8割はダメ
「プロスポーツ選手や、プロ作家とか、プロなんたらとかよぉ……」
あ~、羨ましいなぁ。どーせ、勝てばなんでもいい世界なんだから。才能と環境ありゃあできる、楽過ぎる世界だぜ。
「山口さん、今日もまた飲んでますねぇ。明日休みだからって」
「うるせぇーな!……息子には彼女できて、妻はよぉ。先立たれてんだよ。愚痴るところが会社かお前のとこの飲み屋しかねぇーんだよ。察しろよ!」
「へぇーへぇー。まぁ、存分に口に出してくだせー。俺は壁のようにじんみり聞いてやるもんです」
「おーぅ、そうだなぁ」
山口部長は疲れてる。
◇ ◇
「なんで私の給料がこんなに低いんですか!?」
基本給を上げろと、まだまだ新入りの社蓄は言う。そんなクソ生意気な社蓄を飼育してやらねばならん、この上司はストレートで返していく。
こんな上司の下で働く社蓄達は、とにかく可哀想であるが。この上司を操れるさらなる上にとってもさらに面倒な奴。
「お前、新入りじゃん?募集通りの給与じゃねぇーか」
「だからって!こんな仕事でこんな給料はやってられません!」
「じゃあ、辞めりゃあいいじゃん。ウチは人手不足だからな」
正味、面倒くせぇ~。
説得する気もないんで。さっさと辞める日にち決めて、辞表出して、この会社から支給したもん返せで終わらせたい。
正直に言うが、俺は仕事中で。お前の話しなんざ聞きたくない。時間の無駄。
「お前なぁ~。俺の馬鹿息子や実やら、矢木とかはな。ここで何年も働いていて、色んな業務をこなしてんの。お前の手助けも含めてな。その時点で給与や待遇に差があんのは当然だろ?」
「私の仕事の8割は成功してるのにですか!?日々、8割の安全運転をしてるのにですか!?」
「10割にしろよ。幽白の戸愚呂かテメェ?ウチは配送業務なんだよ、8割できた仕事でやられたら困るんだよ。舐めんな」
仕事の格差は惨いものだ。
どれだけ正しく真面目に努力をやっていても、結果として金にならなければ意味のないこと。
その道のプロの仕事とはそれほど大変で、”運”も必要なもの。
一方で、庶民様のやっている仕事もまた、プロでなくちゃならない。毎日積み重ねて、仕事がより正確にこなせるようになる。すぐにできる事じゃあないし、気持ち次第でとかですぐにやれるもんじゃなし。
ほとんど、”運”と呼べるものがない分。利用者というのは、100%の仕事をしてと思う。
ミスに厳しいもの。誰にだってできるんじゃないかと、思われるもの。
「納得できません!」
「どーしろってんだ?じゃあ、実と同レベルで働いたらどうだ?言っておくが、実だって、最初はそこまで仕事できる奴じゃなかったぞ。(お前よりできてたけど)。5年ぐらい働いて、モノになってから、その翌年でウチのリーダーやってんだ」
誰もが成功してきたわけでもないし、ぶつかる壁というのもある。そーいう話しをしているのに
「こんな仕事を5年どころか1年もできるわけないじゃないですか!?」
「あー、めんどくせぇな。お前……」
「働いてる人を舐めないでくださいよ!」
「俺は今もその先でも働いているが、お前は来月辺りで無職だぞ」
給与を上げろ、職場を改善しろと。
上司だってな。そりゃあ、楽してる奴もいるけど、社会人の1人なんだよ。馬鹿野郎。
「これだから、人手不足なんだよなぁ。もとい、社蓄不足というか……」
なんだかんだの話し合いで。
まぁ、分かっていた事だが仕事を辞める方向になった。使い捨てをする会社と思われたが、それでいいんじゃないかと思う。
「まー、次の社蓄ガチャに賭けた方がいいでしょ」
「それもそうだな。4月辺りに人事異動なり、新卒来るとかあるし」
「残念だけど。次にしましょう」
そうやって、現場は素早く切り替えてくれる。いやぁ、指導した甲斐のある精強な社蓄達がいて助かるものだ。現場としても扱いに困っていたから、なおの事だったけど。
◇ ◇
「ホントに現場はよぉー。人手不足なんだぜ?今入ってくる奴等はどいつもこいつも、すぐに辞めちまう。経歴や職歴がよぉー、めっちゃビッシリ合ったりして、口八丁過ぎなんだよ。仕事も知らねぇーで、自分に自信ある奴が多すぎる。ダメならすぐ退く。転職に自信ある奴ばっかで、現場が育てられん」
「……まー、なんだい。人間の仕事がより濃くなっているんじゃないか?」
「それは分かってんだよぉ~」
ビールをきゅ~~~っと、一気に飲んで。
「俺だって、現場から役職就いたんだよ!それくらいの気持ちねぇーでどうすんだ。腹立つのはよ~、真面目な人間とかほざいて、思われていても、2,3年以内に辞める奴。真面目な奴ってのはな、コツコツと仕事をずーっと続けてるんだよ。それでよく真面目とかほざけるな。鬱になりましたって、俺も会社に言ってみてぇ~!」
ただの転職じゃないか。って聞き手の店主は思ってあげるが……。
中には仕事をしないで引き篭もる奴もいるものか。甘く見過ぎている人がいるも確か。山口部長クラスとなると、辞める人間の大半は転職という理由じゃないのばかりを見ているんだろう。そんで自分は他と違って、叩き上げで成った身。
ビールの追加をしながら。
さっすが、ブラック企業の上司だなぁって。心の中に思っておく。
「それによぉー。そんなクズに限って、クレームばっか上げやがってよ!それで辞めるんだから、他も迷惑してんだよ!どっちかって言ったら、仕事を辞めさせてからの勤務よりも!中途半端な仕事をさせ続けて、客先に迷惑をかけ続けてる方が問題だった!ライバル会社に乗り換えますとか、されたりするんだぞ?分かる?ね?ね?」
「そーだね。それはそー思う。ウチだって、そんなことになったら、利益が下がる」
「やる気だけで仕事すんじゃねーよって!お前等が真っ当な人間だったら、こっちは処理なんかせんで済むんだ!クズが多すぎるんだよ!」
また山口はビールを飲み、……飲み終えたら
ゴトオォォンッ
「ふぅ~………」
ビールジョッキを机に叩きつけ、口を爪楊枝で手入れしながら……。
「ごっそうさん。悪かったね」
「いやいや。俺だって店主の身だから、店員の不始末やら愚痴を言われる身。似たとこあるよ」
「そうかもな」
その微妙な言葉。目をやった先には、最近入ったばかりの女子大生の店員さん。夜バイト、お疲れさん。言い残しがあるみたいで、お会計の時。
「さっきの話しな」
「うん」
「俺より年上の奴が言ってる話だからな?」
「ぶふっ……マジ?」
「うん。マジ……。あれを人扱いしてたの、キツイ」
暖簾をくぐった後、たまには若くて可愛い子、職場に来てくれないかなぁ~って思う。
山口部長であった。