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聖女のはずが、どうやら乗っ取られました  作者: 吉高 花 (Hana)
第二章

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家紋付きの馬車3

 すーはー。よし。


「あの、ちょっと驚いて取り乱しました。すみません。でもあなたのその言葉はとても嬉しかった。ありがとう。どうも今までひたすら逃げることばかり考えてきたから、自分の命を守らなきゃって強迫観念にかられていたのかも。うん、これも縁だし、あなたはいい人だからこれからは頼りにさせてもらうね。よろしく。あ、じゃあ、一つお願いしてもいい?」


「ああ……なに?」

 レックが顔を上げた。


「私と離婚しても、元妻のよしみで出来たらヒメから私を隠してくれると嬉しいな。国家権力で隠れられたら素敵。なぜだか彼女、前の世界の時から私の人間関係を全部奪っていくのよ。まるで私の居場所に彼女がすり替わろうとするみたいに。しかもこの世界に来てからはそこに殺意も上乗せされて、本当に怖いのよね。もう危機感が半端ない」


「だからなぜ離婚が前提……ああもうそれは今はいいや。あの彼女の本質はなかなか屈折していたぞ。あの彼女はね、君が羨ましいんだ。君のことが羨ましくて、君になりたくて、そのために君のものを奪って自分のものにして君になろうとする。なぜなら君が『聖女』だから。君が持っていて彼女が持っていないその性質が、彼女には羨ましくて、そしてそれが自分にないことが不満なんだね。何故君のスキルが『癒やし』なのかわかっている?」


「へ? スキルに理由があるの?」


「あるよ。元々のその人の性質で一番強いものがスキルになるんだから。きみは人よりお人好しなんだ。頼られるとあまり疑わずに、まずはなんとか力になろうと考える人。だから『癒やし』のスキルが発現したんだよ。人はみな、根底で健康で長生きしたいと思っているからそうなるらしい。まあ異世界とやらからの転移のショックか、この世界で生まれつくよりは随分スキルだけが増幅されている感もあるけれど、それでもそういう性格の傾向があるから『癒やし』になったんだ。かたやあの偽『聖女』は、ずっと人に好かれたくて、称賛されたくて、だから人に取り入ることを一番に考えて、そして努力もしてきたんだろう。だから『魅了』が出た。そして取り入るために必要な相手を見定める目、つまり『鑑定』スキルも磨かれていたと思われる。だからあのスキル構成なんだ」


「ええ……そう言われるとちょっと心当たりがないわけでは……。でも少し持ち上げすぎじゃあないかな。他には居ないんでしょ? 『聖女』って。さすがに私、そこまでお人好しではないと思うの」


「だからそれは多分……その異世界とやらから来たショックか何かで強く出ているとは感じている。もしかしたら他に強い要素がなかったから『癒やし』になって、そしてその転移という出来事でスキルの上限幅が一番上まで増幅されたのかもしれないね。確かにもし最初からこの世界に生まれていたら、君の感じではこれほど強い『癒やし』スキルにはならなかったかもしれない。だけどどのみち君のスキルは『癒やし』だったと思うよ?」


 にっこり。って、何故かレックは満足気なのだけれど。


「うーん……それってつまり、言い換えれば私は少々お人好しの他には特に特徴のない人間だということ?」


 なんかちょっとショック……つまらない人間と言われたようで。しかも『鑑定』スキルの人が言うということは、それが紛れもない事実ということだ。


「まあまあアニス、それは特徴がないんではなくて、『バランスのとれた人間性』と捉えればいいんでないかな? ものは考えようじゃ。アクの強い性格ではなくて、丸くて穏やかで調和を愛する性質なんじゃよ、きっと。それに生粋の聖女はつまらんぞ? 何を言ってもお手本のような答えしか返ってこない、疑うことを知らない純粋無垢な人形のような人間じゃよ? だから国が保護しないといけないんじゃ」


「そうそう、一般には一緒にいるだけで癒やされる、清水のように清らかな存在と言われているが、実は影響力がありすぎるのに過度にお人好しで善人悪人関係なく頼られれば何も疑わずにすぐに献身的になってしまうから、昔から王族が見つけ次第匿って、私利私欲で悪用されないように保護教育する必要があったくらいだ。そして保護するのに一番効果的なのは結婚することだからだいたい王族の誰かと政略結婚する」


 あらまあ「聖女」のお人好しって、なんだか度が過ぎていた。大丈夫かそれ。あ、だから保護するのか。


 そしてさすが王族、政略結婚に抵抗がない。人生を左右するようなことさらっと言うわね。

 もしやこの人、私とは結婚観がまるっきり違うのかしらん?


「未婚の王子といえば君と、あとは第六、第七王子くらいだったかの?」

「他にも未婚の王子はいるんですが、婚約していますからね」

「兄弟多いね。王妃様大変そう」

「側室が山ほどいるからのう」

「おお……さすが王室……」

「おかげで子だくさんじゃの」

「だからこんな五番目なんて、『鑑定』スキル持ちだったのをいいことにずっと戦地と王宮との行ったり来たりですよ。そして常に人事部に拉致されて終わる」

「そして聖女が見つかった時のために独り身だったとな?」

「いやそれは別にたまたまですよ。それに私だってできるなら相手は選びたい。それに聖女の保護は他の方法もあるから……」


「へえ、もしかして、だから結婚を急いだんだ? 私が一応『聖女』で『癒やし』が使えるから? 『聖女』の保護で? でも私はそこまでお人好しじゃあないから保護の必要はないよ?」

「いや、別に急いだ訳では……ああいや急いだか……でもそれは君だったからで」

「じゃあ私と離婚しても、もし生粋の『聖女』が現れたらまたその『聖女』と結婚しないといけないのかな」

「だから君の説得のために一応ああは言ったが、本当は僕は離婚するつもりは」

「でもするよね? だって実質は夫婦ではなくて、私はただの春までのレック専属救急救命隊だもんね? そう言ったよね?」

「だからって、なんでそんなに離婚前提なんだ……」

 あれ? 前提だよね?


「まあ……気長にやろうかの、レック。しかし今まで何でも負け無しらしい将軍様が苦戦するとは面白いものが見れ、ああいや、苦労するのう。よしよし。じゃあアニス、とりあえず今はこの男が君の夫なんだから、親密感を増すために呼び方を変えてみようかの? たとえば『あなたー』とか……なんじゃその顔。そんなに嫌かね」

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