物語の裏の主人公『悪』 水着回とは?
最近ですが、トトさんのヴィジュアルが固まってきました。実に困りますねぇ。どう考えても私とキャラが被ります。ここは一度、古書店『ふしぎのくに』人気投票を行いましょうか?
今回、作品に登場します山形銘菓『古鏡』実にほっぺが落ちちゃいますよぅ!
「リーゼロッテのじょちゃんが負けたかや! ぬし様、炎の力は最強ではなかったかや?」
「そうですね。炎は最強の力です」
「ではなぜかや?」
リーゼロッテは聖ルゴス学園のルビエラに数手届かず敗れる。それに対して納得がいかないのが汐緒。トトは今まで何度も炎よりも強い力は存在しないと言ってきた。
「相手が大気だからです。炎そのものを唯一殺せる力が大気、即ち風ではないでしょうか? 抵抗があるものの、最大速度として秒速100メートル。リーゼロッテさんからすれば瞬間移動に見えた事でしょう。結果として封殺されました。まさに最大の天敵と言えるんじゃないでしょうか?」
それでもやはり汐緒は納得できない。トトは最強の力であると言ってのけた。あらゆる力に対して上位に立つ力が炎であると……そんな汐緒は面白くないという顔をしているのでトトは苦笑する。
「では、一つ風に炎が打ち勝つ方法をご説明しましょうか? 炎が燃える時、酸素を燃焼して発生します……が酸素を必要としない炎が現実にも存在します」
汐緒はトトが持ってきていた求肥の入った山形銘菓『古鏡』に舌鼓を打ちながらごくりと喉を鳴らす。
「リーゼロッテさんの異能にそもそもその力があるのかは分かりませんが、あの力を使えるのであれば、相手が大気であろうとねじ伏せれます」
トトが指さすのは、燦燦と直視できない輝きを放つ観測上最大の恒星。
「お天道様かや!」
トトは頷いて見せる。自ら増え燃焼を繰り返す最強のエネルギー、炎。それを月並みの言葉で表現するのであればこの言葉がより相応しいのではないだろうか?
「神様ですからね。炎という力は。そして人間に叡智を与えたのは知恵の実ではなく、炎です」
よく風で何かを切り裂くという描写があるが あれは実は不可能である。真空や大気にそんな作用はない。だが、炎は生物であろうと、物体であろうと切り裂く事ができる。炎の汎用自在性は無限である。トトは『古鏡』を一つ摘まむと一口齧った。
「リーゼロッテさんが、もし自らの力をより扱えて、限界を超えた時。彼女はその愛らしさ、程よいツン具合。そして火力と、名実共に最強のヒロインになるでしょうね」
トトの説明をしてもやはり汐緒は納得がいかない。本作は見ようによってはリーゼロッテは実に主役級である。強力な力を持ちながらも経験不足故か、敗北が多い。
主人公たるアデルが特殊なチートを持っている為、彼の成長譚は見込めない。というか彼は成長しきっている。
願わくばより美しくカッコよくなって頂くくらいだろうか? そんな意味でもあらゆる意味で応援したくなるキャラクターはリーゼロッテその人である。
「ふふっ、百面相であったりカッコよかったり、可愛かったり、長所も短所もあるリーゼロッテ様は出る作品を間違えれば主人公だったかもしれませんね。そしてここでもやはり、アデルさんの年の功がじわじわと笑いがこみあげてきますね。この上がりと下がりに関しては私は作者の洸夜さんは天才と評価させていただきます」
ベタ褒めのトトにくわっと煙管をふかす汐緒。本作は何処までいってもアデルの大人どころか学校の先生目線の語りが実に面白い温度感の差なのか、これに関しては中々勝る作品はないのではないかと思われる。
「ほぅ、完璧でありんす?」
「そうですね。面白さに関しては完璧でしょう!」
完璧な作品という物は何も三拍子そろっている必要はない。楽しませたい事を読者が楽しんでいればそれは作品の完成形と言える。
もし、本作の粗探しをした場合、二点、多くみられるものは確かにある。
紳士の礼儀作法がところどころおかしい。戦闘描写に関して紳士あるいは日本人しか知りえないような技術の返し方を一階の学生が熟知していたりする点等であろうか?
されど本作の楽しみ方はリアルな描写やバトルパートではない。
そう言った特殊な力のある世界において、落ち着いた日本のジェントルの目線で繰り広げられた場合、ライトノベルのハーレム物、異能バトル物、そして異世界転生物はこうなる。
というありそうでない特殊ジャンルなのである。
「元のアデルのとのさん、普通だったんでありんすな?」
「えぇ、異能が発現しない程度で落ち込むという点は極めて情けないですけどね」
そう淡々と言ってのけるトト、リーゼロッテの語りから始まるのこの項目、一般的な小説ではまずありえない視点移動。
これらの使い方もまたWeb小説ならではと言えるのではないだろうか。
「このリーゼロッテさん視点の話ですが、実に興味深い話となります。これはただただリーゼロッテさんが可愛いなと思える反面、本作最上紳士的読み取りをすると裏の楽しみ方があるんです。汐緒さんはどう思いましたか?」
汐緒はもう一つ『古鏡』をぱくりと食べると静かに言った。
「リーゼロッテのじょちゃん、頭がわいているかや?」
そう、こいつ何言ってんだ? と思う読者が少なからずいる。緩急をつけるという文章表現において完全に斜め上を行くこの感想。
これはただの異世界物であればそう思う事もなかったかもしれない。なんとなく、間というか温度差を本作で楽しんでいると、完全に期待してしまう。普通ではないこの作品における普通を……
「良い感じでボーイミーツガールをしていますが、このアデルさんはアデルさんではない。リーゼロッテさん逃げてと思う半面、何故か少し面白いんですよね」
最後の『古鏡』を汐緒がぱくりと食べる。『古鏡』実に美味しい銘菓である。これなら神様もあの甘味狂いの姉か妹も十分に喜ぶだろうとトトは眼鏡のズレを直す。
「このシーンで面白い事があるとすればあのいやに長い名前の顔無しさんが、最上紳士さんの記憶をトレースしていない点ですね」
「してたらどうなるでありんす?」
「ゲシュタルト崩壊、認識外に触れすぎて発狂を起こすんじゃないでしょうか?」
現実世界の人間の持つ情報量はもはや、兵器ともいえる。自らその記憶に押しつぶされて引き起こされるあの病気は今や社会現象となっている。
「偽物はアデルのとのさんの力を出せんかったがや! 愉快でありんすな!」
「そうですね。ここは主人公補正を上手く魅せたシーンだと私も大変感激しております」
人々の想いを形にした物、故に紳士の記憶がない顔無しには異能のトレースまではできなかった。
「英雄達の幻燈投影、これが集いし願いという事であるなら……この異能はアデルさんよりも以前の世代にも存在したのかもしれませんね。そしてその時代のみの姿を持っていたなら、この異能はまだ不完全ですよね。是非とも最終段位を見てみたものです。そうですねぇ、このマヨヒガも本来の姿を見てみたいですねぇ」
今まで見せた事のない冷たい視線を汐緒に送る。その視線を受け流すように汐緒はニヤりと嗤う。
「ぬし様、あちきとの戯れはこん話のあとにしましょい。アデルのとのさんが火傷しそうな決意をもったかや、ぬし様もほんに冷たい顔をせずに」
新人戦編の終わりと共にトトは頭を切り替えてほほ笑んで見せる。
「はい、では先ほど冷やしたフルーツティーでも頂きましょうか?」
氷とレモングラスを付け合わせたフルーツスライスの沈むフルーツティー。ワインクーラーで冷やしたそれを細長いグラスに注ぐ。
「僕のお店の新商品になる予定です」
アイスのフルーツティーをゆっくりと汐緒はコクンと飲む。目を見開くと無言でもう一杯をねだる。それにトトは応じる。
「シロップを入れても美味しいですよ! 是非、お試しください」
ひと時午後のティータイムを楽しむと、顔無しを連行した騎士が全滅させられるというシーンよくある展開だろう。
そんな展開において汐緒はトトに問うた。
「これだけ強い力あるのに、何故こんな回りくどい事をしたでありんす? あちきにはべこのかぁにしか思えんかや」
それを言われるとトトも返す言葉がない。そういう物なのである。何故か? それは有史以来物語において『悪』と呼ばれる存在はとにもかくにもまどろっこしい。
「彼らは不思議な事に、何故か主人公サイドを見逃し、レベルアップさせ、苦難と試練を与え、そして栄光の頂を与えてくれます」
トトなりの悪の見解。
それにフルーツティーを含むように飲むと汐緒はトトの言っている事をまるで理解できないでいた。
「それは、師匠かや?」
あの厳しくとも優しい、主人公達のお助けキャラクター、師匠。
「ベクトルは違いますが、通じるところはありますね。物語で生を受けた方々は主役か、そうでないかの二つに分かれ、主役でない者はレギュラーかそうでないかに分かれます。そうしている内に一つ面白い事が生まれます。こういった形を持った悪がいる作品は、それそのものが裏の主人公ともいえるでしょう」
主人公を考え練り、そうやって生まれた最高の主人公と対等に同じ舞台に上がるのは主人公がいかにしてそれらを打ち破り、華々しく散るのか、主人公と同じかそれ以上の熱量を持って生まれた『怨敵』以外にはありえない。
「ですから、たまに悪役の方が人気が出る作品なんてものもありますよね! 有名な方をおひとり出すとバイキンマンなんてそうじゃないでしょうか? まぁばい菌なんですけどね」
人ならざる汐緒に、悪役の良さなんてものが理解できるかは不明だが、海外映画もヴィランを主役にした作品がよく公開されるのも彼らの主人公性に惹かれてではないだろうか?
「汐緒さん、そして次はお待ちかね。水着回です」
「み、みずぎかいかや?」
これは誰がやりはじめたのか明確な回答はトトも持ち合わせはいないが、ここ最近の特に二次元作品においては物語の一つの節目が終わると、前門の虎、温泉回か後門の狼たる水着回がねじ込まれる傾向にある。
そしてこの最上紳士も例外には漏れなかった。
「はい、僕は好きですよ。必要であればちゃんと流行りを取り入れる作品作り」
トトは冷蔵庫を開く。そこはトトが欲しいと願ったスイカが入っていた。それを八等分に切り分けて汐緒の元へと持って行く。
「作品と同じ空気感で食べるオヤツは僕の姉か妹曰く最高だそうですよ! 是非汐緒さんもアデルさん達と夏休み気分を楽しんでください」
人間という物は外で肉を焼いたり、肌を露出して遊ぶと不思議とテンションが上がる。トトにはその理由は分からないが、作品知識としていずれの物語でもそんな動きをしている。
「人間という存在は、案外野生に帰りたいからかもしれませんね」
トントンとトトの腕を指でつつく汐緒、それに「なんですか?」と優しく微笑んでみせるトトにスイカの種をつけたまま汐緒が嬉しそうに口を開く。
「海で半裸で、美男美女。ぬし様よ! 間違いがおきんかや?」
起きるとトトは言おうか考えて笑った。
「海に入る前には準備体操です……なんて言える引率の先生がいらっしゃるので大丈夫ではないでしょうか?」
この水着回、アデルの夏休みにおいてもアデルはブレない。主人公でありながらジョーカーであるアデルは非常に使い勝手と取り回しがいい。主人公である事で、アデルとしては退場する事はない事も安心ではある。
最上紳士がこの物語の行きつく先でどういう決断をし、どうなっていくのか、それは誰にも分からないが、このスタイリッシュさと安心感を読者に与え続けてくれる事だろう。
そしてトトはスイカをぱくぱくと食べる汐緒に向かってこう言った。
「では、そろそろ僕もここをおいとましようと思います」
完璧な作品とは……当然私の1、意見ですがWeb小説においては公開が楽しみだと思われた時。
作者さんの表現したい物がよりよく理解された時。
『面白かった』この一言をもらった時。
等ではないでしょうか?
『最上紳士、異世界貴族に転生して二度目の人生を歩む・著 洸夜』
本作から私も完璧な楽しさをいつも感じてますよぅ^^
さぁ、次回より後半戦です! 最上紳士、本編も確信に迫るような物語に入っています。是非是非楽しんでくださいね^^




