現時点で最高のストーリー。あの人の面影を
寒いです……これからはお鍋ラッシュが始まりそうですねぇ!!
おでん、寄せ鍋、てっちり、ちゃんこ鍋、火鍋にキムチ鍋。皆さんは何が好きですか? 私はトマト鍋をした後にしめのパスタが大好きですよぅ^^ あとレモン鍋なんかもよく食べますねぇ!!
第二章にあたる部分を読もうとした時、カラガランと古書店『ふしぎのくに』に来訪者が現れる。かなめのペースに乗せられ、されど楽しんでお茶をしていたが、現在営業中。
平日の昼間でもこの街は本屋さんにはお客さんがぽつぽつとやって来る。
「セシャトちゃん、お客さんよ」
「はーい! いらっしゃいませ!」
セシャトは母屋にかなめを残して店内へと接客に出る。セシャトは店に入ってきた人物を見て「あら」と声を出した。
「セシャト、馬鹿のやつに私の今日のオヤツを全部持っていかれてしまったわ!」
神様。それもおでこに大きなたんこぶが出来ている。
「まぁ大変です!」
神様を母屋に連れて行くとセシャトは救急箱を取り出し、神様のたんこぶに消毒液をつける。
「痛い痛い! しみる、染みるぞぉ! 馬鹿者っ!」
「神様、なんでそんなところにたんこぶ作ってるんですか?」
「馬鹿のやつとチョコレートをかけてポーカーをしておってな。私のチョコレートが全て奪われたから身体で払ったまでよ。全くあの馬鹿は本当に馬鹿だの」
プンプンと怒る神様だが、小遣いで買ったおやつをギャンブルで全部すったという事にセシャトが神様を真顔で見つめる。
「まぁ、なんだ……おぉ! 客がおるではないか……」
神様は話を逸らすつもりだったが、先に母屋にいる女性を見て止まる。そして静かにセシャトに言う。
「セシャト、何か昼飯を買ってこい。そうだの。ボンディーのカレーがいいぞ」
「神様、無駄遣いの話はまだ終わって……」
「いいから、はよういけ!」
神様がかなめを見つめて言うので、セシャトはやや納得できない顔でお店を休憩中にして外にカレー屋さんにテイクアウトを買いに行く。
セシャトがいなくなったのを見て、神様は静かに言った。
「久しいの」
「あら! あの神様の子供かしら?」
「あの神様の方だ! わけあってこんな姿になってしまったのだ。しかしほぉ、面白い話を読んでおるな? 貴様、車が好きだったものな」
神様がそう言ってかなめの対面の席に座る。そんな神様にかなめは懐かしそうな表情を見せた。
「久しぶりね。神様。あの人はもういないのかしら?」
「あぁ、あやつはもうおらんよ」
二人の間に静かな時が流れる。静寂を破ったのは神様。テーブルにあるシルクスイートのパイを大きく切り分けて神様はセシャトが使っていた皿にのせた。
「S2000、貴様維持できなくなって手放した車ではなかったか?」
「ふふっ、よく覚えてるわね。今の神様ならS660がお似合いかもしれないわ」
「貴様と違ってマグタンにする事もないから。私はそれで一行に構わんがな」
ホンダSシリーズ、ツードアのクーペとオープンカーのモデルシリーズである。
専ら最近はオープンカーを指す。作中に登場するS2000は現在では旧車に位置づけされるSシリーズのスポーツタイプ。いくつか欠陥を抱えている部分があり、ピーキーなマシンと言えるが、今尚『男』の車として人気が高い。対してかなめが神様に推したS660は後継機ながら軽自動車の可愛らしいフォルム。また直近の車種故、これといった問題はない。
「セシャトちゃん、可愛いわね。あの人とは大違い」
「まぁの、この店も随分変わったろう?」
「えぇ、店内はいつも『スペイン』が流れていたわね。この清明さんが弾いたようにあの人が調律されていないオルガンを弾いていっけ?」
「あぁ、そして仕事明けにシンガポールスリングを煽る」
神様とかなめは見つめ合い悪そうな笑顔で同時に言った。
「「酒も煙草も人生を豊かにする。あとは少し本があればいい」」
二人はひとしきり笑う。そしてかなめは神様に『探偵と助手の日常 著・藤島紫』のページを見せる。
「この物語、セシャトちゃん曰く太るらしいわよ。でもほんと、お酒飲みたくなっちゃうわね! 今の神様なら飲めないかしら?」
「よう三人で飲んだの。貴様はもっぱらドライマティーニだったか?」
「神様はジントニックかジンジャートニックだったわね」
「ジントニックが美味い店はどの酒も美味いからの。基本にして一番難しい酒だ」
神様の言っている事が正しいかは定かではないが、ジントニックは店の傾向出やすい。粋な客なんかはロングクラスで一杯ジントニックを楽しんで帰る者もいる。
セシャトを店から追い出したのはこんな酒の話をしたいわけではない。ただ作品を楽しみ酔う二人、二人を酔わすにはアルコールはいらなかった。『探偵と助手の日常 著・藤島紫』と思い出話があれば十分。
「へぇ、警察公認の完全犯罪だって、じゃあ神様私も面白い事教えてあげようか?」
「貴様の話はただの犯罪だから聞きとうないんだがの」
「まぁまぁ、聞きなさいよ。公道にね? 赤いフラッシュで写真を撮る機械があるの……あれって宇宙船は映らないのよ」
神様はかなめの手元を見る。飲んでいる物は緑茶に珈琲、それでよくまぁここまで酔えるものだなと思った。
「『探偵と助手の日常 著・藤島紫』。貴様がここに初めて来た頃に紹介できたら良かったかもしれんの」
本作は全年齢向けではあるが、描写からどうしても年齢を選ぶ。昭和から平成を挟んで育った年代あたりが一番合致しているだろうか? また最近成人した人にもカッコいい大人のイメージとして魅力的かもしれない。
「まー確かに酒の席のお話とか、当時は魅力的に感じたものね。でもこういうのって子供はつまんないと思ったりするのよね!」
神様は大きく口の中にパイを放り込むとごくんと飲み込んだ。
「まぁ、最近はこういう描写一つ指摘対象になりよるからの。本作もそれを分かっていてオムニバス形式を取っているんだろうな」
短期完結型であれば視点移動に比較的自由度が効く、またこれ自体に不自然さを感じにくい効果もついてくる。
「確かに、『クリスマスの夜の話』の完全一人称はある意味荒手ね。でも作品ジャンルと短期完結に救われてるわね。そして次の話。読ませる……じゃなくて視覚で楽しませる手法かしら?」
神様は自分で珈琲を淹れるとそれを一口飲む。一人で興奮してあれこれ喋るかなめが落ち着くのを待ってからこう言った。
「昔から貴様はよく読みよるわ。随分、セシャトをいじめてくれたな……トラウマになったらどうする?」
「いい経験になるわよ! そんな事言ったらあの人に私が書いた小説見せた時、読まずにシュレッダーよ! あれはどう言い訳するのかしら?」
「鬼だのあいつ!」
「えぇ鬼ね……いえ、悪魔かな? だから『探偵と助手の日常 著・藤島紫』を読んでも凄い辛口で褒めそうね! 島田荘司をもっと読んだ方がいいんじゃないか? とかね」
島田荘司は推理小説の生ける巨匠。島田荘司推理小説大賞は毎年力作が投稿される。少し本作はキャラクターの動かし方がこの島田作風に似ている。
推理小説を書く上で絶対真似してはいけない作家としてこの作者があげられる。物によっては古い本もあるのだが、上質な文章にラノベのようなキャラクターが世界の中で生きている。
「うむ、あいつ言いそうだの。そしてこうも言いそうだの! これ程の作品がWeb小説にあるんだな……ふっ! 実に興味深い」
そう言ってタバコを吸う振りを神様はしてみせる。
「似てるー! ぷぷっ! クスクス ハァ……なんでいなくなったの?」
「まぁ色々あっての」
「不可能犯罪で殺された!」
「そうそう。時短のトリックは電車のレールにタイヤを外したゴーカートを乗せての……って違うわ! それに奴は死んではおらん……だがもう何処にもおらんのだ」
神様は少しだけ悔しそうな顔をする。それにかなめは何かを悟ったのか突然話をかえた。
「ねぇ、神様頭を撫でていい?」
清明が第二章の決着をつけそうなところで目を細めるかなめ。彼女の癖を神様も思い出す。彼女は集中力が異常な程続かない。少し読むと違う事をしたり言わなければ読書続かない特異体質? なのだ。
「構わんよ」
そう言うとかなめが神様の席へとやってくるので神様は自分の頭をかなめに向ける。かなめは神様の頭を撫でて鼻歌を歌う。ディキシー……かなめの言うあの人が口ずさんでいた歌。
「もし、今の私に子供がいたら、こんな感じなのかしら」
「面白い冗談だの」
神様のさらさらの髪の毛をもう少し撫でていたいなとかなめは思ったが、手を離してからこう言った。
「『運転手にはノンアルコールのカクテルを』この話が私は一番好きかもしれないわ。はっきり言ってよくある展開、よくある物語かもしれないわ。だけど、なんて完成度が高いのかしら」
かなめの目は間違いなく文章から映像を見ている。ただの人間であるハズのかなめはセシャト達が持っている瞳と同じ物を持っているようだった。
「そうだの……Web小説の域は越えておるな。だからこそ私はこう言うがの、推理小説としてはまだまだだの……この作者にはもっと面白い話を書いてもらわんとな」
藤島紫氏は非常に、ザ『作家』という人物である。紳士的で、知識人、そして清潔感を感じそして何処か子供のようなひょうきんさを感じる。
神様の瞳はかなめとは違う何かを見ていた。そして二人が少しこの母屋が広く感じる理由。本来、もう一人いたハズだったのだ。
かなめを馬鹿にし、神様をも馬鹿にする。されど誰よりも物語が大好きだった人物。記念日に新刊の小説をプレゼントするとブックカーバを買いに行って店を閉めて読書を楽しむ人物。
どれだけ思い出を思い起こしてもその人物はいない。
二人の思考を強制終了させる音、店の大きな鈴。
それは現在この店の主が帰還した事を知らせる音。
「ただいま帰りましたよぅ!」
カレーの匂いが店内、そして母屋にもそれは広がる。かなめと神様は表情がゆっくりとセシャトが出ていく前に戻る。
「セシャト、待ちわびたぞ! おぉ! テイクアウトでも蒸した芋がついておるんだの! 全く不思議な店よ」
よくしゃべる神様と逆に黙るかなめ。そして何も知らないセシャト。三人で黙々とカレーを食べ、ようやく物語について話をしようとセシャトは思っていた時、食事を終えた神様とかなめは店を出る。
「少し積もる話があるのでな、その辺をぶらぶらしてくるぞ!」
神様の言葉にセシャトは笑顔で手をふる。そして妙に寂しくなった。
「なんだか仲間外れにされた気分です……あっ! このおいも美味しい」
『探偵と助手の日常 著・藤島紫』を読んでいくと子供が読んでも楽しめる章と、ちょっとまだ早いかもしれないなと感じる章があります。ですので、冒頭を読んで、面白いなぁと思ったら続行です! もし合わないなぁと思った時、ページを閉じるのではなく別の章を開いてみてはどうでしょうか? もしかするとぴったり合うかもしれませんよぅ! 本作はそれが出来る数少ないキャラクター物です^^




