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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第十一章 『恋のほのお』著・ 桃山城ボブ彦
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時点移動に喫煙シーン シア姐さんの帰還

今、年末に向けて古書店『ふしぎのくに』と『おべりすく』は大変忙しい時期を過ごしております。

皆さんはどうでしょうか? やりのこした事がないように12月を迎えていきたいですねぇ!

パンケーキを食べ終わり、阪急百貨店、阪神百貨店とうろうろしてから店に戻る。夜はラーメンだお好み焼きだと言っているアヌだが、秋文はまだ小学生。


「夜ごはんはお父さんとお母さんと食べないとダメかな」



 あははと苦笑する秋文にアヌは心底悲しそうな顔をしてこう言った。



「秋文君、何日こっちにおるんや?」



 秋文はスマホを取り出すと予定表を見て言う。



「一週間ですよ」



 この時期に秋文が十日近くも学校を休んでいる理由に関してアヌもバストも聞かなかった。多分それは冠婚葬祭系だろう。

 結婚ならおめでとうだが、もう片方なら少々まずい。



「秋文さんは何日くらい自由時間作れるんすか?」



 子供である以上、一人でここにいる事もまぁまぁ大変な事件だが、それには理由がある事をアヌとバストは知る。



「ウチがしばらく預かる話をしてるんです」



 青い髪をし着物を着た少女。そして猛禽類のような瞳でアヌとバストを見つめる。バストは無表情ながら冷や汗をかき、アヌは手を擦りながら聞く。



「シア姐さん、いつお戻りで? あと預かるっちゅーのは?」

「アヌ、売り上げ終わっとるな? 店長代理とちゃうん? まぁアンタの事はあとでええわ。君が秋文君か、ははーん! セシャトさん好きなんやろ?」



 ずけっとそう言うシアに秋文は顔を真っ赤にして「違っ」と否定しようとするが、シアはにひひと笑う。



「隠さんでええって、ウチはアリアちゃんの友達でもあるんやで」



 棚田アリア、もう引っ越してしまったが、秋文のクラスメイトにして仲の良かった少女だ。そのアリアを知っている。



「それだけやないで。秋文君のご両親、ちょっと忙しいやろ? せやからウチのところでしばらく秋文君遊んでいきーや! 昔秋文君のお母さんと知り合っててな。その話したらお願いされたから、ご飯とご本とオヤツは提供するし、関西観光はこの美少女のシア姐さん付きや! こんなサービス滅多にせーへんで、せや、おもろいもん見せたげるわ」



 パンパンと手を叩くシア。するとアヌは心底嫌そうな顔をしてからこう言う。



「オススメの本はなんでも揃います」



 続いてバストが目を瞑って棒読み。



「迅速・早速」



 そしてシアを先頭にお出迎え。



「古書店『おべりすく』!」



 このテンションとノリは秋文や人類には十年程早すぎた。ぽかーんとしている秋文。そんな中お見せにお客さんがやってくる。それにシアは両手を大げさにふって出迎える。



「あっ、欄ちゃーん来はったん。うれしーなぁー!」



 ぺちゃくちゃと喋っているシア。それを見てアヌはバストと秋文を連れて母屋に逃げるように入る。



「恥ずかしいけど、あれがウチの店主なんや。最近セシャトさんの真似してるつもりであざといキャラぶってんねんけど、あれただウザいだけやからの、せやけどしばらくここに寝泊まりするっちゅーのはええの! 毎日秋文君と会えるさかい。なんかここいずらくなったらワシやバストに連絡しいや。ワシ今日はこれで上がりやから帰るわ」



 よほどシアと関わりたくないのかアヌはそそくさと帰る。バストも帰ろうとするので秋文は寂しそうな顔をする。



「店長はアヌさんには異常に厳しいんですけど、お客さんには優しいので安心してくださいっす! 自分も東京で仕事を数日したらまた戻ってきますから」



 バストも鞄を持って古書店『おべりすく』を出る。やる事もない秋文は母屋にあるパソコンを借りると『恋のほのお 著・桃山城ボブ彦』を読み始める。



「あれ? おかしいな」



 秋文の疑問に関して先に答えを出してくれたのは母屋入り口からだった



「時点移動に気づきはったん?」

「時点移動ですか?」



 本作は波多野の過去追想をメインに物語が展開する。リアルタイムを章毎の冒頭に持って来る短編形式を認識している中、リアルタイムをメインにした物語が時折挟まれる。これらはWeb小説読者に大きなストレスをかけるだろう。

 基本的にWeb小説は章毎に完結している。されど本作は追想。本来完結している事を前提に物語が進むわけで明確な完結という物は小区切りではありえない。



「うん、なんの説明もなく正常な時間軸に戻るやろ? 多分秋文君が読んできたWeb小説にこの技法を使われてる作品はないと思うよ」

「なんでですか?」

「一番は客離れするから。Web小説を不特定多数に読まそうと思うと更新速度だけじゃなくて単純な内容も重宝されんねん。ここでいう単純は適当というわけやないよ」



 少し秋文には難しかったのかもしれない。そこでシアは話題を変える。



「秋文君は野球とかあんまり興味ないんやんな?」

「はい。お父さんはたまに見てますけど、僕は見ないですね」

「ウチ等は夏になると高校野球見て球児応援するねん。なんでか言うたら楽しみがあんまりないからやね。作品に出てくる江夏って人400人くらい三振取ってる怪物やねん。ひょっとすると今の現役の選手でも簡単には打たれへんかもしれへんね。ほらこれみて、西武って球団あるやろ?」



 西武ライオンズ、旧西鉄ライオンズであるがそれも秋文は分からないという難色を示していた。分からない情報を小説を読んでいて続くと疲れとストレスで嫌悪感がます。それを緩和させるのがシアやセシャトの手腕。



「秋文君、それやったら世界一のお金持ちって誰か知ってる?」

「ビルゲイツさん?」

「おっ、ようしってんな! でもおしい。今はアマゾンのトップやねん! 今後學校で先生に聞かれたらこれ言ったり! でな? むかーし世界一のお金持ちって日本人やってんで、知ってた?」



 さて、あまり知られていない事実かもしれないが、作中では貧乏球団として紹介される西武元取締役の堤氏、彼が小説家という事もあまり知られていないかもしれないが、彼は世界最大の大富豪だった。色々あり解体という形にはなったものの、あのビルゲイツですら歯牙にもかけなかった姿は日本人を勇気づけた。



「そうなんですか! 全然知らなかったです」

「この作品。社会の勉強にええやろ!」

「はい! でも言葉がちょっと怖いです」



 まぁまぁ大人しそうな波多野ですら、そこそこの言葉を使う。だがシアがニヤりと笑って秋文にこう言った。



「ふふっ、これ物語やろ。だから、まだ上品に書いてんねんで、ほんまもん教えたげよか?」



 ふるふると首を横に動かす秋文にシアはにししと笑う。そして立ち上がると秋文に手を向ける。



「なんら食べにいきましょか?」

「はい」



 秋文が上着を着るとシアは秋文の腕に自分の腕を絡める。突然の接近に秋文は顔を赤らめて俯いた。



「ほんま秋文君は可愛えぇな。セシャトさんの何処がええん? なぁ教えてんか?」



 これまた姉弟くらいには見える二人。スキンシップの過激さから家族なんだろうなと周囲の人々は気にも留めないでいた。



「……近いです」



「お好み焼きにたこ焼き言うても、何処でも食べられるから、グランフロントで近大マグロでも食べよか?」



 有名な全身大トロの養殖マグロ、常に人が並び人気店であるが、シアと秋文が来た時は不思議と人がいない。



「秋文君はこんな大学生なったらあかんで、校内でも外でも紳士でな」



 いくらか卑猥な表現が登場する本作だが、その意味は秋文が大きくなって理解する方がいいだろうとシアは悪戯な笑みを見せる。



「高田馬場から後楽園、この辺やったら秋文君もよく知ってはるやろ?」

「知ってます!」

「帰ったら一回聖地巡礼してみ! セシャトさん連れてな」

「なんでセシャトさんが出てくるんですかぁ!」



 もうと怒りながら秋文が大きな声を出すのでシアはニヤニヤしながらその様子を眺める。マグロのお作りや握り、各種料理が並ぶのでシアは両手を広げて言う。



「たーんと食べてや! 『ふしぎのくに』のお客さんはウチのお店のお客さんと一緒や! 昼間はアホ二人が迷惑かけてごめんなさいね」



 アホ二人とはアヌにバストの事だろう。彼らは秋文に大変よくしてくれたお兄ちゃん二人組といったところ。顔をぶんぶんと横に振って秋文は言う。



「アヌさんもバストさんも凄くよくしてくれました! 迷惑だなんて僕がかけてたと思います!」



 真面目にそう言う秋文、もうそれにシアはいてもたってもいられなくなり隣の席にいって抱き着いた。



「ほんま可愛いいですね、ウチのお店の子になりーや! あれやな。秋文君はナチュラルお姉さん殺しですね! あっ藤浪勝ってますやん。もうあかんかと思ってたわこの子」



 秋文に抱き着きながらスマホで野球の中継を見るシア。彼女は野球を見たいわけではない。作品に近いロケーションを秋文に提供しているのだ。

 ぱくぱくとマグロの刺身に舌鼓を打ちながら秋文は質問する。



「野球の球場ってタバコ吸っていいんですか?」



 主人公波多野がやたらに『わかば』を吸うシーン。やたらめったらいろんな所で吸うがこの時代は喫煙者に優しかった。さらに言えば現在は波多野の喫煙行為のほぼ全てがアウトである。コップや缶に吸い殻を入れるシーン、この作品から十年後くらいに誤飲事件が多発する。



「そやね。昔は電車のホームとかでも吸えてんけど、今は先進国らしく喫煙場所を設けましょ! ってなってんな」

「タバコなんてなくなっちゃえばいいのに……」



 秋文にとって煙草は悪しき物、恐らく学校教育の賜物だろう。それにシアはマグロの刺身をぱくりと食べながら言う。



「なんでもやりすぎはあかんな! でも煙草もあんまり規制したら、それより厄介な物が流行るかもしれへんし、相互理解が大事なんやろな」



 べったりとシアがくっついている事に秋文も慣れて来たのか、シアに秋文は感想を言ってみた。



「吾妻多英さんって可愛いですね!」



 野球を観覧している時にテンションがあがり立ち上がり叫ぶシーン。これは何時の時代も変わらない。



「シアさんはお酒飲まれますか?」



 勝利の祝杯。ビールを飲むシーンである。それにシアは頷く。



「飲むよ。ウチはもっぱら日本酒とかワインやけどね」



 飲酒シーン、喫煙シーン。いずれもなろう読者には合わない描写だろう。嫌悪感を感じられるのか、大人だなとカッコいいと思うのか子供の反応に対してシアは言う。



「秋文君はお酒に興味あるん?」

「酔ったりするじゃないですか、なんで飲むのかなって思っちゃいます」

「あんな! 子供の頃って我慢するしかないやん。大人になると、色んな事から逃げたくなんねん。楽しい時にお酒を飲むのもそう。東京におるセシャトさんはこれを甘いお菓子でしよるからね。秋文君も大人になってもお酒の飲みすぎはあかんで、シア姐さんとの約束や」



 そう言ってシアは秋文のおでこにキスをした。



「えっ?えー!」

「ウブやなぁ! あと六年くらいしたら大人のキスを教えてあげますわ」



 それが冗談かどうか、作品との同化の為にギリギリのラインをシアは攻める。顔を茹蛸みたいに染めた秋文はそれ以上箸が進まず俯いた。

古書店『おべりすく』のシアさんがお戻りになりましたねぇ^^

しかし、秋文さんになんて事をしてくれるのでしょう……

『恋のほのお 著・桃山城ボブ彦』本作は、一話一話一応の完結型を取っていますが、どちらかといえば完走しないとその面白さを感じられないかもしれません。あらゆる風俗模様もやはり年齢を選ぶでしょうね。

されど思います。小説とはこういうものなのですねと

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