Gute Reise
さて、いつも思うんですよね。何故終わってしまうのか、永遠に続く物語はないんでしょうか?
でもそれって実は簡単な唯一の方法があるんですよね! 永遠に続かないなら、何度でも読めばいいです^^
今作は私、セシャトも非常に推していた作品だけに楽しませて頂いておりました!
それでは、9月紹介作品 最終話開演です!
ブックカフェ『ふしぎのくに』
この店が開くのは月に一度かふた月に一度か? 本日はそこが開いているのである。ともすれば狭い店内に人が所せましと押し寄せる。
女性・女性・女性。外の看板には女性は50%オフと今の世なら問題になりそうな金額設定のそれ。
「おい、トトさん、こりゃ三人じゃ回らねーぜ!」
「大友君。これほどまでのお姫様がお待ちなんです。回してみせましょう」
緊急的に知り合いの某カフェから読んだヘルプの少年は、ガンを飛ばすようにトトにそう言う。パシャパシャと店内で響くスマホのシャッター音。
少年の姿は何故かエプロンドレス。
そしてトトは普段のモーニング。トトが次々に飲み物を準備し、それを死んだような顔で配膳していく少年。そんな姿に謂れのない妄想を掻き立てられているのだが、今回の主役は二人ではない。
「ありがとうござりんしたぁ!」
黒いベストを着こなしたテールコート。見ようによってはペンギンにも見えなくはない。女郎蜘蛛のカウスボタン、このミスマッチ具合がよく似合った。
「汐緒君、こっちむいて」
今までたった一人でいた汐緒がこうも人々の眼に触れられる事になるとは、という思いと、彼女等への奉仕行為を汐緒も全力で受け持った。
トトが言ったWeb小説の世界を覗き見させてあげるという意味。
それはここで働く事。
「では、朗読始めるでありんす! 『最上紳士、異世界貴族に転生して二度目の人生を歩む・著 洸夜』お手元のタブレットに注目するかや!」
当然誰もタブレットに注目はしない。本当に労働をしていいのか分からない年齢の汐緒がバトラーの恰好で接客してくれるのだ。
そして汐緒本人の感想と考察付きとなる。
「リーゼロッテのじょちゃんは、いじらしいでありんす。好きよ好きと言えればどれほど楽になのか、しゃむにそこがじょちゃんの女が上がるんでありんすな?」
自らの父。公王の前でアデルの事をどうかと聞かれるシーン。もはや誰が見ても分かるのだが、当然言えるわけもないところに汐緒は自らを重ねて頬を赤らめる。それに店内の少女から熟女まで熱いエールをもらうのでトトに教わった『文学女子を殺すウィンク』を放つ。
それは狂いなくショットガンのようにぎゅうぎゅう詰めの店内にて射抜いた。
そんな店内を死んだような目で見る少年・大友。
「トトさんよぅ、なんだ? 何処から見つけてきたの? ウチの店でも使わせてよ。てかあれ働かすの犯罪じゃないの?」
「お貸ししても構いませんが、汐緒さんがいる場所は福が訪れますよ。とんでもない忙しさで仕事嫌いの大友君には堪えるのでは?」
「あぁ、俺のいない日にあの蜘蛛ガキを放り込んで店に嫌がらせをしてやる」
大友もまたタブレットで汐緒が読む『最上紳士、異世界貴族に転生して二度目の人生を歩む・著 洸夜』を見ていたのでトトは聞いた。
「面白いですか?」
「あぁ、普通に面白いよ。どうせトトさんとかは難癖つけて読むんだろ? 俺はアデルがリーゼロッテと婚約を国別対抗戦に勝ったら戻そうかというところなんて嫌いじゃないぜ。俺とかトトさんとか女性に対してクソ人間には絶対に考えつかないよな?」
「実に心外ですねぇ。紳士さんも心から女性を愛せないと仰ってるじゃないですか?」
「いや、それ俺達と違うと思うよ?」
話ながらも、テーブルを拭く、飲み物のお替りを入れる。スイーツの補充と、はっきり言ってトト一人で回せてしまうんじゃないかと大友は思う。
そんな中作品に意識を飛ばす。アデルもとい最上紳士は心から女性を愛せないという。彼の持つトラウマ、これは物語にどんなスパイスを与えるのか、リーゼロットは最上紳士の思い出に勝てるのか? 実に彼女を応援したくなる描写ともいえる。
「ここではアデルのとのさんは誰も選べないでありんす! ならトトさんはどうかや?」
汐緒はアドブリを入れてトトに話を振った。アデルは自分に恋愛感情を抱く少女達にトラウマが原因で選べないと言う。もし、そのトラウマが無ければ誰かを選んでいたのかという話題。それをトトに振った汐緒。当然店内の女性はガヤガヤと騒がしくなる。そしてトトを注目。
「そうですねぇ、しいていえばここにいる全てのお姫様達でしょうか? こんな恥ずかしい事を僕に言わせるなんて、汐緒さんはダメなバトラーですね! 皆さまには新作スイーツの本作にちなんだショートケーキ『最上紳士』をサービスさせて頂きます。どうぞ味わってください」
黄色い声が上がる前に、『文学少女を殺すウィンク』を決める。銃弾爆撃のようにそれは女性客の心を完全に何度となく撃ち抜いた。
そして殺戮の一撃。汐緒のおでこにキス。汐緒の無茶振りは、汐緒にとっても女性客にとっても大変ごちそうとして帰ってきた。
「しゃむに、ご馳走様でありんす!」
しばらくこのつまらないBLの空気に酔っている客と汐緒とトトを死んだような目で見つめる大友は横に並んでいるトトに言う。
「このアデルのお父さんって結構馬鹿かと思ってたんだけど愚かじゃないな。俺好きだわこういうオッサン」
「ほぉ、大友君はオジ萌えの人ですか」
「ちげーよ!」
怒る大友にトトはクスクスと笑う。
「すみません。分かりますよ。本作の見どころの一つに子供は子供らしく、大人はやはり大人なんですよね。そんな中でアデルさんが逆行していってるのが、見事としか言いようがないですね。時に大友君は御兄弟は?」
「上に姉二人、下に弟三人。丁度真ん中だわな」
「御姉弟はお好きですか?」
「好きも嫌いも血が繋がってるから、心から嫌いにもなれないし、常いるから好きにもならないな。でもそういうもんじゃねぇかな?」
トトには兄妹のような存在はいるが、実際にはいない。それ故、作品の知識とリアルな物の違い。特に人間の感情に関しては疎くもあった。アデルが愛しいと思うミシェルとマリー、兄を尊敬するミシェルとマリーに関してもそれがリアルかどうがか分からない。
「大変貴重なご意見ありがとうございます。ちなみに大友さんはどの女性キャラクターがお好きですか?」
「まぁ、リーゼロッテ様? 可愛いし、そう言うトトさんは?」
「僕は全ての女性キャラクターを愛してますよ」
「うん、言うと思った。でもトトさんの女好きって嘘っぽいよね」
「あらあら」
必殺、スルー時のセシャト語。時と場合により色んな意味を持つ。汐緒が話を始めたのでそれに二人は集中した。
「シュヴァルツのとのさんの試合運びは剣道みたいでありんすな? 剣道をしていた姫さんはおりゃう?」
ポツポツと手を挙げる女性客に汐緒は語った。戦力温存に最高戦力で一気に勝ち星を取りに行く。そういう意味での昨年ヴァイスを先方というのは実に効率が良い。
「リーゼロッテのじょちゃんが恥ずかしがる様、分かるでありんすな? 何故か友達といるときに親がいると恥ずかしいでありんす。それも親の変なテンションは見ていて死にたくなるもんかや」
公王もまた人の親、それも自分の娘が活躍していれば心躍るだろう。親の心子知らずというように、子の心もまた親は理解できない。大友もこれ分かるわーと反応している中、汐緒は次のオススメポイントに入る。
「マリーのじょちゃん、できた妹でありんすな? 涙がでそうになるでありんす。禁断の愛にならん事もさることながら、リーゼロッテのじょちゃんを応援するとこがミソかや! おや? これは実に美味そうでありんすな? バラのアイスケーキ食べたい姫さんはおらんかや?」
汐緒のMC能力はそこそこに高い。トトはまた自分に何か振られるなと思いながらほぼ全員が手を挙げるので汐緒はトトを見てこう言った。
「店長、これ作れるかや?」
再び視線がトトに集まるのでトトは頷く。
「同じ物が出せるかは分かりませんが、善処してみましょう。セットのドリンクはハイビスカスティーですね」
バラの風味が苦手な人は意外と多い。これが不思議な事にハイビスカスのお茶と合わせるとマイルドになる。
トトは笑いながらコスト面、調理方法、万人の舌を満足させる組み合わせを考える。多分出来るだろうと言う結論に至ったので控え目に手を差し出して汐緒に続きを考察させる。
今はトトを頼るトークを繰り返すが、これを本来一人でやってのけて一人前、トトの横で戦闘シーンを楽しんでいる大友に視線を移すと聞いた。
「どのあたりを?」
「リビエラって子が手加減して戦うとこ。ここもリアルだね。身分の差から勝負を実力以外のところで決してるってのはさ……あとさ、シュヴァルツかっけえぇええ!」
不思議の国のアリスよろしくな恰好をしている大友だが、その素や完全な少年。確かにこの学園対抗戦でシュヴァルツの出陣シーンは心が振るえる熱さがある。
それよりもトトは気になっていたので質問した。
「大友君はなんで女子の恰好してるんですか?」
「えっ? 趣味? だって俺似合うだろ?」
所謂、男の娘というやつだろう。男に興味があるわけではなく、可愛い服を着る自分が好きという大友。似合ってしまうから困りもの。喋らなければ中々男だと気づかない。が素行不良さが男である事を感づかせてくれる。
「この最上紳士ってさ。自分以外の誰かになりたいって気持ち。誰にもあるよな? 俺のこれだって身体がもっと成長して声も変わればいずれできなくなるじゃん? そういうもんなんだよ。人は自分以外の理想を求めるんだよ」
そういうものなのかとトトは大友の話を聞いた。そういう意味では自分や汐緒はそうではない。汐緒は恐らく自分と関わる人間がいなければならないし、トトは作品を紹介できる人がいなければならない。
自分の理想なんてないんだろう。
だからこそ、物語を読み、もし自分が主人公だったらを夢想する。それが自分の楽しみ方、トトは冷蔵庫で冷やしていたチョコレートのケーキを出す。
「汐緒さん、貴方は今後僕が出張ブックカフェを出す時は店長代理として、お店を切り盛りしていただかないとダメですからね! 休憩のタイミングもしっかり見つけてください! 休憩も仕事ですよ」
鼻に手を当ててそう言うトトに汐緒は頷き、それを見る女性客は満足したような表情を向ける。
トトは汐緒を休憩に行かせた事で、現在公開されている最新の章。
『私とアデル』に入ろうとした時、トトのような作り物の接客ではない動き、そして歩くさまそのものが芸術のような男性が入店する。
その男性を見るや否や、トトはタブレットの画面を消した。店内備え付けの画面も全て消え、すぐに男性の前へと一歩。軽く胸に利き手を当て、もう片方の手を背中へ、そして普段の笑顔でこう言った。
「いらっしゃいませ。ブックカフェ『ふしぎのくに』へようこそ」
男性もまた、はにかんだような笑顔、年の頃はいくつだ? 四十、いや三十半ばに見える。ただ一つ言える事は彼の挙動一つ、一つに店内の女性客が絶句している事だろう。それ程までに美しい。
水鳥が飛び立つように、自然でありながら、お芝居のように、そこには確かに人の文化を感じる。トトに対して見事なボウアンドスクレイブ。
トトが入れる紅茶とトトの手作りのケーキを食べて、男性は店を後にする。その際に男性はある事に気づいた。
「失礼」
トトの髪が少し乱れていた。それを撫でるように整えてくれる。
「あっ、すみません」
「外回りの最中でしたが、大変美味しかったです。また時間がある時に寄らせてもらいますね」
トトは彼に信号に気を付けろと、少女を助ける必要はないと、そう言おうとして踏みとどまった。撫でられた頭に手を置いてこう呟いた。
「ジェントル、良い旅を」
名残惜しいですが、本日を持ちまして9月月間紹介作品『最上紳士、異世界貴族に転生して二度目の人生を歩む・著 洸夜』の紹介をここで一旦幕とさせて頂きたいと思います。
最上紳士はまだまだ続きますよぅ! さぁ皆さん、あのジェントルでそれでいてちょっとお茶目なアデルさんの今後の活躍を一緒に楽しみませんか?




