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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第八章 『誰が為の黄昏~魔法と死に損ない共の物語~』著・雨宮 葵
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作品に選ばれる読者 シア姐さん再び

最近涼しくなってきましたねぇ^^ 北海道は初雪が降ったとかお聞きしています! 地球は温暖化していると言いますが実のところ寒冷化しているんでしょうか? 再び氷河期がやってきたら大変ですねぇ!

平成最後の夏、はやめにスイカを食べないとダメですねぇ!!

 アリアはサマードレスに身を包み、古書店「ふしぎのくに」へと通う。

 道中、不健康そうな少女とこれまた微妙な表情で並んで歩く少女。二人とも野球帽をかぶっている事からこの暑いのに野球観戦をするのだろうかとアリアは考える。二人の両手に持つスーパーの袋がアイスで一杯な意味は分からない。

 もしかすると野球部のマネージャーというやつだろうか程度に思ってアリアは古書店「ふしぎのくに」の扉を開いた。



「おはようございます」

「はい、おはようさん」



 茶華道の先生を思わすような落ち着いたそれでいて芯のある声、アリアは男なら幼児帰りしてしまいそうな安心感のあるセシャトの声ではないその主を見る。

 セシャトと同じ制服を着た別人。青みがかった髪は染めているのだろうか? セシャトではない何者かがカウンターに立っている。

 しかも……


(あの方、私を睨んでませんか?)


 笑顔を崩してはいない従業員、されどその目は明らかに笑っていない。獲物を捕らえる時の猛禽類のような目を向けていた。



「あれ……? セシャトさんはぁ? とか思ってはるんでしょうな? おりませんよ? セシャトさん、今日はお墓参りですん」

「お墓参り? 御先祖様とか?」

「……まぁそんなもんです。ですから、今日はセシャトさんおりません故、お帰りあそばし」



 そう言って出口を指す店員。もはや店員として機能していないこの対応にアリアはハァとため息をついて頷いた。



「分かりましたわ出直しますわ」



 そう言うとニコニコ笑い店員は手を振る。そんな時、母屋よりパピコを咥えた神様が登場する。



「ぬぉー、エアコンの故障とはこれいかに! おぉ! 店内は涼しいではないか。シア貴様、母屋におれとは私を蒸し焼きにするつもりか? たわけめ! 丁度汗でジンベイザメの塩焼きか? 誰がうまい事を言えと言ったぁ!」



 やや暴走気味の神様はよほど暑かったのだろう。店内で仁王立ちし一番風の当たる場所を探していた。



「カミサマさん」



 アリアを見つけ、神様は手を挙げる。そしてパピコをパチンと半分折るとそれをアリアに渡した。



「よう来たな。暑かったであろ? 共に店内涼みを満喫しようぞ」



 アリアは近所のブックオフとかにこういう子供がいるなと神様の子供らしさにクスりと笑うと共にパピコを受け取る。



「今日はセシャトがおらんが、あそこにおる奴も中々の手腕だ。楽しんでいくといいぞ! なぁシア?」



 そう言われてシアはカウンターに手を打ち付ける。高価なそれでいて高純度の木材に穴をあけてそれは眩しい笑顔を見せた。



「はーい! 神様が言うんやったらしゃーないなぁ」



 アリアはこのシアという女、あからさまにヤバい系統の女である事を瞬時に理解した。



「あ、えっと宜しくお願いします」

「はい、宜しくお願いします。女狐ちゃん」



(分かり易い、貴女分かり易すぎよ! 大人なのに、それもカミサマさん子供なのに、変態が集まるお店なのかしら?)



 アリアの手に持っている本を見てシアはへぇと妖艶な笑みを浮かべる。



「そのなりで、えぇ話よんでますんやなぁ」

「知ってるんですか?」

「ほんま、人間っちゅーのはシア姐さんを怒らせるのがうまくてしゃーないわ。毎回毎回、知ってますん? あーほんま」



 それに神様が「シア」と一言低い声で言う。それは叱っているようにも宥めているようにも思える。名前を呼ばれてデレッデレのシアはコホンと咳払い。



「全く、神様に色目使う女と話すなんてまー嫌やけど、何処まで読みはったん?」



 アリアは慣れない関西弁に少々おののきながらページを見せる。



「ははーん、白樹はん、いえ白夢さんの話でんな。そこ始まりから面白いでしゃろ? なんのことはない導入やねんけどなぁ。公園の描写とええ、あるある! みたいやんなぁ」

「一緒ですわ。私もそう思ったわ」



 そう感動するアリアにシアはニヤリと笑う。そしてシアは手を隠すとアリアに一輪の花を手品で出して見せた。それを受け取るアリアは呆れて言う。



「あの、私カミサマさんの事、恋愛対象にはしておりませんわよ」



 シアが出した花はアスパラガス系の花。花言葉は『宣戦布告』だがしかし、その戦いは起こらない。



「へ? えっ? どういう事ですん?」



 アリアは仕方がない。このシアは自分と同じタイプの女性だろうという事でここに来るいきさつを耳打ちした。



「あらまぁ、なんていじらしいんやろぉ! あの世界中のあざとさを集めてできたセシャトさんから愛する人を守りたいだなんて、このシア姐さんも微力ながら力を貸します故、頑張ってくださいよぅ!」



 このシア、自宅のベビーシッター沢城と同じ空気を感じ始めていた。テンションについていけないのだ。しかし、誤解は解けやっと読解を始められる。いつしか、セシャトの事を調べるというより、この素晴らしい作品を分かち合う喜びにアリアは変わっていた。

 自前のネットブックで同じ画面を出しながらシアは言う。

 いや、言葉を詠む。



「ここは色を食べる。これを考えながら読んで……はると思いますけどところどころにちりばめられたアイテムにも注目やで」



 興奮しているシアはおそらく素の言葉遣いになる。セシャトもそうだが、このお店の人はWeb小説の事になると猪突猛進気味になる。

 そんな情報をアリアは自分の意志とは関係ないところで記憶していた。その様子に神様は何かおかしいと感じながら、シアは気づかずに続ける。



「御伽を魔法とするなんて、ここえぇと思いません?」



 シアの読み解きは作者の思考外である。恐らく御伽噺、ふしぎな話という意味から魔法とイコールにしているのだろうが、シアの考えは違った。そして同じ感覚のアリアにこれが分かるのか、シアもまたアリアを小学生女子という事を忘れているが、アリアは平然とシアの考える回答を述べた。



「これ、私に言わせるのは問題ですわよ? あの平安時代なんかの伽、魔法という不思議な力は神様や悪魔そう言ったものと伽をするような物と考えているのでしょう?」



 シャーマンがトランスに入るのも巫女の託宣もそう言った意味合いがある。それを魔法と解くのであれば御伽を魔法とするのは非常に感慨深い。



「ローリエさん達、黄昏の姫と呼ばれる存在は、アタシ等と似て非ざる存在かもしれへんねぇ? そうは思いません? 神様ぁ!」



 神様はパピコの空容器を咥えながら、店内にある大辞林を開いて読んでいた。そしてシアに振り替える事もなく「全然、貴様は代償なんぞなかろう?」と返す。それに顔を赤らめてシアは「いけずぅ」となんとも嬉しそうに言う。やはりこの古書店「ふしぎのくに」の人間は総じて変人だらけであるとアリアは再確信し、呆れて言った。



「全く、何言ってるんだか、そういえばシアさんは何処の国の方ですか?」



 神様とセシャトに比べて、より自分に近く見える。日系クオーターではないかと思うが、どうなんだろうか?



「そうでんなぁ、西の古書の街出身やで、曾根崎心中ってご存知でっしゃろか?」

「えぇ、近松門左衛門の……あぁ、オオサカの方なんですのね」

「そういう事ですえ。こうしてたまーに東京にも遊びに来て本の仕入れさせてもろてるんです。悔しいけど、こっちは全然さびれてへんからね。それはそうとやっと色を食べるの意味が分かってきましたねぇ」



 蝶への代償の事であるかと思ったが、それはどうやら違ったようである。

 その前にローリエの容姿に関して書かれた一文がある。日本人形とフランス人形を足して2で割ったような姿、そしてゴスロリに身を包んでいるらしい。

 シアを見つめ、シアも綺麗な人なんだろうが、イメージとしては違うなとアリアは内心で失礼な事を考える。アリアが読み解いている間にシアは母屋に戻ると、氷の入ったレモネードを三杯用意してくれた。



「喉乾きましたやろ? 気きかんとえらいすんまへんなぁ」

「お構いなく」



 関西弁というのはシアのような上品な人間が使うとまさに言葉通り上方と呼ばれるに相応しいと感じ新鮮だった。



「シアさんは何処か良いところの方ですか? その少し関西の言葉に偏見があったので」

「ふふふ、褒めても何も出ませんえ? そうでんな。この『誰が為の黄昏 ~蝶と死に損ない共の物語~ 著・雨宮葵』でもいくつか上方の方面の表現がありますけど、言葉なんて通じればなんでもよくありませんかえ? 結局のところ、関東の文化や言葉が嫌い、関西の文化や言葉が嫌いというのは地方の考えではなく、その人間の心の汚さどすえ?」



 成程、偏見という心持が既に心の穢れであるとそうシアは言う。セシャトは多分こんなストレートな事は言わないだろう。



「ごめんなさい」



 アリアが謝るとシアはアリアの頭を撫でる。それはなんともこそばゆく、そしてなんとも幸せな気持ちにアリアはなった。姉、という存在がいればきっとこうなんだろうと……



「謝らんでもええんやで! 偏見の気持ちもまたそれは本当のアリアちゃんやん! アタシは尊重するきに、全てが手を取り合い平等な世界があったら、それは怖いやろ? だから(さか)しい人間はいがみ合ってるくらいが丁度えんちゃうかな? ほら次読むで」



 そう言って道徳と社会の授業までシアは開いてれると再び読書に戻る。アリアはこの古書店「ふしぎのくに」で小学生向きの勉強教室でも夏の間開けば儲かるんじゃないかとふとくだらない事を考えていた。



「亜空間では時間が止まるというのはどうでっしゃろ?」

「昔ばなしでも使い古されている手法ですわね! 竜宮城なんてまさにそれじゃないかしら? 色を食べるって本当に言葉通りなんですのね。ひねりがなくて逆に驚きましたわ」



 前述した蝶への代償の事を色を食べると思わせる、あるいはこれもタイトルに準じているかもしれない、だが明言されたのは鉱物の摂取。そっちなのかと読者に二度目の衝撃をいたって普通の内容で読ませてくるところにシアもにんまりと笑う。



「ではアタシ達も色を食べましょか?」



 何が出てきてもおかしくないとアリアは思っていたが、シアが用意したのは本格的なかき氷機と大きな氷、そして赤、青、緑とよくあるシロップ。神様がやれやれと言った具合で近づいてくる。



「私は苺を頂こう!」



 各々、色をサクサクと食べながら、アリアはリゼとロゼに関してシアに尋ねてみた。



「この二人が特別に感じる理由はなにかしら?」

「そうやね。主要の三人を主人公とするなら、その主人公達よりも魅力的なキャラクターやからとちゃうやろか?」



 ローリエにしても双子にしても所謂ジョーカーキャラクターである。どうしてもこれらキャラクターがわんさか出てくる物語においては人気の序列が出てくるもので、これらジョーカーキャラクターは大体の読者に好印象を与える。欠点があるとすれば、扱いきれなくなる可能性がある事だろうか?

 神様が四杯目のかき氷の御代わりを貰いながらこう言った。



「本編の読者置いてきぼりな感じに対して閑話は内容が分かっていなくても理解できるであろ? 特に『【閑話】つき明かりに揺れる』はショートショートでもいい出来だからの」



 神様は赤と青のシロップを両方かけてそれを食べる。シアもアリアも神様と同じ事を考えていた。そんな神様にシアはもう欲情しているような目をして、アリアはそんなシアに引きつつも神様の読み取り方に感嘆する。



「カミサマさんはなんでこの物語を私にオススメしたんです?」

「は? 貴様ならこの作品を読むに値する読者だからに決まっておろう? Web小説はタダで読める反面、作品に選ばれる読者は少ない。普通の本は欲しければ買って読むであろ? Web小説は読みたくて読むという事は、作品との感性があっておるからだ、そして私はその波長が読めるからな。なんせ私は全書……」



 神様が自分の本性を語ろうとした時にアリアは前回門限を破ったので、今日は早めに帰ろうと思っていた。それを告げて古書店「ふしぎのくに」を出る。

 今日はいつもより面白かったような気がしていた。またシアに会えないかなとか思っていたら、アリアはとんでもない少女を見る。それは何処かで見かけたのかもしれないゴスロリに身を包んだ黒髪の少女。



「ローリエだ……」



 否、ローリエではない。都内のマンションの一室でWeb小説を執筆する不摂生の化身。彼女はアイスの応募券で当たってしまったエステを得て、目の隈が取れた状態。それなりに街の男たちの視線を集めれるようなみてくれにはなっていた。

 その手にレッドブルを持っていなければ……

 アリアは小説の世界のキャラクターじみた人に話しかける事もできず、沢城の待つ自宅に戻る。

 妙な雲行き、台風の影響だろう。そしてアリアの最後の夏休みが始まろうとしていた。

またまた出ましたねシアさん、この方ですが執筆もされますし、私とは少し違う古書店の店主さんなんですよねぇ^^ さて本作にもありましたとおり、Web小説は合う合わないというものが少なからず存在します。そこにミラクルマッチした時の感動は言葉では表せませんよぅ! 

『誰が為の黄昏 ~蝶と死に損ない共の物語~ 著・雨宮葵』

夏休みも後半戦、最後の読書にいかがでしょうか^^ 

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