恋は盲目である事を証明できますか?
寒いです! 暖冬というお話を聞きましたが、温泉から出られなくなりましたよぅ!
ふふふのふ^^ 温泉にお盆を浮かべて、甘いココアとケーキなんかを食べてみたいですねぇ!
神様にお願いして、みんなで温泉旅行もよさそうですね^^
古書店『おべりすく』に帰ってきてからも秋文の心はここにあらず。衝撃が強すぎたようでふらふらと舟を漕いでいた。
そんな秋文を見てぺろりと舌を出すシア。
「てへぺろやで! ほんま堪忍な?」
恐らく文字は頭に入っていないのだが、秋文は『恋のほのお 著・桃山城ボブ彦』を目で追っている。
「石堂君はええこといいますねぇ! 演奏をしきる事が大事やって、それはWeb小説にもいえるんですよ」
「えっ?」
さすがはシア、すぐに秋文の気持ちを掴む。それは一体どういう事なのかという表情をする秋文はシアの顔を見てまた少し恥ずかしがる。シアは自分の泣きホクロをちょんと触ると話し出した。
「どんなにつまらない作品でもしまいまで書ききった小説は作品と言えるやろうね。片や途中で投げ出した物はどんだけ面白くてもそれまで作品ではないねんな。失敗しても演奏しきったらそれは音楽で途中でやめたら騒音なんよ」
学校でも最後までやりきりなさいと教わっていた。学校教育が正しいかは定かではないが、大人になるにつれて諦めるという事は多くなる。作品も途中で辞めてしまう作家も数多くいる。一度自分が生み出した作品、生きるも死ぬも最期まで面倒をみてあげると何か違う顔を出すかもしれない。
「そっか……そうだよね! シアさん凄いや」
女の子みたいな少年秋文。親御さんの教育の賜物だろうなとシアはほほ笑む。セシャトさんのお気に入りであるというのもなんとなく理解できた。
「秋文君はワックスとかはまだつけへんよな?」
「ワックスですか?」
「この作品に『バイタリス』ってできますやろ? これポマードって言ってこの当時の男の子がカッコつけるのにベタベタにつけとったらしいで……あと、口裂け女って怪人がおってな。それの弱点でもあるんや。この作品の時代から十年後くらいにえらい話題になってなぁ」
シアが語る口裂け女の話に秋文は心底怖そうな顔をする。そこでシアは秋文の手にぽんと飴玉をのせた。
「べっこう飴です。それあげたら口裂け女も気分ようして帰っていきますて」
「も、もし帰っていかなかったらどうしたらいいんです?」
それを聞いてシアは猛禽類のような瞳で秋文を見つめ、秋文はごくりと喉を鳴らす。
「そんな言う事聞かへん人は、このシア姐さんがしめあげたるさかい安心してください」
ふふふと笑うシアは本当に化物もしめてしまいそうで秋文も安心して笑った。
「シアさん、石堂さんってたまにカッコつけみたいな台詞を言いますよね?」
痛い台詞、歯の浮くような演技がかったセリフをこのキャラクターは言う、今は恥ずかしくて言わなくなったが、この時代の男の子はいい意味でカッコつけなのである。自分がカッコいいと思う事を貫くスピリッツのようなものがあったのだろう。
「でも、カッコええやろ? 石堂」
そう、石堂はカッコいい。一件ちゃらんぽらんなザ・関西人男子だが、一本筋を通し、それでいて誰よりも大人にその場の事を考えている。
そして、どうやったらモテるかという事にも抜かりがない。
「お助けのモブキャラだ!」
セシャトに教わった、物語を展開するにあたって最強の脇役である。そしてシアに言われた通り、石堂はカッコいいと秋文は思っていた。
「秋文君は、この作品によう似とる漫画も貸してあげましょか? 『坂道のアポロン 著・小玉ユキ 小学館』文章だけでわからへん昭和の空気はこれ読むとええで」
ドラマにもアニメにもなった大人気作である。どちらかといえばこの『恋のほのお 著・桃山城ボブ彦』は作品年代が近く、読者層もこのあたりの大人を狙っているだろう。
「ありがとうございます」
シアは目を瞑ると『恋のほのお 著・桃山城ボブ彦』の全てのページが見える。そして一つ聞いてみたい事がった。
「秋文君は仲の良い女の子とかおる? それも秋文君と友達とその女の子みたいな」
いないと言うのでシアはくすくすと笑う。
「恋愛は怖いですえ! 有名な夏目漱石さんの『こころ』女の子絡みで友達が自殺してしまうんです。それでも愛も恋も優先したくなる甘美なもんですからね」
実にいい顔でシアは言う。
「シアさんは好きな人とかいるんですか?」
「神様」
仕返しのつもりだが一瞬で帰ってきた。神様という人を秋文は何度かあった事がある。自分と同じくらいの年齢の金髪の子供。秋文の中では面白い人というイメージがあった。
「綺麗な金色の御髪に全てを見透かすような挑発的な瞳、一番はなんでも美味しそうに食べるやん! かーわーいーいー!」
これはセシャトとは違ったダメな女であるという事を秋文は本能的に理解してきていた。秋文の学年でも好き、付き合った。キスをしたなんていう会話が聞こえてくる。そんな中で友人を取るのか恋愛を取るのか……自分ならどうだろう。
シアを見ていると確実に恋愛を取りそうだ。
そんな中で秋文はセシャトの事を思い出す。もし誰かがセシャトと恋仲になるような事……考えるだけで気分が悪くなった。
「あー、秋文君。セシャトさんの事かんがえますねぇ?」
「ち、違いますよぅ!」
からかうと顔を真っ赤にする秋文、実に面白いとシアは思う。そんな中ぷるぷるとシアのスマホが鳴る。
「あっ、セシャトさんや。もしもし、今秋文君とおってなー……」
テンションアゲアゲでセシャトと話すシアだったが、段々元気が無くなっていく。そして小刻みに頭を下げる。
「そんなん。大丈夫ですって! 信じてください! セシャトさーん。秋文君いじめてなんかしてませんて! ほんまです。ほんまにほんま、そんな怒らんといてぇ!」
シアは電話を切ると「ふぅ、ほんまセシャトさんは怖いわ」と一言。
「セシャトさん何か言ってましたか?」
秋文はもじもじしながらそう言うが、シアは目を泳がせながら答える。
「なんも言ってませんでしたよ。ほんとですよ! せや、秋文君。中学生、高校生なったらギターはモテるでぇ! 学園祭で軽音楽部で、秋文君みたいに女の子みたいに可愛かったらきゃーきゃー言われるんちゃいますか?」
秋文は目も大きいし、パーツの全てが整っている。そう言えば棚田アリアはこの秋文の事が好きだったなと思い出した。
「波多野が山で発声練習こみで歌の練習してますやろ? 昔ってスタジオとかカラオケがそんなに無かったのと、カラオケボックスは大抵裏稼業が経営しとったから敬遠されてたんです。今の子らと違って歌う頻度も少なかったから全体的に歌はあんまし上手くないです」
あえて誰とは書かないが、この時代のアイドル達は男性も女性も殺人的な歌唱力だった。かたやロックやブルースは今よりもレベルが高かったかもしれない。
コピーバンドが流行った時代の恩恵だろう。
「シアさん、これ本当なの?」
ベトナム戦争に大学生も徴兵されていたという内容。それが戦というものである。されど子供であり、綺麗な物、カッコいい物に囲まれてきた秋文とは世界が違う。
「そうやね。銃もって日本の亡霊とベトナムで戦ったんやろうね」
「日本の亡霊ですか?」
「せやで、ベトナム戦争って日本は関係ないと思いますやろ? ベトコンに戦い方教えたのは他でもない旧日本軍です。だからアメリカとあそこまでやりあえたんですえ。福村さんもそこまで言えばもう少し二人を理解させられたかもしれませんけどね。でも音楽は自由です。何をしてもいい、何を歌ってもいい……最近は違うみたいですけどね」
歌詞一つとっても何かしら文句の一つでもつけないといけない世の中、実にそれらは風通しが悪い。そんな今の時代こそ、ロックンロールが必要なのかもしれない。
「ドラムがおるとギターやベースの練習は捗りますねん。ドラマーって叩くだけでしょ? 一見簡単に見えますけど、自分の感覚をメトロノームみたいにドラムをたたかなあかんのです。何故なら他の弦楽器のメトロノームがドラムですん」
もちろん、ツーバス等のドラムメインもあるが、本作においてはギターをリードしてくれるドラムを叩いてくれているのだろう。
「秋文君は平和ってどんな事やと思う?」
シアは麦茶を淹れてくれる。
シアもグラスに入れた麦茶を飲みながらまったりしてそう聞いた。秋文は賢い子である。簡単に平和なんて言ってはいけないという言葉を真に考えていた。
「僕には……分かりません。でもセシャトさんやシアさん達とWeb小説の話をしている時は平和だなって思います」
シアは秋文の頭を撫でると笑う。
「ここにも書いてますやろ? 新しい世代が次の時代を紡ぐんです。いつか、ウチもセシャトさんの時代も終わるかもしれません。せやけど、次の世代がこうやってWeb小説を盛り上げてくれてたら、私は平和やなって思えますわ」
絵にかいたようにモテモテの石堂の様子を読んでいる秋文、それは今のシアの言葉を聞いてなかったフリをしたかったのかもしれない。
「そこ、リアルです。だいたい女の子はその場のノリで面白い男の子と話したいもんなんですえ。それが付き合うかどうかは別やねんけどね。あれだけこの時間では楽しくおしゃべりしてるのに、他の場所で会うとスルーされたりすねん。あっ! ここ驚きやろ? 学生と警官隊の抗争でけが人死人が日本でもよぅ出とったらしいです」
秋文は信じられないと、この物語は何処か異世界の話なんじゃないかと錯覚してしまうくらいには知らない世界。今と違い人々は自由を勝ち取ろうとしていたのかもしれない。今や国民は不条理に飼いならされストライキを起こす者がいない日本となった。
果たしてそれは幸せなのかは誰にも分からない。そんな暗い雰囲気になったところでシアは時計を見ると小学生の秋文はもう寝ないといけない時間。
「秋文君、シア姐さんと一緒にお風呂入って一緒に寝よか!」
いいです! 一人で入れますとシアとの混浴を断る秋文、顔を真っ赤にする秋文にニヤニヤしているとシアのスマホが鳴る。ラインメッセージを見てこう呟いた。
「セシャトさん、エスパーかなんかなんちゃいますん?」
『恋のほのお 著・桃山城ボブ彦』、本作とよく似た空気感と世界感を持つ作品『坂道のアポロン 著・小玉ユキ 小学館』という有名作品があります。一度、小説を読む手を止めて、視覚効果から入ってみるのも面白いかもれませんねぇ!
そして『恋のほのお 著・桃山城ボブ彦』の見どころとしては西日本の観光でしょうか?
とってもわかり身が深いと、当方の西日本担当。古書店『おべりすく』の皆さんが仰っておりました!




