世界感の解明はケーキ作りの如く
なんだか突然涼しくなってきましたねぇ^^ 9月作品の資料として相当な量の紅茶を頂きました。最初の頃はやや暑かったのですが、今は丁度よいですねぇ!! もうしばらくするとジンジャーティーなんかを頂きたくなるものです!
「汐緒さん、そうですね。筋がいいですよ? 最初は苦しいかもしれませんが、だんだん楽しくなってきますから、そうですね。この棒を使ってもより楽しめるかもしれません」
トトは今までにない冷たい目でそう言う。それに潤んだ瞳で汐緒は喘ぐ。
「あぅ、もう……だめでありんす……ぬし様、かんにんしてつかあせぇい」
悶える汐緒を横目にトトは王様でも座りそうな豪華な椅子に腰かけるとipadを取り出した。
「あーやっと電波が入りましたね。やはりWeb小説はオンラインあってこそですね」
トトは足を組むと各種Web小説掲載サイトへとアクセスし、ブックマークしている作品群の更新具合を確認してから『最上紳士、異世界貴族に転生して二度目の人生を歩む・著 洸夜』のページをアクセスする。
アデル達が五騎士として学園で紹介されるシーンをトトはゆっくりと、高めの甘い声で朗読を始めた。その声を聴きながら汐緒はもう我慢が出来ないような切ない表情をした。
「ぬしさまぁ」
「汐緒さん、続けてください。しかし、アデルさんいえ紳士さんというべきか……だんだんと成長が能力に反比例して退行をはじめてますね。そして情けない元のアデルさんにこの父親ありと言ったところでしょうか?」
学園対抗戦のホテルで、アデルが自分の父と会った時、父は酷くアデルを粗野に扱う。
いかに素行不良の息子であったとして、この態度はいかがなものかとトトは思う。そこまで不快であったならば……
「さっさと処分してしまえいいじゃないですか、そうは思いませんか? 汐緒さん」
汗だくで「はぁん」と熱の篭った喘ぎ声をあげる汐緒、その様子を見るわけでもなく、トトは続きを読む。
「アデルさん、いえ最上紳士さんが何処かでご存命であれば僕も頭を撫でてもらいたいですね」
家族と会う事を楽しみにしているアデルを自分の事のように思い楽しむトト、そして冷たい視線を一瞬汐緒に向けて、再びipadへと目を向けた。
「家族……といえば神様はお腹を空かしてないでしょうか? カップ焼きそば一つおひとりで作れない方ですから、心配ですね」
汐緒はトトが自分以外に誰かを気遣い、そして満たされたような表情をする様子に全力の嫉妬を見せた。
「神様って誰でありんす?」
「汐緒さん、手が止まってますよ? 神様は、この世界で最も尊く、最も美しく、最も賢く、最も優しい方です」
「アデルのとのさんのようでありんすな?」
「まぁ、言われてみればアデルさんもそういう風に表現できなくもないですね。対極のところにいそうですが……」
完璧超人たるアデル、もとい最上紳士。そしてあの神様。並ぶとまぁ絵にならない事もないかもしれないが、神様は何処に出しても恥ずかしくないちんちくりん具合が際立つ。
一応親という事もあり、トトは段々と恋しくなってきている自分を感じる。
「あちきより神様の方がいいでありんす?」
「そうですねぇ、当然神様ですね」
しょぼんと明らかに拗ねる汐緒を見て紅茶を一口すするトト。
「汐緒さん、そのくらいで構いません。次はそうですね左あるそれを同じように」
「あひっ、もう無理でありんす!」
「やってください」
笑顔で命令するトト。前年ヴァイスが出たという学園対抗戦初戦。これにアデルを選んだシュバルツ。彼は大人ぶった子供、ガキ大将というイメージをトトは持っているが、先輩としては本当にできた先輩だなと思っていた。
できる事ならこんな先輩と共に学園生活を楽しんでみたいなと、そう思える程に。
「おや? アデルさんが紳士としての完成が負けてしまうなんて、そんな事ありえると思いますか? ねぇ、汐緒さん?」
汐緒が答えられないのを分かってトトはそう言う。本来紅茶に入れるハズの茶色い角砂糖をつまむとそれを飲み込むように口に放り込んだ。
「アデルさんの初戦の相手はパイロマスター。ヘカさんなら非常に好きなキャラクターかもしれませんが、単独で戦うのは不利ですね」
爆弾、地雷。そのどれも対群かサポートとして光るところはあるかもしれないが、単騎駆けには向かない。あるいは物体を爆弾にできる能力であればワンチャンスくらいはあったかもしれないが……マルチスキルを持つアデルからすればボーナスステージのような相手であろう。
「個人的にはもう少しどの戦闘シーンも長く楽しみたいところではありますね」
トトはネット環境で読むWeb小説という物は実に深みがあると思いながら、アデルの謙虚さに関して同じ気持ちを抱く。
この異能が存在する世界、自らの能力は誇りなんだろう。それ故、いくらかどの能力者も自らの能力に対する自惚れが存在する。相手は常に自分よりも上手であるという考えを持つアデルは自らのチートを含めても大きな武器となりうる。
所謂、年の功。
逆にアデル達の聖ケテル学園エースであるヴァイス、こちらは完全にバトルマニア。圧倒的に自分に対する自信をもって叩き潰しにくるタイプである。逃げの算段に勝利はない。
試合に対してはそうかもしれない……が戦に対しては逃げる事はある意味最強の一手ではある。それ故ヴァイスは戦いを知らない戦闘の天才と言ったところだろう。
しかしながら、ヴァイスと戦おうとする者は数少なく、いざ立ち向かう者も考えなしのゴリ押しが多い。それはヴァイス達聖ケテル学園も同じく。
性能差に対して立ち回るという考えがそもそも存在していない。この考えがもし故意に行われているのであれば……
「なんの能力もない一般人でも彼らに勝てますね」
人間は考える葦である。不安定ではない足場。人より優れた能力があれば、それだけ人は考えなくなるのか……そして弱者のこの反逆をしない行動が、強者をより考えさせない構図が出来上がっているのであれば、実に深く考えさせられる。
「まぁ、考えすぎですけどね。ここはヴァイスさんがいかに可愛く、狂気じみているかを楽しむ場所ですし」
主人公であり、チートを持つアデル。さらに言えば戦術経験も豊富な歴戦の戦士と単純に戦闘に愛され狂っているヴァイス。
彼らの全力での戦いは見ごたえがあるだろうとトトは夢想した。この構図は、考える技持つ者と圧倒的な力を持つ者のどちらが強いのか?
これは矛盾の構図と等しい。
考え抜かれた技や術は強い。それは実力以上の相手を脅かし完封する程に……何故なら、技は力に勝つ為に生まれた物。柔よく剛を制すという言葉も正にそれである。
が、圧倒的な力の前には術も技も通用しえない。
この世界は、スポーツ等が異常な程に下火である世界、異能力というギフトの代わりに本当の意味で考える事を放棄した世界なのかもしれない。
そう考えると、異様にドライなアデルに対する父親の反応にも頷ける。
取捨選択した結果なのか? アデルの執事やレイのような人間の本質に触れるような存在が実のところ異端思想か?
当然そんな描写はなく、語られてもいない。
いくつかの世界感から読み取れるパーツが行きつく先は赤い月の光。
「この世界の人々に何等かの変化をもたらせたんでしょうか?」
月や太陽の光はセトロニンの分泌に関わる場合があると学術的な見解が出されている。それと同じで異能力の発現によって、人間が進化。ないし退化しているんじゃないかとそう思える描写はいくらかある。
ふとトトは自分の悪い癖に我に返る。
トトは深読みしすぎてどつぼにハマりやすい。推理小説を一冊読むのに考察の為、資料と仮定、実践、結果を用いて納得するまで考察した上で読了。一冊に一月かける事もザラではないのだ。
「世界の秘密はゆくゆく解明されてくれるでしょう? さて、汐緒さんどうですか?」
「もうらめぇ! 白濁の液体がっ……液体がぁああ!」
シャコシャコと汐緒がイキそうな顔で手を動かす先、視線をずらしていくいくと、汐緒は銀のボウルで生クリームを立てていた。
「まぁ今回はそのくらいでいいでしょう。オーブンに入れてあるスポンジはしばらくしてから出してくださいね? では苺を切ってください」
フルーツナイフを取り出すと手際よくトトはスパスパと切整えていく。さらには一つ二つ、飾り切りを披露した。
「ナイフの扱いは女性のように繊細にそれでいて迷いなくエスコートするようにフルーツを動かして切ってください」
先ほどまでケーキの生地、そして生クリームを立てていた汐緒は苦しそうな顔でトントンと苺を切る。
「八個苺は切らずにとっておいてくださいね?」
オーブンからスポンジを取り出すと、トトは汐緒を呼ぶ。
「汐緒さん、ではスポンジを中心からスライスしてみましょう」
そうトトが言うので、汐緒は頷いて包丁を持って来る。優しくトトはその包丁を汐緒から取り上げる。
「そうですね。包丁でも構わないのですが、最初はミシン糸で切りましょうか?」
包丁でキレイにケーキを切るのは意外と難しい。トトは誰にでも綺麗に等分できる技を見せる。
「凄いでありんす!」
「ふふっ、では苺をひいてクリームを塗りましょうか?」
トトが汐緒に作らせていたのはショートケーキ。所謂日本のデコレーションケーキである。クリームの塗り方が汐緒は初心者なのでトトが綺麗に直していく。苺を乗せて完成させたそれに二人は手をポンと合わせて喜ぶ。
「そうですね。ではこれをベステトルテ エーアトベーレ(最高のショートケーキ)。和名を『最上紳士』として当カフェのメニューにしましょうか? 本物がお食べになると、いくつかアドバイスをしてくれるかもしれませんが、慣れればもっと見た目も綺麗に作れるようになると思いますよ?」
トトの言っている意味が分からない。
汐緒はここからトトを逃がさないようにしていたが、すぐに捕まり、罰としてケーキ作りを強要されていた。
「何を言っているかや?」
ふぅとため息をつくトト。そして足を組むと自らの利き手を汐緒に差し出した。
「汐緒さん、いえ。座敷童さんと言った方がいいでしょうか? お一人で寂しいなら、こんなところから出て僕のお店で働けばいい。飽きませんよ? もしその気があるなら僕のこの手に、そんな遊女のような態度ではなく紳士らしく誓いを立ててください」
トトには王の風格があった。
「もう誰かを待たなくていいんかや?」
「えぇ」
汐緒は両目にあふれんばかりの涙を溜め、それでいてトトにかしずく、左手を背に足を交差させ、トトの手の甲にそっと唇をつけた。
上目遣いにトトを見ると、トトは最初に会った時と同じく優しい笑顔を見せる。それを見て顔を真っ赤にした汐緒はこう言った。
「おあとがよろしいようで」
ついに出ましたね^^ 王様トトさん! 作品の中にあるギミックや説明描写から世界感を想像するのは非常に楽しいですねぇ!! 違っていたり、予想通りだったり、逆輸入をされたり。作品を読んだ時に面白いと感じたら感想を作者さんにそっとお伝えしてあげて欲しいですねぇ!
さて、もしかするとWebで『最上紳士、異世界貴族に転生して二度目の人生を歩む・著 洸夜』が読めなくなるかもしれませんよ^^ まだ読まれていない方は早めに最新話に追いつきましょうね^^
次回9月紹介作品 最終話 「Gute Reise」




