11. 綺麗な妖精に出会いました
その日、ディノは朝からどこかに出かけていった。
守護をしっかりかけてゆくから、リーエンベルクから出ないようにと言い含められたネアは、どこか胸の底がちりつくような不安と、一人上手の残念さでやっと一人になれたぞという解放感で過ごしている。
(仮面の魔物対策に使えそうな品物の中で、ディノが手に入れられそうなもので、エーダリア様達が使えそうなものがあるかどうか、知り合いを訪ねて聞いてきてくれるということだったけれど……………)
とは言え昨日の今日なので、ディノも、早く事態を動かしてしまいたいと考えたのかもしれない。
それなら、ネアはこんな時間も無駄にせずに、美しいリーエンベルクを楽しもうではないか。
ふんすと胸を張ったネアは、屋内遭難をした際のことを考え、ディノから貰ったブレスレットの金庫に部屋の紅茶ポットと、ティーカップをそのまま入れてきた。
とても大雑把なやり口だが、これは窃盗ではなくあくまでも移動である。
部屋に帰ったらきちんとリリースするので、一時的な金庫所蔵を見逃して欲しい。
ウィームは、今日も雪だった。
昨日の粉雪とは違い、今日は少しだけ雪片が大きいようだ。
天井が高く長い廊下には窓の影が落ち、その中に、はらはらと散る雪影が揺れている。
しんと静まり返ったその中を進めば、窓辺のカーテンの織り模様から、小さな薔薇の花が咲いていることもあって、ネアにとっては廊下を歩くだけでも冒険なのだ。
瑞々しい薔薇の花を覗き込むと、ぎゅっと詰まった花びらの奥が可憐な薄ピンク色になっていて、ほろりと心が解ける。
(……………こうして、建物の中を散歩するだけでもこの世界の観光が出来てしまうなんて、物凄く贅沢なところだわ…………)
このリーエンベルクにおいて、かつて一国の王宮であった土地を守るのは、ほとんどが魔術の叡智だ。
実際に勤める人員がどれだけいるのか、ネアが目にしただけでは、ぼんやりとした影のような家事妖精を除けば騎士達を含めて五十人にも満たないだろう。
それで元はと言え、王宮という場所の管理と警備が回っているのだから、魔術の万能さには驚くしかない。
ふうっと窓に呼気を吹きかける。
すると、白く曇った窓がすぐに魔術に拭われて、硝子などないような透明さを取り戻した。
(私は、可動域が低くて普段は小さな魔術の動きが見えないけれど、こうしてみれば、魔術が動く様子を見ることも出来るんだ…………)
雪深いウィームでの室温の管理は魔術で行われるが、季節感を重視する為か、窓辺などは冬の冷気を感じさせるように敢えて魔術を緩めているらしい。
外の雪の温度を感じられるひんやりとした空気に、そんなリーエンベルクの拘りを大歓迎しているネアは、口元を綻ばせる。
この、冬の冴え冴えとした冷たさと、そんな季節を過ごす為に用意されるあたたかなものが、ネアは大好きだ。
だからこそ、ロイヤルブルーの絨毯を踏み、等間隔に並んだシャンデリアの下を歩く贅沢さには、唇の端を持ち上げてしまう。
エーダリアからは、個人の部屋以外のところであれば自由に歩いて構わないと聞き、領主館としてはそれでいいのだろうかと考えていたが、入ってはいけない部屋にはきちんと魔術の封じがなされているようだ。
また、誰もいないはずの広間から花びら混じりの風が吹いてきたり、川のせせらぎが聞こえたりと、招かれているようだけれど近付かないようにした部屋もある。
そしてネアは、リーエンベルクの廊下をふんふんとご機嫌で歩いていたところで、世にも美しい一人の妖精に出会ったのだった。
「……………まぁ、妖精さんです。…………ふぁ、なんて綺麗な妖精さんでしょう」
この位置からであれば、相手にも聞こえてしまうと知りながらも、思わずそう呟いてしまったも無理はない。
廊下に立っていたのは、鮮やかな孔雀色の長い髪を持つ妖精だ。
初めて見るその妖精は、長い髪を一本に縛り、背中の大きな羽は蜻蛉と蝶の間の繊細さで、青緑の領域の複雑に色味を変えた宝石を削いで作られたステンドグラスのよう。
ネアの声に振り返りこちらを見た瞳は、深く鮮やかな瑠璃色であった。
(どうしよう。…………物語に出てくるような、美しい妖精さんに出会ってしまった!)
表情はあまり変わらない方なのだが、内心は大混乱のネアは、どう対処すればいいのだろうとわたわたする。
目が合えば、しんと静まり返る深い森の中の静謐な湖が見えるような気がして、こちらを見る眼差しには理知的で物静かな彩りがあった。
清廉な美貌と魔物の造形とはまた違う華奢な体躯だが、しなやかな筋肉を思わせる優美さから、この男性は少しも脆弱には見えない。
勿論、こうして立っているからには一人の男性なのだが、すっかり万感の思いで立ち尽くしていたネアは、物語から抜け出てきたような姿に見惚れて目をきらきらさせていた。
「おや、……………あなたが、」
そう呟き、妖精は薄く微笑んだような気がする。
優しい微笑みは、決して心からのものではなく社交上の礼儀正しさであったが、そんな冷淡さもこの妖精にはよく似合う。
ネアは、こんなに綺麗なひとに嫌われたくはないと考え、教えて貰ったばかりのこの世界での淑女の礼を取ることにした。
「初めまして。来たばかりですので、慣れないご挨拶で申し訳ありません。…………そして、こちらでは名前がとても大切なものらしいので、ここで名乗ってしまっていいのかどうかも分からない無作法ものですが、こちらでお世話になっております」
「ヒルドと、申します。ネア様」
いざ挨拶をしようとしたところ、どこまでが正解なのか分からずにぐだぐだになったネアに対し、ヒルドと名乗ったその妖精は、艶やかな微笑みで優雅に挨拶をしてくれた。
その短い挨拶で許容範囲を説明してのけるのだから、とても有能な人なのだろう。
名乗ってもいいらしいし、名前も教えて貰ったぞと安堵したネアに、ヒルドが投げかけたのは、小さな子供に向けるような穏やかな年長者の眼差しだ。
「はい。ネアと申します。お名前を教えてくださって有難うございます、ヒルド様」
きっちり背中に畳まれた妖精の羽がどうしても気になってしまうが、心の奥底を暴かれるような清廉な瞳を見返すと、ネアは、自分からもあらためて名乗って挨拶を返した。
相手の階位が分からないので慎重に言葉を選んだが、目の前の妖精の装いは、位の高い文官の制服を機能性を求めて騎士服寄りにしたような雰囲気のものだ。
見る角度によっては黒にも見える瑠璃紺の服地がどこか禁欲的に見え、僅かに効かせた深みのある真紅がはっと目を引く。
柔らかな物腰ではあるものの、鍛え上げられた細剣のようなしなやかな強靭さを思わせる人物なので、ネアは、とても偉い人に違いないと判断したのだが、様付けで呼ばれたヒルドには、くすりと笑われてしまう。
「そのように緊張されずとも、国の歌乞いであるネア様の方が身分が高くなりますので、私の事は、どうかヒルドとお呼び下さい」
「………では、ヒルドさんとお呼びさせていただきますね。私のことをご存知だとは思わず、驚いてしまいました」
「まずは期間指定とは言え、あなたは、この国に属する歌乞いになられましたからね。実は、一時間程前にこちらに到着しまして、エーダリア様から契約についてのご報告をいただいたばかりなんですよ」
「………その仰りようだと、ヒルドさんは、ウィームの方ではないのでしょうか?」
「残念ながら」
ネアの声に微かな警戒が宿ったことに気付いたのか、ヒルドは少し不思議そうな目をする。
だがネアは、エーダリアが中央との間に確執を持っていたことも、この国の王は、ネアをエーダリアの婚約者にと考えていたことも聞いているのだ。
「ネア、ヒルドのことは警戒しなくていい。……………彼は、私の師だ」
そこに響いたのは、どこか苦笑交じりのエーダリアの声だった。
むむっと振り返ったネアは、廊下をこちらに歩いてくるエーダリアを見付けた。
いつもの護衛騎士の姿はなく、一人でいるらしい。
この国の魔術機関の長らしく、護衛がいなくても充分な程の階位を持つ魔術師なのだが、ネアからすると、どうしても無防備に見えてしまう。
もし何かがあったら、このウィーム領主を守らねばなるまいと、ネアはきりりとした。
「まぁ。ヒルドさんは、エーダリア様のお師匠様なのですか?」
「ええ。エーダリア様が王宮にいらした頃に、教師を務めさせていただきました。こちらに伺うのは久し振りですが、お元気そうで何よりです」
そう微笑んだヒルドに、なぜかエーダリアは周囲を見回している。
誰かの姿を探しているらしい。
「ヒルド、共にこちらに来た他の者達の姿が見えないようだが、いいのか?」
「彼らは、一足先に。私とあなたの事情を存じておりますから、上手く時間を稼いでくれるでしょう。……………ネア様?」
「……………その、言葉を選べずに率直な質問になってしまいますが、……………ヒルドさんは、エーダリア様を大事に思われている方なのですね」
ネアが言葉を飾らずにそう言ってしまうと、ヒルドは瑠璃色の涼やかな瞳を瞠り、そして小さく微笑んだ。
その、先程とは違い整えられたものではない微笑みは、はっとするほど美しくてまた目を奪われてしまう。
おまけにネアは、僅かに開いたその羽に触れたくてくらくらした。
リノアールでも妖精は見かけたが、こんなに美しい人はいなかったし、人型の妖精の羽を近くで見るような機会もなかったのだ。
「……………成程。エーダリア様の仰る通り、あなたはそのような方なのですか」
「そのような……………?」
「お考えの通り、私はこの方に寄り添い力になりたいと思っております。……………今は、もうお傍にはいられませんが。……………ですので、あなたがエーダリア様と良い関係になれそうだと聞き、ほっとしておりました」
「……………その、もし婚約者の件でしたら、それはお受け出来ないのですが……………」
「勿論、その事ではありませんよ。……………リーエンベルクは、防衛上の意味でもあまり人を入れられませんからね。あなたのように、外からいらっしゃった方が、この方の良い友人になって下さると嬉しいのですが」
そう微笑んだヒルドの目は、エーダリアの方を見るとほろりと優しく崩れる。
こんなに美しい妖精が、殆ど人のいない、がらんとした元王宮に暮らすウィーム最後の王族を案じる姿は、まるで家族を案じるような切なさでネアの心を揺さぶった。
今はもう傍にはいられないと話したヒルドは、どうしてエーダリアの傍を離れてしまったのだろう。
話しぶりでは自分の意思で離れた訳ではなさそうだったが、エーダリアに向ける眼差しからは、今もヒルドが教え子を大事に思っているのがひしひしと伝わってくる。
人ならざる者がこんなにも深い愛情を見せる姿を初めて見てしまえば、ネアは、すっかりこの妖精が好きになってしまった。
(ヒルドさんの言うように、私がずっとここにいて、エーダリア様ともっと仲良くなれればいいのだけれど……………)
でもここは物語の中で、ネア達はいずれここから帰るのだ。
全てが終わった後にネアが残りたいと言ったところで、契約の魔物のふりをしてくれているディノを失ったネアには、国の歌乞いを続けられるとは思えない。
歌乞いというものにおいては、力のある魔物を呼び寄せられるだけの可動域が必須であるらしく、ネアは本来、高位の魔物と契約が出来るような人間ではないのだ。
「……………ええ。そうなれるといいのですが」
「っ、ヒルド!」
「あなたは、もう少しご自身の身の回りのことを考えられた方がいい。今だけではなく、数年のことでもなく、この先の長い時間を、ここで生きてゆくのですから」
「……………お前を、」
「エーダリア様」
その時にヒルドが遮らなければ、エーダリアは、お前をここに呼ぶつもりだと言おうとしたような気がした。
ぴしりと遮られ切なげに歪んだ表情を、けれども一瞬で覆い隠し、エーダリアはすまなかったと小さく呟く。
「ヒルドさんは、とても綺麗な妖精さんですね。こんな方が傍にいて下さったら、お会いする度に幸せになってしまいます。……………エーダリア様、こんなに素敵なお師匠様がいらっしゃるのなら、逃がしては駄目ですよ!」
だからネアは、敢えて空気を読まずにそう言ってみた。
ぎょっとしたようにこちらを見たエーダリアの無防備な眼差しに、それでもと願って欲しいと思うのは、ネアにはそうやって手を伸ばせるものがないからだ。
そして、かつては世界で一番大好きな家族に囲まれていて、その全てを失ってしまった事があるからだ。
「……………ネア。ヒルドは、王都の第一王子の下で、通信妖精の任についているのだ」
「むむ。きっと、とてもお強いのでしょうね」
窘めるようにして教えてくれたエーダリアにネアがそう答えると、なぜかヒルドは僅かに驚いたような顔をする。
何に驚いたかのかなと首を傾げると、苦笑したヒルドから、あまりそう言われることはないのだと教えて貰った。
「儚いとはよく言われますが、そのように言う者は少ないですね」
「まぁ。綺麗さに心が打ちのめされてしまって、そちらの感想まで辿り着けないのかもしれませんね…………」
その後、短くあれこれと会話をし、ネアは、区切りのいいところでその場を離れた。
エーダリアがヒルドと過ごせる時間は限られたものだ。
その時間の邪魔をしたくなかったのだ。
歩きながら、ネアはいい気分で小さく弾んでしまう。
エーダリアがヒルドに対し、ネアへのいい印象を話してくれたのだろう。
その結果、あの綺麗な妖精に優しく微笑みかけて貰えたことが嬉しかったのだ。
しかし、その後もリーエンベルク内の散歩を続けた帰り道で、いい気分で鼻歌などを歌っていたら、王都へ戻ったというヒルドを転移の間まで見送って帰ってきたエーダリアに、もの凄い顔をして振り返られた。
「……………お前は、音痴だったのだな」
「……………エーダリア様?何を仰られているのですか?」
築き上げ始めた信頼関係を崩すような言葉を、真剣な顔で言うのはどういうつもりなのだろう。
ネアは、ぎりぎりと眉を寄せたが、なぜかエーダリアは呆然としたまま項垂れている。
「……………もしや、万象の魔物はそのような嗜好なのだろうか。……………いや、仮にも歌乞いの唱歌ではないか。音程を取れないとなると、術式は動くのか……………?」
「わ、私は音痴ではありません!母は歌劇場で歌うような仕事をしていましたが、私が家で歌っていると、可愛い歌声だねと褒めてくれたのですよ!!」
どうやらエーダリアは、あの仮面の魔物が話していたディノの名称について知っているようだ。
そんなことをちらりと思ったが、今はそれどころではない。
ネアは勿論、猛然と抗議したのだが、その騒ぎを聞きつけて顔を出した護衛騎士の契約の魔物が、恐ろしい一言をぽそりと呟いた。
「うん。僕もネアの歌声はだめ。具合悪くなっちゃう。シルハーンは大丈夫なのかな……………」
「……………ぎゅわ」
ゼノーシュという名前のその魔物は、淡い水色の髪はさらさらで、琥珀色の瞳はどきりとするぐらいに透明度が高い。
背は高いが手足はすらりとしていて、それこそ、妖精のように美しい魔物だ。
その、初めて挨拶以外の会話をした同僚からも容赦のない指摘をされてしまい、ネアは、膝から崩れ落ちそうになる。
であれば、これまでの人生でなかなかに悪くないと信じて自信満々に歌ってきたあの日々で、ネアの歌声を聴いた人々は何を思ったのだろう。
自分だけ知らずに周囲の人々を困惑させたのかと思うと、ネアはすっかり心がくしゃくしゃになってしまい、小さく首を横に振り続けた。
「わたしのうたごえは、なかなかのものです……………のはずです」
そう悲しく主張すれば、護衛騎士の魔物は困った顔をした。
物語のあわいの仕様なのか、どうしても記憶の中の輪郭がぼやけて見える上に名前をすぐに忘れてしまうのだが、ゼノーシュは、ディノ曰く見聞を司るものらしい。
便宜上の歌乞いであるネアには必要のない、歌乞いの魔物の対価として、護衛騎士のグラストからは食べ物を得ているのだそうだ。
歌乞いの対価なので、その行為が即ち歌乞いであるグラストの寿命を削るのだが、食いしん坊の魔物なのだろう。
「……………僕は無理」
きっぱりとそう言われてしまい、ネアはへにゃりと眉を下げた。
ゼノーシュは、荒ぶったネアに歌われてしまうといけないと思ったのか、そそくさと立ち去ってしまう。
絶望するネアと共に残されたエーダリアは、さすがに項垂れたまま立ち尽くすネアを放ってはおけなかったようで、おずおずといった様子で、会食堂で何かおやつでも食べるかと聞いてくれた。
無言で頷き、よろよろするネアを気遣うエーダリアに連れて行って貰った会食堂で、リーエンベルクの料理人が作ってくれた美味しい雪苺とクリームチーズのパラチンケンを食べていると、今度は、外出先から戻って来たディノが悲しい目をするではないか。
「……………ネアが浮気する」
「……………浮気ではなく、これは心を穏やかにする為の魔法の薬なのです……」
「何かあったのかい?」
「……………わたしのうたごえは、すばらしいのですよ」
「うん。ネアの歌声は可愛いよ」
すぐさまそう言ってくれた魔物に、ネアは内心首を傾げた。
ディノの前で歌ったことはないような気がするが、先程のようにうっかり鼻歌でも歌ってしまったのだろうか?
その場合、体調不良などは出なかったのだろうかと心配になったが、幸いにもいつも通りの美しい魔物なので、問題はなかったようだ。
そして、問題があったのは今度もまたエーダリアであった。
「……………白、……………虹色持ち。そ、そうか、…………万象なのだから、そうだな………そうだろうとも…………」
人がいいのか、落ち込むネアの付き添いで向かいの席に座っていたエーダリアは、戻って来たディノの姿を見るなり、小さく呻くと、べしゃりとテーブルに突っ伏してしまう。
「……………あ、」
うっかり、屋内なので擬態を解いてしまっていたのだろう。
ディノが瞳を瞠ってしまったという顔をしたが、その時にはもう、エーダリアは既にくしゃくしゃになった後だった。
ごつんと音がしたので、テーブルにおでこを打っていないかどうか、少し心配になる。
「エーダリア様が死んでしまいましたが、残念ながら今の私には、他の方を元気付けるだけの余力はないのです。美味しいパラチンケンを噛み締め、少しでも元気になるので精一杯ですから………」
「ご主人様……………」
かくして会食堂には、音痴ではない筈だと訴える人間と、机に突っ伏している人間に囲まれおろおろする魔物がいるばかりとなり、ネアは、ディノがお目当の知り合いとやらに会えたのかどうかをすっかり聞きそびれてしまった。
なお、こちらについては忘れずに尋ねたところ、ディノは万象を司る魔物であるらしい。
アルテアやゼノーシュが呼ぶ、シルハーンという呼称は、その万象を示す呼び名なのだそうだ。
ネアは、万象がどんな階位にある魔物なのかを知りたかったが、本日の驚愕の事実はもうお腹いっぱいだと考え、怠惰な人間らしくそちらは先延ばしにしたのだった。