「とある侍女の私信」
いつもこのお話をお読みいただきありがとうございます。
この番外編は、「マンガUP!」でのコミカライズの連載の方でこのSSで語られている時期にさしかかった時にその裏話という位置づけで、前に活動報告の方に載せていた「とある侍女の話」を番外編の一つとして上げることにしたものです。
以前に読んだことのある方もいらっしゃるかとは思いますが、ご容赦ください。
親愛なる私の親友へ。
お手紙ありがとう。あなたが元気そうで嬉しいわ。
私も新しい職場で毎日元気に働いているわよ。
このお城に来ることが決まった時は、とっても嬉しかったしね。
だって、あのレクトール将軍よ?
もう美形ぞろいの王子様方の中でも、レクトール殿下は一、二を争うくらいの私好みの超美形なのだから、もうそのご尊顔を近くでお見掛けできるだけで、私みたいなこんな下っ端貴族のただの親戚の娘にしてみたら、それはそれは嬉しいことなのよ。
たまのどこかの王室公式行事に珍しく出席しているのを、ずうーーっと遠くから眺めるのとは全然距離が違う。
それにもし何かの間違いで「お手付き」になんてなったら……きゃあああぁぁ!
うっかりそんな妄想も捗るってものでしょう?
だけれど実際にお勤めし始めて間近に垣間見るようになったレクトール将軍は、どうにも真面目な堅物だった。
だから他にも私と同じような妄想、いや中には本気の野望を抱いていた侍女や使用人はたくさんいたのだけれど、その誰ひとりとして彼の関心を引ける人はいなかったの。
どんな使用人にもいつも笑顔で礼儀正しく接するけれど、常に一定の距離を保ってひたすら執務室にこもる仕事中毒な主人。女っ気全然なし!
だからそんな彼がしばらく出張で留守にしていた後に、やっとこのお城に帰ってきたと思ったらなんと「妻」を連れていたというのには、本当にみんながびっくり!
なにしろ突然よ、突然!
今まで恋人のコの字もなかった人が、しかも王族のくせに正式な婚約期間もすっ飛ばしていきなり結婚ですって!?
ありえない!
もうこの城の使用人の何人がそれを聞いて大泣きしたと思う?
彼の侍女だったエルエリトナなんて、発狂したかと思ったわよ。
彼女、自分の美貌とテクニックで、いつかはレクトール様を堕とすんだってギラギラしていたから、彼女は特にショックだったんでしょうね。
でもいつも自信家で人に命令してばかりいる気の強いエルエリトナが私はちょっと苦手だったから、ほんの少しだけ「いい気味」なんて思ったのは内緒よ?
だけどそう堂々と公言しても彼女ならもしかして、なんてみんなが思うくらいには綺麗な人だったから。
でもそんな彼女が必死にいろいろアピールしていても、当のレクトール将軍は彼女を見ることも、ましてや微笑むことも全くなかったの。
なのに、なのによ?
あのレクトール将軍が、奥様には嬉しそうに微笑みかけるのよ!
そりゃあもう、目じりが下がって嬉しそうなの! びっくりよね。
あ、奥様? 奥様は別に、普通の人、に、見える。
いや、いい人よ? 意地悪もしないし、お高くとまってもいないし、私たちを理不尽に怒ったりもしない。むしろちょっと、おどおどしているわね。
なんか、大丈夫? っていうくらいには気弱そうな人。どうもこういう城で使用人がいるような生活を知らなかったみたいなの。だから奥様の侍女になった子が毎日ぎゃーぎゃーうるさく注意していて、可哀想なくらいよ。
でもね。
その奥様が「聖女」なんだって、突然言われてもね……。
でもレクトール将軍が断言しているし、副将軍や他の幹部の人たちも認めてはいるのよ。
でも信じられる? 今まで知られていなかった「聖女」がいたなんて。しかも「おどおど」なのよ?
ちょっとイメージと違うわよねえ。って、実は私もずっと思ってた。
でもまあ、レクトール将軍と結婚したからには「奥様」なんだし?
そんなことを言ったら、あのエルエリトナが結婚していたら私たちは彼女に仕えないといけなかったんだから、それに比べたら全然マシよね?
少なくとも奥様は虐めをするような人じゃないから。
もうね、エルエリトナがひどかったのよ。自分が「奥様」になるって本気で思っていたもんだから、その座を奪った、憎いって言って、陰でこそこそとそりゃあもう思いつく限りの嫌がらせをしてね。
でもさすがに彼女が怖すぎて、誰も反対できないの。だってちょっとでも逆らった人は、みんな奥様相手の時以上にヒステリックにいじめ抜かれるんだから。もう、なんであんな人が上級使用人になれたのかしら。良いところの貴族の娘だから?
私、あの奥様にはたいして思い入れも何も無かったんだけれど、さすがにちょっと同情してしまったくらいよ。
奥様も、もうちょっとビシッと注意してもいいとは思ったんだけれど……まああの弱気だからねえ。そういうところだけは聖女っぽいというか、単にエルエリトナに気迫負けしているというか。
でもね、ある時私は見てしまったの。そんなエルエリトナをレクトール将軍がちらっと見て、そして眉をひそめたのを。
もちろんレクトール将軍の前では絶対にエルエリトナもそんな態度は見せないのよ?
だけれど、あれは私の見間違いなんかじゃない。
今までどんなにエルエリトナがアピールしても彼が一度もまともに彼女を見たことはなかったというのに、そのエルエリトナをちゃんと見た瞬間があの時というのはちょっと皮肉よね……。
それにそのあまり「聖女」らしくない奥様だったけれど、どうも本当に「聖女」だったみたいなの。
ついこの前なんだけど、なんとあの医務室長でさえ切断するしかなかったような大怪我を、一瞬で治したんですって!
一瞬よ、一瞬。しかも呪文もなしで!
さすがに頑なに疑っていた医務室長も認めたって話よ。
でも奥様はその時でもぜんぜん得意気にもならずに、怪我が治って喜んでいるのを、ただにこにこ嬉しそうに見ていたんですって。なんかそんなところは本当に「聖女」なんだなあって、私も思った。
すごいよね、うちのご主人様の奥様は、なんと「聖女」なのよ!
さすがにあのエルエリトナも、ちょっとまずいと思ったのか大人しくなったわよ。でも時すでに遅し。
何故か今までいろいろやっていたのを、この前ずらずらと証拠を並べ立てられて、あっという間にクビになっちゃった。
しょうがないから彼女は「玉の輿に乗る」って宣言して出てきたらしい実家に、一人で帰るしかなかったの。でもお城勤めを正式にクビになんてなっちゃったら、きっともう他でもお仕事なんて出来ないでしょうね。
でもそれからは私はとっても働きやすくなったわ。エルエリトナさえいなければ、ここはご主人夫婦も良い人たちだし、お給金も良いしね。
それにあのレクトール将軍がデレデレしているところをたまに見かけるのがおもしろくて。役得でしょ? この前も、なんだかとっても優しい目で奥様をこっそり見つめているのを見ちゃったわ。
でも最近は奥様と毎日お茶するためだけに執務室の隣の部屋を突貫で工事までして、ずっとそこに奥様を待機させているっていうんだからさすがに愛が重すぎる気もするけれど。
私、ちょっとその話を聞いた時は引いちゃったわよ。
よく奥様もべったりと毎日付き合ってあげられるわよね。もしかして、それも愛なのかしら?
でもいつも一緒にいる仲良さそうなお二人を見ていると、とっても微笑ましいの。
いつか私にもそういう人が現れるかしら?
またお手紙書くわね。
あなたもいつか素敵な女性に出会ったら、古い付き合いなんだからちゃんと私にも報告してちょうだいね? その時はもちろん力いっぱい祝福するから!
でも何でもめんどくさがって人付き合いも悪かったあなたが、まさかこんなに筆まめだったとは知らなかったわ。ちょっと書きすぎじゃない? でもそのお陰であなたや故郷の様子がわかって私は嬉しいからいいんだけれど。
だからまた故郷のことを教えてね。じゃあ、また。
あなたの親友より。




