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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第十一章 『恋のほのお』著・ 桃山城ボブ彦
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西の古書店より愛を込めて

バストさんが東京に遊びにきてくれました^^ 今回作品で紹介した恋のほのお。こちらの舞台となった場所のお菓子。『おかき巻き』あまじょっぱいお菓子で実に美味しかったですよぅ!

是非是非、東京のオススメのごま卵を持って帰って頂きたいと思います!

「あれが甲子園っすよ!」

「へぇ……ホントだ! こんな街中にあるんですねぇ」

「時間があればもっとゆっくり紹介できてんけどな。すまんなぁ」



 始発に乗るという早起きをして新大阪からではなく新神戸から東京に変えるプランをバストが提案した。それであれば少しばかり電車からの風景ではあるが、『恋のほのお 著・桃山城ボブ彦』の聖地巡礼が出来るのではないかとの粋なもの。

 さすがに始発だけあって、客はポツポツいる程度、秋文が寒くないようにアヌはロングマフラーをぐるぐると巻いてアヌとバストの二人で挟まれている秋文。



「ワシ等あったかいやろ? 体温だけは高いからなぁ! 風邪ひかんようにぬくくせなあかんで!」



 秋文は疑問に思っていた事をどうせなので聞こうかと思っていた。それはシアとアヌはもう言葉通りバリバリにウエストな言葉を使うのに、何故バストは実に標準の言葉なのか?



「ねぇ、なんでバストさんはアヌさんやシアさんと違って僕みたいな話し方なんですか?」



 バストはぼーっとした目で頭を掻いてるとアヌがバシンとバストの頭を叩いた。



「こいつはシティーボーイ気取りやねん! あっ! みてみぃ秋文君。灘五郷言うてな? 日本一の酒処なんやで! 秋文君が大人になったらオッサンになったワシ等と日本酒のもうな?」



 宮水という無味無臭、そして純度の異常に高い水。そして三田米、奇跡の組み合わせが日本一の酒を生み出したのだろう。水と言えば自動販売機やコンビニ、スーパーでよく見かけるアサヒのウィルキンソンもまた元々は『恋のほのお 著・桃山城ボブ彦』の舞台となった西宮の水である事はあまり知られていない。

 電車は神戸に入り、冗談ばかり言っていたアヌが真剣な顔で独り言を話し出す。



「ここ、好きやなぁ。『目覚めて布団から起き上がっても夢が続くのかもしれないのだ。なのに、喜びの前に怯えがやってくる』ってな。ワシもそうや。楽しい事してても嬉しい事があってもいつかそれが終わる。何故かそっちばかり考えてまうねんな」



 波多野が恵子と何処かに行くという喜ばしい事にえも知れぬ怯えを感じる瞬間。それは大人になればなる程感じるものなのかもしれない。

 そして秋文は秋文で波多野の父のセリフを読んで赤くなる。恋は盲目であるという事、今しかない時間で悔いがないように、思うように動けと、秋文もまた東京の古書の街に住まう可憐な少女。

 彼女に恋している自分。

 そして自分もまた波多野と同じようにただ彼女の隣にいて物語の説明をただただ聞ければいいと思っていた。



「秋文君ついたで」 



 神戸三宮、珈琲・喫茶店発祥の地。

 この事を秋文が知っていればセシャトの為にと珈琲豆を買いあさったかもしれないが、時間は午前6時、お店が開いているわけはなかった。



「ほらみてみ! ここをな波多野とおケイはんが歩いたんや。で、あのセンター街にはコンバースってスニーカーあるやろ? あの聖地があんねん」



 神戸という街は、関西でも実に異色の空気を誇る。大阪と京都がいがみ合っている中我関せずで高級志向を好む。



「もうちょい時間があったら、デコレーションケーキでも食べて石臼で挽いた珈琲飲むねんけどな……あーあ、もうお別れやのぉ」



 神戸三宮から新幹線に乗る新神戸までは歩いてすぐなのだ。秋文は新神戸駅の前でアヌにぺこりとお辞儀をした。



「アヌさん色々お世話になりました。またこっちに遊びに来たら色々教えてくださいね!」

「おうよ。次はユニバにいこな? ハロウィンの時期にコスプレして練り歩こうや!」



 親指を立てて見せるアヌ。秋文が瞬きをした時、アヌの姿は何処にもなかった。



「あれ? アヌさん」



 見渡すと遠くを黒い犬が駆けていく背中を見つける。秋文が不思議そうにしているとバストが秋文の手を握る。



「じゃあ東京に帰りましょうか」

「はい」



 新幹線を待っている間にバストは駅弁を二つ買ってきた。それを秋文に渡しながら聞く。



「肉めし、うまいっすよ。そういえばなんすけど、秋文さんは『性善説』と『性悪説』どっちだと思いますか?」



 人は生まれる時は悪なのか? それとも生まれた時は善なのか?肉めしをふたりでもふもふと食べながら秋文は答えた。



「多分、どちらでもないと思います」



 人は善悪を持って生まれ、そして死んでいく。恐らくはそれが人間だろうと十二歳の秋文はは思っていた。バストは秋文の口元についた米粒をとってから自分の弁当を食べる。



「男の嫉妬は恥ずかしいけど、健気なもんすね」



 これは男性だけではないかもしれない。自分の誕生日はクッキーの菓子箱で、別の友人にはそこそこの金額を出し合ったプレゼントをあげようと言われた日には殺意が湧くかもしれない。



「バストさんも嫉妬する事ってあるんですか?」



 バストは上品に肉めしを食べ終わるとこれまた綺麗に箱を元の状態にしてビニール袋の中に入れた。



「ありますよ。毎日してます」



 信じられなかった。この完璧とも思える男が何に嫉妬をするのか……それが知りたいという顔をしているとバストは言う。



「新幹線きますね。とりあえず乗りましょうか」



 秋文の荷物を持って指定席に座る。秋文を窓側に座らせてここでも秋文を完全に守る態勢を取る。



「何かお弁当たべますか?」



 先ほど食べたばかりなのに耳を疑うバストの発言に秋文は大丈夫である事を返す。バストは車内販売の女性に弁当を五個頼む。バストに見とれながら車内販売の女性はわざわざバストの手を握っておつりを返した。一つ目の弁当をもふもふ食べだすバスト、その食べ方の綺麗な事にしばらく秋文は見とれていた。一つ目の弁当を食べ終えてバストは秋文の方を向く。



「『恋のほのお 著・桃山城ボブ彦』って実際、読書をする気で読まないと苦痛っすよね。秋文さんは面白かったっすか?」



 この作品は、小説家になろうにおいて小説の体を持つ珍しい小説であると言える。これ程までに情景、心情を目で見えるように書かれる作品ははっきり言って少ない。

 それ故、Web小説として読む場合、重すぎる。

 見たくないもの、知りたくない事、汚い事、辛い事、そんな負の顔を隠そうともせずに見事に書き出されている。



「はい、面白かったです。なんだろう、多分僕は絶対に見ない邦画の作品みたいで、それに後悔している波多野さんを見て胸がきゅっとなりました」



 二つ目の弁当を食べながらバストは秋文を見つめて固まる。



「かなわねぇっすね。また一つ嫉妬したっすよ。自分は古今東西、あらゆるWeb小説に嫉妬してます。そしてシア店長に嫉妬して、アヌさんに嫉妬して、ヘカちゃんに嫉妬して、トトさんに嫉妬して、秋文さんの大好きなセシャトさんにも嫉妬してます。そして、それ以上に自分は全ての作品と皆さんに恋してます」



 眠そうな顔で、バストは恥ずかしがる事もなくさらりとそんな事を言ってしまう。それはなんだか秋文の方が恥ずかしくなってきた。



「ね、ねぇねぇバストさん。おケイさんが神戸は外国が近いってどういう事ですか?」

「東京なら横浜、神戸にも中華街があるんすよ。そして神戸外国人居留地って場所に海外の人が住んでたんす。最近流行りのスマホアプリ『FGO』の元々のゲーム『フェイトスティナイト』の舞台も神戸なんすよ」



 バストの豆知識に秋文はへぇとただただ相槌を打つ。話を聞けば聞く程、もっと古書店『おべりすく』の人たちと一緒にいたいなと思っていた。

『恋のほのお 著・桃山城ボブ彦』という作品、本当に秋文にとっては遠い過去の物語だった。それは異世界転生の物語よりも遠く、そしてなんとも心にいくつか穴をあけられたような気持ちになった。

 いつのまにかバストはあれだけ買った駅弁の最後の一個に手をつけていた。こんなに食べて太らないのかと思うバストのウェストは括れ、付きすぎていない自然な筋肉はある意味色気を感じる。



「ねぇ、バストさん。バストさんは恋人になりたい女の子っているんですか?」



 それにバストは残りの駅弁を平らげてから秋文に言う。



「どうなんすかね? 分からないです。だから恋に溺れる人も狂う人の気持ちもあんまり分からないんすよ」



 秋文はほっとした。もし、バストがセシャトさんの名前を出したら勝ち目がない。そして秋文は恥を承知でもう一つ聞く。



「ど、どうすればバストさんみたいにカッコよくなれますか?」



 バストは眠そうな表情で秋文と見つめ合う。そしてゆっくりと首をかしげると人差し指で秋文の鼻を押した。



「なんですか? くすぐったいですよ」



 バストは止めない。これでもか、というくらい秋文の鼻の頭を押す。一体なんなのかと秋文はバストを見ると、表情は変わらないが、少しだけ顔が紅潮していた。

 そう、バストは照れているのだ。

 いきなりの出来事と秋文の発言に……そしてどうしたらいいか分からない気持ちを秋文の鼻の頭を押すという謎の行為に昇華させた。

 二人がじゃれ合っている時についに新幹線は秋文の住む東京に到着した。

 新幹線から降りると、バストは秋文の荷物を秋文に渡してくれる。そしてもう一つ紙袋を秋文に手渡した。



「これは?」

「シア店長から、何故かお伊勢さんの『赤福』をアヌさんから京都の『生八つ橋』、そして自分からは西宮名物観光堂の『おかき巻き』っす」



 三人が自分のベストオブお土産を選んだ。秋文はそれを受け取るとぽろぽろ泣き出した。古書店『ふしぎのくに』とは違った『おべりすく』の人々と過ごした日々。兄が二人、姉が一人増えたようで明日からまた普通の日々が始まる事に秋文は寂しさに涙ががこみあげて来た。声をあげて泣きそうになった秋文をバストが優しく抱きしめる。

 背中をぽんぽんと叩いてくれて秋文はゆっくりと落ち着いて行った。



「またいつでも会えるっすよ」



 バストと手を繋いで秋文が帰る方面、東京メトロの乗り場へと向かう。バストは山手線に乗るのでここでお別れ、改札で秋文に手を振って送り出すバスト。

 駅構内には人で一杯、すぐにバストが見えなくなった。秋文は一人になるとまた寂しくなってくる。

『恋のほのお 著・桃山城ボブ彦』で秋文が学び成長した事。

 辛い事も悲しい事も汚い事も全部自分だという事。あんな情けなくて、カッコいい大学生に自分は果たしてなれるのかと、一人では何もできない自分では到底無理だ。なんて下向きな事を考えたその時。

 見たこともない黒い獣が駆けてくる。



「えっ? なになに?」



 獣は自分の鼻を秋文の鼻にぴたりとつけ、そして颯爽と去って行く。バストとふざけていた時の事を思い出して秋文はクスクスと笑う。

 少し、何処か座れるところで『恋のほのお 著・桃山城ボブ彦』を読み返そうかなと秋文は立ち上がり、そして前を見て歩き出した。

 ほんの少し、秋文が大人になった瞬間。

 そして同時に東京駅に猛獣ラーテルが出たという小さなニュースがしばらく報道された。

さて、どうして紹介が終わる時はこんなにも物悲しい気持ちになるんでしょう?

『恋のほのお 著・桃山城ボブ彦』本作はラノベタイプの小説を書かれる方程読んで頂きたいですねぇ^^

小説家としてのレベルは恐らくプロと言っても過言ではない本作。

当方も大変勉強になり、楽しませて頂きました!! 小説家になろうの未来をこういった小説が担っているのかもしれませんね! まだ読まれていない方は是非!

名残惜しいですが、本日をもって一旦『恋のほのお 著・桃山城ボブ彦』の紹介に幕を下ろさせて頂きたいと思います!

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