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聖女のはずが、どうやら乗っ取られました  作者: 吉高 花 (Hana)
第二章

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遁走、いや移動?5

 でもまあ戸籍なんてないみたいだから、「この人と結婚したよー」って言うだけの偽装だと思った私は甘かった。

 どうやら結婚したという証明書のようなものはこの世界にもあるらしい。


 私は乗っていた馬車のままファーグロウにいつの間にかに入国し、そしてそのまま直行でファーグロウの教会にほぼ拉致のような形で連行されたのだった。


「は? え?」


 状況のいまひとつわかっていない私に、美しい笑顔のレックが言う。


「ほーら大丈夫、怖くはないからね、安心して。君は何か聞かれたら『誓います』って言えばいいんだよ? あとは全部やってあげる。じゃあよろしくお願いします、神父様」


 って、いやいやいや。


 まさか本当に教会で式を挙げるとは思っていなかったんだよね。

 そこまでの私の覚悟というか心構えというか、そういうものは全然なんにもなかったんだよね。

 なのに、この爽やかな笑顔で挙式を迫ってくるイケメンは一体何を考えているんだろうね!?


「ドレスやなんかは用意できなかったけれど、君はそのままでも十分かわいいから大丈夫。ああ君がちゃんと式を挙げたくなった時にはもちろん改めて挙げようね。でも今は書類だけでも整えないと」


 って、なんでそんなに積極的なんでしょうか? 偽装だよね?


「ちょっと待って? 天下の将軍サマともあろうものがこんなにさくっと内緒で結婚なんてしてはいけないのではないですかね? とりあえず婚約ってことにすればいいんじゃないの? こんな駆け落ちみたいな地味婚なんてしたら周りの人が怒ったりするでしょ!?」


 と抵抗はしてみたものの。


「でも婚約者だと、ならば挙式まで王宮で大事に保護するって言われると思うよ? 僕のいるところは基本戦場だし。そして僕が戦場に居る間に君が王宮で何人もいる王子たちに言い寄られたら、君がそっちの誰かを好きになるかもしれないじゃないか。僕としてはそれは困る。そんなリスクはとれないな。君を他の男に渡すつもりはない。さあ誓ってしまおう」


 いやいや、だからいろいろ手続きとか段階とかが飛びすぎているよね?

 イケメンのモテ男が、こんな異世界からやってきた地味女とそんなに急いで本当に結婚しようとする意味がわからない。

 表向き「そういうこと」にしておけばいいじゃないか。


「ビジネス! これはお互いに都合の良い偽装よね!? 式も偽装じゃダメなの!?」


「はいはいビジネス。だからちゃんとしておこう? 誰にも文句は言わせないように。こういうことで他人に突っ込まれるような穴をつくるのは愚行だよ。それとも君は僕に本当は死んで欲しいのかな?」


「いや滅相もない。あなたには私の未来がかかっているんだから! 死なせてたまるかってんですよ」

「じゃあやることはわかるよね?」


「ふぉっふぉっふぉ」



 ――そうして私たちは偽りの誓いをたてたのだった。



 騙してごめんなさいファーグロウの神父様。全てはこの戦争と、こんな事を言い出したオースティン神父とそれに乗っかったレクトール将軍が悪いのです。

 ああでも私も共犯者……。


 しかも実はこの期に及んで、頭では都合のいいように流されているだけとはわかっているのに、本心ではけっして嫌ではない自分に気付いてしまって複雑な気分だった。


 さすがに私も、少しも好意が持てない人とはどんなに好条件でもこの決断はしなかっただろうと、土壇場になって気付いてしまったのよ。もしそうだったとしたら、もっと必死に、断固抵抗しただろう。


 でも、たとえお芝居でも、この人とちょっと特別な関係になるというのが実は少しだけ嬉しかったり……。


 だってこの人、悪い人ではないのよ。しかも顔は私の好みど真ん中なのよ。そして中身もたいがいチャラ男なんだけれど、何故か話が合って、一緒にいて楽しい人なのよ。

 正直チャラ男で残念なはずだったのに、最近妙に好感度が上がりつつあったのは事実で……。


 ああいや、しかし。

 もちろん物事にはね、順番ってものがあるからね。

 だからさすがにこれはどうかとは今でも思っているよ。

 さすがにね。しかし結局。


「これからよろしくね、妻よ」

 そう言って微笑む超絶イケメン将軍。まさかのこれが「夫」ですってよ。


「ああ……はい……頑張ります……とにかく死なないでね」

 その偽りの「夫」の笑顔が眩しくて目眩がしている私。「妻」というには明らかに分不相応な、身元不明な異世界人。


 だがここに、晴れて新たな夫婦が誕生したのだった。まじか。



「おめでとうお二人さん。いや君たちの結婚の証人になれて嬉しいよ、ふぉっふぉっふぉ」


 ああうん、アリガトウゴザイマス。ヨカッタデスネ。


 もう何も考えまい。あまり考えすぎてもきっとストレスでハゲるだけだ。やめとこう。


 まあでもほら、これで私はこの将軍に正々堂々張り付いて、死亡フラグを折ることは出来そうだから。

 きっと出来る。ここまでして出来なかったらとか、もう考えたくもない。


 今まで深い関係の彼氏さえもいたことのなかった私が、まさかのお付き合いゼロで結婚し、そして挙げ句の果てには清いままに未亡人とか、そんな事態は全力で避けたい。

 ちょっと必死になろう。いやちょっとじゃなくてこの上もなく。


 頑張れ私、平穏な自分の将来のために。無事離婚するその日まで……。


 今は晩秋。うまくすれば来年の春には無罪放免だろう。大丈夫、あと半年くらい乗り切ってみせる。きっと出来る……。



 魂を抜かれたまま教会を出たら、そこには立派な家紋付きのやたらと派手で豪華な馬車が停まっていた。

 そしてそれを私がぼんやりと「うお、豪華だなー」なんて眺めていたら、結婚したばかりの夫(仮)がその馬車のドアの前で私に手を差し出したのだった。


「はい?」


「どうぞ、わが妻。私の馬車だ。このまま軍の本部まで行く。国境を越える前に手配しておいた」


「はい?」



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