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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第十章 『探偵と助手の日常』著・ 藤島紫
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今際のワイルドハント 作品≒作者 

悪戯かお菓子か? 私は時折思うのです。この名言を考えた方はノーベル平和賞をもらえないものかと、10月になる度に時折ですけどね。

だいたい小分けしたチョコレートやキャンディーなんですが、ファミリーサイズのポテトチップスとか渡された時のあの何とも言えないコレジャナイ感は一体なんなんでしょうね?

「あら、神様は面白い事を聞くのね! じゃあなんで神様はそんなに可愛らしい姿をしているのかしら?」

「まぁ色々あったのだ」



 神様の適当な返しにクスクスとかなめは笑う。



「私も色々あったのよ。そんな事より、お菓子が豊かな地域ってお茶やカフェが凄く盛んよね! 今度川越の菓子屋横丁でデートでもいきましょうか?」



 かなめの奢りなら悪くないなと神様は思う。このかなめが明らかにおかしな存在であったとしても神様には対した問題ではないのだ。



「セシャトが多分寂しさでやけ食いでもしておるだろうから、店に帰るか?」



 そうねと言いながらかなめは手を差し出すので神様はかなめの手を握る。かなめは歩きながら神様にねだる。



「神様、本出して本」



 再び疑似小説文庫を出してくれというかなめに神様はぷいと顔をそむける。



「セシャトに出してもらえ」

「神様お願い。多分、神様とこうして一緒にいられるのは多分もうこれが最期だと思うの、だめ?」



 かなめは愁いを帯びた瞳で神様に言うので、神様はハァとため息をついた。そして下唇を噛みながら「今度牡丹餅を奢れよ」と言ってタブレットを取り出すとそこから一冊の本を取り出す。アルファポリスで公開されている現在最大の長編。

『ホイップたっぷり、さくら待ちラテはいかがでしょう?』そう書かれた表紙の本を神様はかなめに渡した。



「ほんと、うふふ。セシャトちゃんが言う通り太っちゃいそうね」

「貴様、私が最後に見た時と一寸も変わっておらんように見えるがの」



 神様の髪留めをかなめはポンと取った。



「あー! やめろっ! 返せっ!」



 神様のチャームポイントであるジンベイザメの髪留め。それをかなめは自分のバックにつけた。



「シーラカンスのキーホルダーじゃないけど、これ形見に頂戴よ」



 嫌だっ! と言いそうになって神様はハァとため息をつく。何故自分に関わる女子はこの髪留めを欲しがるのか……



「分かったやろう」



 神様は髪留めがないので妙な不自然さを感じながらも言う。



「のぉ、清明と三枝の関係だが、私と貴様とはえらい違いだの」



 しししと神様がそういうのでかなめは返す。



「そうね! あの人と私の関係に似てるかもしれないわ」



 藤島紫氏の画くバディはなんとも羨ましい。こんな先生と一緒にいたいと思えるし、こんな可愛いアルバイトと一緒に働きたいと思う。だけど、この二人は二人で一つなのである。

神様は元店主の後ろをヒヨコのように追いかけていたかなめを思い出す。



「ねぇ、清明さんと昔の神様。どっちが色っぽいかしら?」



 神様は当然私だ! と言おうとしたが、どうもかなめの様子がおかしいのでこう言った。



「清明は天然のたらしらしいの! 私は天然のカリスマだ。その行方は似て非ざる者。今は私はマスコット的な地位でおるからの!」



 かなめの知る神様は全く今と変わらないが、もっと大きくもっと目が痛くなるような輝きに満ちていた。

 かたや清明はその耽美さ、カッコよさがブレない。神様に言うと怒りそうなので言わないが、現時点では神様は勝ち目なしかとかなめは笑う。



「清明さんの言う事は正しいわよね!」



 睡眠時は衣類を着ない方がいいというのは実は証明されている。部屋の温度を適温にし、そして眠る方が風邪も引きにくく一番なのだが、寝具が汚れる。人はどんな状態であれ汗をかく。その為これを実現できる人間はよほどの金持ちか毎回ベットメイクしてくれるホテル住まいくらいでないと実現は難しい。



「貴様、まっぱでうろついておったらアウトだからの! 特に清明のような成人した男だと……一撃でバンだ!」



 三枝製菓の牡丹餅。実に美味そうである。餡に芋を使う。これは昔餡や餅が貴重だった為、かさましの為によく使われた技法。今となっては芋の方が高価な場合もあるが……



「この物語では春のシーズンなのね」

「春の牡丹餅、秋のお萩か? 雨が降れば月知らず。月が見えぬので北窓……まぁ、よく人間とやらは同じ食い物で沢山名前をつけたものよの」



 お萩、牡丹餅に関しては様々な考え方がある為、一例ではあるが、これは元々高価なこの食べ物をできる限り何度でも食べる為に適当な理屈をつけたのかもしれない。

 日本人は元来、酒を飲むための理由付けが上手い。花見に祭り、花火に打ち上げ、入学に卒業、そんな遊び心が今尚続いているのであればそれは実に興味深い。



「まぁ私は喰えればなんでもよいがの」



 あらとかなめは興味深そうに片手で本のページをめくる。セシャトの見立てたこの作品はかなめにどストライクだったのだろう。彼女の本の虫レベルは下手すれば古書店『ふしぎのくに』のメンバーを越えているかもしれない。



「神様、六十代くらいのスタッフが働くお店……確かに最近多いわよね。そして実にレベルが高いと思わないかしら?」



 この年代は仕事が好き。と言う人が比較的多い。さらに言えば自分の仕事に誇りを持って従事する人も多い年代。



「そうだの。コンビニとかでもこっちが頭を下げてしまうような丁寧な奴らが多いわ」



 神様は駄菓子を買ったたけでマニュアル通り、かつ業務的ではないしっかりとした接客を受けた事を思い出してげんなりして言う。



「あら、清明さん。珈琲を淹れられるのね。素敵だわ」



 ちゃんとした珈琲を淹れられる男子とカクテルを作れる男子は実にカッコいい。ただし、実演せずに家に呼ぶ男子には注意されたし……



「神様は珈琲を飲む専門よね? あの人は本当に美味しい珈琲を淹れてくれたわよね!」



 神様は全書全読の神様、書物に関わる事に関しては奇跡を起こすがそれ以外に関してはまさに無能の極みである。



「今もセシャトとトトが茶は淹れてくれるからの、セシャトの淹れる茶は不服か? あやつはまぁそれなりに努力はしていると思うけどの」



 かなめはセシャトの淹れる珈琲やお茶を思い出す。確かに彼女は頑張り屋さんなのだろうと微笑ましく思った。



「そうね。あの人の淹れる珈琲と変わらないくらいセシャトちゃんの淹れる珈琲もおいしいわね。トトちゃんは会った事がないから分からないけどね」



 トトはブックカフェオーナー。もしかするとセシャトより珈琲を淹れるのが上手いかもしれないが、彼は紅茶党である。

 セシャトの淹れる珈琲は美味いと言うが物足りなさそうな顔をしているかなめ。それは思い出というスパイスと熱さなのかもしれない。



「奴の淹れる珈琲はなんというか、我の強い珈琲だったよのう。美味いから飲め! という具合にの」



 ラテアートを写真に撮るシーンを楽しそうに読むかなめ。基本的にお店等ではスマホで写真にとる事を推奨しているだろうし、清明のお店でも当然許される。

 が……神様とかなめのよく知る人物はそういう行為に関して厳しかった。



「あの人の頑固さは凄かったわね。たまに暇つぶしで作ってくれるラテアートをどうにかして形に残しておこうとすると怒るのよね! 飲んで無くなるからそういう物はいいと、下手に残されると次作る時同じクオリティでない事にやる気が無くなるってね」

「まぁあいつ遊びの天才だったからの」



 三枝の友人が大ファンの作家と出会った時、天にも昇るような気持ちでテンションが爆上げされるシーン。

 本来自分の好きな作者に会ったらそうなるのかもしれない。多分帰ってくる答えは分かっていたが、神様は聞いてみた。



「のぉかなめ。貴様の好きな作品の作者に出会ったら貴様はどうなる? 舞い上がるか? それとも何とも思わないか?」



 かなめは恐らくその二パターンを考えるのだろう。嬉しさでたまらない自分。そして案外ドライに受け止める自分。

 その答えを割り出すのに遠くを見つめているかなめ。もはやその姿は人のそれではなかった。

 言うなれば機械のよう……かなめは多次元を見ているのだろう。

 マクロの世界で自分はどういう判断をするのかありとあらゆる自分の可能性を考えた上でかなめはこう言った。



「多分、私はお礼を言うと思うわ」

「ほう。お礼とな」

「こんな面白い話を作ってくれてありがとうって」



 なんともかなめらしい回答だろう。実際、その作品が好きかもしれないが、その人については殆ど知らない。人物像を知っているとしたらそれはとうの昔に亡くなった文豪くらいなものだ。ときおりメディアに顔出しをする作家もいるが、そういうのはごく一部。


 本屋に入れば無限に羅列されている本。そしてそれに比例するくらい作者がいるのだろうが、神様もかなめもそれらの人がどんな人物でどんな生き方をして、何を考えているかは知らない。

 そしてその大半は永久に知る事もないだろう。

 だけど、作品のファンとしてお礼を言うという反応くらいはできるのかもしれない。

 そうこう話し、考えている内に二人は古書店『ふしぎのくに』の店前に戻っていた。そしてそれが神様としてもかなめとしても最期の別れになる事がなんとなくわかってた。



「かなめよ。ここからは私のセシャトに貴様を任せる。よいな?」



 神様とつないでいた手がするりと外れる。神様が出した疑似小説文庫だけは消えずかなめの手の中にある。



「神様は何処へ行くの?」

「私か? 老人会で詩吟を読む事になっておる」

「成程、それは一大イベントね……神様、あんまり無駄使いしちゃダメよ!」

「私は宵越しの銭は持たん。まぁあれだ。達者でな」



 神様はかなめに背を向けてどこぞへと走っていく。そんな神様の様子を見てかなめは一つ聞き忘れた事を思い出した。



「貴島創の重い愛について最後に聞きたかったわね。まぁ、それも含めてあとは神様のとっておきのセシャトちゃんに聞こうかしら」



 そう言うと、カラガランとドアを開き再び古書店『ふしぎのくに』に戻る。すぐに人懐っこい表情でセシャトが「おかえりなさい!」と出迎えてくれる。



「えぇ、セシャトちゃん。ただいま」

今回は作者さんと作品は似て非なるものというお話ですねぇ^^

作品は作者さんの分身ですので、作品から作者さんを感じる事は出来るかもしれません。どんな方なのか、どんな物を見て、愛して、そして何を伝えたいのか……但しその本当の心までは見えないのかもしれませんね! 特に太宰治さんなんかはその筆頭かもしれません。

さて、『探偵と助手の日常 著・藤島紫』からは藤島紫さんの何が見えるのでしょうね?

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