固定観念のトリックは朝食の後に
さて、ここ最近古書店「ふしぎのくに」において面白い動きが始まりそうです^^
今月は作品世界に合わせて私も紅茶を飲む事が多いですよぅ!!
私はフレーバーティーを飲む事が多いので、ノンフレーバーティーの勉強をこの機に行わして頂きますよぅ!
朝、トトはスマホを確認するがやはり電波が入らないところにいる。眼鏡を取り付けるとそこに触れ、少しここに来た事を思い出す。
(マヨヒガ、ここが僕の知るマヨヒガであれば僕は何かを得て帰るという事になりますが、本当にここは僕の知るマヨヒガでしょうか?)
汐緒に聞かせる話は、新人戦の触りになる第二章頭からだったかなとIpadを取り出す。トトは本作において個人的に最上紳士を尊敬している。
それ故、自分の能力がセシャトかあるいは、謎多きヘカの持つ物であれば彼と会い話す事もできたかもしれないなと苦笑した。
「私利私欲の為に私達の御力は使ってはいけませんけどね」
この異世界転生というタイプの物語、実に覚えがある。トトは自分が身体と意識を持つ前、神様に出会った。今のちんちくりんではなく、長い金色の御髪に、トトよりも大きな身体、態度の大きさは変わらなかったが、これが神かとトトは心底陶酔したものであった。
二度目に出会った神様は人間の少女の為に自らに楔を打ち、ジンベイザメを依り代にした見るに堪えない姿に変わっていた。
今は慣れたものの、あの神様はどのようにしてこの不思議な力を我々にもたらしたのか、謎が多い。文字を読みながら同時に別の事を考える。しかし、トトも物語を楽しむ事には逆らえない。意識は段々とWeb小説に持っていかれる。トトの記憶なんて思い出す必要がない事のように……
新人戦において、全ての学園が揃うシーン。彼らは次は自分の学校が勝つと申告しあう。基本的にいつも同じ学校同士の顔合わせになるのだが、トトはこういう場面が大好きだった。
「同窓会、ではないですがこうやって遠くにいる知り合いが集まって顔を合わせるのはわくわくしますね。思いもしないところで、これらの人々が助けてくれたりするんです」
大量のキャラクターを動かすのは非常に難しいが、大量のキャラクターをストックしておく事の優位性は非常に高い。それも本作程の人気がある作品であれば、ファンサービスを含めつつ物語にスパイスを与える役目となる。
「しかし、紳士さんはアデルさんとの同化が始まっているのでしょうか?」
紳士の見識眼は確かなものであるハズだが、何故かアデル。自分の容姿に関しては大きな評価をしていない。他の耽美優麗なキャラクターと引けを取らないどころか、彼らよりも整っているかもしれない自分の容姿への評価が低い事としては自分というものを確立し始めているからだろうか? とトトは何とも嫌な予感を感じていた。
意識を現実に向ける。
今朝も食事の準備ができている。トトは着替えると鞄から芳醇な香りのするリンゴを一つ取り出して、ブランデーの入った小瓶と各種調味料を用意すると再びキッチンへと向かった。
「このリンゴは神様のお土産にと思ってましたが、腐らせるより誰かに食べてもらう方がリンゴとしてもいいでしょう」
今回トトが作るのは焼きリンゴ、そしてそれを使ったトースト用のソース。レモンもあればよかったなと思い返しトトは冷蔵庫にipadを張り付けると『最上紳士、異世界貴族に転生して二度目の人生を歩む・著 洸夜』を読みつつ調理を開始する。アデルの初陣とも言える新人戦、彼のファンが黄色い声援を送るシーンを微笑ましく読む。
「これが日本を舞台にしたお話であれば、アデルさんに女の子がはちみつレモンでも作ってきてくれるものなんでしょうか? 僕は部活はおろか學校に通った事もないので分かりませんが」
リンゴを回すようにシュルシュルと皮をむく、セシャトはヘタの部分から剥くのだが、トトは下の部分から剥いていく。何故なら上部はくりぬく為、剥く必要がないから、焼きリンゴを大量に作っていた時に効率性をかねてこの剥き方が板についていた。
作中の物語を読んでいて、そういえばアイドルの追っかけをしている女の子に一つスイーツの作り方を教えた事があったなと思い出す。彼女は同じ追っかけの子達を集め、そのアイドルの口に絶対入るハズのないスイーツを大量に作っていた。
「親衛隊、本作をドイツ風の作品として見るから尚面白いですねぇ、恋する女の子は時として奇跡を起こしますから、アデルさんも心強い事でしょう。そしてソフィア先生、可愛らしい発言ですが、実に先生らしいです」
「しゃむに、驚くのはアデルのとのさんでありんす」
おや、しゃむに。この言葉の意味をトトは知らない。方言ですらないとすれば古語か、あるいはセシャトの「はひゃあ」的なやつだろうかと考える
そしていつのまにかこのキッチンにいる汐緒に聞き返した。
「といいますと?」
「身体強化ではアデルのとのさんを仕留められんかや、雷をよける妙技をお持ちでありんす」
汐緒の読みは正しい。さらにはアデルの異能を持ってして、対戦者は相手にすらならなかった。
「汐緒さん、身体強化の行きつく先はどうなるかお判りですか?」
「分からんかや」
「化け物になります。人間の姿のままの強化には運動性能に限界がありますから、空気抵抗で消耗しない皮膚、自らの運動性能で壊れない骨格筋力を手に入れようとすると、おのずと巨大な化物になります。そうですね。国産映画に怪獣王ゴジラという存在がいます。あーいった姿が、生物が身体強化をした慣れの果てかもしれませんね。そう言う意味ではもし、これが試合でなく死合いであればミネルヴァさんはアデルさんに一矢報いれたかもしれません」
「倒せんかや?」
「無理です。アデルさんの異能に対して最も分が悪いのがこの強化系能力です。ミネルヴァさんも驚いた特異な力であるソフィア先生が物つ治癒能力をアデルさんがコピーしたら詰みです。強化が強ければ強い程に治癒能力は大きく作用するでしょうね。下手すれば強化された感覚でショック死です」
話しながら卵を溶くと、それに砂糖と牛乳を浸してフレンチトーストを作る。同時進行でブランデーをかけたリンゴを耐熱皿にのせてオーブンに入れる。
「ミネルヴァのじょさん、とのさんの見方は悪くないかや、お受けせんのもアデルのとのさん、恥でありんす。ぬし様ならいかに? みな愛せるかや?」
ハーレムを形成できるか、という事にふむとトトは頷く。
「そうですね。アフリカの方ではハーレムを形成すると、それら奥さんを全て平等に大事にしなければいけないそうです。ですのでできる方はできるかもしれませんね。僕はどうでしょう? 一人の女性を幸せにする事も難しいかもしれませんね。なんせ僕はまだ0歳ですし」
汐緒が嘘だ! という顔でトトを見つめる。そんな汐緒にウィンクをして見せると話し出す。
「さて、話は変わりますがエポナ女学院の生徒達ですがミネルヴァさんとユーノさん、僕としてもまぁまぁよく知る名前なんです。もう片方はユノさんではありますけど、女神あるいはそれに相当する聖獣から取られています。恐らく学園名からして後者なのかもしれませんね。魔法の世界、親御さんとしてもそう言った神々の名前を子供に付ける事が誇りなのかもしれません」
「これは他の世界の話でありんす。ぬし様達の神々がいるのかや?」
おやおやという顔をトトは見せた。これは良く賛否両論ある考えである。現実世界の言葉や格言が異世界に存在するのか?
これははっきりと言って存在すると言える。何故か? 小説も、神々も格言も全て人間が作った物である。
それ故、存在する。
「ではこう言いましょうか? 神々は私達を越えた存在です。世界を股にかけて存在してもなんらおかしくはありませんよね?」
そもそもフィクションであるという事を忘れるトリック、これに引っ掛かった時ややこしい意見が飛び交う。当然それらも悪くはないのだが、そこは目を瞑るのが粋というもの。
「あー、引っかかったでありんす!」
勝手に作品世界の常識を作り出してしまうトリックに汐緒は気づく。そもそもが作り物である世界を疑似的に存在する仮定で考えていたことに……
それはある種作品への大いなる称賛故かもしれない。と思えば読者への否定的意見は愛してくれている証拠だとも思えるかもしれない。
「ぬし様、人が悪いかや。次は火と水で、リーゼロッテのじょちゃん苦戦してるけに? これいかに?」
「一番えげつない方法でリーゼロッテさんは倒してしまいましたが、水が火に勝つ事はありえません。あるいは雷相手なら勝てるかもしれませんが、今回のように高熱による瞬間蒸発。それ以外にも対して温度を上げずに瞬間的に水を蒸発させる方法が無限にあります。彼女の力を持ってすれば、恐らく水の異能を発現すらさせず完全封印できるでしょうね。苦戦したのは、彼女に理科知識が我々よりないという事でしょう。それを差し引いても今回はお二方共に相手が悪すぎました。そしてここで評価すべきはリーゼロッテさんの言葉です。ボロボロでの勝利は勝利ではないと、さすがは貴族です。この気高さは素晴らしいですね。そして、そんなリーゼロッテさんの勝利を祝うアデルさん、これもまた面白いです。現実のそれも日本人らしい評価。ここもまたリアルを感じませんか?」
そして、トトの顔がにやけてしまうシーン。夕方のトトと同じ格好で給仕を行うアデル。彼の大人所以の発想。子供の発想は素晴らしいと良く言うが、そんな事はない。大人の発想こそ最も人の為になるのだ。それを全年齢向けの作品で感じる面白さ。
焼きリンゴのブランデー添えが完成したのでトトは一回転。まだ時間は早いが燕尾服に着替えると白い手袋をして汐緒の前に膳を置く、そしてそこに焼きリンゴで作ったコンポートソースとフレンチトーストを用意。
「やはり、朝食は冷たい牛乳ですね!」
デキャンタで冷やしたミルクをそっと差し出す。その間に適温に覚ましたお湯でアールグレイを淹れた。
「お茶は、アデルさんが女生徒たちに振る舞ったセイロンベースのアールグレイです。食後にどうぞ!」
もくもくと美味しそうに食べる汐緒は顔を赤らめてからトトに言う。
「ここな、あちきのみでありんす。嫉妬もありゃせんな……愉快愉快でありんす。しゃむに、シュバルツのとのさんがとんちきで……くすくす」
先輩であるシュバルツが苦笑するシーン、大人であるアデルが教え子の背中を押すように応援する。ここは本作のいつもの醍醐味を感じ安心する。
ガウェインとエミリアの試合。ここもアデルの目線で語られる。一人称視点で同時四視点をやってのけた作品が過去に存在するが、本作においてはアデルが語る事で読者離れが防がれる。
実際のところ、ネット小説において主人公以外のキャラクターに関して読者は作者よりもウケが悪い傾向にある。その為アデルが語る事で彼メインの話ではないものの、そういった読者のストレスは大幅に軽減されやすい。
「盾は武器になる……そもそも盾は武器ではないかや?」
鍋の蓋を持って突きをしてみせる汐緒、それにトトはクスクスと笑う。
「シールドバッシュは考えられた事はあるようですが、実用的ではなかったみたいですね。ですのでガウェインさんの戦略勝ちですね。しかしガウェインさんは本能的にアデルさんに大人の憧れる男を感じているのでしょうか?」
エミリアが求婚され怒り狂うガウェインを諫めるアデルの構図は実に面白い。そこではなく汐緒は少し凹んでいた。
「蜘蛛は気持ち悪いかや?」
アルフレッドの能力を見たエミリアが嫌悪感を感じたシーンであろう。蜘蛛は見た目がダメな人が多いがトトはそうでもなかった。
「どちらかといえば益虫ですし、私は嫌いではないですね」
ぱぁあああと笑顔が広がる汐緒。
「とのさんは女子に手加減をするかや?」
「僕ですか? 僕は女性相手ならいつでも全力の敗北者ですよ」
女性相手ならという言葉は心底汐緒をがっかりさせる。汐緒がモーニングを食べ終えたところでトトはリンゴとキュウイと苺をスライスすると紅茶の茶葉を取り出す。
スライスしたフルーツの上から選んだ茶葉で淹れた紅茶を注ぐ。
「お昼はフルーツティーにしたジャワティをアイスで頂きましょう」
ウィンクして見せるトトに汐緒は袖で顔を隠して恥ずかしがりそして喜ぶ。小さな声で「ぜったいにがさんす」と言うのをトトは聞き漏らさずほほ笑んでみせた。
今回は、この物語にこれは不自然じゃないかな? とこう思った時、それはその作品に酔ってしまっている証拠ですよぅ!! そしてできる事ならそれはそっと心に秘めておく事をオススメします!
読者さんと作品の二人だけの繋がりになるかもしれませんね^^
『最上紳士、異世界貴族に転生して二度目の人生を歩む・著 洸夜』
皆さんも本作でたった一つの繋がりを見つけてみませんか?




