モブキャラの取り扱いと甘々なオヤツ
ここ最近は少し暖かくなってきましたね^^
ですが、油断は禁物です! だいたいもう一回寒くなります!
そんな時は、小豆の缶詰を買ってきて暖かいぜんざいなんてどうですか?
セシャトはふと文学に関わる人々について考えていた。
彼等は書く物がなくなった時、自分の役目を終えたかのように筆と共にその身までこの世界から決別させてしまう者がいる。
FELLOW氏が書かれる作品という物は何処かその闇を抱えた部分という物を持ち合わせている。
彼女、『琥珀』におけるヒロイン霧島も感受性の強い少女である。散文詩を好む彼女、韻文を使わないというところから何処か潔癖にも似たキャラクター造形をうまく作られている。
これに関してはセシャトは見事としか表現しようがなかった。
彼女はなるべくして本作の病気。
『サスペクトパシー』になったのである。
この病気の進行は早い。そして、彼女の精神状態もそもそもが生き急いでる。最悪の組み合わせが、物語に最高の彩を見せていた。
「かの文豪、芥川龍之介さんもまたこのサスペクトパシーだったのかもしれませんね」
この物語の第二の盛り上がり時が、空太がサスペクトパシーと戦おうと決意する場面である。あそこには読者として心底救われた気分になる。
「そろそろ、秋文さんが来る頃でしょうか?」
柳屋のたい焼きを二尾買って待っていた。
いつもより、一時間程遅れて秋文はやって来た。その顔はとても嬉しそうなのである。そんな秋文の顔を見ているとセシャトもまた嬉しくなってきた。
「気分がよさそうですね。秋文さん」
「うん」
秋文はクライマックス手前まで読み終えてきたのだろう。ここの盛り上がりを共有できるのはセシャトとしても中々に嬉しいものであった。
「空太君、霧島さんを裏切らなかったね!」
裏切るという表現が子供らしくセシャトはほほえましかった。主人公である空太は治療法のない病気を申告された霧島さんに事に茫然としていたが、友人の助言を元に彼女へお見舞いの品を持って行くのだ。
「空太君は普通の万年筆にしなかったのは何でなの? やっぱり高いから?」
「秋文さん、手を出してください」
怪訝な顔をして手を出す秋文にセシャトは金属製のペン先でちょんとついた。
「痛っ……」
「すみません。秋文さん。でもこれが答えです。不安で不安で、自分の身体を傷つけてしまう人が硬くて鋭い物で自分を傷つけると大けがしてしまうんです。だから、病院はそういう物を持ち込ませないようにしているんです」
身をもってセシャトは秋文に教える。
ペン一本あれば人は死ぬ事が出来るという事実、それを高校生にでもなれば十分に分かっている事だが、秋文にはまだ理解できなかった。
「そっか、霧島さん、自分の肌をひっかいたりするもんね? 空太くんの友達はいいアドバイスをしたよね。霧島さんが好きな詩を書いて入院していれば霧島さん元気になれるよ!」
セシャトはさて、どうしようかと思った。
この素直で綺麗な心を持った秋文の言葉を折るわけにもいかないので、とりあえずオヤツタイムにする事とした。
「では、本日のオヤツは鯛焼きです! メデタイなんていいますからね! 一度オーブントースターで焼くと尚美味しいですよ!」
セシャトはオーブントースターの中に鯛焼きを二尾入れると、茹で小豆の缶詰と水を鍋に入れて火をかけた。
今日は甘い鯛焼きを甘いぜんざいで頂くという少し興をこらしてみた。
「秋文さん、おまたせしました!」
ホカホカと湯気を立てる鯛焼きとぜんざいをテーブルに置く。その甘そうな二つを見て秋文は子供ながらに苦笑する。
「セシャトお姉ちゃんって、毎日甘いオヤツ食べてるよね?」
「むむっ、それは私が太らないのか? という事をお聞きしているんでしょうか? もしそうであれば毎日たくさんの本を読んでますから! 物凄いカロリーを使うんですよ! ときに恐れ、時に泣き、もうそれは一つ冒険を終わらせたかのごとくです!」
ミュージカルのように身振り素振りそう言うセシャトに、秋文は空気を読んでこう笑顔で言った。
「さすがセシャトお姉ちゃんだね」
「……なんだか、凄く悲しい気持ちになっているのは何故でしょう。まぁそれはそれです。ではいただきましょう」
二人して、サクサクの皮になった鯛焼きを齧り、ホクホクに火が通った餡子が二人を迎える。それを甘めに仕上げたぜんざいに流し込む。
「こ、これは、なんとも答えられないですねぇ」
「……ちょっと僕には甘すぎるかな」
少し舌が馬鹿になっている秋文にセシャトは砂糖を入れていないミントティーを淹れた。甘党のセシャトの味覚はやや人にはしんどい時があるかなと少し反省。
甘い物で満足したところで、セシャトは本日の感想を聞く事にした。
「でも、口の中も心も甘くなったところで、何か今回疑問に思った事や発見はありますか?」
それに秋文は思いもよらない名前を出した。
「狩谷君って凄いいい奴だなって思った」
「秋文さんは通ですね。そこを読み取るとは私も思いませんでした」
狩谷というキャラクターは、主人公以外に名前をもったモブに近い脇役である。主人公とつるもうとしたり、くだらない事をよく言うので、当初主人公にも煩わしい者として扱われていた。
しかし、学園物においてこの限りなくモブに近い脇役の持つ影響力や汎用性の高さは言わずもがなである。
凄い秀才で、友達がおらず、主人公にだけ興味を持っているとか、実は何でもできるパーフェクト超人故に同じ違う空気を持つ主人公に興味を示していたり、高確率で変態である事も共通点だったりする。
このキャラクターがいつ頃存在したのかセシャトも到底考えが及ばないが、ノベルズゲームが流行りだした頃が初出典なのではないかと仮定していた。
「あの狩谷さんがいる事で、主人公ができない事をほぼすべて肩代わりしてくれます」
「えっ?」
「あっ、ごめんなさい。ちょっと興奮してしまいました。狩谷さんがいる事で、空太くんの行動何かが後押しされていますよね? あの狩谷君がいる事で物語が滞りなく進んでいくんですよ。所謂お助けキャラクターですね。最初は変な奴、嫌な奴だと思った。けど、狩谷君がいないと空太君は進めなかった。狩谷君はいい奴なんだ。空太君を通じて読者はそう共感できるんですよ。それが狙いであり、そう読ませる事が出来たら大満足でしょうね」
まんまと読まされてしまった秋文だが、それには凄い納得できていた。傷心の空太、このままでは空太もダメになってしまうんではないかと物語を読み進めていると、何気ない彼の一言、当たり前だけれども、迷いがある空太には決定できない事を言ってくれる読者の代弁者。
「そっか、それで僕は凄い嬉しかったんだ。病院で空太君は霧島さんにプレゼントを渡せたでしょ? 桜を一緒に見れるって多分、次の年を迎えるって事だよね?」
「えぇ、そうですね」
「あのね? 人いきれってここに書かれているでしょ?」
どれどれとセシャトは覗き込む。
『そんな淡い夢を、人いきれの中に忍ばせた。』
成る程と、セシャトはこの前の文を秋文に指さす。
「空太君は霧島さんのプレゼントを買う為に百貨店に行ったんですよ。秋文さんは百貨店行かれた事ありますか?」
首を横に振る秋文。
確かに、最近百貨店という物は少ないかと、ポンと手を叩いてセシャトはこう言った。
「ではショッピングモールならありますよね?」
最近、イオンモールの進出で各地域にはあのタイプのショッピングモールが沢山ある。さすがにこれなら秋文も行った事くらいはあるだろう。
「うん! 映画館にこの前行ったよ。あとレストラン!」
「あそこの、メインディッシュを選べるレストランですか?」
「うん、オマールエビを食べたよ」
「……そうですか、羨ましいです。ではありません! ああ言った人が沢山いるところって、人が一杯いてちょっと温度が高かったりしませんか?」
うんうんと秋文はセシャトの言う事を理解する。人が集まった事で温度が高くなったり湿度が高くなる事。
「それが、『人いきれ』という意味なんです」
「そうなんだ。難しい言葉が多いから、時々意味が分からなくなるんだよね。辞書に載っていない時はもうセシャトお姉ちゃんに聞くしかないなって思った」
セシャトも分からない言葉は人類の英知たるインターネットをフル活用するので、ちょっと後ろめたいところもあったが、秋文が羨望のまなざしで見つめているので、セシャトは胸に手を当てて微笑んんだ。
「私にわかる事であればいつでも相談してくださいね」
「僕ね、この『明日をつなぐ言葉』で空太君が言ってる台詞凄い好きなんだ。『たとえ笑えなくなっても、そこにいるだけでいい、生きているだけでいい』って台詞」
「ここは、句読点の連続で読み手に少し焦らせているんですよね。空太君の決意を感じれる良いシーンですね」
これから、秋文は生まれて初めて悲恋という物語を知る事になる。だけど、彼の少年らしい、子供らしい気持ちで物語を読んでくれるという事がとてもセシャトは心地よかった。
「それでは暗くなる前に」
「うん、セシャトお姉ちゃん、ご馳走様。あと明日から友達の家でお泊り会だから、何日か後にまたくるね」
「はい! 楽しんできてください」
手を振って秋文を見送ったセシャト、最近web小説を広める為のSNSを始めたので、そのサイト画面を開き、広報すると共に新しい小説を探索する。
「最近はアイドル物というのもあるんですね!」
次にオススメする小説を探しながら、次に秋文が店にやってくる日をセシャトは心待ちにしていた
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