非現実を感じさせない工夫 神様のお小遣い
古書店『ふしぎのくに』大型アップデート予定となります。どうなる事でしょう^^
徹夜組が年末に増えそうですねぇ!!
皆さんはやっと涼しくなった秋を楽しまれていますか? 私は小説を新旧購入してみました。
Web小説を読みながらゆっくりと楽しみたいと思います!
「ロケットクシーだったかの?」
神様とかなめが並んで歩くと、年の離れた姉弟のように見えなくもないが、明らかに人種が違うのでややこの町では浮いた。
「神様、そんな事より、本出して本!」
神様の前ではやや幼くなるかなめに神様はipadを取り出すと、その画面に指を突っ込み『探偵と助手の日常 著・藤島紫』の本を帯び付きで取り出した。
神様の奇跡を前にしてもかなめは当然の事として受け取る。
「あら、凄く薄いわね?」
「一章分だからの」
ペラペラとめくりながら文学少女の顔でかなめは本を読む。
「三枝君、神様いないって言ってるわよ!」
「ここにおるだろう! まぁ、神と言っても色々おるからな、三枝の望む神はおらんという事だろう」
三枝のトラウマ、その項目を読んでも表情一つ変えないかなめ、本を読みながら歩く、歩きスマホとなんら変わらない危険な行為のハズだが、かなめは見えているかのように障害物をよけ、そして赤信号を止まり、青になると渡りだす。
(こやつ妖怪か?)
この小江戸と呼ばれる川越の菓子屋横丁、神様も稀に行くが、なんともレトロで心躍る風景が見られる。清明程ではないが、大量に飴を買ってしまう魔力のような物も溢れているのでダイエット中は注意してほしい。想像していると神様は口寂しくなってきた。飴玉を口の中で転がしたいなと思ってポケットからあわ玉を取り出す。
かなめが読書に集中している隙に口の中にあわ玉を放り込んだ。口の中で転がして神様は悦に入る。
「痰きり飴ならあるけれど、神様食べる?」
一瞬ぎょっとした神様だったが、手を出す。神様の掌に乗せられた真っ白な飴。かわりにかなめは手を差し出してきた。何のことかと神様は思ったが、ごくんと大きなあわ玉を飲み込む。
「よぅ見とる奴だのぉ!」
ごそごそと神様はソーダ味のあわ玉をかなめの掌にそれを乗せた。
「ねぇ神様、よくこういう推理もので、敵に復讐しても殺された人は喜ばないっていうじゃない? 某探偵さとかが名言のようにね」
神様はそれらのシーンを思い返す、火曜サスペンス劇場だったり、頭脳は大人というか高校生の探偵だったり、刑事ドラマだったりロケーションは色々だ。
「まぁあるのぉ」
「神様なら殺されたら復讐してほしい?」
「してほしいに決まっておるだろ! 馬鹿者」
「そうよねぇ」
ヘカもそう言うだろう。ただし、セシャトとトトは真逆の事を言うかもしれない。神様は「あやつら、あざといからの」と独り言を言う。
「なら、この作品にも書かれている犯罪の動機に関しては?」
「まぁ、日本という国においては悪人の方が強いからの。利己的な理由で人を殺しても何故かその者をかばう弁護士とか出てくるであろ? 外国の人間に対しての罪も軽すぎるからやりたい放題しよる。犯罪を犯す奴の全てがとは言わんが、許されてしまうから行うんだろうよ」
神様は暴論にも近い事を言う。神様が神を名乗るのであればもはや人間は救う価値もないとそう判断したように……
「まぁ、その小説の内容で言えば、あらゆる機会を与えすぎるから犯罪が起きるんだろうの」
復讐をしてほしいかどうか、という事は恐らく平行線になるかもしれないが、どんな理由があろうと犯罪を最初に犯した者に問題がある事には間違いないだろう。復讐も、最初の犯罪がなければ起こりえない。全てはタイミング、そして機会なのかもしれない。
「かなめ、貴様株取引はした事があるかのぉ?」
「あるわよ。でもどうして?」
神様は千円札を一枚ぴしっとかなめに見せる。それを見たかなめは大げさに驚いてみせた。
「あらお金持ち」
「貴様、これを1000倍に増やしてくれんかの?」
「お小遣い一日10円だったものね」
「セシャトの奴には昔は5000円もらっておったと言っておるから絶対言うでないぞ!」
そう、神様は以前のお小遣いは100分の一であった。
「その考え方は神様、ギャンブルよ。というか、個人投資家は殆どギャンブルに近い投資になるんだけどね。基本的に潰れないであろう会社に投資をして優待と配当を得る事を繰り返すのが一番安パイかしら?」
神様はかなめのプランを聞いて瞳を輝かせる。「よし、それだ! それで頼む」という神様にかなめは笑う。
「だいたい10万くらいはいるわよ。それで年間数百円と優待とかじゃないかしら?」
神様のプランは脆くも崩れ去った。10万なんぞ、三か月ちょっとお小遣いを溜めれば溜まるが、神様は宵越しの銭は持たない。
「今、貴様に読ませている話は所謂緩急の話だからの。我々も何処かに入って珈琲と美味いケーキでも喰わんか? 貴様の奢りでな」
本作の作者、藤島紫氏は物語の組み立てをよく分かっている。二作の長編(本作において)と三作目に入る間に超短編の物語を挟んでくる。
よりキャラ文芸物としての側面を強めた話を入れる事で読み疲れを軽減してくれるだろう。今の神様とかなめの散歩のようなものだ。
「あら、まだこのお店あったのね!」
日本に一大ウィンナーコーヒーブームの火付け役でもある店にかなめと神様は入る。適当に案内された席で当然頼むのはウィンナーコーヒーを三杯。
店員は不思議に思うが、神様は昔の再現かとため息をついた。昔はもう一人、元古書店『ふしぎのくに』店主。
「子供が泣きじゃくったら外に出す……清明さんはよく知ってるわね! そういえば、神様もお菓子をねだったら締め出されていたわね」
それとこれとは違うが、昔を思い出して笑うかなめ。そんなかなめを見ながら生クリームの入ったコーヒーに神様は口をつける。
「かなめ、心が老いたな」
「神様は若返っちゃったわね。私もこうやって清明さんみたいに勉強や読書に喫茶店に行ったものだわ。珈琲一杯で三時間くらい粘っちゃって」
「店からしたら迷惑でしかたなかったろうな」
基本的に注意される事はないが、何か作業をする場合。店の回転率から考えて一時間が最大滞在時間だろう。万が一長居したい時はそのくらいで再び何かを注文する事をオススメする。
「この閑話、いい話ね。独りよがりにならず。しっかりと起承転結を楽しませてる。この作者はこっちのタイプの方が得意なのかもしれないわね」
話が変わる。
神様はこのかなめの同時に別の事を考えている反応にさぞかしセシャトは混乱した事だろうと思っている。
かなめは複数の事を同時思考できる脳を持っている。その結果、本来人間が見えない視覚野と聴覚域を持つ。
「そうだの。ロケーションを狭められるし、現実感を感じやすいからの。どれだけ物語で死を経験しても、9割以上の人間は大きな事件とは無関係だからの」
刑事ドラマを見ていて何処か不自然に感じる事はあるだろう。
死にすぎだろう……というあれである。180度まわって、主人公の警察や探偵が実は犯人なんじゃないか、という程度に殺人事件がおきる。
それを一度考えると人の頭はもうそれは非現実と学習してしまう。
それ故、第三章及び、閑話に属する『花咲く切飴、ころころ』こちらは実に身近な事件と言えるかもしれない。
実在にはありえないかもしれないが、あーありそう! そう思わせる事で脳はそれを現実と認識する。それをかなめは同時にできてしまうから面倒くさい。
「しまいには脳が壊れるぞ」
神様がタブレットから取り出した疑似小説文庫を読み終えると、かなめはウィンナーコーヒーをゆっくり飲む。
「この章、勉強になるわねぇ、人の運命って決まってるのね……神のみぞ知ると言ったところかしら? これを言うと三枝君は怒っちゃうかもしれないわね」
三杯目のウィンナーコーヒーを神様がじっと見つめているのでかなめは「飲んだら? あの人に飲んでいいか聞いてから」
と言うので神様はカップを持つと一口で飲み干した。
「私が聞いたらアレは絶対くれんだろ」
「それもそうね」
清明は三枝に何を言いたかったのか、それはきっとかなめが言った事だろう。神がいるかは分からないが、運命は生れ落ちた時に決まっている。
そういう事なのだ。
「人は何かを成すべく為に生まれ、なし終えたら死んでいく。あの人は成し終えたのかしら?」
「あぁ、そうだの。奴の言葉を借りればなし終えたの」
この『花咲く切飴、ころころ』実のところ、もう一つの考察がなくもない。しかし順手である先ほどのかなめの意見がやはり正しいのだろう。
それを三枝君が気づけたのかどうかは、分からないが……清明はできた男である。自らを完璧なままで終えず、欠点を残している描写がまたより完璧な男を作り出してるんだろうかとかなめは支払いを済ます。
「おぉ、ケーキを喰うのを忘れておったわ」
と神様が言うのでかなめは神様の手を引いてしばらく道なりにあゆむ。神様は自分にかなめが甘えておるのかと思うが、はたから見れば真逆に見える事だろう。
「のぉ、かなめよ。これ聞いてよいのか?」
かなめはクスりと笑う。
「何かしら?」
「貴様、どうして昔の姿のままで……それも生きておる?」
『探偵と助手の日常 著・藤島紫』どうでしょうか? 『花咲く切飴、ころころ』の作品は実に興味深いと思いますよ! 読まれていない方は是非、運命とは既に最初から決まっている。冒頭に最後が繋がるお話ですが、古書店『ふしぎのくに』では別考察もありました^^ 皆さんはどうでしょうか?
それと神様、1日10円のお小遣いだったんですねぇ……めっ! ですね!




