礼儀作法はパンケーキと共に
成城石井のパンケーキですが、あれは美味しいですねぇ^^ 私は果物の缶詰を使って炊飯器ケーキを作ったりしてしまいましたよぅ! 旅行大好きトトさんですが、私よりお菓子作りが上手です。お菓子作りだけでなくお料理も資格を持っているようですね。
少し涼しくなってきましたし、お鍋なんかが食べたくなってきますね!!
シャコシャコとボウルの中で卵と牛乳、そして成城石井で販売されているホットケーキミックスを混ぜる。卵と牛乳は新鮮な物が台所に設置してある業務用冷蔵庫に入っていた。
何故あるのか? という事を考えるのをトトは止めて、汐緒の為に大きなパンケーキを焼いてやろうかと思っていた。
「アデルさんのコピー系能力といえば、一時期話題になった作品がありましたね。あれはイエスキリストを復活させる物語でしたか? 誰しも英雄になりたい。あの最上紳士さんですら、僕は英雄になりたいだろうか? ふふっ、考えても無駄な事ですね」
しかしホットケーキミックスの汎用性の高さは舌を巻く、たまに東京のブックカフェでお店を開く時も今使っている物ではないが、カフェ用のホットケーキミックスを使う。ジャガイモをすりおろし、生地の中に混ぜ込む。トトのお店でも出しているドイツのポテトパンケーキを作ろうとしていたら、汐緒が顔を半分出してトトを見つめていた。
「汐緒さん、どうなされましたか?」
口をとがらせた汐緒は拗ねたような表情を見せてこう言った。
「ぬし様がいなくなったと思ったかや……いこかえりんす?」
仕草一つ一つが演技のように、それも子供らしい汐緒にトトはフライパンを器用に返すと錦鯉の絵が入った大皿にパンケーキを乗せる。
「汐緒さんに、僕のお店のメニューをどうせなので食べて頂きたくてキッチンをお借りしていました。作品に浸っていたので邪魔してはいけないと黙って使ってすみません」
自分の為にトトが料理をしてくれていたと聞くや否や、汐緒は顔を赤らめて袖で顔を隠すと「困りんす」
と嬉しそうに言う。この洋館にはテーブルという物がない。なので膳に乗せると、汐緒にそれをミルクティーと共に差し出した。ポテトパンケーキは一口大に切り分けてある。そしてトトはipadを持って『最上紳士、異世界貴族に転生して二度目の人生を歩む・著 洸夜』の続きを読んだ。
「もくもく、ほんにうまいんす。しかし、レイというとのさん、紳士さん程に大人に思うのはあちきが子供だからなんす?」
レイはシュヴァルツと同じ学年、仲も良いように描かれているが、確かに精神年齢においては紳士のそれと変わらない。
「どうでしょうね? 御兄弟が多いから、でしょうか? より父性のようなものが成長して、落ち着いているとかでしょうか?」
ふむと一人納得したような汐緒はより難しい質問をトトに聞く。
「雷の速さってどのくらいかや?」
雷を速度で表すのは非常に難しい、光った瞬間の高速を指すのか? 雷が発生し落ちた時を指す雷速か? はたまた雷音が鳴った時の音速か? いずれにしても言える事は、これらは人が反応できる速度ではないという事、結果どれであろうと変わらない。
「とーっても速いってことですね! アデルさんがこれを回避するというのは、ほぼ先読みに近い行動でしょう。身体能力を強化していないアデルさんがレイさんの攻撃を後出し回避はまず不可能ですね。ある作品の執事の名言を借りますと、最上紳士たるもの、この程度の事ができなくてどうします? と言ったところでしょうか?」
トトがウィンクしてそう言ってみると汐緒は袖で顔を隠して恥ずかしがる。そんな汐緒がアデルとレイの模擬戦において興味を持った点。
「無刀取りと真剣白羽取りは違うかや?」
「そうですね。無刀取りは古武術の技です。本来は刃を相手に向ける、あるいは刀を払って相手の顎、胸に打を入れるような用途で使わるみたいですね。真剣白羽取りは恐らくそれらを聞き伝わった大道芸でしょうか? 海外の剣ならまだしも、日本刀をまっすぐ包むと手の皮ごと切られます」
パンケーキを半分程食べ終えた汐緒の器を下げようとすると「まだ食べりゅ」と言う汐緒に微笑んで「新しいお菓子に変えましょう」とトトは告げる。
このマヨヒガにある冷蔵庫は得てして不思議であった。クリームチーズが欲しいと思えばそこにある。汐緒の食べかけのパンケーキを下地に簡単なチーズケーキタルトをトトは焼く。このオヤツと合わせるのはバンホーデンのホットチョコレート。
「アデルさんの異能は料理人やパティシエに近いですね! 彼らは匠になると全く同じ味を舌のみで再現できるようですよ?」
トトの焼くチーズケーキを待ちながらホットチョコレートに舌鼓を打つ汐緒は鋭い、それも獣のような目をして問う。
「時に『英雄達の幻燈投影』を破る方法はあるかや?」
誰しも一度は考えるだろう。このキャラクターはどうやって倒せるだろう? そういう面ではこの異能に関してはそこまで完璧な能力ではない。しいていえば最上紳士が操るが故に圧倒的相乗効果を出しているに過ぎない。
オーブンの様子を見ながらトトは汐緒を見ずに答える。
「あらゆる可能性を考えた上でしいていえば、毒ですね。即効性の毒で治療する間も与えなければ人間である以上殺せずとも再起不能にはできますね。例えばそれらに対する加護があるとしても致死性の、それも自然界にない速攻毒であればまず助かりません……が、アデルさんは毒に関する知識も豊富でしょうし、隙もない。一番可能性があるとすれば、リーゼロッテさんに死を願われれば一番効果的かもしれませんね。喜んでその運命を受け入れるかもしれません」
なんとも現実的な話をするトト、この話は攻略するという事より、作品の領域に触れるのはタブーであるというお話であると汐緒も受け入れる。
作者が一+一は三なのだ。といえばその世界では一+一は三になる。それが創作と現実との決定的な違い。
「ではもうしばらくでできますので、赤い月についてお話しましょうか?」
作中四百年前に人類史を終焉に導こうとした存在、クリファ。それを退けた原初の異能が発生する予兆として赤い月が出たと記載がある。
「月が赤く見えるのはいくつかの環境がそろった時です。日食であるとか、月が水平線に近く見える時、あとは黄砂や火山活動の時も赤く見えますね。月が赤くなるという事は、何かの条件が揃った時なんです。そしてこの世界の人々の身体にも何かが起きたんでしょうね。昔から月の光は魔力を帯びているなんていいますしね」
「月の光は優しいかや?」
「そうですね。太陽光を反射しているので、僕達に太陽光程の影響を与えませんが、何かしら作用はしているかもしれませんね?」
汐緒はそんなところよりも、アデルが学食にて女生徒へのほんの挨拶として中々にキザな挨拶をするシーンに顔を赤らめて興味を持っていた。それにふむとトトは頷くと言う。
「再現してみせましょうか? 本来、日本では女性相手には行わない挨拶ですね。古くはオーストリアの作法です。汐緒さん手を」
言われるがままに手を差し出す汐緒、その手に触れるとトトは顔を近づける。そして情熱的な視線を汐緒に向けるとこう言った。
「本来は、女性が差し出してくれた手に対して敬意を表す意味で行います。ですので、アデルさんの場合は少し攻めていますね。自ら手を引くという事は、求める場合です。そしてその際は手の甲ではなくこのように掌に直接キスをします」
そう言って汐緒の手のひらにキスする振りをする。それに汐緒は飛び上がるようにトトから離れる。着物が乱れる事も気にせずに叫ぶ。
「よしゃれぇ! ぬし様も悪いお人。ぞっとしがっちゃ!」
恥ずかしがる汐緒には刺激が強すぎたのかと、トトは眼鏡を直しながら「これは遊びがすぎました」とクスクス笑いながら言う。
汐緒は怯えつつも何かを期待したような表情でトトの読む物語を聞く、アデルへの嫉妬、そして何やら悪だくみをする生徒の影。
「なんとも情けないよたろうしゃんす……しゃむに、子供だからかや?」
女の子にもてるアデルに嫉妬し妬む心、それに対してアデルへの報復をと考える。やり方や方法はえげつない物かもしれないが、それはある意味学生らしいと言えるのかもしれない。そしてその補足としてトトは説明する。
「学園という組織に守られている学生は子供程のワガママがいえませんが、大人程の責任もありません。となるとどうなると思いますか?」
表情を変えず、そして声のトーンを下げる。そんなトトに怖い話でも聞くように汐緒は「わかりゃんす」と小さく答えた。
「時として、子供でもなく、大人でもない存在は悪魔のような事をしてのけます。ある意味、同じ年の男女を収容している学園とは独自の法が存在する小さな異世界かもしれませんね」
学生というもの、学園という組織の恐ろしさは言わずもがだろう。生徒によるカースト、教師の不祥事、そして独自ルールによる洗脳。それは学園を世界の縮図とすれば世界の暗黒面。
そして、学園ならではの表情がもう一つある。
「アデルさんが女生徒たちからモテる理由ですが、容姿と態度の美しさ以外にもう一つあります。この学生時代ですが、年上の男性に父性を感じる。所謂エディプスコンプレックスのような物が働く場合があるようです。物語知識ですけどね! 紳士さんというチートを持っている。そういう意味でもアデルさんは最強のモテ期と言えるでしょうね」
所謂年上の紳士先生いるとドキドキする、カッコいい男子生徒のアデル君がいる。この相乗効果がもたらす物は異能ともいえる程の破壊力をもたらす。ここでも紳士がアデルに転生した事によるなんとも言えない面白味を感じ取れるのである。
ある意味本作は哲学に近い物を読者に教えてくれる。
「デリックのとのさん、おちましな、とんちきめぇが」
ミーシャを取り巻きが犯すかもしれないと、その言葉に汐緒が冷たい顔で暴言を吐く。煙管を咥えすぅと膏薬を吸っては吐くのでトトは苦笑していった。
「だいたい、このなろう作品ではヒロイン達は酷い目には合わないという安心感はありますね! 例外もありますが、運営規制の賜物でしょうか?」
小説家になろうの18禁版ともいえるサイトのノクターンで掲載されていればどうなるかは分からないが、全年齢版の小説家になろうにおいてはいかな名作家も涙を呑んで筆を抑えている事もあるのかもしれない。
「ぬし様、こりゃ江戸語式でありんす?」
デリックを差し向けた方言のような喋り方のキャラクター、これはキャラを立たせるのに使われる常套手段。この言葉に汐緒は江戸の言葉に似ているという。ふむとトトは考えるとほほ笑んで言う。
「そういえば、汐緒さんはこの辺り、いえもう少し北の方の訛りがありますね?」
「そうすべ、悪いお人……げには?」
「では僭越ながら、このキャラクターは関西弁というよりは上方語に近い言葉を使っています。あまり知られていない事ですが、江戸時代までは関西弁もとい上方語が日本の共通語でした。京都が都だった頃の名残でしょうね。そしてそれから現在に至るまでで関東弁、そして関西弁が生まれました。そしてここから読み取るに本作の作者は関西の方ではありませんね。はっきり言って言葉が不自然です。これはそうですねぇ、廓言葉を使う、汐緒さんのようですね」
花魁言葉、廓言葉これらは関東弁と言っても過言ではないという事もあまり知られてはいない。あれらは江戸吉原に来た娘達が田舎の出である事を隠す為に進化して発達した独自の言葉。そこは異世界、夢の国であると今でいうところの、風俗というよりはメイドカフェ用語と言えば分かり易いかもしれない。
「……ぬし様、それいじょうはしちいらん!」
鋭い瞳でトトを見つめ吸うでもなく煙管を咥える汐緒、それは店一番の花魁のように気高く、そして獣のような強さを感じる。
「方言キャラは、頭に残ります。そして難しいですよ扱いが、当方でも各地の地方の方々に言葉の不自然さをチェックして頂いておりますし、と野暮でしたか?」
「しちいらんとぉ!」
頭に怒りが昇る汐緒の手をとってその掌にトトは桜の花びらのような唇を近づけた。それはミーシャに対してアデルが入学編で行った最後の場面を模倣してみせた。古書店「ふしぎのくに」名物、作品への最高の楽しみ方である同化。
今回はトトがあざとく汐緒を欺く事にこの行動に出たが、その効果は汐緒には抜群だった。上気した表情に潤んだ瞳でトトに向かってこう言った。
「アデル君……」
「はい! トトです。本日はこの辺りにしておきましょうか?」
障子の先に見える月の赤い事、恐らくはトトの知る世界の月ではないそれを見て、この光を浴びていたら自分も異能を発現するか、あるいは人ならざる者になるかとこの場を楽しみ始めていた。
『最上紳士、異世界貴族に転生して二度目の人生を歩む・著 洸夜』
大体、紹介作品は5回程読むのですが何度読んでも飽きがこないという面に関してはコミック寄りであるという事でしょうか^^ 汐緒さんは男の子なのに、乙女な感じですねぇ。さてさて、「小説家になろう」で規制がかかるようなBL展開になっていただけると嬉しいような困るような^^




