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追放1

 最初に見たあの「助けてくれませんか?」の表示は一体何だったのだろうか。

 もしかして、その後の状況的にあの時どうやら近くにいたであろうヒメあての表示だったのかしらん?

 てっきり私に向かって言っているのかと思ったのに。

 なのに私がうっかりそれに反応してしまったから巻き込まれたのかな。

 


 私は連日この世界にはこんなにいろいろなスキルがあるのね、と感心するくらいには様々なスキルを試されてはみたものの…………。


 悪かったわね! そんな目で見なくても出来ないものは出来ないの!

 生まれてこのかた出来た事なんてないんだよ! なのになんで非難する目で見られなければならないのか。


 どうやら人々の噂によると、めでたく召喚された『先読みの聖女』は王宮の奥であのイケメン王子につきっきりでお世話をされているらしい。そして素晴らしい神託を授けているそうな。

 

 いいなー良いものを食べていいお洋服を着てのんびりしているんだろうなー。


 私だって言えるんだけどな-。

 

「今は時期ではありません。半年待つのです。寒い冬の日に、突然事態は動くでしょう」

 とかなんとか。

 

 そう、冬のある日に、敵国の天才的な軍師でもある有名な将軍が死ぬのだ。そしてその将軍を倒せないがためにずっと劣勢だったこの国は、『先読みの聖女』がその将軍の死を予言したために戦力を温存出来て、しかもその将軍が死ぬ間際に立てた計画をもその『先読みの聖女』が見抜いたことで一気に効果的な攻撃を仕掛けることができて、その結果形勢を逆転して勝利へと進むことになる。まあゲームならではのご都合主義ですな。


 だってなにしろしつこいようだが、ゲームのメインはその敵将軍の死を視てしまって動揺する聖女と、それを慰めたり心配したりする若くて美しい王子や宰相子息、大魔術師たちや、敵国の作戦を断片的に視た聖女の話を聞いてその解析と相談に乗る将軍の息子とかとの恋愛だからね。

 

 しかしいいなあ、良い暮らしをしてイケメンに囲まれるの。

 

 まあみんな何かしら個性が強くてナルシスト王子ルートだけで私はお腹いっぱいになってしまったから、他の人ルートは途中で放り投げたんだけどね。ロリコンもヤンデレも筋肉馬鹿もオタクも、ぜんぜん萌えなかったわ。どうも個性強すぎな上にご都合主義が鼻についてしまってダメだった。

 

 たとえ逆ハーという状況になってみても、好みじゃ無ければただのウザい取り巻きに過ぎないということをあのゲームで私は学んだのだった。どうりであのゲーム、流行らなかったわけだ。


 

 だけど今、現実問題として考えるとこんな「お前、本当に一体何が出来るんだこの役立たずのただ飯食らいの無能」と言わんばかりの視線しか寄越さない人たちに囲まれるよりは、せめて顔だけでも見目麗しい人たちに囲まれていたいし、優しくされたいと思ってしまう。


 だから大魔術師様の、私の周囲までをも凍らせられそうな目線から逃れてちょうど王宮の奥の奥のそのまた奥の、でも王宮魔術師たちのいる部署からは一番近くの小さな庭に息抜きと休憩に出ていたときに、私は突然思いついたのだった。


 『先読みの聖女』、いっそ二人いても良くない?

 

 そりゃあゲームでは一人だったけど、実際に召喚されたのは二人だし?

 同じくらいの予言なら私も出来るよ?


 それに聖女っていうくらいだから癒やしの魔術なんだろう。それ、私も使えるかもしれなくないか?

 そういえば周りの人たちも聖女はあっちで私は聖女ではないと思っているせいか、癒やしの魔術だけはやってみろとはまだ言われていないのよね。


 でもそれまで散々様々な魔術を使わせようとさせられてきたお陰で、私は効果は出なくてもやり方だけは学んできていた。


 要は手をかざして念じろということだ。

 

 ただし毎回いちいち効果に応じた呪文を教えられたけれど、一体なんの意味があるのかもわからないからさっぱり覚えてはいない。でももし異世界から来た聖女ならきっと凄いチートなんだろうから、もしや呪文なんて無くてもいけるのでは?

 少なくとも呪文無しでも少しは効果が出るのでは?

 

 うん呪文なしでもきっといけるいける! 私は聖女、思い込め!


 そんな希望もとい願望をもって、いやむしろ少々自棄になって、私はせっかくだから実験してみようという気になったのだった。

 

 ええ全くの気まぐれですが。

 でも人生何でもやってみればいいのよ。少なくとも試すことに損はないだろう。なにしろ。

 

 こんな生活は、もう嫌だ!

 針のむしろ、つらい。


 早速私は誰もいない庭の隅にしゃがみ込んだ。

 なにしろここは王宮の魔術師たちがわんさかいるところ。そしてさすがにみなさんエリートなのでたいていプライドが高い。だから能力の劣った人間をあざ笑う輩も一部にはいて、そいつらに見つかってまた失敗を笑われるのは嫌だった。


 だからこういうことは、こっそりやるに限る。


 かくして私は庭に咲いていた一輪の花を、ごめんねと思いつつ手で折った。


 くったりと下を向くお花。


 その花にそっと手をかざして集中すると手のひらになにやら違和感を感じたので、今度はその違和感に集中しつつ元気になあれと念じてみる。


 最初はその違和感をどうすればいいのかわからなかったけれど、しばらくいろいろ頭の中でこねくり回していたら、ちょっとした拍子にその違和感がグラついた気がした。

 

 ん? 動いた。どうだ? こうか?


 あれこれ頭の中でこねくり回したイメージを、手を通して送ってみる。

 結局は折れた茎のイメージを心の中の手で真っ直ぐにして……違和感の元をこう、ブチッと。


 そう、その感じた違和感をブチッと引きちぎったら、なんと花の姿が戻ったのだった。

 くったりから、しゃっきりに。

 下を向いていた花はみるみる上を向いて、私が折る前の姿に見事に戻ったのだった。

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