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ガーランド治療院1

 このガーランド治療院はこの地域周辺では最大級の治療院で、いわば大病院だった。そして繁盛しているところの常で大変な人手不足らしい。


 私は早速次の日から、このガーランド治療院で働き始めた。

 この堅牢な石造りの大きな建物には、毎日たくさんの人が不調を訴えてやってくる。そしてその対応や診療、治療、必要によっては入院まで、たくさんの人達が働いて対応していた。


 そこの従業員は通える人は通いで、そうでない人は簡素な部屋を与えられて、賄い付きだ。そしてお給料はそこそこ、休みは交代で。

 いやあ身寄りの無い立場で衣食住が整うのは本当にありがたいですね。住み込み万歳。


 ……まあそんな好条件のはずが、なにしろ患者が多くて忙しく、休みなにそれ美味しいの? な状態ではあったけれど。


 でも最初は慣れないし、だけどできるだけ迷惑もかけたくないし、などと生まれ育った環境による民族的社畜根性のお陰でたいした不満も無く、頑張って何でもはいはい喜んでーと引き受けて一生懸命に働いていた結果。


 いつしか私は人手不足かつ最前線の看護業務からは外されて、裏方としてひたすら各種ポーションを作るようになったのだった。


 え? 看護が下手だから外された? そ、ソンナコトナイヨ? 誰しも得手不得手はあるし、初めてなら普通にちょっとした失敗くらいアルヨネ? 私だけじゃないよね……?

 不器用? そんな言葉はキライよ?


 まあ、やっぱり人は適材適所が一番効率がいいということよ。

 結局のところ私にとっては慣れない看護をするよりポーションを作ることに専念した方が楽だったし、全体に対する貢献度も高かった。


 なにしろ今までの治療用のポーションは主に多忙な院長が一人で作っていたらしく、忙しすぎて常に在庫不足でしかも品質的にも私の作ったポーションよりはいまひとつだったらしいから。


 そう、私の作るポーションの評判はとても良かったのだ。お陰でたくさんの患者さんが凄い勢いで治って行くので入院待ちの人数などは激減したとのこと。よきかなよきかな。


 どうやら今まではポーションが足りないので重症患者にしか使われず、軽症の人は普通に自然治癒を助ける手当てしか出来なかったらしい。それが軽症患者にも遠慮なくバシャバシャ使えるようになったので、楽になったと周りの人たちからもとても喜ばれたのだった。嬉しい。


 まあ、そのポーションを求めて来院する人数がどんどん増えているらしいのは……あー、そんなこともあるよね……?


 お陰様で私は毎日大量の小瓶に水を汲み、相変わらず気の抜けた調子で、


「お熱さがーる」

「痛いのとれーる」

「傷ふさがーる」

「よく眠れーる」


 と、一人ポーション作成室で小瓶の山にブツブツ言い聞かせる日々を送るようになったのだった。


 まあ仕事の大半は水の小分けなので、それさえ終われば比較的早くに終わってしまう。だから空いた時間には何か看護のお手伝いを、と最初は思ったりもしたのだけれど、その度になぜか「あなたはいいのよ~ゆっくり休んでて? あ、そこ触らないでね? ヒマならポーションもっと作って~」とやんわりと断られてしまうしね。


 なぜならこの治療院は大きい所なので専門知識のある経験豊富な人がたくさんいて、その人たちが効率よくフル回転で働いているのだ。うん、手伝おうとしても足手まといでしたね、私。


 でもまあそれならば、自分に与えられた仕事に集中するようにすればいいか。


 そして私は空き時間が出来るとちょくちょくポーション作成室のすぐ近くにある裏庭で、のんびりベンチに座っていることが多くなった。表で忙しく働いている人達を邪魔してはいけない。



 ……多分だけど。

 やってみないとわからないけれど、今このガーランド治療院に入院している数十人の人達くらいなら治せる気はしている。少なくとも部屋ごとなら確実に。

 この「治癒」関連のスキルをポーション作りで使えば使うほど私の頭も体もスキルに慣れて、どんどんスキルのレベルが上がっている実感があった。


 だからそれはきっと簡単に違いない。今なら。

 ちょっと入院している人達の部屋に行って、視える黒い煙たちをささっと払うだけで終わるだろう。


 もちろんその方が早い。そしてきっとみんな嬉しい。


 だけど。


 それは「聖女ここにあり」と高らかに宣言することでもあった。


「聖女」


 それは国の宝。

 あの教会からこの治療院に旅をする間にも、いろいろな話を聞いた。

 まああんなお薬みたいなポーションを売っていたら、どうしてもそんな話になるよね。


「聖女」とは、とっても貴重でかつ保護すべき国の財産。

 普通は見つかり次第王宮の奥深くで厳重に管理され守られるべき立場らしい。


 でもそれだけは絶対に、嫌。


 この国の王宮は、私にとってはもはや天敵をはじめとした敵の巣窟にしか思えない。

 なにが悲しくて私を殺そうとした女とその取り巻きたちのところに行かなければならないのか。

 そんな所に放り込まれたら、今度こそ確実に殺られるだろう。


 私、名前は変えても顔は変えていないのよ。

 でもきっと顔をどうにか変えたとしても、会話をしたらバレるだろうし。


 君子危うきに近寄らず。

 二度と王都になんか足を踏み入れてはいけない。

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このお話はオーバーラップfさんから

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