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聖女のはずが、どうやら乗っ取られました  作者: 吉高 花 (Hana)
第二章

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砦2

 城に入るやいなや、いつの間にかに私の服が一式用意されていた上にお着替えを手伝いますと言われて面食らう、庶民丸出しの私。そしてびっくりしたのがうっかりそのまま伝わってしまい、おかしな顔をされるのコンボ。


 ああ、身分ね。そういえば身分がね、そうだったね。どうも自覚がないから困ったものだ。

 この先いったいどれだけのこんな経験をするのだろうと、ちょっと遠い目になったけれど。


 結局私とレクトール将軍はやたらと上等な生地の綺麗な服に着替えさせられて、将軍の側近達が待つ会議室に入ったのだった。


 それにしても私の隣の将軍様、その階級章なのか勲章なのかよくわからないけれど、すっごく偉そうにじゃらじゃらしているね……本当に偉い人だったんだね……。

 もうキラキラのじゃらじゃらなんですけれど。


 今までのニヤニヤしたチャラ男の影がすっかり消えて、きりっとした顔がイケメンもあいまって眩しいほど。

 どうしてこんな人と私が並んでいるんでしょうね……?


 そしてその将軍様から早速側近の人たちに紹介される私。

 

 肩書きは「聖女」で「妻」。

 

 うんまあ聖女に関してはね。

 自分でも宣言しちゃったしね。そして「鑑定」持ちのレクトール将軍が言うんだから誰も異議は唱えない。もちろん私も異論はないんだけど、どうやら本来のよく知られている一般的な「聖女」とは随分違う私の様子に他の人達の戸惑いが……感じられ……えっと、すみません……。


 久しぶりの周りからのダレコレ状態に、少々居心地の悪い私です。


 だけども一応今は私も首から下はいかにも貴婦人のようなドレスを着せられていて。

 

 といってもこの国はどうやらコルセットでぎゅうぎゅうという文化ではなさそうなので、比較的ゆったりとしたシルエットで助かったけれど。でもその分生地の上質さがとてもよくわかるのだった。いやあドレープが美しいったら。そして肌触り最高……!


 だから首から下は、お似合いなんですよ? もちろん私の実力ではないんだけどね?

 だけども私が第三者だったら、もう少しこう、バーンと美しい女性とか、きりっとかっこいい有能そうな人がいて欲しいと思う場所に私だからねえ……。

 

 せめて部下として、ちょっと後ろに控えられたらいいんだけれど。

 私は名も無いただの救護班的な立ち位置の方がよかったです……。

 


 まあでも私の主目的というか真の職務はこの将軍様に何かあったときの救急活動とおぼろげなゲームのシナリオの記憶を掘り起こすことなので、それをこの場の側近の方々には将軍直々に説明をしていただき、もちろん驚かれたし戸惑われたけれど、隣でうんうん頷いているだけの私がこんな会議室にまで、なぜひっついて来ているのかを納得……説得していただき、なんとか了承されたのだった。


 いやあ、皆さんの動揺はちょっとすごかったけれど。

 特に、「将軍突然死」説のところですね。

 本人が真面目な顔で「私が死ぬ」と言う場面は非常にシュールというかなんというか。


 でもそのインパクトのお陰でこの「聖女」らしからぬ私への戸惑いの視線も一時的で済んだようで、その後は私は会議室の端に陣取り、繰り広げられる作戦や会議なんかには基本傍観で積極的に空気に徹したのだった。

 

 なにしろ地理も戦術的なものもさっぱりなもので、会議内容のアレコレには全然役に立ちませんよ。

 ますますお邪魔ですみませんねえ……でも私も自分の人生がかかっているので、やれることは静かに頑張ります。

 

 とりあえず聞き覚えのある人の名前とか地名とか、そういうものがあったら後で報告するのです。まあほとんどないけれど。

 過去の自分、もう少し真面目にあのゲームをやっていて欲しかった。今あのゲームが手元にあったら嘗めるように隅から隅まで読み込むのに。ああ後悔先に立たず。


 しかし軍人さんの上の方って、高度な頭脳戦なんだねえ。

 



 そんなこんなで、難しい話を馬鹿みたいな全く理解していませんという顔で聞きながら一人うんうん記憶を探る、そんな日々を送っていたある日。


 なんとオリグロウ国から使者がやってきた。

 なにやら豪華な、相変わらず居丈高な使者なところがオリグロウらしい。

 が、その使者の言うことが今までの経緯をすっかり忘れたらしい用件で私は仰天したのだった。


「そこにいる『聖女』アニス様を我がオリグロウ国へ返還されたし」

「断る」

 レクトール将軍が即答した。


 しかしオリグロウの使者も引く気はないらしい。


「しかし、聖女アニスさまはもともと我が国オリグロウの方です。その聖女を我が国から略取するなど言語道断。即刻返還されますよう」


「彼女は聖女とは認定されなかったと聞いている。私が知り合ったときも王宮からの招集は聖女ではなく治療師としてだった。そして今は私の妻だ。私と婚姻を結んだので今は正式にファーグロウの人間になっている。彼女も承諾したからこの場に居るのだ。今更オリグロウにどうこう言われる筋合いはないし、略取とは言いがかりも甚だしい」


 こういうときのレクトールはかっこいいと本当に思う。

 相手に一歩も引かない。


 どうやらオリグロウが私を今更ながら聖女に認定したようなのだった。

 きっとあの王宮脱出の時の騒ぎのせいだな。


 めいわく……。


 あれだけ当初は冷遇したくせに、今更になって掌返しするとか。

 なんだろう、この浮気されて振られてすっかり冷めて、情もなくなった男に今更言い寄られている気分は。


 もう私の事は忘れてちょうだい。

 だいたい今私が聖女に認定されたのだとしたら、かの国にいるヒメの立場はどうなっているんだろう?


 と、思ったら、レクトールが言ってくれた。

「そちらにはもう聖女がいるだろう」

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