことをするような人物には見えない。
少なくとも、煙草を吹かしたり、夜に校舎の窓ガラスを壊して回ったり、盗んだバイクで走り出すような豪快なヤツではない。
もちろん、屋上から鉄骨を中庭に何本も投げ捨てるなんて度胸もないだろう。
「あれはあなたがやれって言ったんでしょ」
「白咲、まじで僕の心を読むのやめて」
「「……?」」
考えを戻す。
かぐやが犯した罪とは何なのか。
部活を、ましてやエースとまでに褒め称えられた美術部を追放されるなんて重罪を、彼女が課せられる理由。
立ち入りを禁じられるワケを、僕は、面目ながら、皆目予想できなかった。
かぐやの黒い目の奥。
記憶の目次に潜り込むように彼女に注目した。
「ひぇえ」
しかし、かぐやから発せられた、待ちに待った二言目は、僕への回答ではなく、向かいに座る少女たちへの救援要請だった。
「人くん、さすがに見過ぎよ」
「椰戸部くん、がっつきすぎ」
結果として、文化部のエースは顔を真っ青に染め、ガクガクと震えた。
仕舞いには、月も羨む美少女と陸上部のエースに救難信号を発する事態となった。
――やりにくい。
自分の思い通りに会話できないのが、こんなにも、もどかしいことなのか。
僕は大きく息を吐き、肩の力を抜いた。
「かぐや、僕はお前の力になりたいんだ」
「くさいわ、人くん」
「くさすぎるよ、椰戸部くん」
――外野がうるせえぇ。
話が進まない。
まずはかぐやと僕が打ち解けるの喫緊の課題だった。
「絵は好きなのか?」
僕は美術のエースと冷え切った空気を暖めようと雑談を始める。
アイスブレイクを試みる。
「ううん」
「好きだから描いてるんじゃないのか」
「違いまちゅ」
「じゃあ何で美術部にいるんだ?」
一間。一瞬だけかぐやの言葉が止まる。
「褒めてくれるから」
ただ、それだけ。とかぐやは言った。
その姿は少しだけ寂しそうだった。
「かぐやの好きなことは?」
「わたちの好きなこと?」
「ああ、そうだ」
かぐやは黙って、うーん、と頭に人差し指を添える。
その姿がとても幼くて、可愛らしい。
「笑わないでちゅか」
かぐやは不安そうな目で僕の顔を覗きこむ。
そんな顔で見られると気になるじゃないか。
僕は大きく頷いた。
「好きなものを馬鹿にはしない」
ギリギリセーフ。
お疲れ様です。初瀬川龍彦です。
次回の更新は少し開きます。
金曜日を予定しています。
もし順調にいけば水曜日に投稿するかも??
進捗なんて誰にもわからないのでブックマーク推奨です。
頑張ります。
※タイトルころころ変えてすいません。
まだ模索中なので決定までもう少しお時間ください。いちいち検索するとき面倒ですよね。ブクマ推奨です。




