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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第十一章 『恋のほのお』著・ 桃山城ボブ彦
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吾妻多英という結果に迫るブラコン

紅白Web小説合戦の作品がほぼ出そろいました。現在こちらの読み込みを開始しています。

これらにはたしかに「ほのお」が宿っていますよぅ!

来月、楽しみですねぇ!

 古書店『おべりすく』に戻って来ると、アヌが走って出迎える。秋文の顔や身体をぺたぺた触って「怪我してへんかー」と過保護な父親のように振る舞った。



「アヌ、何してるん? ほんまに気持ち悪いなぁ、今日は柚子湯や! 風呂沸かしてるんやろな?」



 敬礼するとアヌは終えている事を告げる。ならええけどとシアはカウンターに座り仕事を始めた。



「ほな、母屋で『恋のほのお 著・桃山城ボブ彦』よもなぁ!」

「はい!」



 アヌは秋文を見てデレデレしている様子にシアはちょっと不安になってスマホを取り出すとあるところに電話をした。

 母屋にはアヌが買ってきたであろう古今東西の大阪のお菓子が並んでいた。そしてその中には中華饅頭も見られた。



「551があるときーってな! この肉まん、ほんまに美味いから食べてってやぁ!」



 このお土産を沢山用意してある。これはアヌが秋文の為、そして作品同化をかけている。



「尋常じゃないお人よし。これってワシ等、古書店『おべりすく』や古書店『ふしぎのくに』の人間もそうかもしれんな?」



 秋文はこれに関してはアヌの言っている事は間違いないなと思っていた。東西古書店の人々は物語、それもWeb小説を求む人々に関して信じられないくらい寄り添ってくれる。何の見返りも求めるわけでもなく、それが彼らの使命であるから……それは尋常じゃないお人よしなんだろう。



「でも、僕はそのお人よしな皆さんのお陰で色んな物語に出会えました。今アヌさんと『恋のほのお 著・桃山城ボブ彦』を読めているのもその奇跡だと思います」



 アヌは目を瞑るとその愛らしい秋文に抱きつこうとしてがっと腕を受け止められる。それを受け止めた人物は眠たそうなイケメン。



「店長に呼び出されたんすけど、アヌさんホントに目覚めちゃったんすか?」



 秋文も少しだけ憧れているバストの登場にアヌは我に返るとバストを見つめて口をとがらせる。



「なんやねんばっすん! その目覚めたってのは?」

「いや、店長がアヌさんがショタ属性に目覚めたから理性を失ったら殺してくださいって頼まれたので」



 アヌはわなわなと震える。確かに秋文は可愛い。目に入れても痛くない程度に、だがそれは如何わしい意味ではなく父性的なものであり、もっと高貴な感情のハズなのだ。



「ほんまに己らは気悪いやっちゃのー! 飲まなやってられんわ! 付き合えばっすん、秋文君」



 そう言って母屋の冷蔵庫からアヌは緑色のラベルのビールを二本、そしてラムネを持って戻って来る。



「公園のオマージュっすか?」

「チッ、けったいな奴やで。せやな! 秋文君ならわかるやろうけど、この辺りから波多野クンと肩を並べるレギュラーから石堂クンは降りる。中々いいキャラだっただけに惜しいけど、石堂クンを十分にカバーできる素晴らしいヒロイン多恵ちゃんのターンやな! やったね多英ちゃん出番が増え……もがっ!」



 有名な台詞をもじって言うが、本当にこれこそ秋文に意味を理解させてはいけない為、バストが口をふさぐ。



「文章で説明されている通り、竹を割ったようなこの女の子の魅力と強烈な印象は凄いっすね! 石堂、おケイさんの二人と対等以上のキャラクターをよく造形したもんす。人間関係の問題は第三者の方がよく物事が見えるもんなんすよね」



 吾妻多英は淡々と語る。主人公波多野とその取り巻きのについて、そして波多野の問題点について、それは分かってても触れないようにしていた逆鱗。

 あるいは急所。

 読者としては彼女なら終わらせてくれるんじゃないかという淡い期待を持ってしまうくらいに彼女は容赦がない。

 アヌはたかだかハイネケン一本で顔を真っ赤に染める。そしてバストに抱き着くというウザ絡みを見せた。



「ばっすん! この作品、サッポロビール押しやけどこの時代は麒麟ラガー一強やったんちゃうか? 日本人とアメリカ人は世界でも珍しいエールビールやなくてラガーのが好きやから、どえらいはまったんやでぇ……」



 バストは渡されていたハイネケンの王冠を指で飛ばして開ける。そして瓶の口にそのままつけてグビグビと飲む。バストは自らお酒を飲むという事をしない。



「まぁ、店長もエールを冷蔵庫に入れてますからね」



 最近では日本もエールの方が人気がある。プレミアムモルツなどがその代表格だろう。詳しく説明するとお店で売られているビールはエールでもラガーとも違っているのだが、ホップが強くのど越しのいいラガー、癖が強く苦みが少ないエール、その程度で考えてもらえばいい。

 ちなみにサッポロビールもラガービールであり、歴史は日本でも相当古い。



「多分、多英さんは女の子だからビリビリしすぎる麒麟よりサッポロなんじゃねーすか?」



 この多英さん、煙草を吸って公園でビールを煽る、中々男前な女の子である。バストの説明を聞いてか聞かずかアヌから寝息が聞こえて来た。

 仮眠所の毛布をアヌにかけるとバストはパソコンの画面を見ながら代わりに話し出した。



「吾妻多英さん、これは物語における何か分かるっすか?」

「主人公と物語を助けてくれる名前のある脇役?」



 これはセシャトに初めて教えてもらった登場人物構成におけるもっとも汎用性の効くキャラクターであるが、バストは首を横に振った。



「を兼ねてるヒロインっす。彼女は、波多野君の過去話をつまらない。飽きていると言ってのけてますよね? この子は波多野君を奪い去る全ての闇を払うように、言葉に凄い力を持ってます。だから自分達読者は彼女に期待してしまうんですよね」



 ちびちびと舐めるようにハイネケンを飲むバスト、秋文は作品考察の事もそうだが、腰掛けてビールを舐めるように飲むバストにカッコいい。大人のお兄さんだという憧れを抱かさせる。



「これって、もう忘れようよって言ってるんですか?」

「どうすかね? じゃあ秋文さんは、自分の好きな女の子が違う男の子の話ばっかりしてきたらどう思うっすか? その男の子とはどう頑張っても恋人にはなれないのに」



 部屋の中だと言うのに秋文は一迅の風が吹き抜けたように感じた。そしてその気持ちを秋文は理解した。そうだ。つまらない、そして飽き飽きする。

 一言で言うと、だからどうしたいの? という事なのだろう。



「多英さんは、それを『明日のジョー』に出てくる力石さんに例えてます。知ってますか?」



 秋文は知らないと顔を横にふるので抓むように持っていたハイネケンをごくんと読みほしてバストはその瓶をテーブルに置いた。



「『明日のジョー』は矢吹丈って悪ガキがプロボクサーになって灰になるまでの話です。そこで永遠のライバルとして同じ刑務所で一緒だった力石って巨漢とボクシングで戦うんすよ。あまりの人気で漫画のキャラクターなのに葬式が行われたそうっすね」



『恋のほのお 著・桃山城ボブ彦』本作のタイトルでもある『恋のほのお』という単語がここでようやく登場する。

 力石にはほのおがあったという多英。階級が違う為、命を削りながら減量し幽鬼のような姿でジョーの前に立ちふさがった彼には確かにほのおが宿っていたのかもしれない。

 だが、これは秋文には少々分からない表現だったかもしれない。

 さて、この先を小学生に読ませるべきか、否かとバストは考える。波多野ではないが、決めかねる事がある時はアルコールの力を借りたいと思いつつ辞めた。



「そりゃフェアじゃねーすよね。秋文さん、これ以降は……」

「僕が傷つくかもしれない内容が待ってるんですよね!」



 秋文の話は聞いていた。凄い小学生がいると……アヌじゃないが、バストも心が高揚する感覚を覚えた。


(そりゃセシャトさんのお気に入りになるわけっすね)


「多英さんは、それなりの地獄を見てきてるっす。いつも失う物は男より、女の子の方が多いんすよ……でも大学生でこの悟り方、驚きっすね」



 吾妻多英という女は転んでもただでは起きない。彼女は自分の持つありとあらゆる武器を持って捩れた人生を無理やり順路に戻した。

 学部の選び方も実に合理的、そして彼女は波多野に自分の理想を見ていたのだと暴露する。



「でも会ってみると、理想には程遠い人だったって思ったんだよね」

「そうっすね。至って普通、そして自分とは真逆の人生を送った男の子だったというのは喜劇か何かに思えたことでしょうね」



 もう少し、波多野が多英のように合理的にかつ、理性を抑えずに行動したらその未来は違っていただろうとそう彼女は言う。

 これは多英が言うからこそ重い言葉であり、納得できる程の説得力がある。なんせ、彼女は一旦終わったのだ。



「カッコいいです吾妻さん」

「そうっすね。アヌさんならおいかけてナンパして、それで嫌われるオチでしょうか?」



 珍しくバストがぐぅぐぅとイビキをかきながら寝ているアヌを見て冗談を言った。秋文はそんなバストの言葉や仕草にですら照れるくらいカッコいいと思ってしまう。



「秋文さんは好きな子ができたら、後悔しないように『好き』という事を伝えるんすよ! それは本当に素晴らしい事です。明日、自分とアヌさんでこの物語の聖地である西宮に連れて行ってあげましょう。甲子園球場なんか見たくねーすか?」

「見たい!」



 野球ファンでも特にないが、阪神タイガースのキャップをかぶってアヌやバスト、秋文は兄弟はいないが、お兄ちゃんという人がいたとしたら彼らのような人々なんだろと思った。

 その時、秋文のスマホが鳴り響く。

 ルルルルルルル。



「はい! あっ、お母さん。うん、すっごく楽しいよ」



 母からの電話、電話の内容を聞いて段々秋文の表情は暗くなっていく。それにバストは嫌な予感を覚える。



「バストさん、僕。明日東京に帰らないといけなくなっちゃった」

『恋のほのお 著・桃山城ボブ彦』におけるもう一人の主人公と言ってもよいかもしれません。

吾妻多英さんを突き詰め、落とし込んでいくと恐らく一月はかかるかもしれませんね^^

非常に魅力的なキャラクターが多い中、単独で純文学一冊できそうなストーリーを持つ彼女。

一緒にそんな彼女を読み解いてみませんか?

次回、11月紹介作品 最終回。『西の古書店より愛を込めて』

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