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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第八章 『誰が為の黄昏~魔法と死に損ない共の物語~』著・雨宮 葵
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ワルプルギスナハト

沢山、台風がやってきてますねぇ^^

皆さん備えあれば憂いなしですよぅ!! 台風直撃前はコロッケを用意してしのぎましょうね!

何かのWeb小説が台風コロッケのような社会現象を起こしてくれたら嬉しいですねぇ^^

「こりゃー、私達を逃がさないつもりかもしれねーっすね」



 飛行機に搭乗するハズだったが、台風で遅れが出ている。というかこれは恐らく本日の便はフライトできないだろう。やる事もないのでアリアは『カオスな奇遇1』の項目を読み、それが全く頭に入っていないこない。

 中々にショッキングな情景を見た。セシャトの死、そして家族同然過ごしてきた沢城もまた同じ道をたどった。

 そんな中甘い香りが漂う。



「アリアさん、喰うっすか? そこの売店で売ってたっす!」



 チョコチップの入ったクロワッサン。丁度作品を読んでいるところに出てきている。いらないと言おうかと思ったが、無理をしてでも食べた方がいいだろう。アリアはお礼を言いそれを受け取るとちぎって食べる。



「不味いですわね」

「そうっすか? 普通に喰えるっすけど?」



 既製品はそれなりには食べられる。がしかし、アリアはそれなりではないクロワッサンを食べてきたのだ。今は亡き沢城の手作り。今読んでいる本の内容が全く頭に入ってこないのは何故なのか、アリアは分からないでいたが、この項目、キャラクターの出てき方がオーバー気味なのである。

今まではアリアの処理能力であれば誰がどこにいるかは理解し読み進めれたかもしれないが、気が動転しているアリアには槻を中心とした動き以外、全然分からなかった。



「それおもしれーすか?」

「えぇ、ほどほどには……あぁ、やっとまともに頭に入ってきた」



 それは黄昏の医療機関についての説明、いくつかアリア的にはツッコんでもいいかと思える描写はあったが、それはそれ。むしろ頭に入って来る事を喜んだ。



「もう、本を読めなくなってしまったのかと思いましたわ」

「ほへー、医療機関というか、単純に研究機関みてーっすけどね。ただステイツの医療機関だとそういう各種多彩な分野の人がひしめき合ってますし、近からずとも遠からずと言ったところっすね」



 このランと名乗る女エージェント、見た目の馬鹿さ加減に対して中々に利口そうだった。沢城と違いあまりプライドのようなものは感じないが、多分。

 頭がいい。



「ステイツってランさんのご出身は?」

「自分っすか? 何処でしょうね? 日系なのかチャイニーズなのか? ほとほと自分もわかんねーっす。でもおもしれーこと書いてるっすね? 人体実験。実は日本でもやっと一例本人の強い希望で今年になって人体実験してるんすよねって……アリアさんには難しかったっすね?」



 これは少しばかりアリアのプライドを傷つけるには十分だった。あのシアが怒った理由が今にして分かる。



「馬鹿にしないでくださる? それなりの時事くらいは頭に全部入ってますわ」



 ランは口元を猫のようにしてアリアの持つ本の一文に指を指す。



「ここは間違ってるっすね! ライフル弾を弾くアクリルなんてねーっすよ。アクリルとポリカで形成されている防弾ガラスは弾丸を中で止めるような仕組みになってるんす。貫通はできないって事っすね」



 さすがに銃の知識もそれに対抗する為の防弾ガラスの知識もアリアにはない。ただよく考えればそうかとアリアは頷いた。



「ありがとうございます。勉強になりました」

「いえいえっす。まぁでもこの組織はまぁまぁリアルかもしれねーっすね」



 アリアにはこのランの言葉は知的好奇心をくすぐるには十分な言葉だった。いくらなんでもこんな組織の方が作り話ではないのかと……



「案外、武装組織ってのはこの島国にもありますし、それがいくつかの機関と繋がってるなんてざらっすよ? 日本では有名な家電メーカーなんて世界では軍事企業としての方が有名とかって話はさすがに知ってるっすよね?」



 ニューヨークにでかでかと名前を掲げている某企業を思い出し、アリアはこくんと頷いた。このランというエージェントの女は小説からリアルを汲み取る力が異様に優れている。



「しかしあれっすね! 今アリアさんが読んでる1と2に比べて3は毛色が違いすぎるというか……」



 何度かこの話はしたなとアリアは懐かしく思う。



「そうね。理解が固まってきたと思うところでまた違った場面に飛ぶんですわ」

「自分は疲れてしかたがねーっすね。ここ分かるっすよ! 暑いから特に用事もねーんすけど、本屋さんで一涼みっすね! 最近のジャポンの本屋は珈琲飲めたりするんで、私みたいな暇人の時間潰しにはちょうどいいっす」



 七夕に朱里が本屋で涼むシーン、確かに今年の7月は異常に暑かった。むしろ、夏本番という8月の方がまだマシなのではないかと思える程度に……それ以上にアリアは思い出した。神様が暑い暑いとエアコンの効いた店内で涼んでいた姿。


(だめ、絶対に泣いてはだめよアリア)


 もう、二度と戻らない時間。神様は大丈夫なんだろうかとふと思うが、それすらも知る事はできない。そんなアリアを助けてくれたのはランだった。



「うっはー、イカれた子供っすね! セミとカブトムシ炒めたいらしいっすよ。まぁまぁクレイジーっすね」

「ふふ、カブトムシやセミが美味しいかは知らないですけど、虫食は今後主流になるかもしれませんわよ!」

「……このお気楽な国以外は何処も食料危機っすからね」



 ヘラヘラとしていたランが一瞬険しい顔をする。それに気づかれたランは再びふにゃっとした気の抜けた表情に戻り、胸元から一枚の短冊を取り出した。



「魔法の短冊っす! これに願いを書けば必ず叶うっすよ!」



 そう言うもイオンのシールが張られている事が十分に子供の夢を壊す。だが、口に手をあててアリアは笑う。そしてランから受け取ったペンに願いを書いた。


『また、みんなと会いたい』


「その願い承ったっすよ! アリアさんは織姫と彦星に関してどう思うっす?」

「一年に一回会えるのだから、海外に何十年も単身赴任とかよりマシじゃないかしら? 今の時代電話だって、他の方法でだって連絡は取れるんだし」

「……そうっすね」



 お互いに浮気してるっすよねー! と言おうと思ってたランは相手が小学生女子である事を完全に忘れてた。少しテンションを上げたアリアはローリエが出てくる場面に指を指す。



「ローリエにそっくりな人を見かけたのよ! 鞄も持たずにお洒落な黒い服を着て、悠々と散歩をしていたの! 街も街の人も自分のアクセサリーのように、あの人は誰でしょう。でも頭につけてたお華の髪かざりは少し子供っぽかったですわね」



 ランはペットボトルのお茶をコクンと飲んで、それが誰だか大体分かったところで話を聞いていなかったかのように流した。



「それは多分、妖怪っすよ。蝶は蝶でも烏アゲハっす。そんな事よりアリアさんは風邪ひいたら何喰うっすか?」



 白樹が風邪を引いたというシーンを読んで投げやりな質問をアリアに向けるとアリアは少し考えて答えた。



「あまり風邪を引かない体質ではありますけど、沢城さんが作ってくれたチキンスープかしら?」

「いいっすね! 私もこの前居候先の先生が風邪ひいたんでチキンラーメン喰わせてました。風邪は本当に怖いっすからね。それにしてもイメージの中の風景を語るというシーンってたまにあるっすけど、これって夢を起きたまま見れたらこんな感じなんでしょうね」



 ランは上手い事を言ってのけた。あの不思議な感覚を現実で閲覧するのがこの物語でいう亜空間『結界』。それは意味は違えど、確かに秩序だ。



「ここも間違ってるっすね」

「えぇ、そうね。でも意味は分かるわ」



 月暈、『つきがさ』、あるいは『げつうん』と読む。ここをげつりんと解く。これは誤字でなければ当て字。

 月輪、と書き「げつりん」あるいは「がちりん」

 丸い月を選ぶか、月のまわりを選ぶか、月の光は太陽をもって輝く。そしてその月の輪舞はまさにこの物語における黄昏のような瞬を生きるキャラクターに等しい。



「それで、げつりん。いいんじゃないすか? 言葉なんて時代と共に読み方が変わるっすから。にしてもこの『飴っぽいシャボン玉2』。読ませてくるっすね。終始、綺麗な文章っす」

「えぇ、この作者。はっきり言ってまだ発展途上だわ。だけど、とても綺麗な文章を紡ぐ時があるの。内容を忘れ去れる程に強力なのはどうかと思うけど」



 映画を観終わったような余韻のようなそれは、総じて素晴らしいと評価されるだろう。ただし、それを感じるのも波長があった人間だけなのが口惜しいとアリアは思う。



「なんのつもりかしら?」



 アリアがふと見たランは小さな銃をアリアに向けている。表情は変わらない。周囲の空港スタッフや搭乗客に至るまで全て……サクラ? 嗚呼、あの兄ならやりそうだとアリアは心底呆れかえった。



「私を殺すの?」

「そうっすね。その前にチェスでもしねーっすか? アリアさんの完成過程を見てー人がいるんすよ。もってるんすよね? スピーダー」



 錠剤を見せると頷くラン、だがどこもチェス盤なんてない。



「行くっすよ!ポーンG3に」



 目隠しチェス……それにアリアは最後まであの忌々しい兄の手のひらの上である事に悔しくはなったが、錠剤をペットボトルの液体で飲み干す。

 気を失う。目覚めた瞬間変わらずランが待っていた。暇だったのか『誰が為の黄昏 ~蝶と死に損ない共の物語~ 著・雨宮葵』を読んでいた。



「おはようっす! アリアさんの番っすよ」



 少し目を瞑りアリアは言う。



「ナイト、G1からF3へ」



 ランはなんとも嬉しそうな顔で次の手を言う。お互いないハズの盤面を想像し、向き合い次々に手を指す。攻めのアリアに対して守りのラン。これが正式な盤面であればランは受け流す事ができたかもしれない。度重なるアリアのディスカバードアタックに少し思考が狂った。



「ナイトE5へ!」



 気が付くと所謂王手飛車取り、ビショップによるディスカバードチェックがかけられる。ランはいくつか逃げてを考えるが目を瞑ってこう言った。



「投了っす。いやー強いっすね!」

「ランさん、貴女も中々凄かったわ。ドーピングしてない私で勝てたかどうか、殺すんでしょ? はやくなさい」



 そうっすねとランは銃の引き金を引いた。

 パン! それはなんとも玩具ぶっていて銃口からはアリアちゃん、お誕生日おめでとうの一文が……



「な、なんのつもりかしら?」



 踊りだす乗客と添乗員達、そして到着した飛行機の搭乗口からはアリアのよく知る人々が現れる。



「アリアちゃん、お誕生日おめでとう! びっくりしたよ! 田舎で遊んでたらアリアちゃんのお誕生日会にお呼ばれして」



 アリアの恋焦がれていた倉田秋文が花束を持って、その後ろからはセシャトにシアと面白そうな童話や少し大人向けの小説が手渡される。



「一体これはどういう事ですの?」



 それにはひょっこりと出てきた沢城が控え目なピースをしながら死んだような目で言う。



「お嬢様があまりにも子供らしくないので、びっくりどっきりサプライズ誕生日パーティーをご子息様と一緒に企んだわけです。なんともノリのよい古書店「ふしぎのくに」の方々も手伝っていただき、お嬢様の色んな表情を……お? 何処か具合でも?」



 アリアは沢城にしがみ付き泣きわめいた。いくら知的であってもアリアはまだ十二歳の女児なのである。わんわんと泣いたアリアに沢城は跪き、そして大きく謝罪。



「今回は全てこの沢城めの目論みでございます。何なりと罰は受けますので……」



 空港に似せたセットでのアリアの誕生日パーティーにいくら金額を使ったのかは定かではないが、まさか『誰が為の黄昏 ~魔法と死に損ない共の物語~ 著・雨宮葵』を読み、黄昏の世界の中で死にぞこない共に魔法をかけられてたとはトンチが聞いているにも程があるだろうと笑った。

 一杯食わされた事にかんしては誕生日という事で寛容に許すしかないと矛を収める。

 アリアは兄からのプレゼントとしてIpadを貰った。これからは自宅でWeb小説を心置きなく読む事ができる。

 そして、名残惜しくはあったが、セシャトに疑似小説文庫を返しにいった。



「アリアさん、騙してごめんなさい! でもどうでしたか? 本作は楽しんでいただけたでしょうか?」

「そうですわね。この一件も含めて『黄昏』という組織の凄さは体感できたわ。続きは自分の部屋で楽しませてもらいますわ」



 はい! と返事をするセシャトの元に顔を少し赤らめた秋文が来ると田舎のお土産であるとお高めのお茶を渡す。



「セシャトさん、お茶とか好きだと思うから」

「あらあら、秋文さん。ありがとうございます!」



 その様子に今の今まで忘れていたアリアの中の嫉妬の炎が燃え上がる。二人の間に入り、阻止しようとするそれはそれは幸せな情景。

 めでたし、めでたし……とは終わらない。




 黄昏の終わり、そして深淵が顔を見せる。




 沢城は他の参加者の様子を見ながら電話をかける。



「御子息様、うまくお嬢様を騙せました。えぇ、お任せください。一瞬冷やっとしましたよ。恐るべきは偶然か、あるいは私達をリークしようとしての作品か『誰が為の黄昏 ~蝶と死に損ない共の物語~ 著・雨宮葵』があまりにも一致していた事ですね。えぇ本当に、では」



 電話を切った沢城を見つめるのは金髪の少年、あるいは少女。自然界には存在しえない紫の瞳をしたその子供は冷たい視線を沢城に送る。



「お嬢様のお友達でしょうか?」

「まぁ、そうだの」

「この沢城に何か?」

「『誰が為の黄昏 ~蝶と死に損ない共の物語~ 著・雨宮葵』という作品だがの、かみ合わない話なのだ。重く暗い設定をベースに、出る作品を間違えたのではないかというキャラクターが織りなす。一種の舞台装置のような作品だの? 何故それをあの小娘に勧めたか分かるか? あやつが『黄昏』を体現したような人間だからだ。この通り私は成りも子供、特にあの作品のキャラクターのように特殊能力があるわけではない。だが、貴様等がつまらん理由で一線を越えようとするでないぞ? 貴様らの『暗闇』を持ち込めば『暗闇』もまたお前たちを飲み込みにくる」



 そう言うと神様は横目で先ほどから気になっている大きなケーキの元へと走っていく。その様子を見て沢城は胸に手をあて大げさなポーズでかしずいた。



「ゆめゆめ、肝に銘じておきます」

今回を持ちまして、8月紹介作品『誰が為の黄昏 ~蝶と死に損ない共の物語~ 著・雨宮葵』の紹介を一旦結びとさせて頂きたいと思います^^ 一か月間ありがとうございました! 本作の小説としての立ち振る舞いの面白さ実感していただけたら幸いです^^ そして謎の人たちが出てきましたね^^

この場を借りて重ねてお付き合いいただけた事、お礼申し上げますよぅ^^

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