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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第一章 『琥珀』著・FELLOW
8/109

物語で一番盛り上がるところ

明後日あたりに日本最大級の寒波が来ます。春物を出されてた方もいるかもしれませんが、コートをしまわずに備えてくださいね^^ 私は甘酒をたくさん買い置きしてみました! これで最後の大寒波に備えます!

 セシャトは秋文が来ない事を知って、少し遠くへ買い物に来ていた。

 そこにはカルディ珈琲があったので入店する。

 この所せましと物が置いてあるお店がセシャトは大好きだった。まさに不思議の国にでも来たような気分になる。



「カルディブレンドです!」

「ありがとうございます」



 小さな紙コップに入った珈琲を渡されて舌鼓を打ちながら店内を見て回れるこのスタイルもまた斬新で好きだった。

 さて、コーヒーを飲んで落ち着いたところで、秋文に質問をされる事をある程度予想しておこうかと思った。

『琥珀』の中にある一節、カフカの変身。



 フランツ・カフカ(1883―1924)、今でいうファンタジー小説を得意とする作家。その中の短、中編の物語、変身。

 これを『琥珀』では蟻と絡めて表現した。

 しかし、カフカにおける虫。という存在、定義がないのである。言葉にすれば「蟲」のような物ではないかとセシャトは思い。



 それは、琥珀に閉じ込められている昆虫や爬虫類達をそう表現しようとしているのかと、カルディの珈琲を鼻孔に感じながら思考を別世界に飛ばしていた。



「……様、お客様?」

「は、はい! これください!」



 適当に指を指した物はラクレットチーズ、店員の女性は笑顔でそれをセシャトに渡すので、セシャトも笑顔でそれを受け取る。

(やってしまいました)

 買うつもりのない割高のチーズを買ってしまった事で、今日のオヤツを買う事ができなくなってしまった。



「むぅ、よし! では今日はスイスの山小屋にいる気分で、バケットにチーズを載せて頂きましょう」



 ラクレットといえば、一番最初に思い出されるのはあの『アルプスの少女ハイジ』がおじいさんからトロトロに溶けたチーズをパンにかけてもらうシーン。

 考えるだけでセシャトは涎がでそうだったので、チーズを買うとセシャトはベーカリ・アンデルセンでハイジの白パンを買って帰る事にした。

 古書店『ふしぎのくに』に戻ると注文していた中古の児童文学が段ボールで二つ届いていた。それを簡単に仕分けをすると、セシャトは母屋に入りミルクパンでチーズを熱した。



「霧島さんは入院してから、詩が上手くかけなくなってしまった。それは、もう自分すらも信じられなくなってきたという事なんでしょうか?」



 セシャトは病で伏している人という状況をリアルに見た事がない、だが何百・何千という作品を通してその辛さだったり勇気だったり、を疑似体験してきた。霧島さんが患っている物は例にするケースが存在しない。

 だが、猜疑心が猜疑心を呼び、自分の感情や思考をも疑いだすのだとすればそれは考える必要もないくらいに恐ろしい事だ。

 自ら心が自壊していく病気なんて現実にあればあるいは安楽死が認められるような物かもしれない。

 セシャトの想像を強制キャンセルされる。手元からジュージューと焦げ臭いにおいが手元から漂うのである。



「あぁ! またやってしまいましたっ!」



 ラクレットが真っ黒にぶくぶくとマグマのような何かに変わりはて、セシャトはやや泣きながらミルクパンを洗うと改めてラクレットを温めてパンにかけた。



「オヤツを食べる時は、もうそれに集中する事にしましょう」



 パタンとノートパソコンを閉じて、リンゴを齧ったマークと見つめ合いながら、セシャトはラクレットをかけた白いパンを一口食べる。



「んんっ! これは、口の中がとろけそうです」



 ひと時至福を感じた所で、今日のお茶。

 用意した物はブラックのコーヒー、フラスコ型のコーヒーサイフォンで淹れてみた。

 練習をして、秋文にコーヒーを出してあげると喜んでくれるかなと、そんな事を考えて中のコーヒーをハケで混ぜる。

 そのコーヒーの香りをかぎながら、霧島さんが、空太君に出した病室内でも体感できるデートプランについて考える。



 ここがセシャトは大好きだった。

 必ずくる最期をドキドキしながら読まなければならないのかもしれないが、セシャトはこここそ、この作品の一番甘くて切ないポイントだなと思っていた。

 いわば恋愛小説としての最高の盛り上がりを見せる。



「恋愛ですか……」



 砂糖のように甘い恋であるとか、遠距離や年の差の甘酸っぱい恋、そして本作で描かれている悲恋。

 神の視点、読者としてはセシャトも体感はしてきたが、こればかりは自分が実体験するという事は今後もありえないだろうと思っていた。

 それ故に、完全に理解しえない難問の一つ、これを質問された時はどうしようかと、苦いマンデリンを舌で味わい、少しクサいジョークを考えてみた。



「恋愛というのはこのコーヒーみたいなものなんですよ! ……一体、私は何を言っているんでしょう」



 自分で言って恥ずかしくなったセシャトは自分を律するようにまだ熱いコーヒーを流し込むように飲みほした。

 そして、短期アルバイトを募集するポスターの作成を開始する。

 何故短期アルバイトを募集するのかという事だが、数か月に一度セシャトは千代田区にある神保町へ足を運ぶ、安くて珍しい本を仕入れる為という体裁があるが、本好きなセシャトの小旅行みたいな物である。



 よく神保町の書店員から阪急梅田にも小さいながら有名な『古書の街』と呼ばれる書店街があると聞き、大阪という食の街へしばらく足を運ぼうかと思ってた。

 短期アルバイトが見つかればの話なのだが、店を閉めるわけにはいかない、かとってそこまで高い給金を払えるわけでもない。



 殆どお客さんがこない店なので、店番をしてくれればそれで構わないのだが、最低賃金ギリギリのアルバイトをしたがる物好きも少ないだろうとセシャトは応募があればくらいの気持ちで考えていた。



「よし、こんな物ですね」


 我ながらいい感じでできたんじゃないかと思うパソコンソフトの中にある素材だけで作ったポスター。

 少しばかし寂しそうなので、自分をコミカライズしたイラストを描いて、『優しい店長とオヤツ付き』と書いてみた。



 しかし、その優しいであろう店長は留守にするので、やや記載は詐称している事にセシャトは気づいてはいない。

 さっそく作成したポスターをA3で印刷すると、店の入り口に張り付けてしばらく眺めてみた。

 なんとも滑稽に見えるこのアルバイト募集。

 雰囲気をぶち壊すそれに少々閉口せざるおえなかったが、できる物なら各地域の本に関する町に遊びに行ってみたいなと思っていたし、少しくらいは我慢しようとセシャトは割り切る事にした。



 色んな所に行く、自分の為に目的地を決める事と、他人の為に目的地を決める事は全く違う。自分の感性が全く通用しない可能性もあるし、相手の事を考えて場所を選ぶのは楽しそうな反面、疲れそうだ。

 それは恋をしらないセシャトだからそう思ってしまうのだろうと自分自身感じていた。

 単純に分からない。

 所詮は人間ではない自分に人間の事を完全理解するという事は非常に難しい。



「ですが、そんな私だから空太君がどんなデートにすればいいのかという気持ちを理解しえるかもしれないですね」



 ノートパソコンを開き、ブックマークしている琥珀を開く。そして何度目を通したか分からない章を読み直す。

 病室から出れない霧島さんの為に空太はどうやって最高のデートを作り上げればいいのか、そんな事を考え、疲れているのだろう。

 このクライマックス前の霧島さんは、もう普通の人ではなくなりつつある。そんな相手を喜ばしてあげる方法が普通なデートなわけがない。



 普通の相手として接しようとしている空太に対して、霧島さんは随分現実的だった。異常とも思える病気を患っている霧島さんの方がむしろ正常な反応を示していると言っても過言ではない。

 この一節。



『もう、無理して、来なくてもいいんだよ』



 相手の心の内を見極めてしまっている霧島さん、トドメと言わんばかりにもう一文が空太君を、読者の心を折りにくる。



『……、今のあたしはきっと空太を苦しめる、傷つける』



 そんな事はないよ。

 そんなチープでバタ臭い台詞が彼女は欲しかったのではないのだろう。そして、彼女はあらゆる彼を同時に欲していたのだろう。

 物語は一方通行でしかない。

 そしては、人生もそうなのだ。

 彼女は、空太を愛しているから、空太を止めるわけには行かなかったのかもしれない。そしてそれは当然のクライマックスを迎えるのだ。



 誰も望まない結果かもしれない。

 されど、誰もが望んだ霧島さんなのかもしれない。

 セシャトが一番好きなシーン。

 月の裏側でのデート。

 ここにはセシャトも心が震えた。もはや、空太の知らない霧島さんになりつつあるあの状況で、空太は確かに霧島さんにあの瞬間並び立った。

 自殺を試みたあの日から、彼女の最高の日を少なくとも更新させた。



「さて、秋文さん。そろそろ物語を読み終わる頃でしょう。私とは違う別の感覚を持つ方がどう感じるのか、怖くもあり、気にもなります」

残すところ、あと数話でFELLOWさんの「琥珀」は終了になります。最後までお楽しみいただければ、「琥珀」を再度読み返してみるとまた違った風景が見れるかもしれませんね^^

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