第一章 016 後日談
「万事成功ということでいいのかしら」
誰にも見つからぬよう、屋上から脱出してきた白咲と事情聴取されぬよう、そそくさと現場から逃げてきた僕はいつも通り、第三生徒会準備室でのんびりしていた。
「ああ、これで僕は伊陀夏織の後輩の命を救った英雄だ。学級委員選挙で運動部グループをまとめて、僕に投票して欲しい、なんていうちっぽけな願いは難なく受け入れてくれたよ」
僕は第三生徒会準備室に戻ると真っ先に保健室へ内線を繋ぎ、伊陀夏織と話をした。
傷一つ付いていない乙羽の体を見て、泣きながら喜び、僕に終始礼を述べる陸上部部長をあやしながら、僕は最初の目的であった組織票の確保という要求を伊陀夏織に飲ませたのだった。
「人くんのそういうゲスさ、嫌いではないけど、鉄骨なんて中庭に刺してよかったの?」
「どうせ僕の母さんがこの学校の校長だし構わないだろう。それにこの学校は腐るほど金があるしな」
「そいうものかしら」
「そういうものだ」
僕は普段通り、白咲の淹れた紅茶をすすりながら、不思議な高揚感に包まれていた。
おそらく、美しき恋の完結を目の当たりにしたことと、票を大量に手に入れたことが、僕をこんな気持ちにさせているのだろう。
「浄瑞さん、人くんが変な能力をもっていることに気づいちゃたいんじゃないの。伊陀さんは人くんたちの無事だった喜びでそれどころじゃなかったでしょうけど。そのあらゆるものを吸収する体質、ばれたらまずいんじゃないの」
「それなら大丈夫だ。乙羽の体に僕が触れた瞬間、乙羽は気を失った。やっぱり、僕の力と繋がっている白咲以外、生物には触らないほうがいいようだ」
「その方が絶対にいいわ。人くんに触れた途端、力が吸い取られちゃうもの。だから人肌が恋しくなったらいつでもわたしを好き放題触っていいのよ」
白咲は腰をくねくねと動かし、気持ち悪いダンスを踊る。
「そんな阿呆なことをしている暇はない。白咲、次の人助けをするぞ」
「もう票は十分ではなくて」
「いや、僕は今回の依頼でクラスの女子の三分の一、つまり、クラス全員の六分の一しか票を獲得できていない。もし男子どもが結託して、一人に票を集めたりしたら、僕は確実に負けてしまう。過半数は必須条件だ」
「過半数って、人くん、あなたは女子全員の票を狙っているの?」
「ああ、そうだ」
「人くんはハーレム王にでもなるつもり」
「いや、僕は僕が理想とする青春を実現するために学級委員、そして生徒名誉会長に就くつもりだ」
「はいはい、わかったわ。わたしは人くんの手伝いを明日もちゃんとこなすわ。でも、今日はもう遅いし、ゆっくり休みましょう」
窓の外はすでに暗くなっており、星がちらほら輝いている。
月の光が窓から差し込んできて、僕は少し眩しかった。白咲がそんな僕の姿を興奮気味に見つめてくる。
「明日も頼むぞ」
「人くんのためなら、なんなりと」
僕と白咲は明日に選挙活動に備えるため、第三生徒会準備室をあとにしたのだった。
第一部終了です。
ここまでお付き合いいただき誠にありがとうございました。




