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ガーランド治療院4

 それから私は、時間の空いた時にはいろいろな物に魔術を込めてみることにした。


 石、金属、木、花、家具、油他様々な食材。


 結果、魔術が込めやすい物と込め辛いものがあることがわかった。

 だいたいの傾向としては、長持ちするような堅い物ほど込め辛い。

 金属が一番魔術を込め辛くて、次に石、木という感じだ。

 こっそり自分の食事に元気が出る魔術をかけてみてから食べてみたら、なんだかとても元気になった。うん、こういう使い方は便利だね。


 もし同じ原理ならば例えば前の世界のお守りなんかに入っている木や紙なんかは比較的魔術や祈祷が込めやすくて、でもある程度長持ちしてずっと持っていられるちょうど良い媒体だったということか。へえ。


 じゃあ、じゃあさ、例えば元気になるような魔術を石に込めて、井戸に投げ込んでおいたら効くのかな? 石から魔術が染み出したりする? みんなが使う水に使ったらみんなが元気になる?


 うーん……でもどう考えても害はないよね?


 私は庭に出て、魔術が込めやすそうな石を一つ拾ってきた。

 最近は石によっても魔術が入りやすい物と入りにくいものがあることが分かってきたのだ。


 私は少し考えたあと、その石に「不調が治ーる」の魔術を込めてみたのだった。軽くね。

  

 一応ここで「元気になる」魔術にしなかったのは、その魔術だと昔飲んだドリンク剤みたいになるのではと思ったからだった。あれは飲んだ時には元気になって頑張れるけれど、効果が切れたときに一気にだるさが来て辛かった。この治療院では元気になっても、ここから離れたら辛くなるのは良くないかなと思って。


 そして最初は一応その石を、綺麗に洗って部屋の水差しに入れて自分で飲んでみた。

 まあほら私だったら、何か健康を害するような事態になったら自分で治せるしね、多分。

 いきなり気を失ったりしたらマズいけれど、まさか、ねえ……?


 結果は困るどころか、何やら結構元気になってしかも疲れにくくなったような気がするのだった。

 少々凝っていた首や肩も軽くなった。そして飲むのを止めても副作用らしいものもない。これなら腰痛に悩んでいる同僚とか、頭痛に困っていた先輩とかも少しは良くなるんじゃないかな? 知らないうちに不調が軽くなっていたら、みんな嬉しいよね?

 いいねえ、これで職場を快適に! みんな元気で生き生きと!


 そんな思いで治療院の敷地の真ん中にある、治療院専用の井戸に気軽に放り込んでみたんだけれど。

 

 


「アニス、君は一体何をしたのかな? ん? 正直に言ってごらん?」

 

 と、一見にこやかなオースティン神父に今、問い詰められているのはどうしたことか。


「ええっと……『不調が治る』という魔術をですね……石に入れて、井戸にこう、ポチャンとですね……」


 仕方が無いので目を泳がせつつも正直に言う私。

 きっとこの人の圧倒的な人生経験の前では、私がたとえ嘘を吐いても、バレる。なぜだかそんな予感がしたから。だいたいピンポイントで私を呼んで、このサルタナ院長のいる院長室に連行したあたりで多分もうおおかた見抜いているのだろう。


 普段はいかにも好々爺という感じでのほほんとしているのに、いざという時には眼光も鋭く動きも俊敏な人に豹変するのを知ってしまうと、ねえ……怖くて嘘なんてつけませんよ……。

 

 でもなんでそんな呆れた目で見られてしまっているのでしょうか……?


 確かに最近のガーランド治療院では妙に病気や傷の治りが早くて職員たちもみるみる元気になってしまって、なにやら魔法でもかかっているのではという噂がですね……ええまあ広まっていますけどね……そして今、私の背中に冷や汗が流れているわけですね……。


 私たちのやりとりを聞いていたサルタナ院長が困った顔をして言った。


「やはり水でしたか……。実はもう、どうやら水が特別なのではないかと言われ始めていましてね、その水を分けてくれと近隣の人達がここにやってくるようになって、それも人数が日に日に増えているのですよ。そろそろ治療院としての業務に差し支えが出始めています」


 あれ、なんか大ごとになっている……?


 院長が泣き笑いのような顔でさらに続けた。

「さらには遠方にもかかわらず、わざわざこの治療院に入院したいという患者さんが続々とやってくるようになりましてね。本来の近隣の患者さんたちにまで手が回らなくなりそうなんですよね」


 ああー……私の量産ポーションのお陰でせっかく少し楽に回せるようになってきていたお仕事が、またここに来て増えているということなのですね……。


「すみません……ちょっとした出来心で」

 思わず冷や汗をだらだらと垂らしながら謝る私。


「どうするかのう、サルタナ殿。今から井戸の底をさらうのは大変だし、今さらその魔術の効果を無くしてしまってはますます業務に差し障りが出るじゃろう。もういっそ水を小分けにして治療院の前で売って、その金で人を雇った方がいいのではないかの? きっと儲かるぞ? ふぉっふぉっふぉ」


 オースティン神父が久しぶりに商売人の顔になって言った。

 しかしサルタナ院長は根が善人で、そして真面目な人だった。


「しかし今まで無料で分けていた水を売るのか? それはちょっとうちの治療院としての評判が悪くなりそうだよ」

「じゃがもういっそ評判が少し落ちた方が楽になるんじゃないのかね」

「いやでもそれでは困っている人々を助けるというこの場所の目的が」


 と押し問答を始めてしまった。

 ただでさえ忙しいサルタナ院長の負担をどうやら私が増やしてしまったらしい。そんなつもりはなかったんだけれど、私はとても申し訳なくなってしまった。


「あの……」

 私が思わず声を出したら一斉に二人に振り向かれてちょっと怖かったよね。

 でも頑張って言う。


「あの、もしよかったら、もう一つ同じような石を作りましょうか? そして、誰でも自由に汲めるような場所にある井戸に入れれば、みんながそちらに行くということにはならないでしょうか」


 そうしたらみんなが嬉しくない?

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