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聖女のはずが、どうやら乗っ取られました  作者: 吉高 花 (Hana)
第一章

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謁見3

 でも、本当に彼女が私と同じくらいに能力のある「聖女」だったなら、目の前の人間の顔の傷くらいさっさと治してしまえば良いのに。そしてそのお返しに協力を請えばいいのでは。少なくとも私だったらそうするのだけれど。

 家臣達の前でやれば良いパフォーマンスにもなるしね。


 それに傷ついた国民も、手下にやらせるより直接派手にまとめて癒やした方がパフォーマンス的にも人気取りの面でもいいのではないの?


 私の知っている彼女の性格だったらきっとそうすると思うのだけれど、もしやそれを言わないということは彼女自身には治すことが出来ないということなのか? だから「治療師」を集めてその元締めになることで、「聖女」の体面を保とうとしているのかもしれない?


 もしかして長引いていた外遊も、そのための「優秀な治療師」集めだったとか……?

 なにしろこの国に強力な「癒やし」を使える人間がいないことは、「聖女」探しの時に全て調査済みだろうから。


 そう思い至った時、やはり召喚された「先読みの聖女」は私だったんじゃないのかな、と思ったのだった。


 まあ……今となってはだからといって、ここで「聖女」扱いして欲しいとも全く思わないのだけれど。


 だってこの国の戦争って、どうやら侵略戦争らしいじゃないか。自国の領土を広げるために隣国へ戦争を「仕掛ける」というその精神が私には応援できないと思ってしまうから。


 それを今更「聖女」としてチヤホヤされてその戦争に加担させられるのは嫌だったし、そもそもここの人達にチヤホヤされてももはや全然嬉しくない。

 聖女ではないというだけで、あれだけ無造作に人を切り捨てることが出来るこの国と重鎮達を知ってしまったから。


 今となっては私は、「聖女」という肩書きが無くても私個人を尊重してくれるような場所にいたかった。たとえばガーランド治療院とか、最初にお世話になったあの辺境のロスト村とか。私が「聖女」ではなくてもたいていの人が温かかった。私はあんな場所に居場所が欲しい。



 私がベールの下でそんなことを考えていたら、今まで黙ってヒメの視線を受け流していたレックが突然ファーグロウの言葉で話し始めた。


「大変失礼ながら申し上げます。この老人と娘は今、私の部下でございます。私は二人を手放す気はありません。そして私はファーグロウの人間ですので、この国の為に働くことも出来ません。殿下も将来スパイ容疑がかかってもおかしくないような敵国の人間を、大切な『聖女』の近くに置くようなことには反対かと存じます」


「ファーグロウ……!」

 私たち三人以外の、どうやらファーグロウの言葉が分かる人たちが即座にざわついた。

 

 そうだねー、なにしろ国境沿いだったから、隣国の人間が紛れ込んでいてもおかしくはないよねー。ええ、私は全く気付かなかったけれど。でも全然疑っていなかった? 王宮のお偉方が? 本当に?


 そして実は彼の突然のこの国籍のカミングアウトは、レックからの「この潜入は終わり」の合図なのだった。


 私たちは事前に、それぞれの「もうここには用はない、とっとと逃げだすぜ」という時用の暗号をいくつか決めていたのだった。つまりはこの謁見の強制終了だ。ちなみに私はヒメに素性がバレたと思ったら「パニックを起こす」予定だったし、神父様がマズいと思うようなことが起これば「突然の持病の発作」予定だった。


 つまりはどうやらレックが何かの結論を出したようだ。そしてこの謁見を続けるのは得策ではないと思ったのだろう。


 思っていたより早いんだけれど、もういいのかな?


 まあそういうことなので、もちろん事態は私たちの予想通りの展開になる。

 ロワール王子が忌々しそうに言った。


「……わかった。さすがにファーグロウの人間を仲間にすることは出来ない。諦めよう。ただし敵国の人間だと判ってこのままこの王宮を無事に出れると思うなよ? 衛兵! この三人を牢へ!」


 はいまあそうなるよね。

 私、また罪人になっちゃったよ。

 どうも私とこの王宮とは相性がとことん悪いらしい。


 でもそのまま予定通りにすぐさま強行突破するのかと思いきや、当の暗号を発動したレックが意味深な目配せをしてくるものだから、大人しく捕まるレックに調子を合わせて私たち残りの二人も一緒に捕まったのだった。


 ん? なぜ?



 結局私たち、三人まとめて監禁されました。

 って、あれ、逃げないの?

 と聞いてみたら。


「もちろん逃げるよ。でもまだいいかな。今は向こうの出方を知りたい。ちょっといろいろ意外だったから」

 とのんびり椅子に座っているレック。


 そうなの? ふーん。一体何を期待しているのでしょうかね。


 でもそろそろこのレックという男、考え無しで行動する人ではないということが判ってきたから、きっと何か目的があるんだろう。

 とりあえず従う。ええ私は上下関係には忠実ですよ。雇用主には基本可能な範囲で従います。常にロロの居場所は確認するけどね。


 ちなみにオースティン神父も、


「ここは別に居心地は悪くないようだから、ワシは何にも文句はないの。しかもちょっとおもしろくなってきたみたいだし?」

 なんて言いながら悠々と寛いでいる。


 まあ確かに神父様の言うとおり、何故か待遇は悪くはなかった。


 これが神父様の「加護」スキルの恩恵なのか何なのかはわからないが、しかし結果として不潔で暗い牢にでも入れられるのかと覚悟したのに、連れていかれたのはどうやら貴族なんかが捕らえられた時に使われる座敷牢のようだった。部屋は広いし清潔だし調度もそれほど悪くない。

 てっきり湿気や虫と同居かと思ったからそこは嬉しい。


 でもなぜ?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ヒメってこの世界の人間の名前とかゲームみたいに表示されて見えるんでしたよね? もしかしてもうばれてる?
[一言] レックも正直会ったばかりなのに 何の検討もなくレックを信用して レックに振り回されて わざと敵地に行く理由は何だ? 地球でヒメにあれだけ利用されたくせに ワザワザ王宮に戻るのは何なんだ。 …
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