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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第八章 『誰が為の黄昏~魔法と死に損ない共の物語~』著・雨宮 葵
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文章表現での刷り込み 作品に合ったカクテル

最近、古書店「ふしぎのくに」ではヤキソバが何故か流行っています。私達、揚げ玉を入れる浅草ヤキソバからはじまり色んな地域のヤキソバを作って素麺を食べる頻度でヤキソバを食べていますねぇ^^

逆にこの夏素麺を食べていないような気もしますねぇ……ゆゆしき事態です

 すやすやとベットで眠っているアリアの髪を撫でながら沢城はアリアが何処からともなく持ってきた大きな本『誰が為の黄昏 ~蝶と死に損ない共の物語~ 著・雨宮葵』のページを開くと独り言を呟く。



「オムニバス形式? そしてこの本何処で造られたものでしょう?」



 出版社も書かれておらず、これは雨宮葵なる作者の自費出版なのか? 沢城は分かりかねながら読み進める。



「前回の結界何某の時と比べて、非常に綺麗な文章になりましたね。そして道明寺……西の方でしょうか?」



 桜餅という物が東と西で違うという事は第一章でも少し語ったが、室内で頂く東の桜餅、外を見ながら頂く西の桜餅。と言った風に風情の違いを感じられる。

 いずれにせよ日本人はあの桜という花が好きなのだろう。



「忍と言えば、陸軍中野学校ですね……」



 忍びが毒を使うという描写が本作には登場する。

 成程と沢城は読み進める。そもそも忍者は戦わない。基本的には諜報活動とごくまれに暗殺程度の仕事。手裏剣も巻きビシも逃げる為の道具。某漫画ではメインウェポンとして扱われるクナイ、これに至っては大工の道具である。一般人を装って装備できる護身用の道具。しいていえば、毒も服毒自殺を図る為の物なのだ。

 これら作品おいての戦う忍者のイメージ。やはり陸軍中野学校が強いのだろう。あれらは無手で人を殺し、諜報し、超人的な肉体と運動神経を誇る。


 終戦後30年間も戦い続けた帝国兵、小野田寛郎氏。彼は近代の武器を持つ海外の軍隊、警官隊に対して当時の武器と戦略と知略で戦い生き残り日本に戻ってきた。

 事実は小説より奇なり、現実に存在した忍びである。

 そんな存在を忍びと考えて沢城は『誰が為の黄昏 ~蝶と死に損ない共の物語~ 著・雨宮葵』を読む。それは自分の仕えるアリアに作品に寄りって読むように諭されたからだ。



「お嬢様、ご立派になられましたね。そして実に度し難く、興味深い物語です。死を覚悟するところは少しぐっときました」



 槻は生きる事をあきらめ、最期の瞬間を反省の時とした。この描写は所謂黄昏の時間、演出としてなんとも読ませに来る。



「しかし、この忍、情けないですね。負けたら大人しく自害なさいよ!」



 そう一人でツッコんでいるとアリアの瞳が半分開かれる。まだ夢と現実の境目にいるアリアの微睡の時間。沢城は我が子を抱くように抱き寄せる。



「お薬を飲んでいませんね?」



 沢城は自分のおでこをアリアにつけて体温を測りそう確信した。片手間に読んでいる本の内容を見て目を細める。助けたかと思いきや槻は忍を殺害した。



「まぁ、そうなるでしょう。お嬢様も貴女のお兄様を怒らせたらそうなりますよ? 私はそのとばっちりは御免ですね」



 アリアを抱き上げたまま沢城は立ち上がる。そしてアリアを洗面所の前まで連れてくると卸して頬に優しく触れて言う。



「お嬢様、ご起床のお時間です。顔を洗ってください。そして、今日も古書店『ふしぎのくに』の情報を記憶してきてくださいね」



 コクンと頷くアリアに少しばかり胸の奥がチクりと痛んだ沢城。自分もまた二面性のある存在かと『誰が為の黄昏 ~蝶と死に損ない共の物語~ 著・雨宮葵』から皮肉さを感じていた。本作は人間の暗黒面を描くシーンが非常に面白い。オムニバス形式のように場面切り替えの中、このタイプの物語が入って来るとフラッシュバックする。


『期待するのだと』


 映像における刷り込みというものがあるが、文章で行う際の一つの手法かもしれない。ばしゃばしゃと顔を洗うアリア。その洗面所の鏡に映るのは愛らしいアリアと鬼のような形相の沢城だった。



「はっかぺる……いけませんね。朝から小説で興奮してしまうなんて」



 アリアは朝食を取りたがらない、朝食は一日のエネルギーと言われているのが、事実かは不明だが、小学校からはしっかり食べるようにと言われていたので、沢城はミルクティーとフルーツサラダをいつも用意していた。

 そして、錠剤カプセルを小皿にのせる。いつものアリアの朝食。顔を洗って目を覚ましたアリアはテーブルに座るとフルーツサラダをもくもくと食べる。そして時折ミルクティーで喉を潤す。



「ごちそうさま」



 食べ終えたアリアに沢城はカプセルを指さす。やはり飲まなくてはならないのかとアリアはそれをひょいと取ると水で流し込む。

 そして途端にアリアは倒れた。それに沢城は驚きもしない。アリアの座っている席にまでいくと、沢城は自分の手の甲に注射針を刺す。そして、繋がっている管をアリアの口の中に入れた。しばらくするとアリアは管を持って沢城の血液を吸う。それは恥ずかしそうに、むさぼりつくように、ただ血液を吸う。



「随分無理をされていたようですね。お嬢様」



 見下すような冷たい視線をアリアに向ける沢城だったが、アリアは沢城が読んでいる本を持つとそれを鞄に入れた。



「沢城さんの血液を貰いすぎないようにする為ですわ」



 平気でアリアは牛乳瓶一本程度の血液を吸った。アリアが家を出ていく中、読んだ話を思い出す。黒曜石のナイフ、これは人類が初めて手に入れた効果的な道具である。石の中でもガラス状の鉱石であり、研げば今のステンレスの刃物と同等かそれ以上の切れ味を誇る。時にそれは食材を切る為に、時にそれは狩りや戦の道具として、そして時に医療用のメスとして使われてきた。それが単分子という化学が働いていた事は当時の人々には知る由もない事のだが……


 『誰が為の黄昏 ~蝶と死に損ない共の物語~ 著・雨宮葵』作中でもいくつか説明のあった『黄昏』の武装、沢城は一つ納得のいくものがあった。武器は捨てたら戻ってこないと思うべしという一文。

 それとは逆に沢城は理解に苦しむものとしてキャラクター達。命のやりとりをしている中、異様に感情的なキャラクターが多いのは何故かという自問。

 この答は当然、物語を盛り上げる為である。


 全員が全員、完成された殺人マシーンばかりであれば……それはそれで面白いのかもしれないが、間が持たない。むむむむむとうなりながら、無糖のアールグレイを飲む沢城、少しばかり血が足りない事が自分を冷静にさせているのか、一つ興味をもったシーンがある。



「台風にヤギと名付けた時以来の面白さですねこれは」



 忍の関係者である紗友里が自ら名乗り、自ら復讐を誓うシーン、ここは本来であれば忍、所謂暗闇側に感情移入し、どうなるか結末が分かっていながらも紗友里を応援しようと思ったりするシーンである。

 だが、沢城は完全にギャグか何かでやっているのかと口元を緩ませていた。逆に槻が殺そうという判断は多いに肯定する。



「この槻という少女は圧倒的な戦闘力を誇るのでしょう。であれば、すべきことは隙を見ての暗殺であり、この無謀なる特攻は今から両手を広げてそっちに行くので殺してくださいと言うようなものですね。それに槻さんは了承したと……くふふ。高度な笑いです」



 そう横腹が痛くなるのを感じながらも、やはり反転して大いに評価した部分がある。仮面、フィルターという表現である。

 人間は過剰なストレスには耐えられないようにできている。そりゃ、訓練でなんとかなるかもしれないがまぁ難しい。イジメで自殺してしまう学生も仕事に疲れて孤独死する者も、所謂、生存破棄を選択してしまっていのだろう。


 一般的な精神を持つ者なら、人一人殺めた時のストレスは計り知れないだろう。そのストレスをかぶらない方法としてもう一人の自分を作り出す。

 ジキルとハイドだ。

 実は、シリアルキラーの一部はこの槻のような精神構造をしている者がいる。そして、当然沢城と同じ事を考え、それを槻は言葉にした。


 死にたいから出張ってきたんだろうと、だから殺してあげよう。家に帰ってきて手を洗い、うがいをするようなあたりまえの考え。

 しかしながら、実に言葉運びも物語の移り変わりも面白いと思う反面、沢城が結論付けた答えがあった。



「この作品は、お嬢様の情操教育上相応しくはありませんね」



 沢城は読んだところまで思い出していたが、少し立ち眩みを起こした。たかだか200cc程度血液が抜けただけでこれとは自分の身体的価値も下がったのではないかと閉口する沢城。



「昔はこの倍は飲まれても大丈夫でしたが、年でしょうか?」



 立ち眩みが収まると、沢城は冷蔵庫から牛乳、グラニュー糖そして戸棚からローヤルとオールドパーを取り出して腕を組む。



「今日はオールドパーにしましょうか」



 ロンググラスに牛乳を注ぐとそこに牛乳の半分の量のウィスキーを注ぐ。そして砂糖で味の調整。言わずと知れたミルクベースのウィスキーカクテル。


『カウボーイ』


 ラム酒の味にそっくりな事から、ウィスキーの味が苦手な人にも好まれるカクテルである。されど、飲みやすいが故に悪酔しやすいカクテルでもある。気つけに沢城は真昼間から飲酒を慣行。お酒を飲んで少しシエスタしたら、掃除に洗濯、そしてアリアの食事準備が必要だなと考えながらカウボーイに口をつける。


 庭には花の蜜でも吸いに来たのか黄色いアゲハ蝶がパタパタと羽を羽ばたかせている。あの蝶の羽ばたきはあらゆる次元において認識できる物だとか眉唾な本を昔読んだ事があるなと沢城は思いながら夢の世界へとダイブする。

 蝶がゴスロリを着た幼女へと変わる。あれは『誰が為の黄昏 ~蝶と死に損ない共の物語~ 著・雨宮葵』における『恐ろしい程の黄昏空』最後の瞬間だっただろうか? 蝶を瞬きで追いかけられないでいるとそこにはゴスロリの幼女がいた。


 成程、これは夢か、沢城は先ほど読んだ本の内容を追想している。蝶の羽ばたきを認識した結果、この少女が見えているのか、はたまた蝶が何らかの不思議な力で人となったのか、それは沢城には分からない。

 されど、この幼女はこの場面においては最高消費者。捕食の頂点に位置している。彼女が食事を始めようとしているところで、沢城は大きな着信音に目を覚ます。



「お嬢様でしょうか?」



 沢城は着信しているスマホの画面に映し出されている名前を見て、居留守を使おうか、どうか本気で考えてから深呼吸をして電話に出た。



「これはこれは、御子息様わざわざどう致しましたか?」



 電話の相手は終始淡々と話す。それは独り言を言っているかのように、会話のキャッチボールが成り立たない。アリアの兄にあたる存在、なんと形容すべきは沢城にも分かりかねるそのアリアの兄は要件を言った。


『金の鍵と神のテキストをアリアに手に入れさせろ』


 何を言っているのやらというのが沢城の頭の中だったが、沢城は極めて自然に務めてこう返した。



「畏まりました。お嬢様にはそう申し付けておきます」



 その言葉を聞くとこれまた一方的に電話を切られた。沢城にとってもアリアの兄の事は殆ど何も知らない。一度見た時は何台もパソコンを並べてひっきりなしにタイプしていた姿だったか?

 眠りの妨げをされた事はひどく閉口したものの、暮れる空の色を見て今はまさに黄昏時だなと空の美しさにしばし見とれていた。



「小説世界に入るなんて……バカげてます」

あらあら^^ なんだか雲行きが怪しくなってきましたねぇ!

アリアさんは、沢城さんは、アリアさんのお兄さんは何が目的なんでしょう??

今回は、文章表現方法で『期待してしまう』と思わせる方法と本作を飲み物に例えた時、カフェオレという意見が出ました。そんな中でカクテルに例えたら? という事で『カウボーイ』を登場したようです。未成年の方は大人になられたら試してみてはいかがでしょうか? 非常に甘いそうです^^

『誰が為の黄昏 ~蝶と死に損ない共の物語~ 著・雨宮葵』この夏にはこの不思議な物語をお供にどうでしょう? 噛めば噛むほどハマりますよう!!

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