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追放3

 まあ戦争中の国境へ送られるということは、つまりは死ねと言っているようなものですね。

 良くて一生監禁、あわよくば死ねと。

 

 誰が主導したかは知らないが。

 

 馬鹿なの? この国。

 

 いやもともと設定が甘々なゲームの中かもしれないけどさ。

 でも今、この世界の人たちは生きているのよ?

 

 ゲームと関係ない見えないところではみんなちゃんと働いているのかと思いきや、国の中枢の各分野のトップがこぞって「突然別世界から現れた来歴もわからない聖女」を持ち上げて言いなりとか、もはや頭が足りないとしか思えない。


『助けてくれませんか? YES or NO』 


 最初に私が見た文字を思い出す。

 もちろん今出てきたなら速攻で答えてやる。


 NOだ!


 こんな仕打ちまでされて、助ける義理なんて何処にもない。

 丁寧に扱ってくれるなら私だって先読みと称して未来を教えたのかもしれないが、もはやそんなことをする義理などどこにもない。


 むしろあのヒメが牛耳る国なんて滅びてしまえ!


 私はガタガタ揺れる馬車の中で一人決意した。


 これからは好きにやらせてもらおう。

 

 私が聖女かどうかは知らないが、多少なりとも癒しの能力はあるみたいだからなんとかひっそりこの運命から抜け出して、生き延びてやる。そして奴に一矢を報いるのだ。


 私には一つの計画が浮かんでいた。

 

 何もしないでびくびく死の運命に怯えるなんて、まっぴらごめんだ!



 そんな決意をしてからは、私は道中で会う人たちを端からこっそり鑑定するようになった。

 無断鑑定失礼しますー。


 でも自力で生きて行くには生業が必要だろうと思って。収入を得るためには何か私の売りを作らなければ。

 

 今のところ私には、まっとうに稼げるあてが「癒やしの魔術」しか思い当たらなかった。

 だとしたら、出来るだけ早いうちに何が出来るか、何処まで出来るのかは把握しておいた方が良いだろう。そして練習も兼ねる。


 粗末な宿に泊まる時や、たまにすれ違う馬車、そんな人の気配がする時にはチャンスとばかりに私は「視る」ようになった。

 最初はこっそり手をかざしていたけれど、何度かやるうちに手を動かさなくても「視る」コツをつかむ。そしてその違和感もとい不調の内容も少しはわかるようになっていった。


 そしてやがて私は素早く人の不調を把握し、ついでにこっそり治す練習も始めたのだった。


 勝手に治療失礼しますー。

 ある時などは首に真っ黒な不調を抱えたおっさんをこっそり後ろから治してあげてみたらば、そのおっさんが急に姿勢が良くなり驚いたように目を輝かせてキョロキョロし始めたので見ていた私が嬉しくなった。


 うん良い能力ではないか。

 これなら治療師みたいな仕事が出来るかも。人が喜ぶお仕事は気分もいいよね。


 そんな感じに将来に期待を持ったときだった。

 御者の人、いや護送する役人と言った方がいいか、その人が言うにはもうすぐ目的地に着くという頃。そしてそろそろ私をこっそり逃がしてくれるように御者と取引しようかと思っていたタイミングで。


 突然私の乗った護送馬車が襲われたのだった。


 大勢の盗賊風の人たちに囲まれて、私の乗っていた馬車は止められた。そして乱暴にドアを開けられたあと、私は引きずり出されたのだった。目の端に御者が逃げるのが見える。

 どうやら私だけが捕まったようだった。


 これはマズい。非常にマズい。

 攻撃や防御に関する魔術も技術も何も持っていない私は、この盗賊たちに対抗する術がない。


 冷や汗が背中を伝う。

 盗賊たちは下品な笑みを浮かべながらぐるりと私を囲んでいる。


 盗賊の一人が言った。


「殺す前に、ちょっと楽しんでもわかんねえよな?」


 ちょっと! 殺すのは決定事項なの!?


「まあ良いんじゃないか? でも手早くやれよ。俺も帰って報告しなきゃいけないんだから」


 どうやら頭領らしい男が言う。でもこいつ、一人だけ身なりも言葉使いも上品だな。雰囲気が盗賊というよりは……兵士? しかも何処に帰って誰に報告する予定だ?


 いやでも今はそれどころではない。

 どうする? どうする! 時間稼ぎ? でも時間を稼いだら助かるのか?


 だいたいなんでこんな文無しの罪人を襲うのか。馬車だって粗末だし、しかもよく見たら護送車だってわかるのでは?


 そこまで考えて、私は一つの可能性が浮かんですごく嫌な気分になった。


「帰って誰に報告するの?」

 ダメ元で頭領かつ兵士らしき人に問う。

 兵士らしき人は鼻で笑って答えた。


「お前が知ることではない。聖女を詐称するような罪深い人間には死がふさわしい、それだけだ。聖女様を泣かせるとは言語道断」


 ほほう……なるほど、やっぱりね。


 では通りすがりではなくて、私を狙って襲ったのね?

 うっかりこんな事態を想定していなかった自分が情けない。だけど、まさか辺境へ追放しただけでは飽き足らなかったとは。

 

 まさか殺そうとまでするとは、びっくりだよ、ヒメ。


 もちろんヒメ自身が直接命令したかはわからないが、もしもヒメでなければ取り巻きの誰かだろう。でも聖女様を崇拝するあのボンクラ達が、その聖女様の悲しむかもしれないような行動を積極的にとるとは思えない。だから彼らがやるとしても、それはすなわち聖女ヒメがそれを望んだから。それ以外にはないだろう。


 思わず私も目が据わる。


 本来私は人を傷つけたりしたくない程度には善良な人間なのだけれど。

 でも自分の貞操と、そして命が危険にさらされているこの状況では、そうそうそんな綺麗事も言ってはいられないよね。

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