日曜サスペンス劇場~この時の作者の気持ちを述べよ~
ふふふのふ^^
紅白Web小説合戦の募集が開始されましたねぇ!! これは楽しみですねぇ!!
どんな作品が送られてくるのでしょうか^^ 今からワクワクしますよぅ。
「驚かず聞いてください。お嬢様、貴女は貴女のお兄様に造られた。短命の文学少女です。貴女はこの東の古書の街に存在するというダンタリアン氏の経営する古書店『ふしぎのくに』の調査と情報収集を元に今を生きているのです」
前日は早く休むように言われ、朝食の時に沢城は真実を語り始めた。沢城の言う事に閉口せざる負えなかったが、少しおかしい。ダンタリアンという存在は知らない。
「沢城さん、百歩ゆずってそのお話を信じるとするわ、私が飲んでる薬も記憶域を増やす為と聞いたし、いくつかそう信じざる負えない記憶もあるわ、でも私が古書店『ふしぎのくに』で出会った方はセシャトさんという、普通の女性が店主をしているわよ?」
沢城はその回答に何度か頷き、手作りとは思えないおはぎをアリアに持っていくように言う。
「次は変な食べ方をされないような物を作りましたので」
実は沢城が作ったガレットを特殊な食べ方をされた事を根に持っていたようだった。確かにおはぎなら普通に食べる他ないだろう。
「死者の為にとお汁粉を食べたり、おはぎを食べたり、私達生きている人間も大変よね?」
お茶と、きな粉と餡子の三種類のおはぎを見ながらそう言うアリアに沢城はいつも通り、疑似小説文庫を読みながら言う。
「お嬢様、カタツムリがいても絶対触ってはいけませんよ?」
「広東住血虫、何処かの国では風土病になっていたわね。あれはミヤイリ貝だったかしら?」
脳に侵入する寄生虫、今やカタツムリを触って遊ぶ事もままならない程度には日本は汚染されている。そういう意味ではこういった描写は物語でしか楽しめないのかもしれない。
「これを言うとお嬢様は不快に思うかもしれませんが、もうこの世に陰陽師は存在しません。当時でも陰陽連がメインでしたしね。陰陽道自体は今も存続しているようですが、しいていうなら今の気象庁ですね」
沢城の知識には舌を巻くがアリアも反撃の知識を持っていた。恐らくWeb小説を書かれる作家はあらゆる密教の術者の総称を陰陽師と言っているのではないかと……
「多分ですけど宿曜術を使うような人たちの事を指しているのではないかしら? そう思えばつじつまが合うと思って読み返していたの、路地裏が迷路にされていたという部分があるでしょう?」
死んだような目でその項目を読み返す沢城。
「奇門遁甲と? さすがにお嬢様、深読みしすぎではないでしょうか? この場合そこよりも何故蒼さんが取引に対して即拒否の姿勢を見せたか……の方が興ではないでしょうか……というより、このまま私と話していたら古書店「ふしぎのくに」には行けませんよね? どうぞ、いってらっしゃいませ」
そう言ってアリアを屋敷から追い出すと、沢城は何処ぞえと電話をかけた。その相手が出るやいなやこう言った。
「御子息様、私と取引をしませんか?」
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先ほど沢城と話していた内容。
蒼の拒否に関しては答えはこの時の作者の気持ちを述べよという程度にはいくつか考えは働くが、そこは意見を言わぬが華ではないだろうかとアリアは思っていた。
蒼は頭痛が何かを思い出させないようにセーブをかけようとしている。されど、アリアにはそんな生理現象は起きない。
自分の人生が沢城の言う通りならそれはそれで納得できる程度の人生だった。
「ですが、薬と珈琲の飲み合わせは悪そうですわね」
珈琲もそもそもは咳止め薬として飲まれてきた経緯はある。カフェインと反応して過剰に効きすぎたり睡眠障害を起こしやすいとは一般的に言われている。されど、この作品に出てくるキャラクターは超人的な存在が多いので、大丈夫なんだろうと一人で納得していた。
翁と呼ばれた珈琲好きの物知り、生活的な事も生きていく情報や術を蒼が教わった人物らしい、瑠雨にとってもそれはかけがえのない時間だった。それをアリアはセシャトとの時間と重ねた。恐らく必ず来る終わり、その時に自分は何もなかったと思えなくて済む時間が正に今なのだろう。
(金の鍵を盗る? ふふっ、そんな事出来るわけないじゃない)
自分はまともな人間ではないのかもしれない。
だがしかし、人間として淑女としての誇りを捨ててまで生き永らえようとは思えない。名前通り、アリアなんだとしても、そう思える自分に誇りを持ちたい。この黄昏の物語はそう自分に決意させてくれるだけの力を持っている。なんとも訳が分からず、まとまりのない物語。
そう前向きな気持ちのままアリアは古書店「ふしぎのくに」の扉を開いた。
「こんにちは!」
誰もいない。母屋だろうかとアリアは挨拶して母屋に入る。そしてその光景を見た時、瑠雨の言葉を思い出し絶望した。
『──もっと早く違和感を感じてればこんな事にならなかったのに……!後悔ばっかり。』
「セシャトさ……セシャトさん!」
あのあざとく、それでいてひたすらに優しい古書店の店主が赤く染まり、母屋の壁を背に絶命している。胸元が少し開き、そこにあったであろう金の鍵は奪われていた。咄嗟にアリアは思う。
「お兄様……」
心が折れそうである。アリアは生を受けてまだ十二歳の少女、いや幼女と言っても過言ではない年齢。年相応に今の光景を前に腹の底から目頭まで感情という名の弱気が押し寄せてくる。
(泣いてはダメ、泣いたら何も考えらなくなるわ)
このセシャトという女、自分の想い人に慕われ、目の上のたんこぶでしかなかったハズだ。それなのに、いなくなる。消えてしまったという事実にどうしようもない焦燥感を感じていた。蒼のように術に負けてしまったらもう立ち上がれない。涙を堪えてアリアは自宅に電話をする。電話に出た沢城は事の始終を聞いて戻ってくるように伝えた。
自分の家と思っていた連中とは? あの偏った天才と思っていた兄とは?
まさに『暗闇』のような連中ではないか……こんな小説とも思えるような展開を誰が予想しただろうか? アリアは気が動転しそうな中、至って冷静に振る舞い古書店「ふしぎのくに」を後にする。白夜と翡翠の会話、翡翠が白夜に対してアドバンテージを取っているような描写、アリアは果たして自分の兄にこのような会話ができるだろうか?
否、彼は自分をいないものとして扱う。結果会話が成り立たないだろう。
『キョウチクトウの雨』
この章を思い出しながら何度も意気地が折れそうな自分に鞭を入れる。一つだけこの章に対してアリアは恨んだ。
(なんでこんな気持ちの時に限って、この章は普通の小説なのかしら)
この章は実に『黄昏』らしくない。これは読み手によって変わるのかもしれないが、良い意味で落ち着きまとまっている。悪い意味で言うとあの独特な文章や展開の不思議感は随分身を潜めている。それだけに、作者の伝えたい項目なのだろうか? そして妙に共感してしまうアリアは今はこの話はダメだとそう思いながら、それでも『誰が為の黄昏 ~蝶と死に損ない共の物語~ 著・雨宮葵』を読まずにはいられなかった。
何処の項目を読んでもアリアには不吉に感じられた。めでたしめでたしで終わらない。何とも今や一番聞きたくない言葉。
竹取物語に関して触れられている。いわゆるかぐや姫だが、あの話。アリアにとっては中々に恐ろしい話と受け取っていた。あれは最古のSFとして現代に受け継がれているが、実際のところ月から来た。月の使者というのは当時の隠語だったのではないかとそう感じてしかたがない。何故なら、それ以外の部分は殆どリアルなのである。嘘で塗り固めた自伝を元に結婚をしようとしたり、職人に作らせた財宝の支払いを未払いでバレたり、されどラストは月の軍勢なる連中の登場。火のないところに煙は立たない。自分達よりも力と技術を持った国のはじめての侵略を面白おかしく描かれた話ではないかと……そうアリアは考えていた。
しとしと雨が降り出した。
そうだ。台風が近づいていたんだなとアリアは思い出す。雨の日は憂鬱になるとリゼとロゼは言う。実際雨音は人の精神を落ち着かせる作用があると言うが、逆に湿度は人の体調を崩す。雨とはなんとツンデレな自然現象なのか……
「記憶処理の副作用で文字が読めなくなる……私が飲んでいるスピーダーとは違った副作用があるのね」
アリアが飲んでいる薬、脳の認識域を大幅に向上させる作用がある。書いている物を見開き同時認識。一般人が完全に理解できる読書スピードのおおよそ五倍程の速度にはね上げる。副作用として脳の酸欠状態に陥る。その為の輸血。あるいは血液の摂取が効果的となる。
薬物反応が出ないという事で一時問題になった血液ドーピングのようなものである。当然十二歳の少女の体に負担がないわけがない。
ルルルルル。
アリアの携帯電話が鳴る。
電話の主は沢城、なんの躊躇もせずにそれに出てアリアは、自分の瞳の動向が開いているのを雨宿りしているショーウィンドウに映る自分の顔を見て気づいた。この少女は誰だろう? 沢城は一体何を言っているのだろう?
言っている意味が分からず、アリアは『御喋離』の項目を頭の中で無限ループを起こしていた。
沢城からの電話はもう既に切れ、恐らく沢城自身もこと切れたのだろう。沢城からの連絡は既に自宅方面にはアリアの兄の手の者により占拠され、沢城は逃げようとしたものの叶わず。身をひそめながら最期の仕事としてアリアを逃がす手を打った。
小学校の校門に使いを待たせているからそこに行くように……
(行ってどうするのかしら? このまま逃げれても逃亡生活の果てに待っている未来より楽になった方がよくないかしら?)
こんな時にアリアの頭に浮かんだのは、あの素直で屈託のない笑顔を見せる倉田秋文。そしてもう一人……金色の御髪を持ち、秋文とは真逆の偉そうな態度を取りながら、それでいて時折大人の空気を放つ神様。
「誰かを好きになるという事はこんなにも素敵な事なのね。私がどういう経緯で生まれてどんな運命を持っているのかは分からないけれど、この日の為に生まれてきたのかもしれないわね」
沢城は『亡命』と確かに言った。
アメリカかロシアかは分からないが、何処かの国へ行くのだろう。そして自分という存在の公表に打って出れば逆転ホームラン。あるいはアリアの兄達の牙城を崩す事ができるかもしれない。
あのふてぶてしくも知的なベビーシッターは逃げる事も出来ただろうに自分を守るという仕事を選んだ。
「沢城さん、貴女本当に伝説的ベビーシッターね。この命大事に使わせてもらうわ」
気持ちを完全に切り替えたアリア、小学校の校門には一人の女性、年は沢城より随分下に見える。
「アリアさんっすか? 自分沢城さんに依頼されたラン・シャディンって者っす。ランでいいっすよ! それじゃあ民国へ行きましょうか? 時間も黄昏時っすね。報酬はその本でいいっすよ」
アリアの持つ疑似小説文庫。それを報酬にと言われるので躊躇したが、アリアはこの本が兄の手に渡るよりはいいだろうと頷いた。
「いいわ、でももう少し待って頂戴。読み終えたら全部頭の中に残っているからこの本を上げるわ」
アリアの夏休みがついに終わる。
あら、私が死んでしまいましたねぇ^^ という事はこれでこの小説紹介も最期でしょうか??
その前に、『誰が為の黄昏 ~蝶と死に損ない共の物語~ 著・雨宮葵』を楽しんでくださいねぇ^^
ついに、次回8月紹介作品、最終回^^
「ワルプルギスナハト」お楽しみに!




